IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第87話【御厨麻美という女】

 

 

「ようこそIS学園の皆様。お会い出来る日を心待ちにしておりました」

 

 会長と出口で分かれて研究機関に入ると、丁寧な口調で出迎えてくれた頭の良さそうな男性を筆頭に白衣に包まれた多国籍な面々がズラッと並んでいた。

 

 一夏と箒は緊張でカチカチ、セシリアは少し圧されながらも平静を保ち。俺は興奮と緊張で何がなんだか分からなかった。

 

「御厨所長は何処に?」

「所長は………おい所長は何処に行った?」

「さっきトイレ行くって言ってましたよ」

「またか、なんでこうタイミング悪いんだあの人は。申し訳ございません、所長は今席を外していて」

「ここにいるよ」

 

 科学者陣営が一斉に後ろを振り向いたあとサーと横によけた。

 奥から歩いてきたのは同じ白衣にPDAを何個もぶら下げる女性だった。

 黒い髪が伸び放題でノーメイク、飾り気のない眼鏡と唯一のオシャレである胸元の梟を象ったブローチ。

 端的に言うなら、地味めの女性だった。

 

「すまない遅れた」

「遅れたじゃないですよ所長。この間の総理の対面も米国の軍事参謀副議長との対談でも遅れてきて」

「しょうがないじゃないかこの間来た政府のネジ込みで三徹の上に朝食べた野菜炒めが腐ってたというダブルパンチだよ? 少しは所長を労ってよ………」

「後半は自業自得でしょう」

 

 しょぼくれる所長と呼ばれた人物。

 あれが織斑先生と篠ノ之博士が頭が上がらない人? 

 なんかイメージと全然違うんだけど。

 少なくともあの二人を御せるようなパワーは感じない。

 

「ンフン。ようこそIS学園の皆様。私は国際IS研究機関本部の所長、御厨麻美です。本日は皆さんのよりよいデータを取れる事を期待し、願いたいと思います」

「宜しくお願いいたします」

「………………」

 

 ん? なんか俺の顔ジッと見てない? 

 思わず見返す。

 

 お? なんか近づいてきて、腕を捕まれた!? 

 

「な、なんですか」

「………」

 

 手首を掴んで脈を計り、その後は顔をペタペタ触ってきた。

 

「な、なんすか?」

「ごめんなさい。ちょっと顔が青く見えたから。昨日寝てないでしょう?」

「えっと、その今日が楽しみで」

「ちゃんと寝ないと駄目よ? 私が言えたことじゃないけど」

「あっ、はい」

 

 なんか凄い、なんか親に叱られてる感。

 眼鏡の奥から覗く眼に俺の眼鏡の奥の眼、更にその奥を見られてる気がした。

 

 マイマザーは後ろでなんかニヤニヤしてるし。

 

「うちの息子可愛いでしょ、麻美ちゃん」

「ええ、親の育て方が良いのね」

「あらあら。素直に褒められると照れるわね」

「底意地の悪いところも似てないといいわね」

「なんのことかしら?」

 

 何処知らぬ顔でそっぽを向く母さん。

 俺の性根の悪さは果たして母由来なのか自己生産型なのかは今度考えてみたいものだな。

 

「久しぶり織斑さん。いえ、織斑先生」

「あなたに先生と言われるのは些かくすぐったいものがありますね。御厨所長」

「もう先生とは呼んでくれないのね。寂しい」

「からかわないでください」

 

 先生つけないと出席簿飛びますものね。

 ていうか御厨所長が先生? 

 

「私は変わらず先生と呼びますよ御厨先生」

「篝火さん………ここ海じゃないわよ?」

「私の正装ですので」

「外は虫が多いから刺されないようにね」

「大丈夫です! 防虫スプレーはかけてきましたので!」

 

 うーん、論点が違う。

 そういうことではないんだけども御厨所長もそこまで気にしてない様子だから良いのか? 

 ぶっちゃけ入ったとたん追い出されると思ってたけど。

 

「あの織斑先生。御厨所長が先生ってどういう?」

「この人は私と篝火、そして束の中学の先生だった。それと同時に国家研究機関の職員でもあった」

「今は教職を辞めてここ1本だけどね。私たちがヤンチャした時は先生の伝家の宝刀出席簿で何度たんこぶを作ったものか」

 

 えっ? 

