IS スカイブルー・ティアーズ   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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第97話【ヒューマンエラー】

「あーー………なんかさっきからあーしか言ってないな俺」

 

 今現在タイムマシンを、違った。

 簪さんを探していつも彼女が使っているハンガーに来たが見事にもぬけの殻。

 

 ここじゃないとすると皆目検討がつかん。

 俺って簪さんのパーソナルスペース全然知らないんだな。

 知ってたら知ってたでアレだけどもさ。

 

「しかし、会ったとしてどうしようなぁ。吐いた唾は飲み込めないし」

 

 もう自分から簪さんをタッグに誘わない。

 

 すごく取り消したい。別に勢いで言ったわけではないからなおのことタチが悪い。

 

 いや待てよ。別にタッグマッチを誘わないと言ったがISを作る手伝いはしないとは言ってないな? 

 よし! その手順で行こう。言ってないから問題はないだろう! 

 ウン! その前にどの面さげて会えば良いのかわからんな!! 

 

 高速で脳内ノリツッコミを噛ましてダメージを受ける俺氏。

 

「あーもう。最近俺の頭の回転絡まりまくりだわ」

 

 とりあえず動こう。頭で考えてわからん時は動け。

 てか別に誘わないだけで会話は出来るし。

 変に気負うだけ損だな。

 

「だけどモヤモヤするのは変わらない…………よし、IS動かそう。動かしてる間になんか案浮かぶでしょ」

 

 それで良いのかと言われるかもしれんがこれが一番の特効薬なのよ。

 そうと決まれば善は急げ。IS展開! 

 

「さて。今日は空いてそうだが。ん?」

 

『IS反応検知。アリーナ内にIS反応検知』

「あれ、先客いた? 誰?」

『該当あり。更識簪、IS、打鉄弐式』

「マ?」

 

 簪さんがアリーナに。しかも弐式? 

 

 リニアカタパルトを借りずにフロートでゲート入り口に立ち、空をあおいだ。

 

「いた」

 

 アリーナ上空にそれはいた。

 銀鼠色を基調とし、オレンジと黒の差し色を施した。あの時ハンガーに鎮座していたIS。搭乗者は勿論、簪さん。

 

 緩やかに飛んだあと、弐式は直線状に急加速。アリーナ外周に到達し、そのままサークル・ロンドからの螺旋上昇。

 

 驚いた。もうあそこまで飛べる段階にあったのか。

 これを素体があるとはいえ一人でたどり着いたのか、あの娘。

 

 とりあえず気配を消してイーグル・アイで観察することにした。

 アリーナに出てるんだ。誰かに見られたって文句は言えないよな? 

 

「ところで。他に誰かいないのか? まさか一人って訳じゃないよな?」

 

 アリーナ内はがらんどう。居るとしたら管制室にいる先生ぐらいだが。

 

「ん?」

 

 気のせいか? 打鉄弐式の右脚部スラスターが点滅したような………いや気のせいじゃない。

 先程のを皮切りに右脚部スラスターの噴出孔が不完全燃焼のガスコンロみたいに小刻みに揺れている。

 

 明らかに普通じゃない。観察することを忘れて、俺は打鉄弐式にコンタクトを取ろうとした。

 

 その時………

 

「はっ!? おいマジかっ!!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

【疾風が打鉄弐式にコンタクトを取ろうとした数分前】

 

 

 

「ふぅ」

 

 第6アリーナ。IS学園の中央タワーに隣接されている高速機動実習が可能な特設アリーナ。

 

 その発進ゲート内で軽く息をつく簪がいた。

 

 タッグ申請の申し込み期限が刻一刻と迫ってきた。

 参加申請も出していない簪。出たくても完成していない打鉄弐式は武装データも、飛行データも満足に取れてない状況。

 

 今日はその打鉄弐式の試験飛行。

 

 今まで何度も飛行試験を行ったが、基本出力水準には到底及ばなかった。

 新しく取り入れたデータパックにより、これまで以上の出力パラメータを得られた。

 

 今回の試験飛行が成功すれば。打鉄弐式の完成がまた一歩近づく。

 

(そしたら、レーデルハイトくんとタッグも………)

 

 ありもしない想像をして大袈裟に首を横に振る簪。なんとか頭に浮かんだ何かを排斥しようと少しクラッとするまで振り続けた。

 

