IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
朝である。
決断の朝である。
他でもないMr.流され男子こと織斑一夏が1日考えてタッグマッチの相手を決めるということ。
そんなある意味一大イベントな早朝の朝にはまだホームルームから30分も前だと言うのに教室には席に座る一夏。目の前には箒、鈴、シャルロット、ラウラが横に並び。
セシリア以外の一組生徒がクラスに一同を介していた。
乙女たちは昨日の夜から一夏は自分を選んでくれる。
もし自分が選ばれなかったら?
選んだあとはどう攻略するか?
選ばなかったあとはどうしてやろうか?
etcetc………
そんなこんな考えすぎでろくに眠れず、だがそれを一夏の前でおくびにも出さないのは恋する乙女たる象徴と言えるだろう。
ぶっちゃけ何を言ってるかわからない。
話を戻そう。
今日の朝は正に決断の朝なのである。
そんな中一夏は。
(なんだこの状況は………)
絶賛汗っかき中だった。
それもそのはず。
乙女からしたら天変地異級でも。一夏からしたらごく普通に自分からパートナーを決めるというそれ以上でもそれ以下でもないのである。
(この居心地の悪さは登校初日の雰囲気と同じ。何でだ? そんなに俺って優柔不断な男って思われていたのか?)
その通りである。
(皆から見て俺ってそんなに決断力のない男だと見られていたのか。結構ショックだな、気を付けよう)
いや合ってるが微妙に違う。
「一夏。いつまで待たせるつもりだ」
「早くいいなさいよ。誰と組むか」
「あ、悪い」
実際集まって3分もたってないのだが。乙女たちに取ってはそのカップ麺が出来る時間でさえ惜しいのだ。
「昨日1日考えて決めた」
「「うん」」
「タッグマッチは箒と組もうと思う」
「わ、私か!!?」
「うん」
一夏は特に溜めることなく言ってのけた。
鈴、シャルロット、ラウラは各々失意のリアクションを。
選ばれた箒に至っては思わず渾身のガッツポーズを空気に叩きつけた。
そして一夏はみなのオーバーな反応に「うおっ」と声を上げた。
「一! ………夏………なんで、私じゃないのよっ」
(鈴が怒鳴りそうになったけど抑えた!)
いつもなら一夏ぁっ! と言うのが鈴のお約束だが今回は事が事なので抑える事が出来た。
決壊寸前ではあるが。
「箒が幼なじみだからという理由で選んだ。というわけではないだろうな?」
「当たり前だろ」
「あ、当たり前なのか……」
少し、いやかなりそっち方面を期待していた箒が一夏の即答を前に一気にテンションダウン。
「この前の異種多人数戦でのほほんさんから補給して場を繋いだ事を思い出してさ。あの時はエネルギー残量を気にかけながらやったけど、最初から全力でやったあとに補給を受けれたらって考えて。白式と紅椿は対として作られたって聞いたことあるし。ちゃんと連携の練習をする良い機会だなと」
「「………………」」
「な、なんだよ」
「いや、思った以上にちゃんと考えててビックリしてた」
「猪突猛進がウリだった一夏がね」
「立派になったね一夏」
「褒められてる気がしないんだが」
誕生日に姉からボソッと褒められたのが遠い昔のように思える。
「というわけだ。箒、宜しくな」
「………………」
「もしかして嫌だったか? 俺と組むの」
「そんなわけない!!」
「そうか? なんかあんまり嬉しそうじゃないような」
「一夏のニブチン」
「酷い言い様」
「ドニブチン」
グレードアップすんな。とボヤく一夏の言葉をガン無視する鈴。
「いま箒は、理想と現実の折り合いを整理しているんだ」
「よくわからん」
「だから一夏は駄目なんだよ」
「シャルまで………」
本気で直した方がいいよ、とクラスの心が一つになった。
そんな問答をしてる間に箒の心の整理がついたようだ。
「と、とにかく。宜しく頼む、一夏」
「ああ。こっちこそ宜しくな!」
グッと固く握手をする一夏と箒。
その二人を前に三人は大人しく白旗を上げた。
「まあ。ちゃんと考えて決めてくれたんだし」
「今回は譲るとしよう」
「………………」
「鈴、凄い顔してるぞ?」
「ウルサイ」
血で血を洗うと予感された織斑一夏のタッグマッチは無血で幕を下ろした。
