IS スカイブルー・ティアーズ 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
教室の前、より二歩下がって立ち止まる。
ドアは自動だから前に立つと自然と開いてしまう。
セシリアはもう登校してる頃だろうし。間違いなくいる。
………えぇい! 何時までもウジウジするな!
気持ちを切り替えろ俺!
セシリアもこんな俺なんか見てていい気しないだろ!
パン! と頬を叩いた。
………衝撃で眼鏡が落ちかけた。
「んん。おはようっ」
「あ、おはようレーデルハイトくん」
「おはよー」
入ると返ってくる挨拶。
セシリアの方を向くと。
「おは」
プイッ。
そっぽを向かれました。
でもめげません。めげませんとも。
たとえハートがサボテンまぶしたように痛かったとしても。
ポーカーフェイスなめんなよ。
「おはよう一夏」
「おはよう疾風。元気出たか」
「まあね。いやー昨日はもう、駄目だったわ。ダウナーMAX。その癖ご飯は食べれてさ。人の腹って正直者だなと思ったよ」
空元気とはこのことか?
わからんけども、とりあえず身体はだるくないし活力はある自覚はあった。
「疾風」
『シーだよ鈴』
明らかに声色が違う鈴をプライベート・チャネルで遮った。
『とりあえず吹っ切ることにした。俺の心配はいらないから』
『あんたがそういうなら良いけどさ』
『その代わりと言ったらあれだが。セシリアのフォロー頼むな』
『はいはい』
鈴に伝えて直ぐにチャネルを切る。
こっちを見てるかと思ったが、向いていた素振りもなし。
嫌われたなぁ、俺。
「そいやシャルロットとラウラはタッグ組んだんだって?」
「ああ、シャルロットとは頻繁にペアで練習してるからな。一夏と組めない以上、これが最適解だと思った」
専用機一年組の中でも技量は抜きん出ている。以前個人指導をした時もほとんど修正点がない二人。
このタッグは手強そうだ。
「そういえば菖蒲さんは生徒会長と組むそうだな。学内で噂になっている」
「聞いた。自分を鍛え直してくれって」
「学園祭で蝶女にこっぴどくやられたのが響いたのよきっと。後は………」
チラッと俺を横目で見る鈴。
あーわかってますとも。言いたいことわかるからそんな眼で見ないで。
「じゃあ残ってるのは疾風と鈴とセシリアか」
「セシリアは鈴と組むよ」
「ちょっ疾風」
「えっ、そうなの?」
「疾風、やっぱセシリアとなんかあった?」
昨日の現場を見た(俺は対して覚えてないが)皆からしたらやはり仲違いがあったのではと心配になり。顔に分かりやすく出ていた。
「ないよ。セシリアが鈴と組んだのも考えがあってのことだから。
喧嘩した末にタッグ解消なんてこと。こいつらには関係がないし。そもそもあんま知られたくないし
余計な心配をかけさせたくないという意味でも。
「疾風が言うなら、まあそうなのか」
「そ、そうよ! 甲龍とティアーズの相性も悪くないしね!」
鈴の締めでなんとか場を納められた。
またもチラッとセシリアを見ると、眼があった瞬間ブン! と剃らされた。
く、挫けないぞ………。
「あれ、じゃあ疾風はどうなる? タッグなら1人足りなくないか?」
「4組の更識簪という子が出る」
「ああ、4組のクラス代表の」
「じゃあその人と組むんだ」
「それは………」
参った、会話の流れから必然的に俺の話に行き着く。
日にち開けて明日から誘いに行きますという体だったが。
誤魔化したとは言え、セシリアの居る場で「そう、更識さんと組むんだ!」なんて言うのは流石に気まずいしリスクがでかすぎる。
あと俺の精神が持たない。
「ヤッホー! たのもぅ一年女子&男子!」
「黛先輩?」
どう乗りきろうかと考えていると新聞部エース兼副部長の黛薫子が現れた。
光明を見た! とばかりに俺は皆の意識を黛先輩向けるべくコンタクトをとった。
「どうしました黛先輩。わざわざ一年の教室まで。取材の生け贄ならここにいますが」
「おい。当たり前のように俺を差し出すなよ」
「アハハ。今日は織斑くんだけじゃなくレーデルハイトくんと篠ノ之さんにも用があるんだな」
「私もですか?」
「そうそう。実は私の姉が出版社で働いてるんだけど。三人に独占インタビューしたい! って連絡が来てね。よかったらしてくれないかな? あ、これがその雑誌」
「こ、これは!!」
黛先輩が差し出したのは。
「インフィニット・ストライプス?」