「なにを考えてるの、私」

 

 疾風のチキン南蛮丼に唐辛子をぶちこんだあの日。いや、彼とアイアンガイの映画を見に行った日から、簪にとって未体験の連続だった。

 

 互いの趣味を共有することも。

 我慢できずに声を張り上げたことも。

 家族や知人以外と一対一でご飯を食べることを。

 普段の自分ではありえない凶行に走ったことも。

 

 目の前の異性が輝いて見えたことも。

 

 そもそも彼以外に自分に踏み込んでくる男なんて居なかった。

 でも、そんな彼ももう自分と関わることはないだろう。

 

『もう誘うのやめるからさ』

 

 今までしつこく誘いすぎた。

 もう必要以上に干渉するのはやめる。

 

 あの時、彼の言葉を聞いて簪は思わず不安を覚えた。

 今まで散々彼を拒絶し続けていたのに。いざ彼にそう言われてそんな感情を蜂起させる。

 伸びたかき揚げうどんを食しながら、なんて身勝手な女だろうと自分を嫌悪した。

 

 その日簪は彼を夢に見た。

 夢の中の彼はヒーローのように自分を守ってくれて、こう言ったのだ。

 

『怖いことなんかないぞ。俺に任せろ!』

 

 憧れのヒーロー。アイアンガイと同じ台詞。

 簪はよりにもよって自分の好きなヒーローと疾風を夢の中で同一視してしまったのだ。

 

 なにかの間違いだと信じたかった。

 忘れたかった。

 それなのに寝起きの簪はその夢をバッチリと記憶していたのだ。

 

 再び首を振った。

 集中しなければ。失敗などもう許されない。

 これ以上。姉に置いていかれる訳には………

 

「おいで。打鉄弐式」

 

 右手中指にはめられたクリスタルリングを起点に光が溢れる。

 量子光は簪の身体を多い、鋼の躯体を現出。専用機である打鉄弐式を纏った。

 

「今日こそ、成功させる」

 

 ホロウィンドウを展開。

 機体の最終チェックを終え、リニアカタパルトを起動。

 空中投影ディスプレイによるガイドラインとカウントダウン表示を確認。

 『Ready』から『Go』に変わった瞬間に打鉄弐式は加速。第6アリーナのフィールドに飛び込んだ。

 

「機体状態、良好。シールドエネルギー発生確認。スラスター問題なし。イメージ・インターフェース感度、セミアクティブからアクティブへ。ハイパーセンサー接続。オールグリーン」

 

 飛びながら簪さんはホログラムキーボードを操作し、画面の情報を残らずかき集める。

 ここからは逐一プログラムの誤差を修正しながら飛ぶ。

 当たり前のようにやっているが。はっきり言って人間技ではない。

 飛ぶことに集中しながらプログラム作成。マルチタスク能力に長けた簪だからこそ出来る妙技。

 

 この技術は流石の楯無も出来ないこと。簪にしか出来ない。唯一姉に勝る技能。

 だがその事実を、他ならぬ本人は知らずにいた。

 

 コンソールで操作しながら中央タワーをぐるりと移動。

 通常飛行は問題なし。

 

「メインスラスター、脚部スラスター、姿勢補助スラスター。問題なし。PIC干渉領域、6cm移動。グラビティヘッド、マイナス4cmに調整。シールドバリア。予備展開から通常展開へ」

 

 シールドバリアを展開した瞬間、ガクンと機体がわずかに揺れた。

 階段を踏み外したような感覚。今までこんなことはなかった。

 簪は直ぐに原因を調べた。

 

「腕部と脚部の、シールド発生装置が、相互干渉?」

 

 どうやらシールド同士がぶつかってPICの一部が反転したらしい。

 即座に修正し、再起動。

 問題クリア。ここまでは今までどおり。問題は次の工程。

 戦闘出力の試験飛行だ。

 

「直線機動からサークル・ロンド。螺旋機動から、最大戦速。ブーストオンッ」

 

 全スラスターファイア。通常なら多大なるGがかかるその速度をPICが相殺してくれる。

 そのまま中央を向きながらアリーナの外周をサークル・ロンド。徐々に円を狭めていき。そのまま螺旋状に上昇した。

 