一部修羅場を期待していた生徒が落胆したのは秘密である。
………さて。
何時もなら一夏と一夏ラバーズに対してツッコミを入れるであろう人物が今日に限って来ていなかった。
何時もなら既に登校してきてる筈だが。
と、噂をすればである。
「あっ、おはよう疾風」
「………………おはよ」
一夏に軽く挨拶を返す疾風はポスッと自分の席に座り。ボーっと目の前をジッと見つめていた。
「疾風? 元気ないけど」
「ああ」
「隈も出来てる。眠れなかったの?」
「うん」
「大丈夫?」
「ああ」
何を聞いても気の抜けた返事しか返ってこない。
一夏ほどではないにしろ疾風は愛想が良い。女性の為の会絡みのトラブルの時だって変わらずだったというのに、今の疾風は明らかに表情に陰りが出ている。
「あっ、わかった。昨日今日とISの実技がないから落ち込んでるんでしょ」
「………」
「まったくしょうがないわね。疾風! 放課後付き合いなさい。一夏と組めなかった鬱憤晴らし解消したいから!」
「………いや、今日はいい」
「はい?」
一瞬教室の時が止まり、先程より更に静けさが教室を満たした。
「あっ、そっか。今日は一人で動かしたい気分なんだね? そうだよね?」
「いや………部屋で休む」
「え?」
「今日はIS乗らない」
一拍。
「「「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!!??」」」
その叫びは校内全域に響き渡り、窓をガタガタ揺らした。
そこにいる全員が天地がひっくり返ったビジョンを見たという。
誰よりもISを愛する疾風が。
三度の飯よりISが好きな疾風が。
1日たりともISに乗らない日がないといっても過言でもない疾風が。
1日乗れないならパワーアシストを切ってでも乗りたいと言った疾風が。
数日乗れないと禁断症状を発生する疾風が。
まさかの自分からISに乗らない発言!
「どどどどぅどぅどうした疾風ぇ!?」
「変なものでも食べたのか!?」
「疾風! 一夏に上げる筈だった酢豚あげるわよよよよ」
「お、おお落ち着いて鈴。腹式呼吸をしよう気持ちを落ち着かせるんだ。ヒッヒッフー」
「クラリッサ緊急事態だ! 第一種戦闘配備!! いや違う! すまん違うんだ!」
「レーちん。お菓子あげる。元気だして?」
「「「のほほんさんが普通に喋っただと!?」」」
阿鼻叫喚とはこのことである。
だが当の本人は周りの喧騒がないかのようにボーっと一点を見つめている。
「何事だ! 下の階にまで響いていたぞ!」
「た、大変だ千冬姉!!」
「先生をつけろ織斑!」
「そんなのどうだっていい! 疾風が」
「レーデルハイトがなんだ」
「疾風が………今日ISに乗らないって!」
「………なんだそんなことか」
千冬は拍子抜けしたように息を吐いた。
「いくらレーデルハイトがIS狂いであっても人間だ。時にはそういう気分もあるだろう。お前たちはオーバーに反応し過ぎだ」
「で、でも」
「わかったならこれ以上騒ぐな。いいな?」
「はい………」
流石は織斑先生。異常事態にも落ち着いて対応するその姿は一教師として理想の姿と言えるだろう。
生徒からの千冬像が更に磨きがかかった。
「ところでレーデルハイト」
「はい」
「………悩み事はないか、私でよければ話を聞くぞ?」
ポン、と疾風の肩に千冬の手が乗った。
その声色は、とても慈しみがこもっていて………
「いや滅茶苦茶心配してるじゃないか千冬姉! じゃない織斑先生!」
「ば、馬鹿者。教師として生徒の悩みを聞くのは当然だろう」
「いやいやいや! 今まで先生のそんな一面見たことないぞ!? てか凄い優しい声だったし! 弟の俺でも聞いたことないしそんな声!」
「世迷い言を言うな。出席簿当てるぞ」
「いつも予告なしで打ってくるじゃないですか! やっぱ動揺してるでしょ先生!」
これまで以上に鋭い一夏のツッコミに珍しく目線を泳がせる織斑先生。
しかしこれも疾風の人となりを把握した故のことなので教師としての面目は保たれた。はず。
わかることと言えば此処に山田先生がいなくて良かったことだろう。
最悪泡吹いて倒れる。
そんな感じで千冬でさえ平静をなんとか保ててる現状に一粒の雫が落ちた。
「皆さんおはようございます」
「あっ、おはようセシリア」