「なんだこれ」
「お前たち知らないのか!? このインフィニット・ストライプスは今一番光ってる週刊誌なんだぞ!?」
「は、疾風。スイッチ入ってる」
「ということはIS関連の雑誌か………どれ」
ペラっとページを開いて読む二人。が読むストライプスを見て俺は気づいた。
「あの、もしかして先輩の姉って副編集長の
「よく知ってるね。もしかして雑誌のファンだったり?」
「勿論です! 初巻から全部持ってます! しかも黛渚子と言ったら次の編集長候補ナンバーワンとも噂されてるらしいじゃないですか。あのぐいぐい行きながらそれでいて行き過ぎない絶妙なラインを攻めたインタビュー。見るものをガシッと掴む文面は見てて気持ちが良いです」
「あらあら、そんなに喜んでくれるなら妹としても鼻が高いわ。お姉ちゃんに伝えとくわね」
「あれ? なんだこの雑誌は」
ストライプスを読んでいた箒が困惑したような声を上げた。
「疾風が熱を上げているからと思ったら。ほとんどISと関係ないじゃないか」
「ああ。ファッション撮影にIS関連とは関係ないインタビューもある。代表候補生じゃなくても出来る仕事じゃないか?」
「あれ? 二人ともこういう仕事したことない?」
「というと?」
「代表候補生や国家代表は各国や国民にもっとも重要視されてる期待の花。主にモデルやタレント業、国によっては俳優業をしてる人も居るのよ」
「へー。ISを動かすだけが仕事かと思ってた」
まあそう思うのも、というか。俺たちは専用機持ちとして見てもレアケースだからな。
基本ISのデータ管理やレポート提出が主な仕事。
ましてや代表候補生になれたのもついこの間だし。
「ということは。今回の議題は新生日本代表候補生組にインタビュー、ということですね?」
「That right! 君たちの発表が公になってから姉さんの眼の色が変わって変わって。休みの日なのに編集長に直談判しに行ったぐらいの熱の入りようなの。ということで、参加してくれるかな?あっそうだ。モデルとしての写真撮影もあるからそのつもりで宜しくね?」
これはまたとないチャンス。
受けない手はないだろう。
と思ったが他の二人があまり乗り気ではない。
「参加、ですか。俺モデル仕事なんかやったことないしなぁ」
「私もちょっと」
「なによ一夏。モデル業やったことないの? 仕方ないわね、良かったらあたしの写真見せてあげるわよ」
「いやいい」
「なんでよ!」
「どーせ変に格好つけてるんだろ。転校してきた日みたいに変なキャラ付けした」
「しっっつれいね! なら見せてあげるわよ!」
鈴は憤慨しながらスマホを操作してグイッとスマホを一夏の顔に押し付けた。
「ほら見なさい! 今見なさい! 見ないとぶっ飛ばす!」
「わかったわかった! 見るから! 見るから画面を見せろって! ………ん?」
「むっ」
「おっ」
一夏の顔面から話されたスマホの画面を見た俺たちは三者三様の反応を示した。
画面の中にはレンガ調の背景をバックにカジュアルにコーディネートされた鈴の姿が。
黄色の上着、赤のシャツ、青の短パンジーンズというトリコロールカラーで構成された服は快活な鈴にマッチし。楽しそうにウィンクする鈴の姿も相まって統合された見姿となっていた。
つまり似合っている、そしてカッコ可愛く楽しそう。
「鈴、これ今年のストライプス5月号の奴だろ? 【期待のチャイニーズスター爆誕!】って見出しで話題になったよな」
「正解よ! 流石ね疾風!」
「へえ、やるなぁ鈴。似合ってるじゃん」
「そうでしょうそうでしょう! あたしにかかればザッとこんなもんよ! 他にもこんなのもあるの!」
一夏に褒められて有頂天になった鈴は次々と写真を一夏に見せては感想を貰って有頂天になるという正の無限ループに突入した。
フィーバータイムである。
キーンコーンカーンコーン。
休み時間の終わりを告げる呼び鈴が鳴ってしまった
「あら時間というのは早いね。三人は今日剣道部に貸し出しだったわよね? 放課後また来るから」
「はい、ではまた後で」
「良いお返事期待してるわ。じゃね!」
ありがとうございます黛先輩。
お陰で窮地を脱することが出来ました。この礼は必ず。
「でねでね! こっちが夏に撮ったやつ! んで、こっちが本命の水着で」
「おい」
「なによ邪魔しない、でぇっ!」
一夏に写真を見せることに夢中な鈴の脳天に断罪の拳!
