真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART54 BIG GOD IS HOLLOW

 

「失敗? 小次郎とアレフが二人がかりで? は? マジで?」

 

 タルタロス内部、派遣されてきた資材班と一緒に、ターミナルのリンクを試みていた八雲が、もう一つの作戦失敗の報と共に送られてきた情報に首を傾げる。

 

「データ、これか。………マジかこれ」

 

 送られてきた幾つかの画像を持参のノートPCで見た八雲が、そこに写っている巨大な影に顔をしかめる。

 

「これって、アレか?」

「どう見ても巨大ロボ、だよな」

「どこから一体?」

「ギガンティック号が変形して現れたらしい」

 

 脇から覗き込んだ修二も唖然とする中、資材班も送られてきたデータを見て思わず作業の手を止める。

 

「ここの責任者のフリンだったか、呼んできてくれ。一応知らせとく」

「信じてくれっかな………」

 

 修二がうなりながらもフリンを呼びに行き、ほどなくフリンだけでなくイザボーやダンテも姿を見せる。

 

「状況の急激な変化と聞いたが」

「こういう変化」

 

 八雲がノートPCに写っている巨大な影を見せる。

 

「全長ざっと160m前後、こちらでも使ってる万能揚陸艦が変形した代物らしい」

「これって、何? 巨像か何かかしら?」

「だったらいいがな。こういうのは巨大ロボって言うんだ」

「なかなかいいセンスしてるぜ」

「これがこっちに向かって火吹く可能性なけりゃな。どう見てもスーパー系特機だ」

「スーパー系いいじゃないか」

「オレはリアル派なんだよ。トロいだけのスーパー系なんてのは」

「火力有ってこそのスーパー系だろうが! 男なら一撃勝負だ!」

「悪いがオレは削っていくリアル派なんだ」

「………何の話ですの?」

「さあな」

 

 何か明後日の方向に白熱していく八雲と修二の議論に、イザボーが理解出来ないでいるが、ダンテは薄々気付いているのか苦笑いする。

 

「向こうでこれからこの特機についての対策会議が始まるらしい。一応聞くが、こういうのと戦った事は?」

「さすがに無い」

「幾ら何でも、その大きさは………」

「斬るのは少し苦労しそうだな」

 

 フリン、イザボー共に険しい顔をする中、ダンテだけは不敵な顔のままだった。

 

「………最悪、ダンテに相手してもらうとして」

「絶対周囲巻き込むぞ………」

 

 八雲が作業を再開させながら呟くのを修二が呟き返す。

 

「こちらはなんとかプログラムの解析が終わりそうだ。これなら、多少の修正でリンク出来るだろう。………転送の方の仕組みは理解しきれんが」

『微調整はこちらでやるわ』

 

 八雲の説明に、フリンのガントレットからバロウズが返答してくる。

 

「疑似人格搭載の多機能端末か。いい物使ってんな」

「貴方の話してる言葉は半分くらい分からないのだけど」

「オレ使ってるのはこれだからな。そんな都合のいいAIなんぞ積んでない。ヤクザな女悪魔は入ってたが」

 

 GUMPを見せる八雲のボヤキに、イザボーは小首を傾げるだけだった。

 

「ともあれ、このターミナルとやらが無事繋がったら、向こうの緊急会議に出てもらう事になるだろ。さっきのとやり合うためにな」

「分かった、急いで頼む」

 

 フリンがうなずき、イザボーを伴ってその場を離れる。

 

「冥界で暴走してる奴とやりあったと思ったら、今度は変形ロボか。意外と多芸な乗り物だな」

 

 ダンテが苦笑しながら送られてきたデータをまじまじと見るが、作業を続けていた資材班達が顔を見合わせる。

 

「そんな機能はついてないはずだ、誰がどんな改造した?」

「というか、改造でどうこうなるレベルかこれ………」

「専門用語で魔改造って奴だな。女性型じゃないだけマシだろ」

「それはそれで面白そうだがな」

 

 八雲の余計な突っ込みに、想像したのかダンテはさも楽しげに笑う。

 

「早い所こちらを終わらせちまおう。そのデカブツとどうやり合うか決めて準備しなくちゃならねえだろうし」

「やりあう気なのか、これと?」

「やり合う事になるだろ、どう考えてもな………」

 

 平然とその巨大な影と戦う事を口にする八雲に、資材班達は思わず生唾を飲み込んだ………

 

 

 

「何よこれ………」

「大っきいね~」

「まさか、こんなのまで………」

「マジかよ………」

「こんな物とどう戦えば………」

 

 わずかだが持参してきた物資と情報の交換を行っていたアサヒ達が、カチーヤとネミッサが持参してきたタブレット端末に送られてきた巨大な影を見て誰もが絶句する。

 

「これが、ギンザに現れたっての?」

「らしいです。今の所、目立った行動はしてないみたいですけど………」

 

 ノゾミの確認に、カチーヤが少ないながらも送られてきた他の情報と照らし合わせていく。

 

「元が目立ちすぎよ! 誰こんなの作ったの!?」

「神取とかいうマッドだってさ~。弟ってのが殴りに行ったはずだったけど」

 

 アサヒが声を上げる中、ネミッサが支援用に持ってきたはずのカロリーバーをかじりながら教える。

 

「幾らなんでもヤバすぎだろ、これ………」

「どう戦えばいいのか、検討もつかん………」

 

 ハレルヤとガストンが呆然としながら、その画像を見つめる。

 

「幾ら大きくても、機械なら対処法はあるはず。一番妥当なのは中に入って制御系を止めるか壊せばいい」

 

