IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
誤字脱字報告ありがとうございます。
ほんと助かっております。
ついにこの日が来てしまった。
「ふぅ」
思わず息が漏れる。
今日はセシリアとの同居終了日だ。
結論から言うと、進展なし。
色々探りを入れてみたが。
セシリアが俺のことをどう思ってるかというのは汲み取れなかった。
人間観察は得意だと思ったのだが。これがまた、決定的で確定的な物が見えてこない。
他の奴らに「セシリアって俺のことどう思ってると思う?」なんて聞けないし。
なんで聞けないかって? バレるのが恥ずかしいからだよ。
なら既にバレてる菖蒲は?
振った相手に自分の恋敵の話をされるってどんな生き地獄だよ。流石にそんなことは出来ない。
「疾風どうしましたの?」
「んあ?」
「朝から浮かない顔してますわ」
「いや。お前と部屋離れる日が来てしまったなぁって。なんというか」
「なんというか?」
「寂しいなぁって」
「さ、寂しい、のですか?」
「うん?」
時々俺がこういうことを言うとセシリアは本の少し頬に赤みがさし。歯切れが悪くなる。
これが俺に好意を持っているのか。
思わせ振りな言動に振り回されてるのか。
まだ計りかねているのだ。
前者なら良い。だがその度に自惚れるなともう一人の俺が否定に入るのだ。
これはまだ自信がついていないのと。何処かでセシリアを高嶺の花として見てしまっていることだと。自己分析した。
「セシリア」
「はい」
「俺は情けない奴だよ」
「そんなことありませんわよ。疾風は立派です」
「ありがとう」
あーやめてくれそんな優しい言葉。
もっと好きになってしまう。
「疾風は一人暮らしになるのですよね?」
「うん。一夏も同様」
「襲撃リスクの分散でしたか」
「そういうこと。俺と一夏は一定水準の戦闘能力が評価されて護衛はなし」
会長がたまにくるらしいが。そのたまにがどれくらいの頻度かによるよな。
「疾風。時々遊びに行っても、宜しいでしょうか?」
「勿論。何時でも来ていい。流石に泊まりは規則で無理だけど」
「しませんわよ」
はーい。
あ、織斑先生来た。
「全員いるな。日直」
「起立。気をつけ。おはようございます!」
「「おはようございます!!」」
「うむ、おはよう。それではこれよりSHRを始める。山田先生」
「はい」
入れ替わりで山田先生が教壇に立ち、背後のホログラムを開いた。
「この度、各専用機持ちのレベルアップを図るために。全学年合同のタッグマッチトーナメントを開催することになりました」
背後のホログラムにトーナメント表が現れた。
行事一覧にこの事が記載されてないせいか生徒が少し騒がしくなった。
「専用機だけですか?」
「そうだ。各国でISの強奪が多発する事件が起きているのは知っているな? 我が校でも学園祭、キャノンボール・ファストで専用機が襲われている」
今言ったこと。ほとんど、もしくは全部が
「他にも襲撃事件、トラブルが多発している。遺憾ながら、学園の戦闘教員が出動出来ない事案がある」
というより、敵は教員が介入できないように工作してる感じだ。
無人機襲撃の時はアリーナが毎回ロックがかかり教員が介入できなかったし。
IS学園ほどのセキュリティがこうも突破される。
織斑先生が警備強化に対してぼやきたくもなるわな。
「そこで各専用機の練度、並びに連携を強化するための措置として。今回のトーナメントが組まれる事となった」
研究機関の帰りに会長が言ってたのはこれか。
「各専用機の皆さんは、トーナメントが始まる一週間前までにタッグマッチの申請書を提出するようにお願いします」
ゴォッ。とクラスの3ヵ所から熱気が届いた、気がした。
心なしか壁の向こうにある隣のクラスからも。
これは荒れそうだなぁ。
ーーー◇ーーー
「一夏!」
はい来た。
「一夏ぁっ! あたしと組みなさい!!」
少し遅れて鈴が到着。
「まて! 一夏は私と紅椿でタッグを組むんだ!」
「何を言う! 嫁と夫は共にあるべきだろう! 私と組め一夏!」
「一夏! 前にタッグを組んだ者同士息が合うと思うんだ! 僕と組もう!」
