IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第95話【更識妹の試練】

「ねえねえ。まだレーデルハイトくんは簪さんを?」

「そうみたいだよ。私絶対オルコットさんと組むと思ったのになぁ」

「眼鏡同士相性がいいとか?」

 

 毎日毎日女子の間では疾風と簪さんの話題で賑わっていた。

 飽きもせずに同じような話題が飛び交うのは話題の中心が中心だからだろう。

 

「そういえばさ、織斑くんのペアはすんなり決まったよね………誰だっけ?」

「篠ノ之さんだよ。こっちはこっちで昼ドラレベルの修羅場になると思ったのに」

「一組の友達が言うには織斑くんが直接篠ノ之さんを指名したって。そこで話は終わったらしいよ」

「じゃあ他の子は納得したってことだ」

「いやーどうだろうねぇ」

「というと?」

「表面上は納得してても内面は納得してないかもよ? 女ってのはそこらへん簡単に出来てないからさ」

「流石、伊達に男にフラれ続けてリトル榊原先生の異名を持ってないわね」

「待って? 私そんなあだ名つけられてるの? てか榊原先生と一緒にしないでよ! 私まだ10代だから希望あるもん!」

 

 教室に一人の女子の嘆きが響いた。

 そしてたまたま側を通っていた榊原先生が流れ弾に当たって崩れた。

 

「まだ20代だから希望あるもん………」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「すーーー。フッ!」

 

 中央タワーに立っていたシャルロットが身に纏うラファールと共にアリーナ直下に飛び込んだ。

 それと同時に出現するホログラムターゲット、総数60。高速で移動するターゲットの位置を全方位視界で確認し、攻勢に移った。

 

「行くよ! リヴァイヴ!」

 

 スラスターをフルに吹かして高速切替(ラピッド・スイッチ)発動。

 両の手に握られたアサルトライフル【ガルム】が火を吹き、次々とターゲットのど真ん中を射貫いていく。

 ガルムが弾切れになった瞬間にショットガンにスイッチ、ドパッ! という音と共に二つ、三つずつターゲットを粉砕。

 その後にアンチマテリアルライフル、ビームライフル【ヴァーチェ】を展開しターゲットに当てていく。

 

 トップスピードを維持したままターゲットを破壊し、残りは僅か9枚。

 

 シャルロットは近接戦にシフトチェンジ。両手にアサルトブレードを持ち、すれ違いざまに切り刻み。真下に現れた最後のターゲットをグレー・スケールでぶち抜いてフィニッシュ! 

 

「フーー」

 

 一息ついたシャルロットはターゲットアタックの結果を確認。命中率100%。スコアは100点中97点の高スコアだったが、シャルロットは何処か不完全燃焼気味だった。

 

「やっぱりホログラムターゲットだとある程度動きがわかるなぁ。繰り返し練習は大事だけど、もう少し癖のあるのが欲しいな。今度疾風に頼んで………いや、疾風も敵なんだから頼っちゃ駄目だよね。あとそれどころじゃないだろうし」

 

 あっちもあっちで大変だもんね。

 と、シャルロットが疾風の落ち込んだ顔を思い出していると側にレーゲンを装着したラウラが降り立った。

 

「シャルロット。遅れてすまない」

「あ、ラウラ。僕は大丈夫だよ。丁度ホログラムトレーニング終わったあとだし。でも珍しいね、ラウラが訓練に遅れるなんて」

「いや、ちょっとな。事件が起きてしまって………」

「事件?」

「これだ」

 

 サッと見せてきたのは一夏の写真だった。

 真っ二つに破れた。

 

「一夏の写真。どうしたのこれ、まさか嫌がらせ!?」

「違う。これは私がやった」

「え、ラウラが?」

「その、私を選んでくれなかった一夏への恨みを込めてナイフを研いでいたのだがな」

「穏やかじゃないね」

「それで、目の前に笑う一夏の姿がホワーと出てきてな」

「ホワーっと」

「その姿が無性に腹が立ってナイフをロッカーに投げて突き刺したのだ………そしたらロッカーの内側に貼っていた一夏の写真を貫通していた」

「そ、それはなんというか」

 

 中々間抜けな話である。そもそもロッカーにナイフを投げちゃ駄目だよ。というツッコミをシャルロットは飲み込んだ。

 

「慌ててテープで止めようとしたらロッカーに保管していた大量のナイフが落下。その衝撃で掴んでいた一夏の写真はこの通り。私は、私は愚か者だ!!」

「まあまあ、写真ならまた現像すればいいんじゃない?」

「この写真は新聞部からネガごと買い取った物で、ネガもコピーされることを恐れて既に燃やした。つまりこの世でたった一枚の特別な写真だったのだ………それで心の傷を癒すのに二時間ほどの時間を有した」