「いける。あとは」

 

 バーニアに最大の火を入れるためにエネルギーをためる。瞬時加速(イグニッション・ブースト)はまだ行えないが。いまの打鉄弐式が出来る最大速度を出す。

 発動タイミングは、アリーナシールドの上層部に到達した瞬間。

 

(10、9、8、7………)

 

 心の中でカウントを数える。

 その間もコンソールを動かす手を止めずに螺旋状に上昇。

 

 3、2、1………上層部到達。

 

「行って!」

 

 景色を置き去りにするほどの加速で打鉄弐式を飛ばす。

 直線から緩やかに戦闘機動を取る姿は打鉄のカスタム機とは思えないほどの機動性能だった。

 

「やった、成功した。このまま多角機動を」

 

 パパッ、パッパッ。

 

「え?」

 

 自分の耳に聞いたことのない音が聞こえてきた

 自分の足の方からだ。

 コンソールを開いて状況を確認しようと指と目を動かした刹那。打鉄弐式の右脚部ブースターが音を立てて破裂、爆発した! 

 

「えっ!? うっ!」

 

 突然の衝撃と脚部ブースターが片肺になったことで打鉄弐式の姿勢制御は崩壊。

 機体ごと大きくコースアウトした打鉄弐式はそのままIS学園のシンボルである中央タワーに向かっている。

 

「半重力制御が! メインスラスターの出力も上がらない!? ど、どうして!」

 

 自信をもって自分が作り上げたISの不調に簪は動揺を露にする。

 

 だが現実として打鉄弐式は制御不能。

 ディスプレイには夥しい数の赤いerror表示の数々。コンソールのホロキーボードをどれだけ操作しても、errorのポップアップが更に展開されるだけだった。

 

 タワーまで、あと数十秒で衝突

 タワーとIS双方にシールドが展開されているとは言え、この速度で突っ込めば打鉄弐式にダメージ、下手すれば簪自身が危険に晒される可能性があった。

 

「………やっぱり、だめなの?」

 

 急に簪はキーボードを動かす手を止めた。

 脳裏に浮かぶのは。あの更識楯無、自分の姉の姿。

 

「私じゃ、あの人には追い付けないの? ………私、ほんと惨めだ………」

 

 そのまま簪は腕をだらんと下ろした。

 涙に滲む目をゆっくりと閉じて、これから起きるであろうありのままを受け入れ………

 

「おい馬鹿!! 諦めてんじゃねえ!!」

「っ!」

 

 反射的に目を見開き、声のする方へ。

 そこにはスカイブルー・イーグルと共にこちらに急接近する疾風の姿があった。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づいた疾風は簪と合わせるように緩やかにブレーキ。そのまま彼女を受け止めた。

 

 だがタワーに近づく状況は変わらない。このままでは。

 

「レーデルハイトくん、どうして……」

「簪さん!! 弐式の操作系統を全部イーグルに回せ!!」

「え、でも」

「早くっ!!」

「う、うん」 

 

 イーグルの接触回線からの要請を受けいれ、打鉄弐式のコントロールが簪から疾風とイーグルに移った。

 

(イーグルと弐式のPIC、シールド領域コネクト。弐式の右脚部へのエネルギーカット、同時にPIC力場で補強。OSのサブフォルダ展開、演算構築。グラビティヘッドを機体サイドに分散。エネルギールート測定、クリア。バグったプログラムを停止、イーグルのバックアップで補強。よしっ! シールドエネルギー出力最大! PICブレーキも最大出力!!)

 

 二機の周囲に普段不可視で機能していたシールドバリアが可視状態になるまで強くなる。

 機体のブレが直り、error表示の半分以上消えた。だがまだ打鉄弐式のコントロールは回復しない。

 ならぱ取るべき行動は一つ。

 

「簪さん歯食いしばって!」

「んっ!!」

「曲がれぇっ!」

 

 イーグルのスラスター方向を真横に設定し再度瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 間一髪タワーの外壁を掠り、衝突を避け。そのまま簪さんを庇うように疾風はアリーナの球状シールドにイーグルを背面からぶつけた。

 

「ウヌヌヌヌヌヌ!!」

 