「おはようございます織斑先生」
「ああ、おはよう」
セシリアは織斑先生の姿を見てチラッと時計を確認して遅刻してないことを確認するとそのまま皆の脇を通り抜け、疾風の前を通った。
「………セシリア」
「………」
「お、おはよう」
「………おはようございます」
事務的に返答したセシリアはそのまま席について窓の方を向いた。
疾風はというとセシリアが席についたのを見届けた後また虚空を見つめて動かなくなった。
一夏たちは二人を交互に見た後顔を見合わせて確信した。
何かがあったんだと。
ーーー◇ーーー
「ただいま」
………………ああ、もうセシリアとは別の部屋だっけ。
靴を無造作に脱ぎ飛ばし。
洗面所で手洗いうがいをしっかりと。
そのままでかいベットにボフッと身を投げ出した。
顔から倒れたので眼鏡が少しめり込んだ。眼鏡をとってベッドテーブルにたたまずに置いた。
今日1日どういう風に動いてどういうことしたっけ?
授業はちゃんと受けたのは朧気だけど覚えてる。
休み時間にみんなからセシリアとなんかあったのかと聞かれて「なんもないよ」と下手すぎる嘘をついたか。
昼ご飯は………………あれ、食べたっけ?
心なしか空腹感があるような、ないような。
制服皺になるな………
セシリアに注意されたこともあったっけ?
身動ぎをすると胸元に固い感触が。
手で探ると、イーグルの待機形態であるバッジにたどり着いた。
「………駄目だ」
全然動かそうなんて思えない。
いつもなら授業終わったあと直ぐにでもアリーナに飛び込むのに。
今は微塵も情動が働かない。
あ、そういえば今日生徒会あったっけ?
良かった。今日は休みか。一夏は部活の貸し出しだけど。今日はフェンシング部かな。
………駄目だ、全然身体が動かない、というより動くことを拒否してる。
………なーーんもやる気が起きねえや。
ピンポーン。
「んん」
いつの間にか寝たみたいだ。
外暗いな。今何時?
ピンポーン。
ん? だれだ………セシリアか!?
壮大な期待に身体中の血液が沸騰した。
のしかかる身体の重みに振り払ってモニターに飛び付いた。
そこに映るのは………
「………会長かぁ」
露骨にガックリと肩が落ちた。
再び重石が乗っかるようなダルさが襲いかかったが、先ずはインターホンに出なければ。
「はい」
「あ、疾風くん。いまお話しても良いかしら?」
「どうぞ」
昨日ぶりの会長は何時ものオーラは鳴りを潜めて凄く暗いオーラを放っている。
だがその灰色のオーラも俺の青黒いオーラに押されぎみだ。
「まずは、その………ほんっっとうにごめんなさい!!」
「え、あ、いやその。あっ会長! そのまま土下座に移行するのはやめてください」
「でもそれぐらいしないと」
「しなくて良いです」
あんまり見たくないぞ会長の土下座。
グーゴゴゴコーー。
想像しかけたところで、なんとも場違いな音が鳴った。
発信源は自身から見て床からメートルちょっと上のとこだった。
「いただきます」
「いただきます」
冷蔵庫には引っ越してから食い物を補充してなかったのでろくな物がなかった。
会長が食堂からご飯を持ってきてくれた。
丁度時刻は19時過ぎだったので食堂が開いていた。
食堂で食べても良かったのだが。会長と一緒に食事をするところをセシリアと鉢合わせしそうになることを良しとしなかった。
幸いご飯は普通に食べれた。というより腹が飯を欲していた。
思い出したことだが、俺は昼飯を食べ損ねていた。昼休みは机に突っ伏して寝てしまったからだ。
こんな時でも腹が減るんだなと、自分の身体の正直さには笑みすら溢れた。
食事中は不思議と会話はなかった。
会長も話の切り口を見失ってるようだった。こんな会長はある意味初めて見るからなんか新鮮だった。
食事を終え、流しに食器を入れてうるかしてる間にようやく話が紡がれた。
「今回のことだけど。本当にごめんなさい。あのあとセシリアちゃんに弁解しに行ったんだけど」
「聞き入れて貰えなかったんですね」
「ええ。ごめんなさい」
短い感覚で謝ってくる会長。
珍しく、なんて言い方をしたら語弊と失礼があるが。
しかし、ここまで低姿勢な会長はなんというか。
ちょっと馴れなかった。
「もういいですよ会長。俺もう。ていうか最初から怒ってませんから」
「でも私」