 てことは織斑先生の伝家の宝刀の元が御厨所長ってことなんです? 

 

「言っておくが私のはまだ可愛いものだ。なにせ今より厄介な束を一撃の下に静まらせるほどだからな」

「織斑先生も?」

「私もあれをかわせた試しがない」

「「すげー!」」

 

 俺と一夏は思わず声を上げた。

 中学時代の二人は知らないが。

 口振りから見るに一筋縄では行かなかったのだろう。

 

 そんな二人を指導したのが目の前のくたびれた女性で………嘘ではないのだろうけど、目の前の人物があのブリュンヒルデとレニユニオンの上に立てれてるというのは。

 やはり半信半疑になってしまう。

 

「昔話はここまでにして本題に行きましょう。これから皆さんには各セクションに別れて身体検査、性能検査を行ってもらいます。始めに今回の検査に関する契約書を書いてもらいます」

「契約書?」

「あなた達がもたらすデータは何よりも貴重なものになるでしょう。それを提供する、そして協力するための契約書です」

 

 契約書とはなんとも厳かな。

 これは隅から隅まで確認しないと。

 

「では皆さん、よろしくお願いいたします」

 

 一礼して御厨所長が他の研究員を連れて去っていった。

 

 その後ろ姿を見ながら。俺は小さく唸った。

 

「んー」

「どうしました?」

「俺さ、あの人見たことあるかな」

「メディアに一切出てないのですよ?」

「何処かで会ったとか?」

「いや、まったくないし完全に初対面、なんだけど」

 

 なんつーか、そんなんじゃなくてな。

 

「懐かしいとか、そんな感じがしたんだよなぁ………」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 その後俺たち四人は契約書を書いた上で別々のセクションに入れられた。

 俺には母さん、一夏には織斑先生、セシリアには山田先生、そして箒には篝火博士が付添人として同行した。

 この場所を信用していないという訳ではないが、それでなくともこういうよのなかでの研究機関には様々な不安要素が付きまとう。

 その信頼を確立するための付添人ということらしい。

 

 篝火博士を宛がわれた箒はなんとも不安そうな顔だった。

 無理もないだろう。箒についていく篝火博士がギラギラした目線が紅椿の待機形態にずっと釘付けで「見てろ篠ノ之ぉ。紅椿の秘密は私がまるっとずるっとふんだくってやるからなぁ………篠ノ之ぉ」なんてぶつくさとここにはいない篠ノ之博士に呪詛を吐き続けていた。

 

 余談だが別れる前は尻への視線を感じた気がしたが気のせいということで脳領域から完全に排斥した。

 

「ではレーデルハイトさん。始めましょう」

「あれ、御厨所長が直接調べるんですか?」

「はい。厳密にはこのあと織斑さんの検査にも立ち会います。男性IS操縦者という重要なファクターを直で確認したいので」

「そうですか」

「では始めましょう。先ずは血液検査からです」

 

 ぬっ。血液検査ということは注射か。

 

「注射は苦手ですか?」

「えっ、顔に出てました?」

「額に微量の汗、瞳孔の収縮から苦手と推測しました」

「そ、そうですか。いやー昔から注射が苦手で」

「成る程。ですがこれは必要な検査なので我慢してください」

「はい」

 

 ここで駄々をこねて時間をかける気は更々ない。

 更々ないけどやっぱ注射嫌だなぁ。だって針がズププって刺さるんだぜ? やばくね? 

 

「因みにこのあと検査用ナノマシンを注入します。勿論注射です」

「ヴェ!?」

 

 思わず変な声が出た。

 

「あなたの気持ちもわかります。こんな得体の知れない場所で得たいの知れないかもしれない代物を身体に入れられるのですから。ですがこれもより良いデータを取るのに必要なので」

「あっ、はい」

 

 検査ナノマシンか。

 よくあるアニメや映画で医療スタッフに化けた敵がヒロインにワクチンと偽って洗脳出来る薬を投与するって展開あるよな。

 

 しかしバレなくて良かった。

 まさか注射が1本で終わらないから変な声が出たなんて恥ずかしすぎるし。もう高校生よ俺。

 いやもう苦手ってカミングアウトしてるけどさ。

 まあ、なんかわからないけど曲解してくれたみたいだし。結果オーライ

 

「ちなみに。私の注射の腕前は施設一を自負しています。あまり痛みは感じないと思いますよ」

「はい?」

「私も注射、あまり好きじゃないから気持ちはわかります。打つのは好きですけど」

「は、ハハハ」

 

 バレとるやないかい! 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 注射を3回刺されました。

 え、2回じゃないのかって? 