「うーん」

 

 なんというか。シリアスな面立ちなのだろうけど何処かギャグテイストを感じるのは気のせいだろうか。

 それでもラウラにとっては心を抉るショッキングな出来事なのだから真摯に対応しなければならない。

 たとえそれが自業自得だとしても。

 

「じゃあ今度一夏に写真撮らせて貰おうよ。それもツーショットの」

「ツ、ツーショットだと! 承諾してくれるだろうか」

「絶対行けるよ、だって一夏だもん。特訓終わったら一緒にいこ」

「そうだな。その時はシャルロットもツーショットを撮って貰うといい」

「ええ!? 僕は別にいいよ」

「何をいう自分から言い出したことなんだからお前もやれ。ふむ、楽しみだな」

「うー。予想外の展開」

 

 だけどそれはそれとして一夏とのツーショットゲットできるから良いか。

 シャルロットは思わぬ棚ぼたに胸を弾ませた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「隙ありだ一夏!」

「と思わせてだ!」

「なにっ! くぅあっ!!」

 

 アリーナ上空。紅椿の展開装甲による高速ターンで背後を取った箒だがそれを読んだ一夏が振り向き様に零落白夜抜刀。箒は脚部展開装甲を全開にし上体を反らし、スレスレで躱した。

 

「やるな箒。今のは結構必中の間合いだったんだがな」

「ああ、肝が冷えた。紅椿でなければやられていたな!」

 

 空裂を抜き放ち帯状ビームを連続で撃つのを一夏はスラスター制御のみで回避、そのまま近距離で雪羅を構えた。手のひらの砲塔にはエネルギーチャージを行っているオレンジの光が明滅していた。

 

(荷電粒子砲!)

 

 とっさに展開装甲でシールド防御。

 だが一夏は荷電粒子砲をキャンセル。雪羅の手を細め、爪先から零落白夜のクローを発動。刃渡り1メートルのビームクローが紅椿のシールドを霧散させ、そのまま紅椿に向かう。

 箒はとっさ両の刀でガードしたが受け止めきれず、ブレードを滑った零落白夜の切っ先が紅椿の肩に届いた。

 

「ちぃ!」

「このまま!」

「甘いぞ一夏!」

 

 一夏は左右から飛来したビットに追撃を断念。紅椿の展開装甲ビット。

 先ほどシールドが霧散した瞬間に切り離して置いたのだ。

 

 白式から可能な限り距離を取って地上に降り立つ。

 縦横無尽に飛び回るビットを払い除けようとする一夏めがけて箒は肩の穿千をスタンバイ、照準を向ける。

 

 白式からのロックオンアラートに急いで箒と紅椿に意識が向いた一夏は三次元躍動旋回からの瞬時加速(イグニッション・ブースト)でビットを振り切り急接近。

 

(チャージが終わる前に!)

 

「発動!」

 

 紅椿の展開装甲がフルオープン。紅の躯体が黄金色に輝き、穿千の先端にエネルギーが溢れる。

 

「絢爛舞踏か!」

「全開放射! いけぇぇー!!」

「負けっかぁぁーー!!」

 

 瞬時加速中でかわせない。だが一夏は慌てずに雪羅の霞衣を二重展開、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の推力をそのままに穿千の極大光線の光に飛び込み突き進んだ。

 

 相対距離3メートルの時点で穿千の放射をキャンセル。光を抜けた一夏は紅椿の絢爛舞踏の光が消えたのを確認してから雪片弐型の展開装甲を解放、黄金の刃を突き立て、それを紅く輝く雨月、空裂の両の手で迎撃を試みた。

 

 

 

 

 

 

「箒も度胸あるよな。シールド回復したとはいえ身体で零落白夜を受け止めるなんてよ」

「肉を切らせて骨を断つ。下手に防御するより攻撃に全てを振った方が勝機があると思ったんだ」

 

 模擬戦の結果は箒の勝利で終わった。

 といっても絢爛舞踏の回復がなければ負けたのは箒の方だった。今回はワンオフ・アビリティーの使い方が箒に利があった。

 

「やっぱ絢爛舞踏は反則級だよなぁ。あんだけ減らしたシールドが一瞬で回復するんだからさ。対面してその厄介さが身に染みたよ」

「それでも1日1回発動するかしないかだ、今回は上手く発動してくれた。所要時間も発動から開始まで約20秒。これで早い方なんだから、まだまだ一夏の領域には行けないな」

