IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第94話【機動勇者アイアンガイ】

 

 

「どーおー。簪ちゃんと上手くいった?」

「………はぁ」

「駄目かぁ………」

 

 パソコンを弄ってる俺の後ろでベットに寝転ぶ会長にため息で返した。

 ていうかもう深夜なのにこの人なんでいるんだよ、というのは野暮だな。寮規則なんてこの人にはあってないようなもんだ。

 

 簪さんに交渉してからもう一週間。

 ろくな成果を得られてない何てものではなく進展のしの字もないのが現状だ。

 

 良くて一言二言、悪くてガン無視が当たり前。

 本当に嫌われてるんだなって思って凹む。会長の頼みがなければもう既に対話を諦めている。

 

 俺は嫌われてる相手の対処法は熟知していても仲良くなる術を知らない。

 嫌われてる相手がなにもしなければ不可侵を決め込み、逆に相手から危害を加えられたら時は、その時の状況によってはそれ相応のやり方で報復する。

 それが当たり前だった。

 

 簪さんは悪い人ではない。だからこそ難しい。

 やりかた、切り口がわからないのだ。例えるなら、仕事のやり方がわからないのに「これやっといて」と言われて誰にもやり方を聞けずに時間を浪費する。そんな感じだ。

 

 簪さんが自分の境遇との差をやっかむ気持ちは分かるが。それだけで彼処まで嫌われるだろうか。

 そんなに俺って権力を鼻にかけてる奴に見えるんだろうか。

 

「ところで。セシリアの様子はどうです? 時々見てくれてるんですよね」

「あーー。まだ怒っています」

「うぁっ………」

「というより、前よりもイライラが増してるような気も。簪ちゃんにお熱と思ってるみたいなのよ」

「希望がない………」

 

 俺は顔面を手で覆った。

 

 蘭ちゃんと一緒に覚悟を決めてから俺は簪さんへのアピールをしつこくならない手前までの度合いで行っている。

 本人の間では和気あいあいとは程遠い感じであっても。周りで見てる女子からしたら話は別。

 

「レーデルハイトくんは更識さんに夢中」

「オルコットさんから更識さんに鞍替え」

「レーデルハイトくんがISより女の子を追いかけてる」

 

 なんて好き勝手に言っては女子の間で一瞬で広がっていく。

 それは勿論セシリアの耳にも届く=面白くない。

 

「ざっくばらんに聞きます会長。セシリアって俺に好意を向いてると思います? それ故にイライラしてると思います?」

「それは私の口からはちょっとねぇ」

「そういうド定番な言い回しはいいですから会長の見解を教えてください」

「イライラしてるわね。元凶の私が言えたことじゃないけど」

「………すいません」

 

 パソコンの電源を落とし。そのまま自分のベッドに倒れ込んだ。

 会長に当たっても仕方ない。仰向けにごろんと体勢を変えて大きく深呼吸をした。

 

「………ギャルゲーが好きな友達が言うには」

「ギャルゲー?」

「恋愛シミュレーションゲームみたいなもんです。そいつが言うには、簪さんみたいな子は何か切っ掛けがあれば攻略できるみたいです。例えば共通の趣味とか。会長、簪さんの好きなことって分かります?」

「………」

「わからないんですね」

「ほんと私ってどうしようもないわね………」

「会長までブルーにならないでください」

 

 ブルー+ブルーはドブルー。

 心なしか部屋の空気は重い。

 

「寝ますわ、明日早いんで。会長はさっさと部屋に戻って下さい」

「動きたくないわー。泊まっちゃ駄目?」

「別にいいですけど俺のベッドに入った瞬間寮長呼びます」

「相変わらず隣で美少女が寝転がってるのに反応がドライね」

「当たり前です。俺セシリア以外眼中にないので」

「あなたその素直クールさをセシリアちゃんに出せば良いじゃない」

「無理ですよバッドエンド濃厚です」

 

 俺が好きなのはお前だけだ! とでも言えば良いのか? そんな格好悪い告白あいつに出来るか。

 

「寝るなら寝ますよ」

「私はいいけど。今日はいつもより早めに寝るのね」

「明日は決戦の日ですから」

「決戦の日?」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 来たぜ───アイアンガイ! 