 血液採取が2回でした。ショボリンヌ。

 

 あれから身長体重、ありとあらゆることを調べられた。

 ………いつぞやのように全裸にはならなかった。

 

 そしてしばしの休憩。

 休憩後に検査用ナノマシンが身体を循環し終わるので、それを元にISを動かすという。

 なんか大層な検査や実験をすると思っていたがいまんとこ内容はシンプル。

 

「んー、疲れた」

 

 が、それでも俺が初めてISを受けた時に比べたら結構密度の高い検査だった。

 そんなことをやるの? っていうのが沢山あった。

 

 検査なんだから新しいものを発見! と同時に今の俺の細胞を一ミクロンレベルまで調べ上げようぜってのが今日の名目だろうけど。

 

 一番最初、篝火博士主導で検査した日の父さんの言葉を思い出した。

 

「IS学園に入らなかったらここで延々とデータ取るだけの軟禁生活かぁ」

 

 IS動かさなかったらレーデルハイト工業、またはこんなとこで働きたいなって思ってたけど。

 俺は科学者より技術者方面が好きなんだとよーくわかったわ。

 

「こんなとこにいたら退屈で死ぬかも」

「そうね」

「?」

 

 顔を上げるといつの間にか御厨所長。

 

「うわっ! すいません!」

「謝らなくてもいい。隣失礼」

 

 スッと隣に座った御厨所長。

 ………少し距離が近いような。拳2個ぐらいしか感覚空いてないですが。

 

「10年」

「はい?」

「10年間ISのことを調べ、わかったことは少ない。今だ篠ノ之さんが公開した情報とテクノロジーを元に各分野に持っていくのがやっとだった。ホログラムの民間転用、操縦者保護プログラムのアルゴリズムとメカニズムを解析して作られた医療用ナノマシン。未来都市のようにガラリと変わるような技術ではないけれど、画期的なのは間違いない」

 

 ISがなければサイエンスフィクションの域にしかない机上の空論。

 それを世に知らしめた篠ノ之博士。

 

「篠ノ之博士はISの全てを理解してるのでしょうか」

「いいえ、篠ノ之さんでも全ては知り得ない。ISは日々進化する。人間のように」

「人間のように?」

「ISのコアには固有の人格が形成されるものがあるというのは知ってるかしら」

「知ってますけど。仮説ですよね?」

「ええ。実例はあるけど、一部の専用機持ちの証言だけで科学的な立証と証明は出来ていないの。だから仮説なのよ」

「はあ」

「あなたも、経験はないかしら? 心象風景とか、現実離れしたような光景とか」

 

 ………ある。

 

 強風が吹きすさぶ白い大地に雲一つ流れない真っ青の空。そこにたつ………あれ、なんだっけ。

 

「断片的にしか覚えてないのね」

「わかりますか?」

「ええ。でもじきにハッキリ見えるかも。私も最初はそうだった」

 

 そう言って胸元にある梟のブローチに手を添えた。

 

「一つ聞きたいのですが」

「なに?」

「御厨所長は篠ノ之博士が白騎士事件を起こしたと思いますか?」

「篠ノ之さんがそう言ったのかしら?」

「いえ。仄めかすようなことしか」

「まあ、そうなるわよね」

「なにか知ってるますか」

「知ってるとも言えるし、知らないとも言えるわ。少なくとも篠ノ之さんがはぐらかしてるなら。私から言えることはないわね」

 

 これは言ってくれない雰囲気。

 最初から期待はなかったけれども。

 

「学生時代の織斑先生と篠ノ之博士ってどんな人だったんですか?」

「一つじゃなくなったわね」

「あ、すいません」

「いいわ、話してあげる。篠ノ之さんはひたすら無関心、周りから話しかけられても答えることはしなかった、同級生どころか先生でさえも。頭の出来は良かったからテストは毎回満点。でも常人じゃ理解できない数式を書いたりしたことがあって教師を困惑させて。人を困らせる点においても天才だったわ」

「想像出来ますね………」

「サボりの常習犯で単位が危なくなったこともあってね私が説得しなかったら留年してたわね」

「織斑先生が言ってました。篠ノ之博士でもあなたには頭が上がらないって」

「私は彼女の言ってることはある程度理解できたから、彼女も次第に心の鍵をあけてくれたわ。そっからはまあ、多少強引に扉を開け放ったわね」

「強引ってなにをしたんですか」

「それはもう、強引によ」

 

 急に語彙がなくなった! 