「いやいや。まだまだ千冬姉の速さに到達出来てねえ。もっと早く抜けるようにしないと……」

 

 二人とも入学当初と比べると大きく見違えるぐらいの実力を持った。

 一夏の零落白夜は日に日に鋭さを増していき、箒も段々と紅椿の機動に慣れてきている。

 同学年との練習機相手ならほぼ負けることはないだろう。というのはクラスメイトの談である。

 

「ていうか今何時だ? まだやれるかな」

「あと30分でアリーナが閉まるな」

「じゃあエネルギーのチャージが終わったらコンビネーション練習して終わりだな」

「こんな時こそ絢爛舞踏を発動できたらと思うんだが」

「すまん箒。それ俺も思った」

「「ハハハハハ」」

 

 乾いた笑いである。

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「~~♪」

 

 ISスーツから制服に着替えた箒は珍しく鼻唄を歌いながらポニーテールの結び目を直した。ポニーテールを結ぶためのリボンは一夏が誕生日プレゼントとしてくれたリボンだ。

 

 一夏とペアになった箒の日常は語るまでもなく充実していた。

 必然的に一夏と二人っきりの時間が増えた。これは確実に他よりリードしている。何より一夏が自分を選んでくれた(理由は現実的であるが)ことが箒を天上の幸福に導いていたのだ。

 

(これは専用機同士の訓練のためのタッグ。浮かれずに真面目に勤めなければならない………駄目だ、顔がにやける! むしろにやけるなという方が無理だ! だって一夏と二人っきりで特訓! しかも交代制じゃない! はーーー。私の運、今世分使いきってないと良いのだがなぁ)

 

「フフフフフフ」

「うわぁ、浮かれようが半端ないわね………」

「うおっ! なんだ鈴か」

「そうよ凰鈴音よ。はーーー」

 

 更衣室から出るとドアの側で腕を組んで鈴が待ち構えていた。上機嫌な箒を見てこれまた長いタメ息を吐いた。

 そんな友人を前にして流石に浮かれ続ける訳にはいかず、箒は顔の筋肉を引き締めて訪ねてみた。

 

「大丈夫か? 凄い疲弊しているように見えるが」

「いやー。もうなんていうか。セシリアが荒れに荒れちゃってさ」

「荒れる、というのは。やはり疾風が原因?」

「それ以外あると思う?」

「ないな」

 

 疾風のIS動かさない発言事件(新聞部の新聞で公的に広められた)からセシリアと疾風はろくに会話をまじ合わせていない。

 疾風はなんとかセシリアと仲直りしたいように見えるが、セシリアは疾風に塩対応している。

 最近は疾風がセシリアより噂の更識簪に意識が向くようになり、ますますセシリアの機嫌が悪くなっていたのだ。

 

「もうスパルタもスパルタよ。毎日毎日練習練習。難しい言語はバンバン飛んでくるわ、レーザーは雨霰のように飛んでくるわ。偏光制御射撃(フレキシブル)はグイングイン歪曲しまくりだわ。もう、ヤバイわよ」

「それはまたなんとも。というかそんな荒んだ心で偏光制御射撃(フレキシブル)が撃てるんだな」

「逆に感情燃料がドバドバ出てるんじゃない? あれってメンタル強ければ強いほど精度上がるらしいし」

 

 鬼の形相で回避困難なレーザーの応酬。

 想像してブルッと震えると同時にトーナメントでそれを相手に戦わないと行けないという事実に箒は二重で震えた。

 

「しかしそんな過酷なら文句を言うと思ったが」

「言おうとしたわよ。けど今のセシリア、マジで怖いのよ、少しでも触れたら発動する核爆弾みたいに。ほら、他の人が自分より怒ってると自分がクールになるってのあるじゃない? 今のセシリアは鬼教官よ。地元の教官にも負けてないから若干トラウマががが」

「お労しい」

「まあアドバイスは的確だし、日に日にコンビネーションの完成度が磨かれてるから利に叶ってるんだけどさ」

「そうか」

「それはそれとしてタスケテホウキ」

「無理だ」

 

 ガクッと落ち込む鈴。

 この世に救いがないのかとオーバー気味にテンションダウンしていった。

 

「一つ聞きたいのだが」

「なに?」

「セシリアは何故そこまで怒っていると思う?」

「嫉妬」

 

 にべもなくズバリと言う鈴に箒もやはりそうかと腑に落ちたように答えた。

 