 

 映画館の看板にデカデカと乗った鋼のヒーローを見上げて俺は目を輝かせた。

 

 機動勇者アイアンガイとは。

 今年で27作目となる国民的特撮ヒーロードラマであり、小さい子供から大きな子供に広く愛される作品である。

 

 世代交代という形で姿を変えた今のアイアンガイは燃える鉄魂の異名を持つ勇者。その名もアイアンガイ・ヒート。

 真っ赤なボディのアイアンアーマーと主人公、赤金聡司(あかがね さとし)の暑苦しいレベルの熱血漢と正義感を持ったアイアンガイはアイアンガイシリーズの中でも1、2を争うレベルの王道型ヒーロー。

 

 今日はその国民的ヒーロー、機動勇者アイアンガイの最新映画作品。『劇場版 機動勇者アイアンガイ・ヒート アナザー・オブ・ヒーロー』の公開日だ。

 

 何を隠そう。俺もアイアンガイ視聴者なのである。

 一見子供向けに見えるが、その奥にある伏線やら心証描写や葛藤。そしてその全てを糧にしたテンション爆上がりの戦闘シーン

 

 興奮が身体を駆け巡り。身体に武者震いが走る。

 

 今は全てを忘れて一日オフ。

 ISからも簪さんからもセシリアからも一旦心の片隅に置いて………よし行くぞ! 

 

「しかし一番早いの見に来たのに混んでるなぁ。公開日だから仕方ないにしても」

 

 周りには家族連れよりも俺と同じぐらいかそれ以上の年齢層が多い。

 土曜日とは言え早朝だからというのもあるだろうけど。

 

「ってやば! 早く行かないとぺスポジ取られちゃうじゃん! 急げ急げ!」

 

 

 

 

 

 

「ふいー」

 

 ポップコーンと飲み物。おまけでチュロスをお供に席に座る。

 最後尾の席ど真ん中。これ以上ないくらいのベストポジション。

 

 まだ時間があるから今のうちに予告PV見返しておこうか。コメント欄は絶対に見ないようにと最新の注意をはらってイヤホンを耳につけた。

 一度耳から離して音漏れをしてないかを確認することも忘れずに。

 

『怖いことなんかないぞ。俺に任せろ!』

 

 クーー。やっぱりカッコいいぞアイアンガイ・ヒート。大丈夫かな俺。今でこれなら映画始まったらどうなっちゃうの? 

 

 おっ、隣に誰か座ったな。

 まあベスポジだから隣座られるよね。スカートを履いてるから女性か。厄介な人じゃないといいけど。

 と、俺はチラッと隣を見て直ぐに画面に視線を戻した………………アレ? 

 

 気のせいかな、チラッと見た顔が何処か見覚えがあったような………

 

「………えっ?」

「え?」

 

 隣の女性、というより女子との視線が交錯する。

 空色の髪に特徴的なヘッドアクセサリー。眼鏡の奥から覗くルビーの瞳。

 

 更識簪さんであった。

 

「ええ!?」

「え、ななな、なん、でっ!?」

「?」

「あ、すいません」

 

 大きな声を出して周囲の注目を集めた俺と簪さんは気まずそうに座った。

 

「………なんで、いるの」

「見に来たから」

「来る場所、間違えてる」

「いやほんとアイアンガイ見に来たんだって。俺アイアンガイ好きだから」

 

 横目で見るとなんとも信じがたいという疑いの目で見てくる簪さん。

 

「………3作目のアイアンガイの名前は」

「アイアンガイ・ハード」

「アイアンガイシリーズで、一番好きなシーンは?」

「うーーーん………やっぱあれかなぁ。アイアンガイ・ダイヤのラストシーン。ライバルだったディバイトがラスボスの攻撃を庇って死んで。最後はディバイトの力を使ってラスボスを圧倒したやつ。あれは痺れたなぁ」

「じゃあ、5作目ウィングマンの47話のシーン」

「2号アイアンガイのヴォルフがかつての恋人の戦闘データが入ったネイビー・ハートとの戦い。最後の最後でネイビー・ハートがその恋人の口癖を言って機能停止したシーンは泣いた」

「………本当に、好きなんだ」

「まあな。言うて今の質問は簡単過ぎるんじゃないか? 結構な有名どころばっかじゃん」

 

 いきなりクイズ出されてどもらずにスッと出た俺。

 

「関係ない。どれだけ熱意があるかを、見たかった」

「一応お眼鏡にかなったということか?」

「………及第点」

 