 わかりました、聞かないことにします。

 

「織斑先生は」

「織斑さんは正に一匹狼ね。篠ノ之さんが構って織斑さんがあしらってというのが二人のスタンスだった。そんな織斑さんの心をひらけたのは、偶然ね」

「偶然」

「少し言い争っちゃって。そんな中織斑さんに突き飛ばされて角に頭を打っちゃったのよ」

「えー!?」

 

 そんなサスペンスにありがちなド定番死因が現実にあったのか。

 ていうか大丈夫なんですかそれ! 

 

「幸い血がいっぱい出て気を失った程度で済んだわ」

「程度と言っていいんですか」

「命に別状なし、後遺症もなかったからその程度よ。でも織斑さんは普段の澄まし顔が嘘のように狼狽えてしまってね。病室のベッドで目を覚ますと今まで見たことないぐらい綺麗な土下座をしてくれたわ」

 

 織斑先生が土下座。

 土下座………土下座………駄目だまったく想像できない。あの人は土下座させる側にしか見えん! 

 

「織斑さんと打ち解けてからは篠ノ之さんも話しかけてくれるようになってね。そこから色々矯せ………教育してなんとか他人と話が出来るようになったわ」

「つまり今の篠ノ之博士は御厨所長の努力の賜物なのですね」

「そうなるのかしらね。でも、少し前はまた違ったのよ、彼女」

「というと?」

「今ほど愛想は良くなかった、といったら語弊があるけど。必要以上に笑顔を出すような子ではなかったわ」

 

 必要以上に笑顔? 

 確かに一夏や箒、そして織斑先生。次点で俺の前では絶えずニコニコしていた。

 

「仮面、ということですか?」

「言いえて妙ね。でもそれは相手を騙そうとかそう言うのではなくて。自分を守る為の笑顔なの」

「守る? なにからです?」

「自分自身の弱さ、かしらね。そろそろ計測の時間ね」

 

 腕時計を見やった御厨所長はそう言って立ち上がった。

 

「あの、つかぬことをお聞きして宜しいでしょうか」

「なに?」

「何処かで会いませんでしたか。俺と御厨所長」

「………………ナンパ?」

「違います!」

「私年下は好みじゃないの。ごめんなさい」

「だから違いますから!」

「冗談よ」

 

 冗談ですか! よかった! 

 

「確かに会ったことはあるわ。私はあなたの家に客として訪れたことがあった。そこで当時8歳のあなたと初めて会ったの。既視感はそのせいね」

「そうなんですか」

 

 じゃああの懐かしい感覚はそれだったか。

 生憎こっちは全然覚えてないけど。

 

「ありがとうございます。スッキリしました」

「そう。じゃあ頑張ってね」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 疾風と別れたあと御厨は研究棟とは真反対の場所に向かっていた。

 その場所には重要施設ではなく休憩スペース。

 閉鎖的な場所で唯一巨大な窓がある開放的な場所。だが窓は最新式の耐衝撃ガラスで外の芝生の下には対侵入者用の対人タレットが潜んでいる。

 

 休憩スペースには人っ子1人いなかった。

 従業員は皆IS学園からの来客にかかりっきりだ。

 

「そろそろ解除したらどうかしら。篠ノ之さん」

「………」

「子供たちに話そうかしら。中学一年の時に起こったバレンタインの惨劇を」

「わー!! 待った待ったぁ!!」

 

 なにもない虚空に普段の彼女からは考えられない慌てまくった顔をした篠ノ之束が文字通りパッと現出した。

 

「麻美先生! それは墓場まで持っていくっていう私との約束でしょう!?」

「ええ、話さないわ」

「へ?」

「約束したものね?」

「………はめられたぁ………」

 

 いつもの1人不思議の国のアリスの格好をした束がへたり込んだ。

 

「もー、なんでバレたかなぁ。束さんの最高峰光学ステルス。浮遊してて足音はおろか空気の塵にも細工したのに」

「気配」

「うっそだぁ! ISとか裏技とか使ったでしょ!?」

「使ったかどうかはあなたがわかるはずだけど?」

「んあーーー」

 