「あいつ菖蒲が疾風に近づいた時も機嫌悪かったし。本人は上手く隠してるつもりでしょうけど漏れだしてるのよ、嫉妬が」

「私たちと似たようなものか」

「そうね。あいつ絶対疾風のこと好きよ。まるっきり機嫌の悪さが一緒だし」

「今回は結構重症だがな。セシリアもそろそろ許してあげればいいんだが」

「言うてさ。もし一夏があたしたちほっぽって簪って女の子に猛アプローチしたらアタシたちも同じ状態にならないって言える?」

「………………」

 

 ならないとは口が裂けても言えなかった。

 いや絶対になるだろう。

 そして一夏は何故自分たちが怒っているのか知りもしないでキョトンと間抜けな顔をするに違いない。

 なんか腹が立ってきた。

 

「まあ疾風は疾風で猛反省してるし。その意見もわからなくないけど。まったくセシリアと疾風ってほんと似てるわ。好意のベクトルも」

「やはり疾風はセシリアを?」

「そうでしょうよ。この前アタシたち全員になんで一夏を好きになったんだ? って聞かれてたじゃない。しかも菖蒲の告白も断ったのよあいつ。あんな良い子を振ったんだから他に好きな子いるって考えるのが妥当でしょ」

「え! 菖蒲さん疾風に告白したのか!? いつ!?」

「あ、やばっ」

 

 思わず自分の口をふさいだ鈴だが時既に遅し。吐いた唾は飲み込めない。

 

「そうか、菖蒲さんが………」

「頼むから秘密よ。別に口止めされてないけどみだりに言いふらすことじゃないし」

「大丈夫だ、私は口が固いからな」

「胸は柔らかいのにね」

「まてまて! この流れでその話の流れはおかしいだろう!?」

「うっさい! さっきから喋る度に真横でプルプル揺れてるのを見せつけられるアタシの身になりなさいよ!」

「別に見せつけてない!」

「無自覚が一番タチが悪いのは一夏だけで充分よ! コノッ! 揉んでやる! よこせその乳!」

「ちょっ、そんなグニグニと! ヒャン! というかお前! 勢いで誤魔化そうとフワァ!」

 

 鈴の手により箒の形の良い巨乳が縦横無尽に形を変える。

 同性でも羨まれるそれを揉みし抱いてるうちに鈴はその魔性の果実に心を奪われかけていた。

 

「くっ! なんて乳なの。触ってる私が逆に取り込まれそう」

「いいから、揉むのを、やめ、アンっ!」

「鈴さん、なに遊んでいますの?」

 

 いついたのかセシリアが箒の胸を揉みしだいている鈴にジトッとした視線を向けている。

 

「なにって癒されてるのよ。あんたも触る? 揉んでみてわかったけどヤバイわよ箒のおっぱい」

「いいから今すぐ揉み続けるのをやめなさい。箒さんもさっさと振りほどきなさいな」

 

 それはもう惜しい物を手放すように鈴は箒の胸から手を離した。離したあとも手をワキワキしてる。

 

「女の私でもこれだけ魅了されるんだから一夏が触ったらどうなるわけ?」

「鷲掴んだあと硬直するんじゃないですか。山田先生の胸を触った時そうでしたし」

「やはり巨乳は悪ね」

「妄言を吐かないでくださいな。あのあと鈴さんとのペアでボコボコにされましたわよね」

「アーキコエナーイ!」

「だからこそ次はああならないために特訓あるのみですわ。ほら早く立ちなさい!」

「キコエナーイ!!」

「なに騒いでんだお前ら」

「あ、一夏」

 

 光明を得たと箒と鈴は一夏に希望を見いだした。

 若干涙を浮かべながら鈴は一夏にすがり付いた。

 

「一夏助けて! セシリアの特訓がキツくてもうヤバイの!」

「頑張れ鈴」

「即答! 知ってる一夏? 頑張れって突き放すことにも使えるのよ?」

「だからって他人のペアに口を出すわけにもなぁ」

「箒の胸揉んで良いから!」

「は、はぁ!?」

「おい鈴、私の胸を担保に出すな!」

「じゃあセシリアの!」

「鈴さんあなたいい加減にしなさいな!」

 

 残念ながら一夏は役に立てずに鈴からのセクハラでフリーズ。

 もはや収集がつかない、と思ったその時。

 

「こらこら、あんまり廊下で騒がないの」

 

 生徒の長、更識楯無の登場である。

 後ろには菖蒲もいた。

 