 さようで。

 

「ていうか。そんな好きじゃない風に見えた?」

「レーデルハイト君は、IS論者じゃないの?」

「あんな偏屈どもと一緒はやだな」

 

 IS論者、しいて言えばISは至高であり何よりも優れているという持論を持つ人である。

 基本的に女性が8、9割。

 

 アイアンガイの世界にはISは存在しない。というよりその描写はない。

 だが現行兵器を凌駕するISの性能が周知にしれ渡っている世の中。ネットや動画のコメント欄ではこういうコメントが闊歩しているのだ。

 

『ISでよくない?』

『アイアンガイよりISでやった方が早くない?』

『ISの下位互換で草』

 

 というアンチコメントがあとをたたない。

 ISより劣っているヒーローはその存在を全否定されることが多く。そのコメントに対してファンが反応することで炎上することはもはや茶飯事となっている。

 そういう話じゃないだろ、と。

 

 まあ俺としてはどっこいどっこいだけども。アンチコメなんて反応されたい奴も多いし、炎上したらしたり顔をするに決まっている。

 こういうのは黙って通報とブロックしてノータッチが最善策だ。

 

 まあそんなこんなで特撮系はISが世に出た世界では風当たりが強いのだ。

 

「確かにISは強いし魅力的だ。だけど俺はアイアンガイがそれに負けてるとは思えない。そもそもISが出る前の特撮でも戦車や戦闘機なんかそんな出てないだろっていう。ほんとそこを履き違える馬鹿どもにはほとほと愛想が尽きるわ。本当の意味でISが好きな人に対する風評被害にもなるし。あー、マジで滅びてくれねえかな、逆にイーグルで焼きにいってやろうか。篠ノ之束並みの能力あったら特定して電子機器関連軒並み潰してネットから隔絶してやるのに」

「………………」

「あっ」

 

 しまった。簪さん引いてる。

 やっちまった。スイッチが入るとつい。

 

「あ、えーと。簪さんもアイアンガイ好きなんだね」

「………………」

「あれ、もしかして好きじゃない?」

「そんなことない!」

「うおっ。悪い」

「………別に、いい………笑いたければ、笑えばいいし」

「え、何に?」

「私が、アイアンガイを好きなこと」

「いや笑わないけど」

 

 そう言うと簪さんはさっきより目を丸くした。

 え、そんな驚く? 

 

「本当に、笑わない?」

「ないよ。見ろこの無情な程の無表情を。誰かになんか言われたのか?」

「………小さい頃、男子も女子両方から笑われた。家の人にも、そんなもの見ないでもっと為になる物を見なさいって」

「度しがたいな。滅殺されればいいのに」

「レーデルハイトくん。怖い顔してる」

「あ、ごめん」

 

 スマイルスマイル。

 

「話戻すけどアイアンガイ好きなんだな。公開日早朝一番で来るぐらいだし」

「うん。DVDボックスも全部持ってるし、DX玩具やCSMも全部持ってる」

 

 うぉ、俺よりガチやん。

 

 俺なんて精々録画した番組を繰り返し見たりとかDVDレンタルするぐらいなのに。

 玩具なんて小さい頃に買ったぐらいだぞ。

 いやそれは別におかしくないし普通なのだが。なのだが………

 

「すいません。ファンを名乗ってすいません」

「謝らないで。好きの度合いなんて。自由だし」

「まあ、そうだけどさ。ちょっと簪さんが輝いて見えたから」

 

 ビーーー。

 

「あ、始まる」

「………………」

 

 劇場が暗くなり、明かりはスクリーンの光だけとなった。

 

 

 

 

『アイアーン、ゴォォォ!!』

『俺の炎を消せると思うな!!』

 

 

「おぉ」

「………」

 

 

『逃がさないぞ! この街で悪事を働くなど。俺の目が黒いうちは許しはしない!』

『ふん、その台詞。なんとも懐かしい。やはりお前はお前か』

『どういうことだ』

『知る必要はない。いまは、な』

 

 

 

(モグモグ)

(ズーーー)

 

 

 

『ば、馬鹿な。俺と同じアイアンアーマーだと!?』

『そうだ。俺はアイアンガイ・アッシュ。かつての名はアイアンガイ・ヒート』

『【変身解除音】』

『俺は未来からきたお前自身だ。赤金聡司』

『な、にっ………』

 

 

(きたぁ……)

(………………)

 

 

『消えろ!! アイアンガイ・ヒート! 過去の俺! お前を滅ぼすことで。俺は過去の過ちを精算する!!』

『ぐぁぁああああーーっ!!』

 

 

(やばっ、もろに入った!)

