IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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インフィニット・ストラトス、10周年おめでとう!


第9話【ミサンドリー】

「一夏、次あっち!」

「お、おいシャル! そろそろ水着買わないと」

「水着なんてそうそう無くならないよ。ほら、行こっ!」

「わかった! わかったから引っ張るなって」

 

 後日、約束通り一夏はシャルロットと共にショッピングモール【レゾナンス】に来ている。

 交通網の中心地に直結した日本でも最大級の規模を誇るこの場所は『ここで無ければ市内の何処にもない』と言われる凄い場所である。

 

(しかしさっきは不機嫌だったのに、今は凄い元気だな。元気すぎる気もするが)

 

 そう、モノレールから降りたときのシャルロットはそれはもう膨れっ面だったのだ。

 だが一夏が「今日はシャルのお願いは可能な限り聞くから」の一言で手を握ることを提案した。

 そこからシャルロットは止まらなかった。

 あらかじめ疾風が双方に申告したお陰でストッパーが外れ。様々な店を見て歩き、喫茶店でパフェを食べたり、そしてまたレゾナンス内を見て回るなど、当初の目的をよそにシャルロットは思いっきり一夏との時間を満喫していた。

 

(一時はどうなるかなと思ったけど。一夏とこんなに一緒に遊べるなんて。疾風には感謝しないと♪)

 

 これ以上ないくらい上機嫌のシャルロット。そんな彼女を見て一夏も釣られて楽しんだ。

 が、二人の和気あいあいの姿に、心中穏やかではないものが。一人いた。

 

 

 

 

 

 端から見たらデートととられるその二人を見る二つの影が自動販売機の後ろから覗いていた。

 一人は躍動的なツインテール、もう一人は優雅なブロンドヘアー。

 中国代表候補生の凰鈴音とイギリス代表候補生のセシリア・オルコットであった。

 

「あの、鈴さん」

「…………」

「何故わたくし達はこんなコソコソと後をつけていますの?」

 

 元々は鈴とセシリアは別々でこのレゾナンスに来ていたのだが。一夏シャルペアを発見した途端この追跡コンビが誕生したのだ。

 といっても、鈴がセシリアを強制的に引き込んだのだが。

 

 で、巻き込まれた側のセシリアは何度も鈴に呼び掛けているのだが。当の鈴から謎の覇気が溢れており迂闊に踏み込めないでいるのだ。

 

「あの、鈴さん。聞こえています?」

「……………………ねぇ」

「な、なんですの?」

「あれって、手握ってない?」

「に、握ってますわね」

「レゾナンスに来てからずっとよ、ず──っと」

 

 そうがっしりと、一夏とシャルロットの手は繋がれておりシャルロットからは明るいオーラが出ている。

 そして対極的にほぉうと赤黒いオーラが鈴から滲み出る。

 

「あれって、デートかな? 凄い楽しそう」

「えーと。俗世的には、間違っていないのでは?」

「そっかぁ、見間違いでも白昼夢でもなく……やっぱりそっか………………よぉし殺そう!」

 

 いつ展開したのか鈴の右手には甲龍のマゼンタアーマーが部分展開されていた、チャームポイントであるツインテールが怪しく揺れ、目には光がない。明らかに正気を失っている。

 これはまずい、と思ったセシリアは今にも走り出そうとする鈴を必死に引き留めた。

 

「お待ちになって鈴さん! 何をするつもりですの!?」

「離せぇ! あの二人をあのままにする訳にはいかないのよ!」

「だからってこんな公共の場でISを展開するなんて駄目ですわ! 落ち着いてくださいまし!」

「んがぁぁっ」

「こんなところ誰かに見られて通報でもされたら確実に罰則を受けますわ。最悪本国に強制送還、一夏さんとも一緒に居られなくなりますわよ!?」

「うっ! うぅ、うー」

 

 一夏の名前を出して甲龍を量子変換で戻した。ようやく止まってくれた。セシリアはフゥと息を吐いた。

 

「…………じゃあどうするのよ。あのまま二人をほっとけって言うの?」

「うーん」

 

 恐らく一夏とシャルロットは偶然ではなく予定してここに来ている。あらかじめ約束して二人でいるのなら、シャルロットの好意を考えれば邪魔するのは無粋。

 だが一夏が他の女の子と歩いているのに良い思いをしない鈴の気持ちも理解している。やりすぎではあるが。

 

 どうしたものかとセシリアが思案にくれていると、突然鈴が聞いてきた。

 

「ねえセシリア」

「はい」

「今まで曖昧だったけどさ。あんたって一夏のことどう思ってるの?」

「どう、とは?」

「好きなの? あいつのこと」

「好き……それは友愛的な意味で? それとも」

「恋愛的な意味でよ。あんたは一夏を気にかけているけど。箒とは違う感じがするのよ。今まで触れてなかったけど、この際ハッキリしときたくて」

 