「シャルロットは前に一夏と組んだんだから良いじゃない! あたしに譲りなさいよ!」
そして始まるにらみ合い。
普段一歩後ろから状況を観察するシャルロットも押せ押せの雰囲気となって圧が凄い。
この流れるような展開。
最初は半ば呆れてたが。これがないと物足りなさを感じてしまうのは、一種の病気だろうか。馴れって怖い。
「えっと、みんな落ち着いてくれ」
「落ち着けるわけないだろう!」
「こればかりは譲るわけには行かないからね」
「こうなれば誰が一夏のパートナーに相応しいか勝負よ」
「面白い! 受けてたとう!」
しかしこれでは優しさの塊である一夏も困惑し、一人に決められないことだろう。
たとえ決着がついたとして、組めなかった者は一夏とギスギスする可能性もある。
ここは何時も通り助け船というなのくじ引きを提案しに………
ガタッ。
「おっ?」
「一夏?」
一夏が立ち上がった。
言い争いをしていた一夏ラバーズも驚いた顔で一夏を見た。
「あのさ」
「なんだ」
「みんなは俺とタッグを組みたいんだよな?」
「「うん」」
一夏が一人一人の顔を見た。
そして目を閉じ、数秒たった後に意を決したように目を開いた。
「………1日時間をくれ」
「「え?」」
一夏の言葉に四人が虚を突かれた。
おっ、なんか展開変わった?
「みんなが俺と組みたいってのは嬉しい。だけどタッグマッチだから一人しか組めないだろ? だからちゃんと考える為に1日時間が欲しいんだ」
「それって、私たちの誰かと組むということか?」
「ああ。ちゃんと明日までには答えを出す。それでいいか?」
いつになく真面目で鋭い彼の視線に目をパチクリさせたあと顔を見合わせる四人。
プライベート・チャネルを使ってる訳ではないが、お互いの間で話は決まった。
「わかった。一夏がそういうのなら」
「だけど私たち以外と組むなんて言ったら承知しないわよ」
「わかってる、それだけはしないと約束する」
話は纏まった。
険悪な雰囲気だった一夏ラバーズもすっかり毒気を抜かれたようだ。
「あ、鈴様! やっぱりここに居ましたか」
「菖蒲? どうしたのよ」
「どうしたって。二組の一時間目は実技授業ですよ?」
「ヴぁっ! 忘れてた!」
忘れるなよ実技を。
おおかた一夏とタッグと書かれたハンマーにスコーン! とだるま落としされたんだろう。
「じゃあね一夏! ちゃんと決めなさいよ!」
ツインテールを振り乱しながら鈴は教室を後にした。
それに触発されるように残った三人もそれぞれの席に戻っていった。
「やるな一夏」
「え、何が?」
「あいつらにハッキリ言ったじゃないか。いつもナアナアになるのに」
「ああそれか。これまでの襲撃のどれかの原因が俺ではないとは言いきれないし。こういうのはちゃんと決めようと思って」
これは、また。
なんというか、成長したな一夏。
流され体質からちゃんと自分の意見を通せるようになったんだな。
だがちゃんと説明しないと納得しない奴もいるからな、頑張れよ一夏。
「モテ男は辛いね」
「だからモテてなんか」
「もげるがいい織斑一夏」
「なんでだよ」
ーーー◇ーーー
「これで終わりですわね」
額に光る汗をハンカチで拭いたセシリアは一息吐いた。
「悪いなセシリア。荷解きまでしてもらって」
「いえ、疾風には色々助けられましたし。料理を教わった代金代わりということで」
セシリアのゴージャスな部屋からノーマルの寮部屋に移った俺はセシリアと一緒に荷物の整理をしていた。
本当なら生徒会メンバーもくるはずだったが。諸々の事後処理、そして近い日に開催する専用機タッグマッチ・トーナメントの準備に追われてるらしく不在。
一人で荷解きをしようと思ったところセシリアが手伝いを持ちかけてきて今に至る。
「これでトイレ常設という環境から離された訳だなぁ」
「男子トイレは遠いですものね」
そろそろ一つぐらい寮に男子トイレをつけて欲しいものだ。
学生が変わっても一年生寮がそのまま二年生寮になるのだから是非ともつけて欲しいものなのだが。
今度会長、いや織斑先生に直談判しに行くか。
エムのことも話しときたいし。
と、その前にやることがある。
タッグの申し込みをセシリアに………
「………」
「疾風?」
「いや、なんでもない」
いやヘタレぇ!