「あら鈴様。どうしましたのそんな猫のように掴まれて」

「見ればわかるでしょ。拉致よ!」

「違います」

「嘘はダメですよ鈴様」

「もー! なんでアタシの味方一人もいないのよ!」

「日頃の行いだろ」

「あんたに言われたくないわよ!」

「そんなことより楯無さんはなんでここに?」

 

 そんなことってなによ! と目と口を三角にする鈴はスルーが安定と暗黙の了解が出た。

 

「一夏くんと箒ちゃんに用があったのよ。今から大丈夫?」

「構いませんよ」

「私も大丈夫です」

「じゃあ行きましょうか。あっ、セシリアちゃん」

「なんです?」

「疾風くん。いまも反省中よ。そろそろ許してあげてくれないかな」

「それを決めるのはわたくしです。失礼致します」

 

 軽く礼をしてセシリアは踵を返した。いつでも礼儀正しいその姿は育ちのよさの現れだろう。

 引きずられる鈴からの目をそらせばの話だが。

 

「タースーケーテー」

「無事でいろよ、鈴」

「それで、なにをするんですか?」

「検査室。二人とも全然やってないでしょ、ISのシステムチェックとフィジカルチェック」

「「それは………」」

「駄目よぉ。本当に大事なことなんだから。ISには自動調整機能があるけど、最後にはちゃんと自分で調整しないと強くなれないのよ? 一回くらいはやったことないの?」

「実は自分でやったことないです。前に疾風にやってもらった時しか」

「私もです」

「二人とも篠ノ之束製だから他のより優秀なのついてるみたいだけど。こういうのは放置するとドンドンずれが生じて後が大変なのよ」

 

 例えるなら早期治療をしないで先延ばしにして最後に痛い目にあうような物だ。

 

「菖蒲ちゃんの専用機も届いたしね。ついでにやっちゃいましょうか」

「届いたんですか、菖蒲さんの専用機」

「どんな奴なんだ? 打鉄稲美都の改修機だよな?」

「名前は打鉄櫛名田(くしなだ)。それ以上は秘密です」

「櫛名田。八岐大蛇に出てくる櫛名田姫か?」

「はい」

「とんでも性能してるのよ。油断してると普通に負けるわよ」

「楯無さんと菖蒲さんの櫛名田か。これは強敵だな」

 

 それでも負けるつもりはない。口に出さなくても一夏と箒の思いは同じだった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 今日会長は菖蒲と遅くまで特訓。夕飯も菖蒲と食べるらしい。

 一人になった俺は食堂の方に足を運ぶことにしたのだが。

 

 そこで簪さんとエンカウント。

 

「あっ………」

「こんばんは」

 

 コクリと頷きで返してくれた。

 少しは心を開いてくれたみたい。

 

「この前はごめんね。捲し立てちゃってさ。熱が入ると止まらなくて」

「ううん。大丈夫」

「よかったらご飯一緒に食べないか? 奢るよ」

「えっ、それは………悪い」

「昨日のお詫びってことじゃ駄目かな?」

「気にして、ない」

「俺が気にしちゃうんだ。食費が浮いてラッキーってことにしてくれたらいいなって思うんだけど」

「………わかった」

 

 簪さんが少し後ろからついてくることを確認して食堂に入ると、まあ視線が刺さること。

 なにせ学園でも注目の二人組(黛先輩調べ)が満を持して一緒に食堂に入ってきたのだ。これはまた明日には噂として広まるな。

 

 とりあえず無視だ無視。

 どうせ広まるならどうとでもなれ。

 今は簪さんとの対話が優先だ。

 

「今日のオススメはジャンボカツカレーか。簪さん、これにする?」

「私、肉はあまり、好きじゃない、から。かき揚げに……する」

「オッケ。じゃあ俺はチキン南蛮丼にしようかな」

 

 発券機で券を出しておばちゃんに渡し。少し待ってると料理が出てきた。

 相変わらず早い。

 

「さて、今日多いなぁ。どっか空いてるとこあるかな」

「あそこ、一番奥から、三番目。空いてる」

 

 簪さんが指さした方向には………えーと。

 

「…………ほんとだ。よく見えたな」

「視力は、いいから」

「そうなの? でも眼鏡してるよね」

「これは、携帯用ディスプレイ………」

「あ、そうなんだ。眼鏡じゃないんだ」

「空中投影ディスプレイは、高くて手が出なくて」

「わかる! あれマジで高いよな」

 

 ホログラム技術が発達した世の中でも空中投影ディスプレイは高い。

 スーパーとかにある宣伝用はプログラム容量が少ない固定式の物だから安価で済む。

 玩具だとヒーローやロボット、果ては魔法少女やヒロイン的なのがホログラムフィギュアとして売られているが、あれもなかなか値が張る。

 