 セシリアが一夏にISの指導や座学を教えていることを鈴は知っていた。たまに弁当を贈ることもあるし、基本好意的に接触してはいる。だがそれが恋愛からくる物なのか、そこら辺が何処か鈴には曖昧だったのだ。

 

「確かに一夏さんは魅力的な方です。ある意味わたくしの理想の男性像に当てはまるかもしれません。ですが、わたくしの一夏さんへの想いというのは、恋慕のそれとは少しばかり違うものだと思います」

「というと?」

「鈴さん、今この世界の世間一般的な男性はどういう存在だと思いますか?」

「え? そりゃあ。ISが出てきてから男の立場はというか、価値観は変動してると思うけど」

 

 そう、女性にしか動かせないISが出現してから世界は一気に女尊男卑社会に傾いた。

 当初の差別はそれはもう酷い有り様だったという。現にセシリアの幼馴染である疾風もその被害者だ。

 

「今の男性は世界の状況に影響され、女性の顔色を伺い、媚びへつらう人が増え続けています。わたくしはそのような男性が嫌いでした。ですが一夏さんは違いましたわ。わたくしと初対面で対決した時に。臆せず、わたくしの目を真っ直ぐに見て勇敢に戦いを挑んできました。その時思ったのです。もしかしたら、一夏さんはこれからの世の男性を引っ張っていく存在になるのではと」

「買いかぶり過ぎじゃない?」

「そうかもしれません。ですが、一夏さんにはこれからも強くなってほしい。そして、一夏さんを見て男性が自信を取り戻し、今の世の中が良い方向に変わるのではないか。わたくしはそう思っていますわ」

 

 そしたら、父のような存在が少しでもいなくなるのではないか、と。

 今の一夏は世界で最も注目されている者の一人だ。その男が女性だらけのIS学園で立派に過ごしていると知られれば、世の中の見方が変わる、セシリアはそう考えていたのだ。

 

「じゃあセシリアにとって一夏のことは」

「ええ、大切な友人でありライバルですわ」

「そっかぁ……」

 

 鈴は内心ホッとしていた。

 セシリアは贔屓目に見ても美人で貴族らしい優雅さを持っている。

 もしセシリアがライバルになろうものなら、相当手強い相手になっていたことだろう。

 

(まあ、たとえそうだったとしても負けるつもりは無かったけどね)

 

「あ。じゃあ疾風は?」

「ええっ?」

 

 セシリアが若干狼狽えた。

 

「な、何故疾風が出てきますの? 疾風も一夏さんと同じく親友でありライバルですわ」

「じゃあなんでアタシ達には敬称付きで疾風だけは呼び捨てなのよ」

「それは昔からの知り合いでその時に呼び捨てで呼んでいた名ごりですわ」

「ほんとにー? 実は好きなんじゃないの、疾風のこと」

「違います! わたくしは疾風をそういう目では」

「誰か俺を呼んだかねー?」

 

 間延びした声の方に振り向くと、噂の中心である疾風がラウラを引き連れてニヨニヨしていた。

 

 

 ──ー◇──ー

 

 

「うぃっす。奇遇だな二人とも」

「は、疾風!? とラウラさん? え、今の聞いてました!?」

「ん? 別に話の内容は聞こえなかったが?」

「そうですか」

 

 何処か安心したセシリア、変なの。

 

「珍しい組み合わせね。どっちが誘ったのよ?」

「私と疾風は偶然出くわしたのだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「実は近くで一瞬IS反応があったからさ。何事かと思って駆け付けたらラウラとバッタリよ…………でだ」

 

 クイッと眼鏡をあげる。視線の先はセシリアではなく、横の鈴だ。

 視線に捕らえられた途端、鈴の小柄な体躯はビクンと跳ねた。

 

「反応としては甲龍だった気がするんだよねー。一瞬だったから見間違いだったかもしれないけど。鈴」

「はひっ!」

「まさかこんな公共の場でなんのトラブルにも遭遇してないのに無断でISを展開したなんてないよね? 国の看板背負ってる代表候補生だもんね? そんなことないよね?」

「そそそ、そんなことないわよっ」

「セシリア」

「ダウトですわ」

「セシリアぁぁぁぁ!!」

 

 ものの見事に見捨てられた鈴はセシリアの肩を掴んで揺さぶる。

 

「あんた! 友人に情けとかないわけ!? お得意のノブレス・オブリージュは!?」

「どうみても鈴さんがギルティですし、対象外ですわ」

「んああぁぁ!」

「鈴」

「ひぅっ!」

 

 錆びたドアのように首をこちらに向ける鈴。鈴から見た俺の目は、光に反射されたレンズで見えなかった。

 

「今すぐ反省するか、織斑先生に報告されるか──ー選べ」

「申し訳ございませんでしたぁ!」

 

 コンマ秒で降伏した。ブリュンヒルデのネームバリュー凄いな。

 

「もうしない?」

「祖国に誓って!!」

「よしっ」

 

 顔から汗をびっしりかいた鈴の顔を見て反省の意図を汲み取った俺は辺りを見回した。

 

「ここが監視カメラの死角でよかったな。あったら一発アウトで本国強制送還だったぞ」

「うぅ、セシリアと同じこと言わないでよ……」

 

 当然だろうが。

 まったくシャルロットといいラウラといい鈴といい。色恋に染まった代表候補生の頭は総じてメルヘンお花畑なのか? 