なにヒヨってんだお前!
チキンハートならぬイーグルハートってか!? 強そうだわ!
ふー、落ち着け疾風・レーデルハイト。
なにも告白する訳じゃないんだからさ。
普通に誘えば良いじゃん何戸惑ってんだバカみてぇ。
よし言うぞ
「疾風」
「セシリア」
被った! もう、ほんとタイミングよ。
前にもあったなこういうの!
「どうぞ先に」
「いえ疾風から」
「俺は少し心の準備がいるから」
「そ、そうですか。ならわたくしから………タッグマッチのことですけど」
おう?
「疾風と組みたいなと。疾風が良ければですが」
「宜しくお願いします」
即答です。当たり前です。
まさかセシリアも同じことを考えてくれていたとは。
これは嬉しい。
「え、本当に?」
「うん。俺からもお願いしようと思ったし」
「そうですか! では早速書きましょう!」
セシリアは明らかにウキウキした様子で申し込み用紙を取り出した。
二人の名前を書き、本人確認用に印鑑を押した。
なんかそういう書類みたいだな。
うん、俺の頭も順調にお花畑になってきました。
「受付は明日からでしたわね」
「だな。放課後一緒に行こう」
「ええ」
セシリアは申し込み用紙を丁寧に畳み。ポケットに入れた。
「では疾風、また明日」
「ん、また明日」
パタンとドアが閉まる。
部屋に戻り、そのままベッドに倒れこんだ。
「やっった!」
上に申し込み用紙をかざし。溢れる笑みを隠すことなく見上げた。
そこにはセシリアの名前と自分の名前が書いてある。
「ふー」
しばらく幸せの余韻に浸った。
どれくらい時間がたったか。
ベッドの上でスマホを弄り。多幸感が収まってきたところでセシリアから電話が来た。
「はいもしもし?」
「あっ、疾風。お気に入りの香水が見つからないのですが。もしかしたらそっちの荷物に紛れてませんか?」
「ほうほう?」
まだ荷解きをしてないバッグの中をベッドの上にひっくり返すと。コロンとピンク色のガラス瓶が目に写った。
「あった。ピンクの奴?」
「それです! 良かった」
「今からそっちに行くわ」
「いえ、わたくしから取りに行きますわ」
「そう? じゃあ待ってるわ」
「はい、では」
片付ける時に入ったのかしらねぇ。
どんなもんなのかな。調べてみよ
………うわたっか!!
ピンポーン。
おっ、もう来たのか。
「はーい。ってあれ?」
インターホンの画面に写っていたのはセシリアではなく会長だった。
「こんばんは疾風くん」
「はいこんばんは。どうしたんですかこんな時間に」
「ちょっと折り入って話があって。入ってもいい?」
「良いですけど」
この後セシリアが来るんだよな。
別にやましいことなんか1ミクロンもないから別に問題はないんだが………
と思ったらスマホが鳴った。
会長に一つ断りを入れてスマホを開いた
『少しお時間を下さいますか? 今すぐ処理しなければ行けない案件が来てしまって』
オルコット家案件かな?
まあ別に急いでないし。
『時間かかるなら明日渡すよ』
『いえ、そこまで時間はかからないので大丈夫ですわ』
『了解了解』
返事を返した後に会長を部屋に入れた。
「お茶はいりますか」
「いらないわ」
ベッドに座った会長の向かいではなく傍の椅子に座った。
「あら距離が遠い」
「少し、まあ」
これからセシリアが来るのに会長がいたずらで押し倒されて誤解、なパターンは一夏が経験してるのでとりあえず予防線として。
「一人で使うには広い部屋よねー。寂しいんじゃないの?」
「んーそうですね。セシリアとはなんだかんだ一緒に居て居心地良かったですし。事故の結果とはいえ結果オーライだったかなぁと」
「そっかそっか。じゃあ今日はお姉さん泊まっちゃおうかなぁ。一夏くんとの同棲も解除されちゃったし」
「出来ればやめて欲しいのですが」
本来他の部屋に泊まるのは規則違反だが、相手が我らが生徒会長。
横暴とも言える生徒会長権限でなんとでもしてしまうというある種のチート能力を持ってしまっている。
遊びに来るのは構わないが、泊まるとなれば話は別。
セシリアにあらぬ疑いをかけられれば死活問題となる。てか死ぬ。
「んで、用件はなんですか?」
「あら用がなかったら」
「来ては行けないという訳ではないですよ。でもなんかからかいに来ただけじゃないような気がして」
いつもよりなんというか。会長に勢いがない。
「………相変わらず鋭いわね、あなたは」
姿勢をただし、真っ直ぐこっちに向いた会長にこっちも自然と背筋が伸びた。
いつもの道化ではなく。生徒会長、もしくは裏のボスたる者の目だった。
いったいなにが来る?