 簪さんが持ってる携帯型眼鏡ディスプレイもホログラム技術の副産物で誕生したものだ。

 眼鏡のレンズに画像を移すそれは一時期かなり流行ったものだ。簪さんはそれをISの調整にも使ってるみたいだが。

 

「レーデルハイトくんは、持ってないの?」

「持ってない。というよりそこまで必要なかったからなぁ。ネットやるなら普通にスマホかパソコンでいいし。眼鏡ディスプレイもさ。度付きのやつ異様に高いから買えてない」

「そうなんだ」

「それより早く行こう。冷めたら勿体ないし」

「うん………」

 

 一緒に奥の席に向かうとやはり周りから視線がさっきより強くなった。

 とことん無視を決め込んで窓際の席に座った。

 

「ここいつも人いるから座ったことないけど良い眺めだな。海が光ってる」

「うん」

「じゃあ頂きます」

「頂きます………」

 

 パクリ。アーー。

 タルタルソースが美味いのは確定的、衣に染み込んだ甘いタレがもう文句無し。たまらずご飯を二回放り込んで。

 ほんと。この食堂は外れがない。

 

 チラッと簪さんの方を見るとかき揚げをグーと汁の中に沈めていた。

 かき揚げの中の空気がプツプツと眺めながら、なんだか楽しそうだ。

 

「簪さんは染み込み派なのね。俺はサクサク派だけど、たまにそれやるわ。染みたとこと内側のサクが良いよね」

「違う。これは、たっぷり全身浴派………」

「なん、だと?」

 

 ここでまさかの新派閥誕生!? 

 かき揚げの芯まで汁を染み込ませる。それがたっぷり全身浴派か! 

 

「まさかここで新たな境地が見えようとは。恐れ入ったぞ簪さん」

「流石に、オーバー」

「いやいや。かき揚げ問題はきのこたけのこに並ぶ戦争案件だからな。因みにドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒはサクサク過激派だから気を付けろ。バトルが始まる」

「あの人。時々、変って。噂がある」

 

 それなぁ。

 軍人だからお堅いってのとは明らかに方向性が違うんだよなアレ。

 そもそも一夏を嫁と言ってる時点でもうネタキャラの片鱗を見せてる気がする。

 

「よし」

 

 おっ、浸し終わったようだ。

 すっかりふにゃふにゃになったかき揚げを崩し、うどんと一緒に啜る。

 こ気味のいい啜り音の後に簪さんはホクホクとした顔で悦に浸った。

 簪さんもそんな顔するんだなぁ。

 

「なに?」

「あー、すまん。美味そうに食うなと思って」

「美味しいから」

「だろうね。チキン南蛮も美味い。肉嫌いって言ってたけど。どれぐらい嫌いなの?」

「肉の油が少し苦手。食べれないことは、ないけど」

「ふーん」

「でも、鶏肉は平気」

「そうなの。じゃあ一切れ食べる?」

「え?」

 

 サッとどんぶりごと簪さんの方に寄越した。

 流石に箸で食べさせるという行為には出れない。もし簪さんが間接キス云々に嫌な部類だったらアレだし。

 日常生活でもことごとく一夏の伊達男振りの凄さを感じる。

 俺はあそこまでアグレッシブになれんな。

 

「流石にそれは、悪い」

「食べたくなかった?」

「そういう、訳じゃない………」

「ほんとに美味いんだこれ。これもお詫びの一つってことで」

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 

 簪は遠慮気味にチキン南蛮に箸を触れさせた。

 でも流石に1個丸々貰うのは気が引けた。

 

「一つは悪いから。半分でも、いい?」

「どうぞどうぞ」

「………頂きます」

 

 箸で丁寧に割いたチキンを持ち上げる

 タルタルソースとタレがついた揚げ鳥を小さな口で頬張る。

 

「………」

 

 無表情に見えるが、目や口の端が微妙に喜の表情に変わった。

 心なしか簪の周りがパーっと明るくなった気がした。

 疾風はその姿がどうにも微笑ましくて自然と笑顔を浮かべていた。

 

「どう、美味いだろ?」

「っ!!! ゴホッ、ゴホッ!」

 

 飲み込む途中で気管に入ったのかゲホゲホと咳払いする簪さん。

 おいおい大丈夫か大丈夫か!? 