 専用機持ちの責任をもて、責任を。

 

「で? お前ら二人揃ってこんな片隅で何してたんだ?」

「あっ、そうだ一夏!!」

 

 鈴は急いで物陰から表を覗いた。

 

「シャル、そろそろ水着買いに行こうぜ」

「そうだね。一夏はどんなの買うの?」

「そのへんにあったもんかなぁ。シャルは?」

「ぼ、僕!? えーと、色々選んで、一夏に決めてもらおうかな? 良い?」

「俺でいいなら大丈夫だぞ」

 

 釣られて物影から覗いてみると一夏とシャルロットの姿が。

 あー、鈴が無断展開した理由ってもしかしてアレ? だよなきっと。

 

「む、シャルロットと一夏ではないか」

「ちょちょちょっ! ラウラ!」

 

 二人を見るや物影から迷うことなく出ていくラウラを鈴が思いっきり引き止めた。

 

「む、何をする」

「あんた行ってどうするつもりよ!?」

「決まっている、二人に交ざりに行く」

 

 ドきっぱりと言うラウラに鈴はあがががと開いた口が塞がらない。自分にはないその素直な様に圧倒されたのだ。

 

「ではな」

「ま、待ってよ!」

「今度はなんだ。私は一刻も早く混ざりたいのだ」

「あんた軍人の癖に前情報無しで飛び込むわけ!? そこまで猪突猛進なのあんたの部隊は!」

「何を言う、そんなわけないだろう」

「でしょ? ここは追跡して二人がどんな関係になってるか見極めるべきでしょ?」

「確かにそうだな。良いだろう乗ってやる」

 

 どんな関係もなにも、一夏に限ってそんな可能性あると思ってるのかこの二人は。

 かくしてなにがなんだか分からないノリで即席追跡コンビが結成されたのであった。

 

「むっ、対象が動いたぞ」

「追うわよ!」

 

 二人は物影から抜け出し、一夏とシャルロットを追いかけていった。

 

「…………置いてかれましたけど」

「巻き込まれただけでしたし。やっと解放されましたわ。ふぅ」

「それはそれは」

 

 さぞつれ回されてたんだろうね。

 ポツンと取り残された英国コンビは中独コンビ追うことなくただ立ち尽くしていた。

 

「ところでセシリアさんや」

「はいなんでしょう」

「実は俺水着を買いに来た訳なんだ」

「あら、わたくしもですわ」

「それでね、提案があるんだけど。俺が買う水着少し見てくれないかな。いや別に変なのとか奇天烈な代物を買う訳じゃないけど。やっぱ女子からの価値観というのがわからないわけでさ」

 

 事実99%女子の中に水着一丁で飛び込むわけだから、大丈夫だとは思うが、念のため。

 

「いいですわよ」

「ほんと? 助かるわぁ」

「ですが条件があります」

「え、なに?」

「わたくしの水着も見てくださいな」

 

 は? いやいやなに言ってんだこの子は。

 男子と女子の水着なんてジャンルが違うレベルじゃん。実際違うけど。それに貴方モデルやってるでしょ? こんな服装レベルノーマルな俺に態々選んで貰わなくても。

 でも一から選ぶ訳じゃないだろうし、それだけで俺の見てもらえるなら。

 

「いいけど、俺でいいのか?」

「ええ、男性の意見も聞いてみたいですし」

 

 男性の意見、その言葉に少しドキリとする。

 

「それって…………一夏に見せるため?」

「? 何故一夏さんが出てきますの」

 

 何故ってそりゃあ…………

 

「……お前一夏のこと好きじゃないの?」

「えっ!?」

「いや、久しぶりに再開したときに一夏のこと熱く語ってたじゃん」

「それは違いますわ!」

「うおぉおっ!?」

 

 セシリアが凄い勢いで迫ってきた、近い近い近い! 

 

「あの時は疾風を説得するのに熱が入っただけで。別に一夏さんのことをそういう目で見てませんわ!」

「あー、そうなの?」

「そうですわ。一夏さんは私のライバルであり親友です」

「わかった、わかったから離れてくれ。近い」

「あ、ごめんなさい」

 

 すごすごと離れるセシリア、まだドキドキしてる。

 しかしそうなのか。俺は無意識に胸を撫で下ろしてホッとする。

 ………………ん? なんでホッとした俺。

 

 とりあえず目的は決まった。俺とセシリアはレゾナンスの水着コーナーに足を進めた。

 

 

 ──ー◇──ー

 

 

「おー、品揃えがいい」

「本当ですわね。では、水着を選んできますわ」

「おう、10分ぐらいでいいか?」

「20、いえ15分で。女性は服選びに時間がかかる物ですのよ」

「わかった、じゃあまたこの場所で」

 