 火花を起こしながらアリーナシールドを滑るイーグルは。緩やかな角度で滑りながらアリーナの外壁に衝突。

 

「んあっ!!」

 

 外壁は砕け、派手な土埃を巻き上げ。機体はようやく停止した。

 

「うえ……いっったぁ………」

 

 ISの操縦者保護とPIC、壁を引きずった時に減速したとはいえ。瞬時加速の状態で背中を打ち付けた衝撃は完全に殺しきれず。疾風は思わず痛みに顔を歪めた。

 

「れ、レーデルハイトくん! 大丈夫!?」

「ん、ああ。凄まじく痛いけど。大丈夫死んでない。簪さんは?」

「う、うん。私は傷一つ、ない」

「そっか。あーいてー!」

 

 ドサッと再び砕けた外壁に身を預ける疾風。

 安堵の表情を浮かべる疾風に。簪は形容できない胸の高鳴りを感じた。

 まるでヒーロー。今の疾風は誰かの危機に馳せ参じ、守り抜くヒーローに他ならなかった。そう簪の目には写った。

 

 ふと簪は自分の状況を再認識する。

 身体は疾風に密着し。ISの中に。否、彼の身体にすっぽりと収まっている。

 必然的に彼の顔と距離が近く、彼の荒い息づかい、心臓の音が鮮明に鼓膜に飛び込んできた。

 体温が一気に上昇した。こんなに異性と密着したのは初めてだった。

 ………でも全然嫌悪感を抱かないのは何故だろう。彼だから? 疾風だからそうなのだろうか。

 

『もしもし! 第6アリーナの2機! 今タワーが揺れたんだけど、何が起こったの?』

「こちら、1年1組の疾風・レーデルハイトです。もう1機は1年4組の更識簪です。IS訓練中の事故です。タワーをかすって、そのまま外壁に衝突しました」

『更識さん!? 怪我してない!? 大丈夫なの!?』

 

 この声は数学担当教師のエドワーズ・フランシィ先生だった。

 そして1年4組、簪のクラスの担任でもある。

 

「いま身体スキャンをしましたが、どっちも怪我はしてないです。このままピットに戻ります」

『オーケー。気をつけて戻りなさい。今そっちに行くから』

「了解です………簪さん。コントロール返す。悪いけど動かすなよ。また不調出たらヤバいから」

「う、うん」

「じゃあ失礼」

 

 疾風はそのまま簪をお姫様抱っこに移行してゆるりと飛行を開始した。

 

「ヒャッ!」

「変な声出すなよ」

「だ、だってこんな」

「お望みなら俵みたいに担いでやるぞ」

「こ、このままで、いい」

「了解。捕まってろよ」

 

 簪の了承を得た疾風は引き続きゆっくりとアリーナ入り口に戻っていく。

 その間簪は疾風の顔をジッと見つめていた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「タワー外装破損。外壁粉砕。当たり前だけど報告書か」

 

 フランシィ先生に状況説明をしてから報告書提出を余儀なくされた。

 

 加えて打鉄弐式の右脚部は交換必須。イーグルに至ってはカスタムウィングも結構ぶっ壊れてる。幸いIS学園に保管してるスペアパーツでなんとかなりそうだ。

 命あっての物種というが。流石にダメージあり。生身のボディに傷がないのが唯一の救いだった。

 

 さて、問題の子は目の前で申し訳なさそうに項垂れている。

 

「あの、えっと………」

「一人か?」

「え?」

「専用機、まだ試験中なんだろ? なのに一人で飛ばしたのか?」

「………一人」

「そうかい………」

 

 やはりというか。予想通りと言うか。

 別に試験操作を一人でやってはいけない。という明確な決まりはない。ましてや代表候補生なら許可を取る必要はない。

 俺たちが臨海学校で新パッケージや新装備を試すときは個人個人でやる手はずだった。

 

 だが未完成、試験製作中の試験飛行なら話は別だ。

 今日みたいに飛行中にトラブルが起きる可能性は充分あるし。実際今日はそれが起きてしまった。

 

「打鉄弐式のフライトプラグラムのデータを見せてくれ」

「そ、それは」

「倉持技研にはとっくに許可申請は貰ってる。あとはお前の同意があれば見れる。ほら」

 