「俺も、ていうか俺が悪いみたいなのもありますし。会長にその話を聞かされて心が動いてしまったのは………まあ事実でもあるから」
そこを付け込まれて誘導された。
教唆術はその人の根底にその意志が欠片でもあれば成功させやすい。
つまり俺の心は一瞬セシリアから妹さんのISに行ってしまったのだ。
なんとも度しがたいことである。
あの時はこの世からいなくなりたいなんて本気で考えてしまった。
IS好きも大概にしろ。だ。
自他共に認められてるとは言え、流石にこれは、アホ過ぎる。
「ところで会長も出るんですよね? 誰か組む人の目星はついたんですか」
「私は菖蒲ちゃんと組むわよ」
「菖蒲と? 会長から誘ったんです?」
「ううん、菖蒲ちゃんから。自分を鍛え直して下さいって頭を下げてきてね」
あの菖蒲が会長にか。
そういや昨日今日声をかけられなかったな。あいつにも何かしら考えがあるということか。
「菖蒲の専用機って間に合うんです?」
「もうすぐロールアウトですって」
「そうですか」
いつもなら詰め寄るぐらい詳細を聞き出すところだが。
やはり心が動かない。
完全にナイーブ状態だ。
「あの、こんな時に聞くことじゃないけど」
「はい」
「疾風くんはセシリアちゃんのことどう思ってるの?」
「好きですよ」
考える間もなく話してしまった。
なんというか、今の会長には隠さなくて良いかなと思ってしまった。
なんでかわからんけど。
「いつからかって言われたらあれですけど。自覚したのはキャノンボール・ファストです。昔から振り回されてましたけど、嫌だなって思うときはなかったんです。もしかしたら初めて会ったときかもしれないし、それ以降かもしれないですし」
聞かれてもないのにベラベラと話し始めた。
相当やられてるなー俺。
「どのくらい好きなの?」
「ISより優先するぐらい好きです」
「それは、相当ね」
あっけらかんに言った俺の言葉に会長は苦笑いした。
何処か他人事のように話してしまうのは自棄になってるからだろうか。
情けない。
一番の幸運は今の自分を彼女に見られていないこと………いや、今日1日の俺の状態を見られてたいたのだからそれは今さらか。
ワンチャン俺のこと眼中なしとして見なかったとかないかな。
それはそれとして凹むなと更に憂鬱な気分になった。
「ええ、ベタ惚れです。だからショックも大きかったのかなぁって」
「それはそうでしょうね」
「セシリアは引きずるような奴じゃないから明日話せばなんとかなるのではなんて一抹の希望で朝を迎えたら、おはようの挨拶でこれはダメだと打ち砕かれて灰になりました」
「一夏くんに聞いた。今日はISに乗らないなんて言ったのよね」
「そしたら周りが騒いだ気がします。そんなに意外ですか?」
「織斑先生が焦るぐらいには」
それは相当だなぁ。良く覚えてないけど。
ボフッとベッドに仰向けになって倒れ込んだ。
まな板の上の鯉の状態だ。いつもの会長ならこんな俺を見たら即飛びかかっただろうが。向かいのベッドに座り込んで黙ったままだ。
「会長は、妹さんのこと好きなんですか?」
「好きよ。たった一人の妹だもの」
「妹さんと話せなくて辛くないんですか」
「辛くないなんてことはないわね。簪ちゃんと他愛のない話を出来たらどんなに幸せなことか」
「………」
なんか今なら痛いほどわかる。
何年も会話も出来ないなんて、それも同じ血の通った姉妹のもなれば相当だな。
セシリアともこのまま絶縁状態になったら………
ブルッ! と身体が冗談じゃなく震えた。
「会長」
「やっぱ俺セシリアともう一度話します」
「でも今行くのは悪手じゃないかしら。彼女相当お冠よ?」
「じゃあどうすれば………」
ピピピ。
スマホが鳴った。
画面を見ると鈴からだった。
会長に一言断りを入れて電話に出ると、慌てた声が耳に届く。
「疾風。あんたセシリアとなんかあったの?」
「なんで」
「セシリアがタッグマッチであたしと組むって言い出したのよ」
グサッと胸に銃弾がめり込んだ。
そ、そうきたか。セシリア。
「疾風とは組まないのかって聞いたら凄い不機嫌になったし。喧嘩でもした?」
「………」
「言いたくないのね。わかった。ねえ、どうしたら良い?」
「どうしたらって」
どうしたら良いのが最適解なんだ?