 セシリアと別れた俺は早速自分の水着を選別した。

 といっても俺はそこまで拘る趣向ではないので。良さそうなのをザラッと三つほど。どれも寒色の青系ベースだ。

 

「ん──」

 

 …………どうしよう。ものの1、2分で終わってしまった。そこまで服装にこだわらない俺は女子と違って時間がかからないらしい。

 適当にブラついてみるか。もしかしたらいま持ってるのより良いのがあるかもしれないし。

 しかしこう男一人でブラブラするのもなー。誤って女性水着コーナーに立ち入らないようにしないと。

 

「そこのあなた」

「…………」

 

 突然名前も知らない女性に声をかけられた。逆ナン? な訳ない。それならこんなトゲがあるような声するか? 

 俺じゃない、きっと俺じゃない。

 

「聞いてるの、そこの貴方よ」

「はい?」

 

 俺でした。

 出来るだけ表情に出さないように取り繕って女性に顔を向けた。

 

「俺ですか? なんでしょう?」

「この水着、片付けておいて」

 

 脈絡もなく、女はそういってバンと持っていた買い物かごを俺の足元に放り投げた。かごが俺のつま先に当たる。

 

 ISが普及してからの10年で女尊男卑の風潮は加速。現にこうして男がこうして歩いてるだけで「お前頭大丈夫か?」って無茶ぶりを命令されることが少なくはない。

 こういう女尊男卑主義者(ミサンドリー)の総本山、そのなかでも過激派が揃っているのが女性権利団体、通称女権団だ。この女権団の勢力増加に伴いこのようなことが頻繁に起こるようになった。

 

「すいません、よく聞こえなかったです。もう一度言ってくれます?」

「その水着を片付けておいてって言ってるの、何回も言わせないで頂戴」

 

 このアマ。

 見たところ俺より少し年上なぐらいか? てか俺の外見見て誰か気づかないのか、気付いてこんなことを言っているのか。それとも俺の知名度がそこまでなのか。

 しかもここは男性水着コーナーだぞ、女性水着コーナーは目と鼻の先だとはいえ。つまりこの女は態々男のテリトリーに来てまでこんなことをしているということ、ご苦労なことで。

 まあいい、とりあえず俺の答えは始まる前から決まっている。

 

「お断りします」

「はっ?」

「お断りします。貴女にそんなことを頼まれる義理はないので」

 

 口許だけに笑みを浮かべて丁重にお断りする。ここで引いてほしかったが、勿論そんなことで引くミサンドリーではない。

 

「ふうん、そういうこと言うの。貴方、自分の立場がわかっていないみたいね」

「そういう貴女は何様ですか? 国の女王様か何かですか?」

「貴方、口の聞き方がなってないわね?」

 

 女性の額に青筋が浮かぶ。短気な人だな。

 

「生憎俺はあんたの奴隷なんかじゃない。もう一度言う、お断りだ。他を当たってくれ」

「そう、ならこっちにも考えがあるわ」

 

 そういって女性は警備員を呼ぼうとする。この女尊男卑の世の中、『いきなり暴力を振るわれた』と言えば世論は女性に味方し、男性は濡れ衣を着せられる。本当に歪んだ世界だ。

 世間でもこういう男性に対する冤罪事件が多発し、大きな社会問題にもなっている。

 しかもこれは大人に限ったことではなく、酷いことに子供にもその兆候があるのだ。

 

『貴方お金持ってるんでしょ、私たちに貢ぎなさいよ』

『私たちより偉いつもり? 男が女より上な訳ないじゃない!』

 

 …………あー嫌な記憶が蘇る。糞っ、糞っ、糞っ、糞ったれが。

 だが違う、俺はあの時とは違うぞミサンドリーのクソビッチども。

 

「何をするつもりです?」

「警備員を呼ぶのよ」

「俺は貴女になにもしてませんが?」

「そんなの関係ないわ! 女の命令を断ることが何を意味するか思い知らせてあげるわ!」

 

 女はヒートアップしてるのか途端に早口になって捲し立てる。

 

「俺はなにもしていない、あんたに触れてさえもいないのにか?」

「それでも私がお前に何かされたと言えばお前の人生は終わりよ! 裁判を起こしてあげるから覚悟なさい!」

「冤罪が明白なのにか?」

「そんなの私の発言で幾らでも覆る! 男に人権などない、男は一生女の言いなりでいればいいのよ!!」

 

 腐ってる、こんな事を平然と言えるなんてどうかしている。目の前にいる人間は同じ人間なのだろうか。俺の目には醜いモンスターに思えてならない。

 

「では、貴女は見ず知らずの俺にこの水着を片付けさせるのを拒否されたのに逆上し、俺にありもしない罪を擦り付けると? そういうことですか?」

「そうよ、それのなにが悪いのよ!?」

 

 まだるっこしいとイライラをぶつけてくる女。

 血管が切れないか心配だ。

 