 束はビターンと地面に仰向けに寝っ転がった。

 全面降伏状態である。

 

「因みにいつから」

「織斑さんと一緒に入ってきた時から」

「うそーん。ちーちゃんは気づいてたのかなぁ」

「どうかしらね」

 

 二人は手近な椅子に座った。

 

「んでさぁ。なんで眼鏡くんに話したのさ」

「ん?」

「私とちーちゃんのことぉ」

 

 姿を消して聞いてる最中何回飛び出そうと思ったことか。

 

「話しちゃ駄目だった?」

「駄目って訳じゃないけどさぁ。別に仮面なんかつけてないし」

「今のあなたはつけてないわね」

「そうじゃなくて日頃から!」

「私は今みたいな篠ノ之さんが好きよ」

「またそういうこと言う」

「嘘じゃないわよ」

「だからタチ悪いんだってば」

 

 束はでかいタメ息をたてながら俯いた。

 

「それで? わざわざお忍びで来た目的は?」

「勿論箒ちゃんと紅椿だよ! 私を差し置いてあのスク水妖怪に箒ちゃんと紅椿を任せられる訳ないでしょ!」

「私は来ても良いと言ったはずだけど」

「私が公に先生と会ってること知ったら先生に迷惑がかかるじゃん」

「人の迷惑とか考えれたのね」

「今日の先生なんか意地悪!!」

 

 今度はバンバンとテーブルを叩く束に対して御厨は何処吹く風。

 

「それはそうと。今紅椿の実戦データを取ってるのにこんなところに居ていいの? 篝火さんが直にデータ採取してんのよ」

「チラッと見たけど変なことしてないからもういいかなって」

「データを取られること自体はいいのね」

「ISのコア10年も調べられまくってるから今さらだよ。なに考えてるか知らないけど箒ちゃんに変なことしてないし」

「重要なのはそこなのね」

「ステルスドローンも置いてるし」

「後でちゃんと回収してね」

 

 束にとって色々前科があるヒカルノは別の意味で特別な奴だった。別の意味で。

 そんな奴が妹の付添人と知った後は後ろから意識飛ばしてやろうと考えたがそれだと自分が此処に来たことが公になってしまう恐れがあったのだ。

 現に自分の存在を隠すためにこの休憩スペースの監視カメラにはダミー映像を流し続けている。

 

 IS学園以上のセキュリティを有するこの場所でさえ束にとって介入する事は別段難しいことではなかった。

 

 それでもノーリスクとはいかない。

 そんな中で彼女がここに来た理由は妹が心配、というだけではなかった。

 

「ねえ麻美先生」

「?」

「なんで眼鏡くん。疾風・レーデルハイトはISを動かせたと思う?」

「それを調べるために今日呼んだのよ」

「本当は知ってるんじゃないの?」

 

 口許に笑顔を浮かべながら束は鋭い眼光を御厨に向けた。

 御厨はそれに臆することなく言葉を返した。

 

「何を根拠に? 私と彼は赤の他人で。友人の息子というだけなのよ?」

「でもねでもね。私が彼を初めて目にした時さぁ………一番に頭に浮かんだのが麻美先生なんだよねぇ。あっこの子なんか麻美先生を思い出すなぁって」

「あなた自分が何を言ってるか解ってる?」

「もっち」

 

 まるで御厨と疾風の二人に血縁関係があると言ってるような物ではないか。

 

「まあ顔認証かけたんだけど二人に類似性なかったんだよねぇ。この私が徹底的に情報漁っても二人は関係性なし。無さすぎるぐらいない!」

「まあ当然よね」

「顔の動きから真意を見てみようにも嘘ついてるように見えないし」

「嘘ついてないもの」

「ということで最終手段! 先生の血を取らせて! あとレーデルハイトくんの血も頂戴! DNAは嘘をつかないからそれで全てが明らかに」

「なに先生を困らせてるんだ馬鹿者!!」

「ブギャァッ!!」

 

 千冬が後ろから束の頭を捕まえてテーブルに叩きつけた。

 本気で叩きつけたせいかテーブルにヒビが入っている。

 