「疾風くん」
「はい」
「妹を宜しくお願いします!」
パン! と手を合わせて頼まれたのは。妹を頼むという………
「はぇ?」
なにがなんだか分からず間抜け過ぎる声が出た。
えーっと。どういう?
妹を宜しく頼む。
そのままの意味ではないだろう。会長ドのつくシスコンだし。
「すいません。順を追って話してくれます?」
「あ、そうね。私としたことが」
パタパタと扇子でクールダウンを図る会長。
やはり妹が絡むと先走る傾向があるなこの人は。
「名前は更識簪。ってのは知ってるわよね?」
「ええ。会長に釘打たれましたからよーく覚えてますよ」
「根に持ってる?」
「まあそれなりに」
あの時のセシリアは次の日まで機嫌直らなかったから。
焦ったもん。
「それでね。その。私が言ったって言わないでよ」
「はい」
「疾風くんも知ってると思うけど………ちょっと、いやかなりネガティブというか………」
「………」
「暗いのよ」
「あー」
確かにそうだったなぁ。
明らかに陽キャってキャラではなかったし。
人見知りの気もあった。
「でもね。実力はあるのよ」
「それは分かります。日本の代表候補生ですし。のほほんさんが使った颪も彼女が手掛けましたしね」
「ええそうなの。因みに、あの子が代表候補生になったのは間違いなく実力。間違っても更識の力、私は関与してないの」
「俺はそんな風に思ってはいませんよ」
「ありがと。でも、周りがそう思ってる節があってね」
彼女の姉は目の前のロシア国家代表であり生徒会長。
傍に大きな存在があると、どうしてもそれと比較されてしまうことがある。
一夏は織斑先生。箒は篠ノ之博士。
そして俺は………
「それでね。彼女は専用機持ちなんだけど………専用機が完成してなくてね」
「彼女は専用機を一人で作ってるんですよね」
「あっ、そっか。それは知ってたんだっけ」
おいおい大丈夫か会長。
妹心配し過ぎて空回りしてるんじゃ。
ん? そういえば………
「あの、なんで更識さんは一人で専用機を?」
「色々あるんだけど。一番の原因は………一夏くんなのよ」
「え、どういうことです?」
なんでここで一夏の名前が出てくるんだ?
「簪ちゃんの専用機の開発元がね。倉持技研第二研究所なのよ」
「白式と同じところですよね」
「そうなの。それで簪ちゃんの専用機を開発してる途中で一夏くんの存在が明るみになって、白式の方に人員を全て回してしまったの?」
「えっ、それで開発が滞ったと? 更識さんが先なのに」
「残念だけど。それだけ一夏くんの影響力が凄かったのよ」
なんてことだ。
そんなことをしたら、倉持技研自体の信頼問題にも繋がるというのに。
「あっ」
そういえば。研究機関のあれは。
「篝火博士と険悪な雰囲気になったのはそういう」
「まあ、そういうこと。でも、あっちも最初は断る気だったみたいで」
「というと?」
「白式。一夏くんの専用機の製作を倉持技研に要請したのは。日本政府なのよ」
「政府が自ら? 倉持第一ではなく、第二に?」
「第一は日本代表の専用機、そして第三世代の波に乗る期待の星なの。だから手の空いてる第二に頼んだのよ」
「空いてるって」
更識さんの専用機を作ってると知らなかったのか?