鈴に働きかけて組むのをやめて貰うか? だめだ、鈴にはセシリアの誘いを断る理由がない。それにお世辞にも鈴は嘘をつくのが下手だ。直ぐにバレて俺が働きかけてそれがバレたらもう目も当てられない。
電話越しに直接話すか?
それともこのままセシリアの意思を優先して鈴と組ませる?
そうなればもうチャンスの大半がなくなる。
いつもならガンガン回る頭が全く回らない。
シャーロックの灰色の脳細胞を今こそ移植したい! そう思えるぐらい俺の頭は焦りに焦り、胸の当たりが冷えに冷えていた。
「ちょっとセシリア!? なんであたしの名前書いてんのよ。まだ組むと言った訳じゃ!」
「シャルロットさんとラウラさんはもう組みましたのよ。菖蒲さんからも断られたのでしょう? 残ってるのはわたくしと貴女だけです。断る理由があるのですか?」
「いやそれはないけど………」
「………ところで誰に電話してますの?」
「うぅ!?」
ドキっとした。聞こえてきたのは間違いなく彼女の声。
「だ、誰でも良いでしょ」
「疾風ですか? 疾風ですわね。丁度良いです、変わってください」
「え、いやその」
「変わって、ください」
「えーと」
「変わりなさい凰鈴音」
「アッハイ」
白旗を上げた鈴は大人しくスマホを渡したようだ。
「もしもし」
「………もしもし」
「返事が遅いですわ!」
「はいもしもし!」
やっぱまだ怒ってるよ!
だがここで負けたら駄目だ。
言わなければならないことを言わないと………
「セシリア」
「なんです」
「昨日のことは謝る。ほんとごめん。会長がどうとか関係ない、全面的に俺が悪い」
「言葉ではいくらでも言えますわ。わたくしがあの時どんな思いで聞いたかわかっていますの?」
それはもう。
「舌の根も乾かぬうちに約束を反故にしたんだから怒るのは当然だ」
「………それだけじゃありませんわ」
「え………?」
それだけじゃない?
え、なんだ?
あっ。
「あー、俺のIS好きも度が過ぎてるよな。これからは自重して」
「違いませんが違いますわ」
「えっ!?」
「いいです、疾風にはきっと分かりませんから」
「え、あ、その、えと」
これも違うの!? あ、これはさっきのと併合されてるのか。
えっ、じゃあなんだ?
………え、なんだ!?
俺はまるで親に説教されてどう答えれて良いかわからずグズるだけの子供みたいに頭が真っ白になった。
胸の冷えはますます下がる一方で、口から言葉ともならない言葉ばかりが出てくる。
「あのセシリア」
「疾風、わたくしは鈴さんと組みます」
「そ、それは鈴から聞いた」
「もう用紙も書きました。後は提出するだけです。あなたが立ち入る隙間なんてありません」
先制でこちらを潰してきた。流石セシリアこういうことに関しては容赦がない。グサッと胸に杭が打ち込まれた感じだ。
ていうか、なんでそんな説明口調なんですかセシリアさん。
ほんと怖い。怖いです。
「疾風」
「はいなんでしょう」
「わたくしは言いたいことを言いましたわ」
「はい」
「何か異論はありますか」
「異論って………」
何処に異論を唱えればいい?