「ひ、酷いよちーちゃん。束さんの端正な美女フェイスが歪むじゃないか」

「問題ない、内面とドッコイになるだけだ。すいません先生。テーブルを傷つけてしまいました」

「束さんの心配もして?」

「それで、このろくでなしに何かされませんでしたか」

「ちーちゃん無視しないで」

「私は大丈夫よ織斑さん。だから篠ノ之さんの頭を離してあげて」

「はい」

 

 千冬の手が束の頭から剥がれた。

 ムクッと起き上がる束の顔、とくにデコが少し赤くなっていた。

 

「いったいなぁ。ほんとちーちゃんは先生のことになると容赦ないよね」

「恩人なのだから当たり前だ。先生がいなかったら今頃私とお前は畜生の道に行ったと言っても過言ではない」

「いや流石に過言だよ」

 

 フンっと鼻を鳴らした。

 いつもと同じふてぶてしい顔をする千冬だったが。

 

「織斑さん」

「はい」

「確かに言い過ぎよ」

「せ、先生まで」

 

 御厨にバッサリと切られて千冬がたじろいだ。

 人類最高の天才科学者も。人類最強のIS乗りも。目の前の研究所所長を前にすれば見る影もない形無しだった。

 

 過言だと切られはしたが。二人が彼女に世話になったのは事実なのでいつもと同じように強く出られなくなっている。

 

 ただの例外としては。

 

「いたーーー!!」

「げっ!」

 

 篝火ヒカルノだった。

 

「見つけたぞ篠ノ之ぉ!! ここで合ったが百年目ぇぇぇぇーー!!」

「フンっ!」

「あらーーー!?」

 

 束めがけてカンフー・キックをかますヒカルノ。束はその突きつけられた足を掴んでそのまま進行方向に投げ飛ばした。

 

「なんのぉっ!」

「チッ!!」

 

 空中で身を捻って軽やかに着地をしたヒカルノ。

 そしてそれに対してあからさまな舌打ちを噛ます束。

 

「何しに来たのさ。あんたはお呼びじゃない邪魔なんだよとっとと消えろ篝火」

「ご挨拶だなぁ篠ノ之。そんな嫌わなくて良いじゃないか」

「嫌いなんだよ。初っぱなから人の頭めがけて蹴りをぶちこもうとする人と仲良くなれるわけないじゃん」

 

 初っぱなから人の頭をテーブルに叩きつけるのは良いのかとツッコんではいけない。

 

「ちーちゃんは仕方ないとしてなんでお前がここに来てるんだよ。凡人のお前が束さんを見つけれるなんてありえないし」

「フッ。こんなこともあろうかと篠ノ之の声が本の少しでも聞こえたらいつでも直行出きるように特製の集音器とレーダーを常備してんのさ!」

「うわっキモ」

 

 本気でドン引く束。

 

「罵倒がどストレート過ぎる。まあいいさ、そんなこと言われてもへこたれない私。なんだかんだ言って篠ノ之は私のこと気に入ってるしね」

「は?」

 

 心のそこから理解できないというような声を上げる束を前にヒカルノは意気揚々と話しだした。

 

「だって篠ノ之は昔から私の名前は覚えていてくれてるしねー。興味ない人の名前ならたとえ親族でも覚えてねえ篠ノ之がだよ。てことは私のことは認識してるってことよ」

「違う!! あんなしつこく自分の名前を連呼しながら纏わりつかれたら嫌でも覚えちゃうに決まってるじゃん。嫌われてる自覚無しなわけ!?」

「それこそあんたなら私に関する記憶をピンポイントで削除するとかしかねないじゃん」

「あんたのためにそんな労力や頭を動かすこと事態が屈辱なんだよわかれ篝火!」

「ほらまた名前呼んだ。素直じゃない奴め」

「ちーちゃん助けて! こいつ人の話聞かない!!」

「良かったな。同類がいて」

「んああぁぁーー!!!」

 

 本気で頭を抱えてイナバウアーばりに身体を反らす束

 果たしてこの短時間でどれだけ普段見れない篠ノ之束を見れたことだろう。

 一夏と箒がこれを見たらどう思うか。

 

「てかあんた(認めたくないけど)箒ちゃんの付添人でしょ? まさかそれをほっぽって此処に来たわけ?」

「まさか。ちゃんと終わってから来たよ。私は一度任せられた仕事はよっぽどのことがない限りは放り投げない主義さ」

「日本代表候補生の専用機をほっぽった挙げ句いっくんのIS製作に着手して失敗した奴がよく言えたもんだね」

「………だからよっぽどのことがない限りって言ったでしょうが。私だって好きで放り投げた訳じゃねえっての」

 