「知っててお願いしたのよ。しかも、もし断れば援助を断ち切るって圧力をかけて」
「は!? そんなことが許されるんですか!?」
IS製作に置いて企業と政府は密接に繋がった関係にある。
デュノア社がイグニッション・プランの波に乗れずに男装という強硬策を使わなければ行けないぐらい。援助を断たれれば存続に関わる。
「勿論許されないわ。でも政府としてはどうしても譲れない案件でね」
「なんで政府がそこまで倉持技研に拘るんです? 他にも有名な日本のIS企業はある。それこそレーデルハイト工業もあるのに」
「倉持技研は徳川財閥の傘下であると同時に日本政府との強いパイプを持ってるのよ。一夏くんが政府の重要観察対象だから、専用機の側でも関わりを持ちたかったらしいの」
だからって。
あー、だから政治は好きになれん!
自分さえよければ擁護すべき国民のことなんかお構い無しなその姿勢。ほんとうんざりする。
「疾風くんが初めてISの検査を受けるときに篝火博士が出向いたでしょ? あれも政府の指示によるものだったの」
政府の指示。
俺の情報を誰よりも早く手に入れる為に。
普段女尊男卑に染まってるこの世界で男を毛嫌いしておいてひとたび男性操縦者が出たらこれだ。
ため息を出さざるを得ない。
「さっきの話だけど。もし倉持が断ってもレーデルハイト工業には頼まなかったと思うわ」
「何故?」
「レーデルハイト工業は日本の企業であると同時にイギリスの企業でもある。もし白式の手柄がイギリスに流れたら、と思ったのね」
「それって。もしかして政府から見たらレーデルハイト工業って。あんまり良く思われてない?」
「そういう訳ではないわ。ただイギリスとも深い繋がりがあるからってだけ。現に疾風くんの専用機に関しては。打鉄のコアが普通に譲渡されたでしょ?」
あー、確かに。
深く考えすぎたか。
「しかし政府も大きく出ましたね。実質更識という組織に喧嘩を売るようなものでしょう」
「それだけ一夏くんの存在はでかすぎたのよ。それに、政府関係者で更識の裏の顔を知ってる人はそんなにいないしね」
「倉持は被害者ですね」
「それでも私は倉持技研をあまりよく思ってないのよ」
「まあ受けた時点でアレですけど。ねえ?」
「理屈じゃないのよ。あと、個人的に篝火という人が苦手」
おっとぉ。まさかそっち路線でしたか。
………結構似た者同士な気もするけど。
「いま失礼なこと考えたでしょう」
「なんのことですか」
同族嫌悪ってやつかなぁ。
「妹さんの経緯は分かりました。それで、妹を頼むというのは」
「はっきり言うと、簪ちゃんとタッグマッチでコンビを組んでもらいたいの」
「えっ」
え!?
「あら。もしかして、もう誰かと組もうと考えたりする?」
「えーっと」
「ああそっか。セシリアちゃんと組もうとしてる?」
というよりもう決まってるというか。
口に出そうとするより早く会長が動いた
「お願い! 疾風くんが頼みの綱なの! 一夏くんはもう決めてるみたいだし。他の女の子も考えたけど。やっぱり疾風くんと波長が合うと思うの!」
「すいません。俺は」
「大丈夫よ! 疾風くんにも悪い話では。ううん。疾風くんにとってこれはビッグチャンスなのよ」
「え?」
ビッグチャンス?
なにが?
「良い? 簪ちゃんは専用機を完成させていないの」
「はい」
「今も製作中なのよ」
「はい」
「そこで疾風くんがペアになったら………一緒にISを作れると思わない?」
「ピクッ」
ISを………ツクレル?
「本来ライセンスがなければ出来ないワンオフ機の製作に携える。ISを知るものにとってこれほどの奇跡はないわよ、ねぇ?」
耳元で優しく囁く会長の声が酷く心地よく。
会長の言葉の一つ一つが脳に染み渡っていく。
「最新鋭のIS製作」
「………」
「やりたくなぁい?」
「やりたいデス」
「じゃあ簪ちゃんと組んで?」
「ワカリマシタ! ………ん?」
………アレ?