 ウィンドウに移した倉持技研とレーデルハイト工業専属パイロットの共同開発許可証明書を出してやると。簪さんは思いの外直ぐにシステムウィンドウをこっちに見せてくれた。

 

 さっき不具合があった場所を軽くサーチしたから直ぐに………あった。

 

「やっぱりな。飛行プログラム同士のマッチングエラーが起きてる」

「嘘っ! そんなはずは」

「ここ、アメリカのバージョン6.6と日本のバージョン7.1。どちらも真新しいバージョンだが、これを同時に使うと重大なマッチングエラーを起こす、公式でも注意勧告が出てお上は対処に動いてるらしい。他にもここ、データ配列が間違ってる。プログラム系でアマチュアな俺でも気づけたのに。なんで気づかなかった」

「………」

 

 簪さんは信じられないという目で指摘された箇所を食い入るように見た。

 

 プログラムのマッチングエラーはまれだが、ここまで噛み合わない=爆発するまでの欠陥に至ったのは他にも問題がある可能性もある。

 

 だが問題はそれだけじゃない。

 俺の予想が正しければ、彼女はもっと大きな過失をしている。

 

「この日本とアメリカのバージョン、いつ入れた」

「昨日の、夜」

「その時誰かに見てもらったか? もしくは試験飛行前に他の人にチェックしてもらったか?」

「…………」

「どうなんだ」

「………やって、ない」

「なんでやってもらってないんだ」

「だ、だって………打鉄弐式は………私の力だけで、私一人で、組まないと意味が」

「馬鹿野郎っ!!」

 

 俺の怒鳴り声にビクッと身体を跳ねさせ、思わず俺の顔を見る簪さん。

 その眼には。怒りを露にする俺自身の顔が写っていた。

 

「試験飛行前のダブルチェックは基本中の基本だろ! ましてや新しいプログラムを入れるならなおさらだ! 学園の専属整備士や専門のライセンスを持った教師、三年生の先輩方もいる。ましてや企業提供ではなく個人で作るならダブルチェックの重要さは知ってるだろ!」

「で、でも………」

「でももへったくれもあるか! 今回はスラスターだけの異常だったから良かったけど。もしシールドエネルギーやPICの不調も加わったら怪我どころじゃない! 取り返しのつかない事態になったらどうするつもりなんだ! ────死んじまったら何もかも終わりなんだぞ」

「………」

 

 最後だけかすれ気味になってしまった。かっこがつかない。

 目頭が熱くなってこらえるように目を細める。

 

 仮にシールドやPICが生きていたとしても。もし殺しきれない衝撃が打ち所の悪い場所に当たったら? 

 ISなら大丈夫だろう。だが物事に絶対がないようにISにも絶対はない。

 

 今回の事故は完全にヒューマンエラー。回避しようと思えば十二分に回避出来るのだ。

 

 目の前に立つ簪さんが俺の顔を見たまま固まってることに気付き。俺は1度大きく深呼吸をして頭の熱を排出した。

 もう一度深呼吸をし、ようやく心を落ち着かせた。

 

「いきなり怒鳴ったのは悪かった。だけど、今回ばかりは流石に看過出来ない。へたすりゃ死ぬところだった」

「………………」

「寝不足だろ、お前。何日徹夜してんだ、隈が凄いぞ。ルームメイトに話聞いたけど。随分と遅くまで熱心にやってるみたいじゃないか。ろくに休んでない疲労状態ならこんなチェックミスもあるよ。簪さん、頑張るってのは無理をすることじゃないぞ。頼むから自分を大切にして。簪さんに何かあったら本音さんも悲しむ。勿論俺だってそうだ」

 

 大の大人である父さんでも徹夜が続けば判断力が鈍る。

 簪さんが一人でやりたいって気持ちは。俺にもわかる。だけどそれでは駄目だということも俺は知っている。

 

「………わからない。どうして、なんでそこまで、私を助けようとするの? どうして、無茶をするの? こんな私なんかのために」

「似てるから」

「誰と」

「俺と簪さんが」

「私が、レーデルハイトくんと?」

「うん。IS学園に入る前の俺はさ。なんていうか、意地っ張りだったんだよね」

 