(ドキドキ………)

 

 

『馬鹿な、何故立てる。アイアンハートは破壊したはずだ!!』

『忘れたのか俺。アイアンハートは俺の心であり俺自身。俺が挫けぬ限り、俺の炎が燃え続ける限り。アイアンハートは砕けることはない!』

『出鱈目な奇跡を起こすか!』

『奇跡じゃない! それが俺だ! たとえ未来の俺自身だとしても。俺の炎を消せると思うなぁ!』

 

 

(ここで決め台詞は熱いって!)

(燃える!)

 

 

『紅蓮の炎をここに!』

『灰塵の焔をここに!』

『エクス!』

『プロージョン!』

『『ナッコォ!!!』』

 

 

 

 

 

 

「「最高だった」」

 

 映画館を出て揃って言葉が出た。

 

 今年も文句無しの大作だった。

 

 現在と未来のアイアンガイ・ヒートの壮絶なドラマと戦闘シーン。

 未来のアイアンガイが俳優さんの父親を当てることで未来感を際立たせるナイス配役。

 

 駄目だ。

 語りたい! 今すぐにでも語りたい! 

 ネット仲間と語るのもいいが。今はまだ午前中。だが夜までには待てない! 

 

 あーー何処かに知り合いかつ熱く語れるアイアンガイファンはいないものか………

 

 チラッ。

 と見たら簪さんと目がバッチリあった。

 

「「………………」」

「お腹空かない?」

「空いた」

「提案なんだけども」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 

「楽しかったなぁ」

「うん」

 

 

 利害が一致した俺と簪さんは足早にファミレスに駆け込んでそのままアイアンガイ談義を開始した。

 

 周囲へのネタバレ配慮の為会話は全てプライベートチャネルによる脳内会話でだ。

 なので周りからしてみればただ黙々とお昼御飯を食べてるように見える………が時々俺の表情が変わるのでただただ簪さんが黙々と食べてる絵になっている。

 

 だが脳内ではそれはもう熱いアイアンガイ談義で盛りに盛り上がり。

 店を変えて過去作の話に移り。興奮が最高潮に達したまま本日二回目の映画を見に行って。

 気付けば夕方になっていた。

 

「なんか一生分のアイアンガイ話した気がする。てかあの考察は気付かなかったわ。簪さん相当叩き込んでるね」

「そんなこと、ない。もっと凄い人居る」

 

 お陰俺と簪さんはこれまでのことを忘れて純粋に楽しむことが出来た。

 

 だが楽しい時間というのは本当に早く感じるのか。気付けばもう寮のロビーについていた。

 俺は周りにセシリアがいないことを確認して安堵した。

 明らかに外帰りで一緒に遊びに行きましたって雰囲気だもん俺ら。実際そうなったけども。

 

「じゃあね簪さん。今日は楽しかった。また明日」

「………え?」

「ん?」

 

 そのまま立ち去ろうとしたら簪さんが戸惑った声を出した。

 あれ、なんか間違えた? いや間違えてないはずだが。

 

「どうした?」

「えと………今日は………ないの?」

「え?」

「今日は、誘わないの、タッグ」

 

 あー、成る程。

 セカンドコンタクトしてから毎日会う度に誘ってたからな。

 

「しないよ。別に諦めた訳じゃないけどさ」

「なんで?」

「………誘い続けてる俺が言えた義理じゃないけど。今日簪さんとアイアンガイの話できて本当に楽しかったし。簪さんも楽しめたでしょ? そこを態々水を刺すのは結構酷だなって思って」

「………」

「あ、もしかしていつ聞かれるのかって思ってた? すまん、嫌な気分にさせたか」

「ううん。私も楽しかった。タッグマッチのこと、忘れるぐらいに………」

 

 それは、なんとも嬉しい限りだ。

 少しは心を開いてくれたのかな。

 出来ればこれを足掛かりにタッグを組めれば………なんて考えてる俺は本当に打算的な人間だ。

 

「レーデルハイトくんは、なんで私とタッグを………組もうと思ったの? 私と貴方は、そこまで接点はなかったのに」

「それは」

「お姉ちゃんに、言われたの?」

「………!」

 

 顔が強張ったのを感じた。

 まったく、いつものポーカーフェイスはどうした? 疾風・レーデルハイト。

 アイアンガイの話に興が乗って表情緩んだか? 