「ちょっと待って下さい会長。今凄い誘導しませんでした?」
「なっ! 更識式教唆術を途中で破るなんて! 疾風くん何者!?」
「バリバリエグいの使ってるじゃないですか! 教唆術なんて初めて耳にしましたよ!?」
どこから入ってたんだ!?
全然そんな兆候なかったぞ更識ヤベェな!!
「だってこのままだと簪ちゃん不憫すぎて見てられないんだもん!!」
「だからって手段選ばなすぎ」
ピンポーン。
「すいません会長。あ、やっぱセシリアだ。はーいちょっと待ってー」
会長から逃げるように玄関に向かった。
あのままだとマジでヤバかった気がする。
「ああセシリア。ありがとう来てくれて。これ香水。これ調べたんだけど凄いなこれ。なんか流石って感じ。あー、いま会長来てるんだよね。なんか相談事があったらしく」
ってなにをベラベラ喋ってるんだ俺は。
関係ないだろセシリアには。
………セシリア?
「セシリア。香水。もしかしてこれじゃなかった?」
「………」
なんで黙ってるの?
あれ、もしかして渡し方間違えた?
香水にも渡し方のマナーとかあるのか? いやまさかね?
「えと、どうしたセシリア?」
「………どういうことですの?」
「え?」
どういうことってどういう。
………あれ? なんかセシリア………怒ってね?
「さっきわたくしと組むと言って起きながら………もう他の人と組む約束なんかして」
「は?」
「は? じゃありませんわよ! ドアの前から聞こえましたわよ! 簪という人と組むと!!」
………………………
はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?
「ちょっと待ってセシリア! それは誤解だ!」
「なにが誤解ですか! ハイパーセンサーでしっかり聞きましたのよ!」
はいぱーせんさー!!?
「違う! あれは会長の仕業で!」
「わたくしが疾風の声を聞き間違えるとお思いですの!?」
「そうじゃなくて! 確かに俺は言ったかもしれないがそれは俺の意思じゃ」
「ほらやっぱり言ったではありませんか!!」
「いやだから!」
「もう良いですわ!!」
懐から俺とセシリアの名前が書かれたタッグマッチ申し込み用紙を取り出したセシリア。
いやちょっとなにする気………
ビリィィィィ!
「えーーー!?」
「こんなもの! こんなもの! こんなものっ!!」
目の前で半分、また半分、また半分と申し込み書を破いていくセシリア。
「ちょっと待ってなにしてブフッ!!」
細切れになった申し込み書を顔面に叩きつけられて尻餅をついた。
口のなかに入った紙を吹き出した。
下から見上げるセシリアの顔はまさに憤怒の一言だった。
「あなたがそんな人だとは思いませんでしたわ」
「だからそれは誤解だと」
「知りませんわ! わたくしなんかほっといてその簪さんという人と組めば宜しいですわ!」
「ちょっとほんと待ってセシリいだ!!」
バン! と閉められたドアにぶつかり眼鏡が顔から吹き飛んだ。
眼鏡を拾うことすら考えず扉の外に飛び出たが、セシリアは既に何処にもいなかった。
ヒュっと心臓が凍りつく感じがした。
今すぐ誤解を解かなくては取り返しの着かないことになる。
急いでスマホから連絡をとった。
『この電話は現在使われていないか、着信が出来ない状態で………』
うわっ! 着信拒否された!?
こうなったらISのチャネルで。
『ブルー・ティアーズからのアクセスは許可されておりません』
うおおお!? こっちもブロック!?
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
とりあえずセシリアの部屋に。
ピコーン。
「セシリアから!?」
『部屋にまで押し込んできたら。絶交です』
「………………………………………ぁぁぁ」
ガクっと膝が砕けた。
全身の身体の感覚がなくなり。
気温が氷点下まで下がった錯覚に陥った。
「は、疾風くん。大丈夫?」
「………」
「疾風く」
バタン!
「疾風くん!?」
「………………」
「疾風くん!? 大丈夫疾風くん!? しっかりして疾風くん!! 疾風くーーーーん!!!」
第88話【誤解だ!は死亡フラグ】
疾風が死んだ!この人でなしぃ!!
誤解だ!って言って誤解が解けた試しがないですよね。
!をつければなおのこと。
さて初っぱなから恋路が狂った。
楽しくなってきました。