「そうですか」

 

 俺はニッと笑った。

 

「ありがとうございます」

「…………は? いまなんて言ったの?」

「ありがとうと言ったんです」

「…………は?」

 

 二回も言うな、凄い滑稽だぞ。

 女は信じられないものを見たような目をしている。

 

 あんたが自分を女だということをカードにするならば、俺も切り札を出させてもらうことにする。

 俺は呆気に取られている女の前にあるものを取り出して見せた。

 それは手のひらサイズに収まる長方形の物体、マスコミとかが持ち歩いているある機械だ。

 

「なんだか分かりますこれ?」

「そ、それって」

「はい、ボイスレコーダーです」

 

 女の前でボイスレコーダーを振ってみせると、女の視線が面白いように吸い寄せられていた。

 

「世の中物騒ですからね、いつも持ち歩いてるんですよ。この中には貴女との会話が全て録音されています、おっと!」

 

 女がボイスレコーダーを奪わんと手を伸ばすのを容易くかわすと、女の顔が先程の余裕を噛ましていたと思わないぐらい焦燥に染まっていた。

 

「おやおや、人の物を奪ってはいけないって親に習わなかったのですか? それとも男の所有物なら問題ないと?」

「貴方! 一体なにをする気なの!?」

「なに、とは?」

「それで私を脅すつもりでしょう!?」

 

 さっきまで脅しにかかっていた癖にどの口が言うんだ。本当に世界の中心にいる気でいるのか? 片腹痛いわ。

 

「そんなことしませんよ。日が経ってから後ろから刺される案件じゃないですか」

「じゃあなにが目的なの!? 金!? それとも私の体目当て!?」

「…………」

 

 呆れて物が言えないとはこのことか。俺は目の前の人物を汚物を見るような目で見下す。

 生憎必要最低限の金はもってるし、体? 誰がお前みたいな醜女を抱くか、吐き気がする。

 これ以上ダラダラ相手をしてもイライラが増すだけだと理解した俺は速急に要件を纏めあげた。

 

「裁判を起こします」

「…………さい、ばん?」

「はい。私が貴女を訴えます。恐喝と名誉毀損で」

 

 カタカタと女は小刻みに震え出した。

 

「さ、裁判で男が女に勝てると思ってるの?」

「確かに今のご時世では俺が勝つ確率は低いですね。でも確固たる証拠であれば話は別です」

「そんなレコーダーだけで…………」

「気づいてます? ここ、監視カメラから丸見えなんですよ?」

「!?」

 

 女は慌てて辺りを見渡した。そこには後ろと右斜めから見つめる二つのカメラが。

 

「女性が高確率で裁判に勝てる要因。それは証拠不十分からの女性発言優位による男性側の冤罪がほとんど。ですがこれだけの物理的証拠、そして信頼できる弁護士さえあれば、男性側が勝つことなど造作もないんですよ」

 

 眼鏡をあげて顔面蒼白となった女を睨み付ける。女は蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった。

 

 ああ、最高だ。

 

 女尊男卑主義者の高い鼻をへし折る瞬間は何回見てもたまらない。

 俺の外見は至って平凡のそれだ、眼鏡をかけて陰気っぽく見えるのか知らないがたまに絡まれることがある。

 

「パッと見冴えないガキンチョなら簡単にカモれると思ったのか? 残念でした。裁判が終わった後のあんたの環境がどうなるか楽しみだね? じゃあさようなら」

 

 女に背をむけて俺はそのまま立ち去った。

 さて、そろそろセシリアと合流するか。多分もう決まっただろうし。

 無論さっきのは脅しではなく本気。水着を買ったあとはうちのお抱えの弁護士さんにこれを渡しとくとしよう。

 裁判所に赴くのは正直面倒だが、記録を残していたらそれこそ後ろから襲われかねない。

 とも、限らんか。

 

 突然何かが揺れる音がしたと思って振り向くと、さっきの女が必死の形相で先程俺に放っていた買い物かごを下から俺に当てようとしていた。

 なるほど、下からやれば水着の陳列棚からうまい具合に監視カメラの視線をそらせるって訳か。

 

 女は焦りに焦っていた。此のままでは自分の女としての立場が危ういと。だからバックを当ててよろけたところで俺からボイスレコーダーを取り上げてから警備員をよんで「この男に脅された」と大声を張り上げれば状況を打開できると思ったのだろう。

 

「フッ」

 

 思わず笑みがこぼれた。

 馬鹿が、お見通しだっての。これでわざと当たって適度に痛いふりをすれば傷害罪も加わってお前はチェックメイトだ。

 俺はあえて受け止めず、そして直撃しないように体をそらして受ける構えをとった。

 

 だが買い物かごは俺の腕に当たることはなかった。

 

「私の生徒になにをする?」

 

 振られた買い物かごをガシッと止めたのは、いつものスーツ姿の織斑先生だった。

 え、いやいや。なんでここに先生が? 