 

「簪さん大丈夫!? ほら水飲んで」

「だ、大丈夫。ちょっと驚いただけ………」

「やっぱ肉苦手だったんだな。無理に進めてごめんね」

「違う、違うから。大丈夫だから」

 

 もう一杯水を飲み、気持ちを落ち着かせる。

 

(言えない。レーデルハイトくんの笑顔が輝いて見えてびっくりしたなんて………)

 

 想定外の感情にもう一度水を注いで飲み干した。

 どうにか取り繕うと言葉を必死に組み立てた。

 

「こ」

「ん?」

「こんなこと、しても。ペアになる気は」

「そんな気はないよ」

「嘘」

「嘘じゃないよ───もう誘うのやめるからさ」

「………………え?」

 

 いま彼はなんと言ったのか。

 誘うのをやめる。つまりもうペアを組む気はないという………

 

「あっ、別に簪さんとペアを組む気がないって訳じゃないから!」

「じゃあ、なんで」

「いやさ。昨日の件で一線、レッドライン越えたなって思ってさ。今までもそうだけど、簪さんがその気なかったのに誘い続けて、流石にしつこすぎたなって。だから簪さんからイエス貰えるまで待とうと思って」

「私が、イエスって答えなくても、ペアになれるから?」

「いや、それに関しては問題ない。簪さんのISが不調でどうしても出られないときはどうするかって織斑先生に聞いたら山田先生をつけてくれるってさ。もしペアにならなくても、簪さんは俺とペアを組むことはないよ」

 

 つまり、必ずしも疾風が簪を選ぶ必要はなくなったということになる。

 

「って、これもう完全諦めムードの流れだな。言っとくけど簪さんが良かったら俺は何時でもペアを組むから! 専用機の製作も簪さんが良かったら手伝うからな」

「………」

「簪さん? えーっと………あっ、とりあえずチキン南蛮返してもらう………」

「っ!」

「ほ?」

 

 疾風が自分の丼を手元に戻そうと簪がグイッと自分の方に寄越した。

 

「え、そんなに気に入った?」

「レーデルハイトくんは」

「ん?」

「辛いのが苦手って聞いた」

「まあ人並みには」

「わかった」

「なにを?」

 

 次の瞬間

 

 ガッ! 

 

「へ?」

 

 簪はテーブルに置いてある一味唐辛子の蓋を驚くべき早さで取り去り。

 

 ババババババババババ!! 

 

 疾風のチキン南蛮丼の上にそれはもう羅刹の如く振りかけた。

 

「ちょちょょちょちょちょちょちょちょちょ!? な、なに! なにしとんの簪はん!?」

 

 思わずエセ関西弁になった疾風は手を出そうにも出せずに黙ってその凶行に立ち尽くした。

 

 ひとしきり降り終えた後、簪はサッと疾風の前にチキン南蛮だったものを置いた。チキン南蛮の上には赤い砂漠が出来ていた。もはやこの世の物ではない。

 一味唐辛子がもう1/3しか残ってないことに疾風は戦慄した。

 

 周りの女子も何事かとこちらを見て赤い丼を見て驚いた。

 

「そ、そんなに怒った、感じ、でしょう、か?」

「怒ってない」

「嘘だろそれは」

「本当に怒ってない」

「じゃあ何故こんな凶行を」

「あなたを、試す、ため」

 

 スッと簪さんの真っ直ぐな瞳に疾風は唾を飲むことすら忘れた。

 

「これを食べきれたら、あなたと組むことを、考えてあげる」

「ほ、本当に?」

「勘違いしないで。考えてあげると言った。たとえあなたがこれを食べきったとしても。私はイエスと………言わないかもしれない。これはただの骨折り損になる、可能性もある。そもそもこれはあなたへのいやがらせという可能性もある。それでも、あなたは食べる?」

 

 試練だ。と疾風を含めたギャラリーは思った。

 普段すんなりと言葉を紡げない簪さんが鋭い眼差しで疾風に試練を与えた。

 その姿は誰もがあの生徒会長の妹であると納得できるぐらいの貫禄と迫力があった。

 

 流石の疾風も立ち尽くした。

 もうほんとに立ち尽くした。

 人生でこれ以上ないぐらい立ち尽くした。

 

 しかもたちの悪いことに、この試練は疾風のメリットがほぼ皆無。

 だって試練をクリアしても報酬が確定していない、むしろそんなものはない簪は言っているのだ。

 

 疾風は立ち尽くして立ち尽くして。

 立ち尽くし続けて………

 

 黙って席を離れた。

 

「………」

 

 周りの女子が口々に簪を非難する声をあげるなか。簪は疾風に特に落胆することなく自分のかき揚げうどんを食べ始めた。

 