鋭い眼差しを拳を見舞った相手に向けるもその眼はギョッと見開いた。
皆さんご存知、織斑大先生であられます。
「とっとと二組に帰れ。モデル気取り」
「気取りじゃなくてモデルなのにぃ」
「駆け足!」
「イェッサー!」
脱兎。ツインテールを水平にしながら鈴は一組から消えた。
なんというかいつものパターンである。
懲りないのだろうか。
「むっ。レーデルハイト、今日はISの実技があるが辞退するか?」
「いえ参加します。大丈夫です」
「そうか」
気のせいか、織斑先生からホッと息が漏れた気がした。
「では授業を始める。今日は近距離戦に置ける距離の取り方と効果的な回避方法に関する理論講習を始める」
ヴァ、そういえば宿題やってないな。
わかるから大丈夫だけど。当たりませんように。
「レーデルハイト、47ページ3問目の問題を答えろ」
燃え上がれ! 俺のアーカイブ!!
ーーー◇ーーー
「メェン!!」
壮絶な打ち合い、木霊する掛け声。
「メェェェンッ!!!」
観戦する俺らにも届く気迫をかける相手にそれ以上の気迫を放つ箒の面打ちがヒットした。
黛先輩の言った通り今日は剣道部の一夏貸出日、そして抽選で俺のマネージャー権を獲得した強運の持ち主である疑問符先輩のお膝元である。
「おおっ。箒の剣道姿を見るのは何気に初めてだが。なんともまあ」
「昔から強かったからなぁ箒は。結局俺は負け越しだし」
「そうなんだ」
「ああ、小学校の頃はやってたんだけど。中学は少しでもお金を稼いで千冬姉の助けになりたくて帰宅部だった」
「あー。俺も中学は帰宅部だったなぁ」
毎日毎日レーデルハイト工業の地下ラボに通いつめて通いつめて。
学校に残りたくなかったってのもあったけども。
「はーい練習中断? 休憩入るよ?」
「はーい!」
剣道部部長である疑問符先輩が休憩の合図を出した。
ここの剣道部は部長が常に疑問符なのに素直に言うことが伝わっている。疑問符なのに。
「はいタオルどうぞ」
「スポーツドリンクも飲んで下さいねー」
「キャー! 本物の織斑くんだわ!!」
織斑一夏あるところに黄色い声あり。
もはや固定BGMとなりつつあるな。
「+レーデルハイトくんもいる! うちは運が良いわね!」
「ねえねえ! 超絶と言われた織斑くんのマッサージは」
「致しません」
「背中の汗拭いてくれるという噂の真意は」
「はいタオルです自分で拭いてください」
「「「二人とも塩対応過ぎ!!」」」
なんとでも言うが良い。
織斑生け贄作戦が効果薄な今。この方法が一番波風が立たないのだ。
「ほれ、箒もタオル」
「あ、ああ。すまんな」
「今日は一段と気合い入ってたんじゃないか?」
「あ、当たり前だろう………一夏の手前で無様な姿など………」
「ん? すまん箒、いま何て言った?」
「なんでもない! 疾風! 飲み物を渡せ!」
「さっきもそれぐらいの声出せば良いのに」
「やかましい!」
「ヨケール!!」
「仲良いなぁお前ら」
スポドリを渡した俺は振るわれた箒の竹刀を軽やかによけてササッと距離を取った。
「んでだ。お前らはどうする。インフィニット・ストライプスのインタビュー。俺は勿論出るよ」
「少し考え中。箒はどうする?」
「断る! 見世物など、私の主義に反する!」
フイッと顔を反らしてスポドリを勢いよく飲み進める箒。
これには俺と一夏もやっぱりなと予想通り。
箒は昔から篠ノ之束の妹というだけで衆目の目にさらされ続けた。
今でこそだが、IS学園入学当初は「私と姉は関係ない!!」と言って見せるぐらいだったとか。
注目の的となることを嫌ったのだという。
「箒は不参加、一夏は?」
「俺も実を言うと、そういうのはちょっとな。箒も出ないなら俺も辞退するよ」
「そうかい」
黛先輩の話だと、強制参加ではないっぽいし。黛姉には悪いが、俺単独で勘弁してもらおう。
「やっほーい!」
「うわっ!」
「いつの間に!」
神出鬼没を体現せしめた黛先輩が俺らの背後に。
もしかして更識や布仏みたいな特殊な家系の人だったりします?
「三人とも揃ってるね。朝話した取材の件なんだけど」
「すいません黛先輩、実は」
その時、黛女史の眼鏡が光り。一夏の発言を遮るように懐から何かを取り出した。
「じゃん!」
「なんですかこれ」
「これはインタビューの報酬である豪華一流ホテルのディナー招待券よ。勿論ペア!」
何が勿論なのか、というのは愚問だろうか。
それにしても豪華一流ホテルだって?