 

「むっ? お前は一年八組の生徒だな。何故こんなことをした」

 

 え、こいつIS学園の生徒かよ、しかも同学年。それなら俺が疾風・レーデルハイトだと知っていたはず。いや知っていた上で吹っ掛けてきたのか。

 

「こ、こいつが私を一方的に脅したんです!」

「ほう、それは本当かレーデルハイト」

 

 呆れて物が言えない俺は答える代わりにボイスレコーダーを押した。先程の女の声が再生される

 

『この水着、片付けておいて』

『貴方、自分の立場がわかっていないみたいね』

『そんなの関係ないわ! 女の命令を断ることが何を意味するか思い知らせてあげるわ!』

 

 ボイスレコーダーを止めた。

 女の顔がまた青くなり、尋常じゃないぐらい体を震えさせた。

 

「聞いての通りです。俺は目の前の女性に無理矢理それを片付けられそうになって断った後、罵詈雑言を浴びせられ、挙げ句の果てに自分が女であることを盾に俺を冤罪に嵌めようとしました」

「で、お前はそれを録音してどうするつもりだったんだ?」

「裁判で訴えます、当然でしょう?」

 

 あっけらかんと言う俺を前に織斑先生が息を吐いて口元をおさえた。

 しばし考えたあと織斑先生が女子生徒に視線を向けた。

 

「お前には後程生徒指導室に来てもらう。今日はこのまま寮に戻れ」

「は、はい…………」

「レーデルハイト、ボイスレコーダーをこちらに渡してもらおう」

「はっ? なんでですか」

「証拠物件として押収させてもらう」

「ですがっ」

「あまり手間を取らせないでくれ」

 

 織斑先生は諭すように俺に言った。しばし目線を交わしたのち、俺は渋々ボイスレコーダーを織斑先生に手渡した。

 女子はボイスレコーダーが俺から離れると同時に助かったと息を吐いた。

 

「何を安堵している? 言っておくがお前の態度と言い分によっては、こいつはそのままレーデルハイトに返す可能性もあるのを忘れるな」

「は、はい!」

「早く行け、買い物かごを持ってな」

 

 女子は覚束ない様子で買い物かごを取りこぼそうになりながら無様にその場から逃げ出した。

 

「レーデルハイト」

「なんですか」

「ISの待機形態の記録も消せ、押収した意味がない」

 

 ウゲッ。なんでばれてるんだよ。

 渋ってもらちが明く訳でもないので、監視カメラと周囲から隠すようにホロウィンドウを開き、密かに別で録音していたデータを織斑先生に確認を取らせて消去した。

 

「…………」

「何か言いたいことがあるなら言ってみろ」

「…………何故邪魔をしたんですか?」

「邪魔?」

「そうですよ。織斑先生が横槍を入れなければ、あいつをもっと落とし込めた。女尊男卑主義者の鼻をあかせたというのに」

「あんな末端一人を吊し上げたところで、世の中は変わらないぞ」

「じゃあどうしろと言うんです? あのまま大人しくへこへこしてろと言うんですか!? そんなことをしているから、あんな奴らが付け上がるんですよ!?」

 

 思わず怒りを織斑先生にぶつける。織斑先生は眉一つ動かさず俺の怒りを受け止めた。

 

「ISが出てからあんな奴らが増えた、今みたいなことを平気でするやつもいるし、暇潰しに男を冤罪で人生を棒に振るわせる! 男がいくら叫んだところで誰も助けてくれない! なら自分の身は自分で守らないといけない! あいつは俺を攻撃してきた、だから反撃した! それの何がいけないのですか!?」

「私だって、あんな連中は好きじゃない、それこそ吐き気がする程にな」

 

 ポンと俺の肩に織斑先生の手が乗る。

 

「お前が間違っていると言うつもりはないし、正しいと言うつもりもない。相手に非があるのは明らかだが、私が言いたいのはやり過ぎるなということだ」

「彼処で警告するだけで止まるとでも? 秘密を保持し続けるほうが危険じゃないですか」

「お前の言い分はわかる。だが一夏とお前が出現してから女性権利団体を中心に世界が慌ただしくなっている。今後の対応を少し穏便にすませろ。如何にISを持っていても、使えない場所ではただのアクセサリーだ」

「………………」

 

 織斑先生の言いたいことは分かった。

 だけど俺はどうしても納得がいかなかった。さっきも言ったが、今の社会は男に惨すぎる。

 ISを持ったところで使えない? じゃあISを持っていない癖にさも横暴な態度をとる女尊男卑主義者はどうなんだ? 