ていうかあるか唱えれるところ。
「………」
「………」
「ありません」
ない。なかった。
今俺がセシリアに「悪かった」「俺と組んで欲しい」と言っても明るい未来なんてないだろう。
仮に俺の悲願が届いてセシリアとペアを組んだとしても、ぎくしゃくしてタッグ戦どころじゃないだろう。
ここは大人しく引くことにする。
それが一番波風が立たない最適な回答だ。
「当然ですわね。ではわたくしは鈴さんと組みますので」
「はい」
「それでは」
会話終了。
なんとも呆気なく終わってしまったなと、気持ちが沈んだままスマホから耳を離そうとした。
「………………馬鹿」
「え?」
プツッ。
………いまなんて言った?
馬鹿って言った?
「どうだった?」
「ガッツリと、振られました」
「そう………」
原因が自分にもあるからとまたもショボンとする会長。
威厳ゼロの形無しだ。
しばし長めの沈黙が訪れた。
互いに向かいのベッドに座って何を話すわけでも何かを弄る訳でもなくただジッとしていた。
沈黙の時間に長さを感じ始めた頃、満を持して切り出した。
「あの会長。お話受けます」
「なんの?」
「妹さんとタッグ組むの」
「え!? 本当に!?」
突然の申し出に会長が思わず身を乗り出した。
「で、でも良いの? 簪ちゃんと組んだらセシリアちゃんと確執生まれない?」
「それは、一旦置いときます。実際今残ってるメンバーは俺と妹さんだけですし。セシリアからは絶交言われてないからまだ救いはあると思います………多分」
ほんとに多分。
マジで多分。
確証ないから多分しか言えない。
「本当にありがとう。必要なことがあったらなんでも言ってね? 生徒会が全力で支援するわ」
「お願いします」
「あと………くれぐれも私が頼んだって言わないでね? あの子、私に干渉されるのを良しとしないから」
「任せてください。そこらへんの算段も考えてあります」
「心強いわ。じゃあ任せるわね、副会長」
「了解です、生徒会長」
やっと少しだけ調子を持ち直してくれた会長。
ここから少しずつ調子を取り戻してくれたらありがたいのだが。
「じゃあそろそろ失礼するわね」
「あら泊まるとか言わないんですね」
「流石にね。じゃあまた明日」
「はい、また明日。トレイと食器は俺が戻しときます」
「ありがと」
いえいえ、それぐらいはさせてもらいますよ。
………あーそうだ。
「会長」
「ん?」
「セシリアが電話を切る直前に小さい声で馬鹿、って言ったんですよ」
「ふむ」
「これどっちだと思います?」
「どっちとは?」
「俺の失態に対して馬鹿と言ったのか。強引にでも自分とタッグを組んでくれるかと思ったのに期待はずれからの馬鹿か」
「うーん………私からは答えられないかな」
「あ、了解です」
そっち方面か。
一夏にいつも思ってることが自分に跳ね返って来る日が来ようとは思わなかった。
会長を見送ったあと再びベットに身を預けた。
さて、ここで思考放棄するのは一夏のパターンだが………
「後者だったら最悪だな………」
またも自分は選択肢を間違えたことになる。
恋は理屈じゃないという鈴の言葉を思い出す。
全くもってその通りだ。
俺はどっちかと言うとロジック的に考える。話をして分岐が現れた時に先ず考えるのがメリットデメリットの損得勘定。
それでいつも切り抜けてきた。
だがセシリアとの問題はそうも行かない。
「フーー」
明日から早速妹さんに………いや1日間を置こう。セシリアとのことがあるし。
時間はまだある。まだ焦る必要はない、が。
あの気難しい妹さんにコンタクトを取りつつ、セシリアからの評価を気にしながら行う。
………胃がキリキリと鳴り出した気がした。
胃薬なんか置いてあったかと頭の片隅に考えながら俺は今後の対策を模索した。