「しかも星持ちレストランよ!」
「なんと!」
これには驚きも隠せない。
ていうか、こんな代物をサラッと出してくるインフィニット・ストライプス凄いな!?
手段といい熱量といい。天井がないのか?
「このホテルねぇ。プロポーズの場としても有名なのよ」
ピクッ
「3ヶ月前に元大物女優とマネージャーが結婚したのもここなのよ。私も写真でしか見たことないけど。内装と夜景がとてもロマンチックなの」
ピクピクッ
「私もこういうところでプロポーズされたいなぁ」
ピクピクピクッ
「あの黛先輩、悪いんですけど俺と箒は」
「受けましょう!」
「「ええっ!?」」
サッと箒は黛先輩の手からペアチケットを受け取りなに食わぬ顔でインタビューを快諾した。
それを信じられない顔で見る男子ズ。
「ほんと! ありがとー! でも篠ノ之さんこういうの好きそうじゃなかった風に見えたけど」
「いえ、何事も経験ですので」
おかわりで信じられない顔をする男子ズ。
どの口が言うんだ。
「勿論一夏も行きます」
「えっ!?」
そして更にトッピングされる一夏。
「ふぅ。これで姉さんの顔も立てれるわ。あ、そうだ。このペアチケットは2組あるの。レーデルハイト君も誰か誘って行ってみてね………………仲直り、出来るかもよ?」
「か、考えておきます」
「じゃあ明後日の日曜日にこの場所に14時までに来てね。それじゃあね~!」
颯爽と武道館を去っていく一陣の風こと黛先輩。
その流れに置いていかれた一夏と俺はチケットを握りしめる箒を見た。
「箒」
「なんだ」
「主義はどうした」
「わ、私は柔軟な物事の考え方をしているのだ! 文句があるか!?」
「いや、ないけど」
「なら一緒にインタビューを受けるな? なっ!?」
「お、おう。箒が乗り気なら俺も行くよ」
「よしっ!」
昨日に続き渾身のガッツポーズを決める箒。
確実に私に運が来てる! と思ったんだろうなぁ。
しかし………
「プフッ」
「おい疾風。何を笑ってる」
「いや、だって………フハハ! 手のひらで天元突破してんじゃんスゲー変わり身。武士より忍者の方が向いてるんじゃないか?」
「な、何が言いたい!」
「チョロ過ぎるこの武士道娘(仮)」
「カッコカリ言うな!」
あー、可笑しい。
凄いなー。女子って凄いわ。
その逞しさには割りと本気で敬意を評したい。
「まあまあ箒。そのぐらいにしとけって」
「むぅ………。まあいい。そ、それでだな一夏。この、ホテルのディナーだが………勿論一緒に行くだろうな!?」
おっ、箒にしてはド直球。
「おう。そりゃ取材を受けるんだから。行くに決まってるだろ」
残念、ファールです。
「そうか! うん! そうだな!」
パァァっ! と輝く箒の笑顔。
それで良いんか箒。
いやそれで良いんだな箒。
「明後日は正門に集合だ! 遅れるなよお前ら!」
「わかってる」
「はいよ」
もう陣頭指揮取ってるし。
スイッチが入った時の箒の勢いは普段の五割増しだ。
「なんか面白そうな話をしてる予感! というかしてるでしょ!」
「あっ! これあの有名ホテルのペアチケット!? わかった織斑くんとのデートだ!」
「で、デートではないぞ!?」
「ハイハイツンデレツンデレ」
「もうそのキャラを貫かなくてもいいのよ箒さん」
「今こそ心の殻を破る時よ篠ノ之!」
「そしてうちに秘めたるメロンも解放する時!」
「夜景が見えるベッドの上で」
「お前らーー!!」
「「「キャーー」」」
竹刀を片手に部員を追い回す箒。
剣道部のみんなと上手く行ってないのではないかと愚痴ったこともあった箒だったが。
「なんだ。普通に仲良いじゃないか」
まったくである。
ーーー◇ーーー
翌日。昼休み突入。
今日はいつものメンバーで屋上にランチ、という流れだったが俺は辞退した。
「………」
「………フン」
相も変わらずセシリアとはこの有り様である。
もう凹むまいとしたがやはり凹む。
もしかして俺の知らない間に絶交扱いされてたりして。
「いやいやいやいや」
思いっきり首を振ってマイナスイメージを払拭した。
「フーー。行くか」
パンとペットボトルを手に俺は四組の教室に足を進めた。
「こんちわー」
「えっ!? レーデルハイト君!?」
「四組にレーデルハイト君が来た!?」
「うそなんで!?」