 

 そんな俺の心を見透かしたのかそうでないのか分からないが、織斑先生は一言「行くぞ」と言って歩き始めた。

 何処にと聞くわけでもなく、俺は織斑先生についていった。

 

 

 ──ー◇──ー

 

 

「疾風!」

 

 場所が変わって女性水着コーナー。

 俺を見つけたセシリアが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですの? 何かされませんでした?」

「何かはされた、大丈夫ではあるけど、大丈夫じゃない」

「ど、どういうことですの?」

 

 チラッとセシリアが織斑先生に目を向けると、先生が肩をすかしたのを見て。俺は理解した。

 

「そっか、お前か。織斑先生に告げ口したのは」

「告げ口って……私は貴方が心配で」

「俺は昔のようなひ弱な泣き虫なんかじゃない。余計なことをするな」

「わたくしは別に、そんなことっ」

 

 俺の剣幕に圧倒されたセシリアに織斑先生が助け船を出した。

 

「レーデルハイト。オルコットは私に助けを求めた訳ではない。私は今にも飛び出しそうなこいつを制して勝手に割って入っただけだ。オルコットに非はない」

 

 織斑先生の説明でスッと熱をもった頭が落ち着いた。

 攻められたセシリアは俺から視線をそらすように俯いていた。

 その姿を見て、俺の胸辺りがチクリと疼いた。

 

「…………悪いセシリア」

「い、いえ。無事でなによりですわ」

 

 セシリアは軽く笑う。

 はぁ、最低だ。こいつはただ俺を気づかってくれただけなのに。俺は八つ当りも同然なことを。

 セシリアとあのミサンドリーなど、比べるまでもないだろうに。 

 

 なんとか話題を変えたい。周りを見ると、セシリアの後ろの簡易更衣室の前で、何故か一夏とシャルロットが山田先生に説教を受けていた。

 

「お二人は高校生ですし、若気の至りというのもあると思います。ですけどその場の勢いでこんなことをするのは良くないと思いますよ。教育的にも道徳的にもっ」

「「す、すいません」」

 

 割りとミニマムな山田先生を前に二人揃って小さく縮こまっていた、心なしか一夏の頬は赤く、シャルロットは顔全部が赤く見える。

 

「セシリアよ、あれは何があったんだ?」

「わたくしが来たときは既にあの状態でしたわ」

「ほぉん。で? そこの尾行コンビはいつまで隠れてるんだ?」

「なっ、ちょ! ばらさないでよ疾風!」

「貴様、仲間同士で仲間の位置を敵にばらすとは何事か」

 

 いや、仲間じゃねえよ。俺はお前たちに置いてかれた、というより最初からつるんでなかっただろ。

 

 出てきた二人に一夏が気付いた。

 

「やっぱり鈴とラウラだったか。さっきからチラチラ見えてて落ち着かなかったぞ」

「う、五月蝿いわね! 女子には男子に知られたくないことが一つや二つあんのよ!」

「心外だな一夏。私のスニーキングスキルは部隊1だったのだぞ。むしろ今回の落ち度は鈴が顔を出しすぎたせいだ。後、感情の抑えが足りん」

「なによそれ、あたしのせいだって言いたいわけ?」

「そうだ」

「買うわよその喧嘩!」

「やめろ小娘、騒ぎを起こすな」

 

 一触即発な空気も織斑先生の一言で直ぐに凪となった。相変わらず存在感半端ねえっす。

 

「さて、さっさと買い物をすませるとするか。野暮用が出来たわけだしな」

 

 流し目で俺を見ないでください、謝りませんよ俺は。

 

「あっ、すいません。私ちょっと買い忘れがあったので。えっとこういうのは若い人が詳しそうですね! 凰さんとオルコットさんとデュノアさんとボーデヴィッヒさんは一緒に来てください! あ、ついでにレーデルハイト君も!」

「えっちょ。なんで男の俺までってうわわわっ!」

 

 いやいや、若い人たちって山田先生も相当お若い部類なのでは!? 

 有無を言わさない物凄い勢いで女子ズと+αが山田先生の手によって織斑姉弟から引き離された。

 

「な、なんだ一体?」

「まったく、山田先生も余計なことをする」

「んん?」

 

 

 ──ー◇──ー

 

 

「すいません、最近織斑先生が激務続きでして。これを機会に家族の時間を作った方がいいかなと思って、無理矢理連れてきてしまいました」

 

 あー、成る程。把握した。

 そんなことを言われたら流石の一夏ラバーズも押し黙るしかなく、各々は自分の買い物に戻っていった。

 

「ふー」

「落ち着きました?」

「もうね。ところでどうよこれ、三つぐらい選んだんだけど」

 

 握りしめて多少くしゃっとなった海パンをセシリアの前に見せた。

 

「どれって言われても…………どれも無地の青系統の色ちがいじゃないですか」

「いやいや、ワンポイントとか、はしっこに柄があるだろ?」

「ほとんど一緒じゃないですか」

「しょうがないだろ、もう少し見ようと思ったらあのクソビッチに絡まれたんだから」

「疾風ったら、口が悪いですわよ。もう」

 

 とりあえずなんだかんだ選んでくれた海パン以外をもとの場所に迅速に戻しといた。また絡まれたらたまらん。

 