 普通の反応だ、こんな馬鹿げたことやるはずがない。

 流石の疾風も愛想をすかしただろう。

 

 これは簪にとって喜ばしいこと

 最近になって声をかけられて、周りの女子からの視線が変わったのが煩わしかった。

 今まで拒んできたのだ。彼が引いてくれたのなら願ったり叶ったり、これで安心して専用機の製作に取りかかれる。

 

 今まで通りの日常だ。

 また殻に引きこもって、黙々とやりたいことをやる。

 

 万々歳だ。

 

 ………そう、万々歳………

 

「よいっしょ!」

 

 ガシャン。けたたましい音に簪はハッと顔を上げた。

 

 なんと疾風が10個のコップと氷水のピッチャーを持ってきてのだ。

 空のコップに氷水を注ぎ、ドカッとチキン南蛮丼の前に座った。

 

「頂きます!」

「え、ちょっと………」

 

 疾風は躊躇うことなく赤い砂漠に食らいついた。

 

「んんっ! ゴポッ、か、かっらゲフッ、ゲフッゲフッゲフッ! うおっごほゴホッ」

 

 刹那衝撃的な辛みが神経を伝って全身を貫いた。

 唇が赤くなり、口内に激痛。汗と涙が溢れた。急いで水を一杯飲み込むが焼け石に水だった。

 

 思わず簪は箸を落としてまこと信じられない顔でチキン南蛮丼をかっ食らう疾風を見て硬直した。

 

「うわ、粉、粉駄目だゲホゲホ、オエ」

 

 直接唐辛子の粉を吸い込んだ疾風は思わず嗚咽を漏らした。

 直ぐ様疾風は一味唐辛子とご飯を混ぜてまず粉っぽさを回避したが、辛い! 米一粒一粒に唐辛子がコーティングされて別種の化け物となった。

 

「ゲホッ。なんて顔してんのさ。ウオヘっ、ゴクゴク、プハッ。もしかして食わないと思った」

「あ、当たり前。頭おかしい」

「ハッ。言ったろ。俺は簪さんのISに携わりたいし、飛ぶ姿が見たいってな」

「でも、承諾するとは」

「言ってないな。だけど一抹の望みがあるならやらないわけには行かないさ。特に俺の場合はな!」

 

 明らかに無謀な挑戦をしているのに、疾風の目は陰るどころかランランとギラついていた。

 その挑戦的かつ好戦的な視線に簪はもう言葉を発することすら忘れ、赤い丼を食べ進める疾風を見つめた。

 

 おもいっきりかっこみ、咳をし、水を流し込み。ピッチャーで空になったコップを水で満たす。

 

 その繰り返しを何度も行い。

 長い戦いの末。

 

「んんっだぁ! ご馳走さまでしたぁ!」

 

 赤砂漠チキン南蛮丼。見事に完食した。

 

 周りのギャラリーも思わず拍手喝采。

 蛮勇を成し遂げた疾風を祝福したのだった。

 

「ハハ。食べきるとは、思わなかったでしょ?」

 

 ハッと我に返った簪は急いで首を縦に振った。

 

「ISオタク。嘗めんなよ?」

 

 ニッと笑う口許は真っ赤っ赤。顔を汗で光り。目元は涙で赤くなっていた。

 お世辞にもカッコ良くは見えないその風貌。だけど簪はそんな疾風の姿から目を離せなかった。いや離さなかった。

 

「あーそうだ!! 別にこれで組めるなんてこれっぽっちも思ってないから!! ただ単におれの負けず嫌いとオタク魂が爆発しただけだからな!! じゃあまた今度!! 気が変わったら声かけてね!!! ………………ウェップ」

 

 疾風は一際大きな声でそう言い放つと、丼とコップを片付け。そのまま足早に食堂を去っていった。

 

「………」

 

 ギャラリーが疎らになっても、簪は動くことが出来なかった。

 

(どうして………)

 

 あそこまで出来るのか。

 本当にISが好きなだけでここまでのことが出来るのか。

 

 ただただ目の前の現実が信じられなかった。

 

「………………」

 

 胸が跳ね上がっている。

 こんなことで絆されたりしない。

 そう自分に言い聞かせ、簪は内から溢れ出る何かを必死に抑えつけた。

 

 これは甘えだ。甘えてはいけない。

 そんな資格自分にはない。

 甘えたらまた、弱い自分になってしまう

 

 かき揚げうどんは、もう延びていた。

 そんなことを気にとめず、簪は感情の制御に勤しんだ。

 

 

 

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