「よ、四組に御用でしょうか!?」
「安城の奴はもういないよ?」
どわー! と女子が総出で俺の周りに集まってきた。
俺もすっかり人気者というか、なんというか。村上が見たら血涙ものだな。別にモテたい訳じゃなんて言ったら殺されそうだ。
「更識さんいる? 更識簪」
「「「え?」」」
賑わっていた四組女子が一斉にハモる。と同時に静かになった。
「更識さんって」
「あの更識さん?」
「あそこに居るけど………」
モーセの海割りのようにサーーっと女子の輪に隙間が出来る。
その隙間の先、クラスの一番後ろの角というベストポジションに彼女が居た。
未開封の購買のパン、そして傍らにストローが刺さった牛乳を時々吸いながらホロキーボードで空中投影ディスプレイにプログラムを打ち込んでいた。
ただひたすらに、ただひたすらにキーボードを打ち込む更識さん。
その眼光は力強く、目の前のデータの羅列を凝視していた。
「あの、もしかしてこの前説明されてた専用機タッグマッチの件?」
「え、更識さんと組むの?」
「うん。その予定ではある」
俺が頷くと女子の間でザワザワと小さな会話が飛び交った。
これは、困惑の声。
「専用機タッグって言っても。更識さんまだ専用機出来てないんじゃなかった?」
「今までの行事全部休んでまで専用機作ってるんでしょ? 無茶なことするよね」
「それにさ。あの子が専用機持ってるのってお姉さんが手を回したって噂だよ」
「じゃあ代表候補生になれたのもお姉さんのおかげということ?」
「それは違うよ」
特に大きな声を出さずに突き刺した否定の言葉は女子のざわめきを止めた。
「彼女。更識簪さんが日本の代表候補生になって専用機を所持してるのは生徒会長の力じゃない。全部彼女の実力だ」
「だけど更識さんのお姉さんは国家代表なんだよ?」
「ロシアのな。日本の国家代表ではないから日本の候補生事情にはどうやっても干渉なんて出来ない。生徒会長の国家代表の登録国籍はロシアだからなおさらな」
まあ嘘だけど。
ロシアだろうが彼女は日本の裏トップ、やろうと思えばいくらでも出来るだろう。
それでも会長は妹さんの候補生事情には干渉していない。それどころかほぼ絶縁状態なんだから出来るはずもない。
「それに彼女は倍率1万の入学筆記試験において学年2位。主席との点差はわずか2点だ。彼女は姉の七光りなんかじゃないのは明白じゃないか」
「でも」
「生徒会長は生徒会長。更識さんは更識さんだ。俺みたいに男性操縦者ってだけで専用機と代表候補生の地位を与えられた奴より、彼女の方がよっぽど立派だ。そう思わないか?」
「「………」」
確信を突きまくられた女子たちは見事に押し黙ってしまった。
やべっ、言いすぎた。
「あー、偉そうな事言ってごめんね。失礼するよ」
別れた女子の壁を抜けて真っ直ぐ更識さんの元に向かった。
俺が近づいても更識さんは本当に一瞬チラッと見ただけで更識さんの手は止まらなかった。
「こんちは。颪の件以来だな」
「………………なんのつもり」
「はい?」
「あんなこと、言って。余計なことしないで」
「それについてはすまんと思ってる。だけど根も葉もない噂が闊歩してる現状には物申したくて仕方ないのが俺の悪い癖でな」
「………………用件は」
こちらに一切見ることなく、というか見る気がゼロという。
だが話を聞いてくれるだけ御の字というもの。
「単刀直入に言う。今度やる専用機タッグマッチで俺と組んでほしい」
「イヤ」
即答、一秒の隙もない即答はある意味気持ち良ささえ感じた。
「どうしてイヤか聞いても良い?」
「イヤなものはイヤ。そもそも。貴方は組む相手に困ってないでしょう?」
「おあいにく俺以外の専用機持ちはみんなタッグ組んでしまったんだ」
「私は余り物ってわけ?」
「いんや。君と組もうとする理由はちゃんとある」
「別に聞きたくない」
「そうかい。んで、なんで俺と組みたくないのかな?」
ピピピ………
ホロキーボードを打つ手が止まり、簪さんが席を立って俺と正面から向き合い、睨み付けた。
「私は………貴方のこと、好きじゃない」
「………」
「だから組まない………何もかも手に入れてる、貴方なんかと………組みたくない」
「更識さん」
「私に、関わらないで」
なんか一夏より嫌われてね?