 

 簪さんは会長に干渉されるのを良しとしない。自分とは違うという劣等感。姉は一際特別な存在と見ている羨望感。

 そして、優れた姉への対抗心が彼女の根っこだ。

 

 会長も「私が頼んだと言わないでね。あの子、私に干渉されるのを良しとしないから」と言っていた。

 

 そんな姉からの頼みで俺が簪さんを誘った。そして成立し、打鉄弐式が完成したとしても。それは姉の力で自分の力ではない。

 そう捉えてしまうのだろう。目の前の彼女は。

 

 もう簪さんは気づいている。彼女は俺なんて歯牙にかけないほど賢い子だ。

 最初に声をかけた時にも、薄々気づいていたんだろう。

 

 ………………すいません会長。約束破ります

 

「君の言う通り。俺は会長に頼まれた。『妹を宜しくお願いします』って」

「………………」

 

 本当のことを言って、簪さんはギュッと手に力を込めて俯いた。

 だけどまだ終わらせない。

 

「でも俺は会長に頼まれたから君とタッグを組むと思った訳じゃない。それはただの切っ掛けで、簪さんと組もうとしたのは別の理由だ────俺は、君の助けになりたい」

「っ! 適当なこと、言わないでよ」

「適当じゃない、俺は」

「貴方の助けなんか、必要ない」

「かもしれない」

「じゃあ放っておいて」

「だけど放っておけない。だから君を誘い続けた」

 

 最初は確かに会長の頼みで動いた。

 セシリアへの未練は間違いなくあったし、今でもある。

 だけど組む以上、それらを無しに真摯に向き合いたかった。

 

「俺の望みは簪さんと簪さんの専用機と一緒に、トーナメントを勝ちたい。簪さんの専用機が飛び立つ姿を見たい」

「…………」

「君が一人でやりたい気持ちは知ってる。倉持技研は、君に再製作の申し出を寄越しただろ? 倉持技研に電話して確かめた。だけど君はそれを蹴った。一人でISを作り上げたら、お姉さんに勝てると思ったんだろ」

「………」

「だけど会長が一人でミステリアス・レイディを作った訳じゃない。元々7割方出来ていたモスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)を虚先輩や黛先輩や現地のメカニックと一緒に組み上げたんだ。噂は尾ひれがついただけで、真実でもなんでもない。だから君が………」

「そんなことはわかってる!!」

 

 俺と簪さんしかいないロビーに彼女の声が木霊した。

 彼女がここまで大きな声を出せるとは思わなかった本気で驚いた。

 

「お姉ちゃんが一人で作ってないなんて知ってる! 最初から知ってる! だから! だからこそ一人で作り上げないといけないの! やりとげないといけないの! じゃないと私は! ………ずっとお姉ちゃんの影のまま」

「そんなこと」

「貴方が善意で言ってくれてるのもわかる。ISが好きだから、製作を手伝いたいというのも………だけど、これは譲れない………」

「簪さん」

「………ごめんなさい」

 

 簪さんは走り去った。

 一度もこちらを振り替えることなく、自分の部屋に向けて走り去っていった。

 

「………ハーー。ほんと俺ってほんと下手だな」

 

 彼女が何故一人で作ることに拘るのかは俺も察しがついていた。

 会長が一人で作っていないことを知っていたのは予測の範囲外だったが。

 

 影か………どうやらコンプレックスは俺が思った以上に根が深いようだ。

 

「だからこそほっとけないんだよ」

 

 君は本当に。どうしようもないほど俺に似ているから………。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 自室に戻った簪はそのまま布団を頭まで被ってスマホ画面を開いた。

 画面にはアイアンガイが。完全無欠のヒーローが悪の組織を倒している。

 

 いつもなら楽しんでみれたが、今流れている映像にまったくといって良いほど集中できなかった。

 

「怒鳴っちゃった………」

 

 いつもなら我慢できた。

 感情的な衝動は理性的ではない。それは甘えであり、自分が未熟な証拠。

 だから感情を抑える術を身に付けていた。

 