 ヒカルノの朗らかな表情が苦虫を噛み潰したみたいに歪んだ。

 手のひらは爪が食い込むぐらい握られ。ガリっと奥歯を鳴らした。

 

「つかあんただってその失敗作を無許可で弄くって勝手に作り替えたじゃん」

「知らなーい」

「………まあそれは今は置いとくとして。あんたに言いたいことがあんのよ」

「なに」

「今度うちが立ち上げる新プロジェクトだけど。今日手に入れた紅椿のデータを使うから」

「は? お前勝手にデータ抜き出したの?」

「ちげーよ。ちゃんとうちが受け取れるように正式な手続きな上だっての」

 

 御厨の方を見る束に対して彼女は首を縦にふった。

 

「はっ。凡人風情が紅椿使って何する気よ」

「それは出来たからのお楽しみだ。気になるからって勝手に覗き見すんじゃねえぞ?」

「だれがするか。さっきも言ったけどあんたに割く時間なんてコンマ秒もないっての。せいぜい無駄骨を拾うことだね」

 

 束は椅子を蹴り上げるように立ち上がって休憩スペースの入り口に歩を進める。

 

「帰るの篠ノ之さん」

「こいつのせいでしらけちゃった。またねちーちゃん、麻美先生」

 

 そう言って束は文字通り霞のように消えていった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「よーお前らどうだったよ。俺は普通に動かしまくった」

 

 研究所を後にして車内で助手席から後ろにいるグロッキー状態の三人に声をかけた。

 

「零落白夜で切りまくった」

偏光制御射撃(フレキシブル)を射つ度に計測ですわ。流石に頭が重いです」

「………絢爛舞踏を発動した時に計測装置の一部が過負荷でショートした」

「「「あーー」」」

 

 そいや計測してる時に照明がチカチカしたことがあったっけ。絢爛舞踏の余波だったのかなあれ。

 マジで紅椿1機で国の電気賄えるんじゃないかって可能性が出てきた。

 

「てかお前全然疲れてなさそうだな」

「そんなことないよ」

「そっか。つか眠いから寝る」

「私も」

「だ、駄目ですわ。レディがこんなところで寝るなど………スー」

 

 中間席の三人、撃沈。

 

「会長も警備お疲れさまでした」

「なんも異常はなかったから暇を持て余してたわぁ。平和なのはいいけどねぇ」

「あら会長も眠そう」

「実は近々新イベントをしようと思ってその準備をね………織斑先生、寝てもいいでしょうか」

「寝てろ」

「では………」

 

 会長がログアウトしました。

 

「疾風は寝ないの?」

「行きで寝たから」

「そう」

 

 と言いつつ眼を閉じたら寝れるかな? ぐらいの感覚だ。

 楽しかったけどああいうのは1日とかで良いな。やっぱ俺はアリーナを思いっきり飛ぶ方が向いてる。

 

「そいや御厨所長が言ってたんだけど。俺まえに御厨所長に会ったことあるって本当なの?」

「ああ、疾風が小さい頃家でね」

「俺ぜんっぜん覚えてないんだけど」

「それはそうよ。あんた会って直ぐに自分の部屋に行ったんだから。覚えてる訳ないわよ」

 

 あー、そういうことか。

 それなら覚えてなくても無理はないか。

 

 でも懐かしいと思ってるってことはどっかで覚えてるってことだもんな。

 

 と、俺は御厨所長の昔話を思い出した

 

「しかしあの織斑先生がなぁ」

「なんだ?」

 

 ヤバッ。

 声に出てた。

 

「おいレーデルハイト。あの織斑先生がなんだ? まさか先生に、御厨所長に何か吹き込まれたのではないだろうな?」

「え、いや。コミュニケーションに苦労したとは聞きましたよ」

「それだけか? 本当にそれだけか?」

「それだけ…です……」

「答えろレーデルハイト。先生に何を言われた」

「それ以上何も聞いておりまセン」

「眼を反らすな。おいレーデルハイトっ」

 

 珍しく冷や汗を垂らして詰め寄る織斑先生に対してどうかわすかと考えながら俺は自分の口の緩さと眠気のなさを呪ったのだった。

 

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