「お前は決めたのか? まだかかるなら待つぞ」

「んー、どれもいい物ばかりで。わたくしの場合基本カタログを見てからの通販なので、実はこういうところは数えるほどしか」

「成る程」

「あ、どうせなら疾風に一から選んで貰うと言うのは?」

 

 おいおい、さっきの俺の見て選んでくれとか。無地になるぞ無地に。

 

「わたくしは引き続き水着を見て回るので、なにかいいのがあれば持ってきて下さいな」

「別にいいけど。値段は? 流石にお前のは買えないぞ」

「ご心配なく。わたくしはオルコット家現当主でありイギリスの代表候補生です。糸目はつけなくて構いませんわ」

 

 あーそう。なら適度に選ばせて貰いますよ。

 近場から見ていくか。俺は男子に比べて彩度豊かな水着コーナーにチカチカしながら、周りを見てみた。

 

「おっ、これはーどうだろうか?」

 

 ふと、目に留まった物を取ってみる。

 混じりけのない鮮やかなブルーカラーのビキニ、腰回りにはパレオがオプション装備されており、少し優雅な感じもある。

 うん、これにしよう。柄物よりこういうハッキリしたのがいいだろう。

 

「おーいセシリア、これはどうよ」

「見せてくださいな…………ふむ…………なかなか良いですわね。少し着てみますわ」

 

 そういって更衣室に入ったセシリア。5、6分ぐらいまっていると、私服姿のセシリアが、出てきた。

 

「あれ、水着着たのか?」

「ええ。わたくしはこれにしますわ」

「いいのかそれで」

「せっかく疾風が選んでくれたものですし」

「そうか、ならいいんだが」

「あら? もしかしてあの水着を着たわたくしを見たかったとかですか」

「いやいや、別にそんなことは。ないぞ」

 

 思わず俺が選んだ水着姿のセシリアが頭に浮かんだ。柔らかい潮風にたなびくブロンドヘアーとパレオがまた綺麗で。

 まてまてまて、何を想像しているんだ俺は。駄目だぞーそんなこと考えちゃ。

 

「ウフフ、楽しみは臨海学校までとっておいて下さいな」

「む、むぅ」

 

 なんとなく見透かされた気がして少し恥ずかしい。

 

「ところで、何故この色にしましたの?」

「え。それはセシリアなら青が似合うなって思って」

「あら、ありがとうございます」

「ブルー・ティアーズの色でもあるしな」

 

 ブルー・ティアーズの名前を出した途端セシリアが少しよろけた。

 

「はぁぁ。やはりISですか。なんとなくそんな気はしてましたわ」

「なんでガッカリしている」

「別にー、疾風の頭はいつもISで一杯だと思っただけですわー」

「それが俺だ。IS最高」

「…………少しは気の聞いた誉め言葉とかないものかしら」

 

 無茶ぶりを言うな。

 

「一夏さんなら意識しなくともスラスラと女性をときめかせるような言葉をかけますのに。疾風も見習ってほしいですわ」

 

 あの朴念神と比較されても。てか無意識でって凄いなオイ、鈍感に加えて天然ジゴロまで入ってるのかよ。ほんとラノベ主人公真っ青だなあのイケメンめ。

 

 とはいえここまで言われて黙るほど俺は素直ではない。

 んー、なにかないものかなー。

 しばしジーとセシリアを見る。そいや私服姿は初めてだな、IS学園では制服かISスーツだったし。

 だけど「服似合ってるね」なんて在り来りで満足するかこいつ。一応モデルだぞモデル。

 もっとこう、なんか………………

 

「…………セシリア」

「はい?」

「お前はいい女だな」

「え? ええっ!?」

 

 セシリアが思いっきり狼狽えた。

 

「な、なんですの行きなり!?」

「あ、ああいや。別に深い意味はないんだ、ただお前はそこらへんの女とは違うなって意味で。さっきの奴とは雲泥の差というか。とにかくお前は誇らしいぐらいいい女だなっていう素直な感想でして」

「そ、そうですか」

 

 しまった。そんなつもりは全然なかったのにこれでは完全に口説き文句だ。

 ほらみろ、セシリアの頬が赤くなってるではないか。

 よし、ここは一つドシンプルに。

 

「あと、その服も似合ってるぞ。いつも制服だから新鮮で、いや別にお前のカスタム制服も素晴らしいものではあるのだがな?」

「そ、それは、どうも、ですわ」

 

 マテマテ、更に赤くなるな! どうしたらいいか分からないではないか! 

 おい! そこらへんのミサンドリーども! 今こそ割って入ってこい! 水着片付けてやるぞ! 

 

 だがこんなときに限って周りに女はいなく、予想外の不意打ちにドキドキするセシリアと、この状況にいたたまれなくなった俺は手に握った海パンに手汗を染み込ませてドギマギするという謎の沈黙が、一夏がくるまで続いたのだった。




今回で言及されなかった一夏とセシリアの間柄が判明しましたね。
今まで曖昧だったのは、ミスリードということで。

しかし女尊男卑主義者ってリアルにいるんですかね、あいたくありませんが。

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