 更識家に生まれ、更識楯無の妹として見られ、周りからの期待に応えられず、否が応にも比較される現状に涙することもなく。

 ただただ心を閉ざし、殻に籠る。

 それが一番効率的で理性的だったし。何より心を痛めずに済む。

 

 それでも声をあげてしまった。

 

 最後に声をあげたのがいつか。それは簪自身でさえ覚えていない程。久しぶりに大きな声を出した。出せた自分に驚いた。

 

 どれほど心のないことを言われても反発などしなかったのに………どれほど確信を突かれた言葉を突き立てられても感情を爆発させなかったのに。

 

 ふと、ポケットのなかに固い感触があったから取り出してみると。映画入場特典であるカードが入っていた。

 

「………………楽しかったな………」

 

 疾風が楽しめたように、簪も今日のお出かけを楽しめた。

 彼女の周りにはアイアンガイを話せる人はいなかったし、自分から話し出すこともしなかった。

 特撮ヒーローを見てるなんて女らしくない、あれは男が見るものだ。という偏見が色濃くある世界だから。

 

 だから共通の趣味を持った人と過ごした時間は楽しかった。

 自分の好きを笑われなくて安心した。

 たとえそれが、気にくわない人であっても。気にくわないはずだった人でさえも。

 楽しかった。至高の一時だった。

 

 そして直に見た。彼の人柄を。

 彼は好きなことに関して何処までも真っ直ぐだ。

 アイアンガイも、ISも。

 

『簪さんの専用機が飛び立つ姿を見たい』

 

 あの言葉も本心だった。

 私を気遣う言葉も、私を助けようとする言葉も。

 ………彼のことだから未完成の専用機を見たい、あわよくば製作に関わりたいというのもあるだろうけど。

 

「疾風・レーデルハイト」

 

 最後まで話を聞けば良かった。

 なんてことを考えている自分に少し驚いていると、既にアイアンガイの動画は終わっていた。

 

 こんなことは初めてだ。ましてや一人の男にここまで心を掻き乱されているのは。

 

 彼は自分の理想像。ヒーローのような人とは少し違う。

 ヒーローというのは、織斑一夏のような人間を言うのだろう。物凄く癪だけど。

 

 疾風は言うなればダークヒーローに近い。

 目的の為ならば手段を選ばず。的確にルールの穴を突いてくる小ズルさ。

 そして敵に対しての容赦のなさは時々苛烈な物がある。

 

 だがその根底にあるのは紛れもなく他人の為に怒れる人のそれだった。

 異種多人数戦で全校生徒の前で啖呵を切ったその姿は。挑発的な行動であったにしろ。まさしく、悪と戦う物の姿。

 

 決して諦めない姿は、何処かヒーローの素養を感じた。

 

 簪は想像した。

 もし疾風の申し出を受けたらどうだっただろう。

 

 共通の話題で盛り上がり、一緒にISを動かす。

 そこには親友の本音。そして様々な人たちが加わることだろう。

 ………考えるまでもない。それは楽しいことだ。

 

 だけど。

 

「それでは駄目………」

 

 それではあの姉を越えられない。

 姉を越えるために必死に頑張ってきた。

 姉のISに対抗するために自分で打鉄弐式のプランを考えた。

 姉にはない自分の特色を活かして、作り上げて、そして姉に勝つ。

 

『簪、あなたは何もしなくていいの』

「っ!」

『私が全部して上げるから』

『だからあなたは、無能なままで、いなさいな』

「うっ!」

 

 耳をふさいだ。

 自身を縛り付けるその言葉に耳を傾けない為に。

 

 一人でやらなければ駄目だ。

 一人でやりとげなければ駄目だ。

 一人で打ち勝てなければ駄目だ。

 

 だから。

 だから。

 今さら他人の手など借りれない。

 

 たとえ打鉄弐式が年内に完成出来なくなったとしても。

 代表候補生の立場が脅かされるとしても。

 

 そうでなければ。更識簪に価値などない。

 

 価値など、ないのだ。

 

 簪はスマホの電源を切ってもう一度布団を被り直した。

 途端に来る心地よい睡魔に身を任せ、ベッドに全てを委ねた。

 

「………明日も来るのかな………」

 

 キツイ言葉を言ったからもう来ないかもしれない。

 

「な、何を考えてるの………」

 

 寝る間際に浮かんだ淡い思考を振り払い。簪は今度こそ微睡みの中に意識を沈ませた。

 

 

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