 一夏がISを動かしてから、一夏に対して嫉妬心を抱いていたことを。

 一夏が初めて動かした打鉄をたった一人で調べて。結果を出せずにもがき苦しみ。そして自暴自棄になりかけたこと。

 そして自分は一人じゃないことを知ったこと。誰かに頼ることは決して弱さではない。一人で出来ないことも力を合わせれば出来るという大切なことを再認識したことを。

 

「最初は確かに頼まれたから誘った。だけど簪さんを見てるうちに、簪さんが一人でIS製作をしてる後ろ姿がさ。本当に少し前の俺と重なって。俺は心の底から助けになりたいって思った。たとえ簪さんが望まなくても」

「レーデルハイトくん…」

「だから簪さん。昨日の今日で情けないけど。やっぱり俺とタッグ組んで欲しい。何度でも言う、俺は簪さんと一緒に頑張りたい」

 

 言いたいことは全部言った。

 これで駄目でも俺は何度だって言う。

 もう突き通すと決めた。簪さんが頑なにタッグを組まないと言っても、せめてIS製作には関わらせて貰う。

 

 もう俺と簪さんは、既に無関係ではなくなったのだから。

 

「………………レーデルハイトくん」

「うん」

「考えさせて………受付締め切りまで」

「わかった」

「それと」

「ん?」

「ごめんなさい。迷惑かけて。もう、無理はしない。約束する」

「そっか。わかってくれたならいい」

 

 飛び込んでイーグルを半壊させた甲斐があったというものだ。

 

「あと、えっと………………ありがとう。助けてくれて」

「どういたしまして」

 

 簪さんとの溝も。また少し近づいたことだろう。

 怪我の功名とも言えるが。文字通り結果オーライということで。

 

「しつこいようだけどさ。本当に無茶すんなよ。簪さんに何かあったら。会長ギャン泣きするよ」

「それはない。お姉ちゃんは………悲しんだりしない」

「なんでさ」

「お姉ちゃんは、完璧だもの。出来損ないの妹に何が起きたって………眉一つ動かさない」

「えーと………どんだけ会長、お姉さんを美化してるかしらんけどさ。あの人言うほど完璧じゃないぜ?」

「へ?」

 

 スコンと、だるま落としみたいに簪の思考回路がすっとんだ。

 

「普段他人をからかってるけど。逆にやられると案外弱いし。しかもドのつくシスコンで簪さんのことになると話止まらないし暴走するし。今回会長が俺に頼んだのだって簪さんが心配で心配で心配過ぎるから頼まれた訳だし」

「え、えっ、え?」

「あと…………裸エプロンとかもするし」

「は、はは裸エプロン!?」

 

 特大の爆弾を落とされた簪さんは今まで見たことないぐらい動揺した。

 

 そりゃそうだ。日本の裏のドンがあろうことか男子を前に裸エプロン(厳密には水着エプロンだったが)で新婚三択なんかしちまうなんて誰が思うのか。

 

「し、信じない。そんなことあるわけない!」

「はい証拠」

 

 息をつく暇を与えずに見せたのは、今後なんかのネタで使えると思って撮った会長の水着(裸)エプロンの写真と。

 妹の話題で熱暴走する会長のシスコントークの録音だった。

 

「………………………」

 

 簪さんの顔がさっきよりカチコチに固まった。

 今まで抱いていた完璧な更識楯無像を木っ端微塵にされたのだから無理もなし。

 

「これでもまだ疑う? お前に何があってもお姉さんが眉一つ動かさないなんて」

「……………………」

「簪さん? ……簪さん!?」

 

 フラッと突然簪さんの身体から力が抜けた。

 俺はすんでのところで簪さんを抱き止めて簪さんの状態を確認する。

 

「キュウ………」

「え? えーー?」

 

 キャパシティオーバー。

 人は想定外がピークに達すると防衛本能として意識を手放す。

 俺も経験がある。つい最近。

 

「………ハハハ」

 

 なんというか。

 やっぱり俺たち似た者同士だわ。

 

 現実逃避をしながら俺は乾いた笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 




 一歩間違えてたら死んでた………といっても過言ではなかったよなと思いながら書きました。

 ヒューマンエラーによって無残な姿になった航空機とかのドキュメンタリードラマを見ると胸が張り裂けそうになりますわ。
 確認はしっかりしないと駄目ですよね。
 簪は幸運です。
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