 唯一、トキだけが冷静に対処法を提案する。

 

「冥界でもやったよね~、それ」

「でも止まらなくて、皆さんで仲魔総動員の力技で止めましたけど………」

 

 ネミッサが笑いながら前例を述べ、カチーヤがやや渋い顔をする。

 

『そんな物より危険な物が、すぐそこにいるがな』

 

 そこで突然聞こえてきた声に皆が振り向き、何故か離れた所にいた名無しのスマホから、ダグザが出てくる。

 

「この創生の雛形の世界に、なぜお前がいる? ネミッサ、《滅びの歌》よ」

「そんなのネミッサの勝手じゃん」

「そいつは死を迎える時に輪廻転生を導く滅びの歌、滅びの因子其の物だ。この世界では、もっとも危険な存在だぞ」

「なんか皆さんもそう言いますけど………」

 

 明らかにネミッサを異様に危険視しているダグザに、当のネミッサは平然と聞き流し、カチーヤはたじろぐ。

 

「それは正しくもあり、間違いでもあります」

 

 そこで今度はノゾミからダヌーが現れ、ダグザの言葉を一部訂正する。

 

「彼女は正しき死と輪廻の導き手。生命がいずれ迎える死を受け入れさせるための存在なのです。あなたとは真逆ですね」

「やはり貴方とは相容れないな、母よ。だがもしそやつがその気になれば、この神殺しはいともたやすく冥府に送られる事になるぞ」

「え!?」

 

 ダグザの言葉に、アサヒが過敏に反応する。

 

「別にそんな事しないよ~、やり方分かんないし。分かってたら、あの世でもっと楽できたから」

「え~と………」

 

 これまた自分の事なのに平然と受け流すネミッサに、カチーヤはどうフォローすべきか迷う。

 

「あの人修羅ってのも変わってたが、こいつも相当だな」

「そもそも何をしにきたのだこいつは?」

 

 ハレルヤとガストンがやる気の欠片も感じられないどころか、持ってきた食料を平然とつまみ食いしているネミッサに胡乱な視線を向ける。

 

「知らんぞ、どうなっても」

「それは貴方の事でしょう」

 

 互いに捨て台詞を吐きながら、ダグザとダヌーは元へと戻る。

 

「厄介事が加速度的に増えていくぞ、どうなっている!」

 

 ナバールがもっとも簡単に状況をまとめ、怒声を上げる。

 

「こちらもなんとか一つずつ対処してるんですけど、中々…」

「あら、見えてるの?」

「え? この人思念体か何かじゃないんですか?」

「てっきり雑魚悪魔がうろついてるのかと」

 

 カチーヤが見える人が少ないナバールに説明してるのを見たノゾミが僅かに驚き、こちらも見えているらしいネミッサが思いっきり失言する。

 

「誰が雑魚悪魔だ! これでも私は元ミカド国のサムライだぞ! 今は幽霊だが………」

「ふ~ん。あ、さっきの緑のおっさん言ってたの、これで確かめてみよっか?」

「やめい! 私はまだ成仏も輪廻転生もする気はないぞ!」

「いい加減諦めたら?」

 

 しれっとアレな事を言うネミッサに、ナバールは慌ててナナシの背後に隠れ、それを見たノゾミは呆れる。

 

「とにかく、物資が届くようになったら装備を整える必要が有る。大規模な作戦が起きそうだからな」

「さすがにアレとやれって言われたらオレ逃げるぜ?」

 

 やる気になっているガストンに、ハレルヤはやや及び腰だった。

 

「大丈夫、これの中に飛び込むんだったら十中八九、八雲がやらされるから」

「私達も一緒かもしれませんけど」

「え、そうなの?」

「そうかあの男はそういうのの専門家か」

 

 ネミッサとカチーヤの説明に、アサヒは首を傾げるが、トキは何か納得していた。

 

「専門家だと? 葛葉とやらは破壊工作員でもやとっているのか?」

「八雲さんは元ハッカーのスカウト組なんですよ」

「PCいじるの得意だからね~。ま、他にも得意なの何人かいるけど」

「どんなメンツ集まってんだよ………」

「こっちもあまりよその事言えないけれどね」

 

 説明を求めるガストンにカチーヤとネミッサが一応説明してやるが、ハレルヤとノゾミが苦笑する。

 そこで見張りをしていたハンターの一人が飛び込んできた。

 

「上階にてシャドウ発生確認! 数が多いので増援を!」

「やれやれ、こっちはこっちでやる事あるようね」

「手伝います」「食後の運動もしないとね♪」

 

 ノゾミが向かおうとするのに、カチーヤとネミッサも続く。

 

「私達も…」

「ナナシ君とアサヒちゃんは来て。後は念の為待機してて。手足りないようなら呼ぶから」

「了解した」

「上だけじゃなく下から来るかもしれねえしな」

「警戒箇所だらけだ」

「私は弟子に憑いてるからな!」

 

 他の者達も警戒態勢を取る中、ノゾミがそっとカチーヤに囁く。

 

「ナナシ君に注意してて。ダグザ神が何をしでかすか、まだ分からないから」

「分かりました。私も似たような物ですけど」

「カチーヤちゃんは暴走しそうになったらネミッサが止めてあげるから」

「どこも危険要素ばかりか………」

 

 状況が更に混沌化していくのを感じつつ、ノゾミは愛用のショットガンに初弾を装弾した。

 

 

 

「市街地の思念体、撤退を開始しました!」

「急襲部隊、現在撤退中! 追撃は無い模様!」

「潜入部隊の帰還を確認! 負傷は軽微だそうです」

 

 矢継ぎ早の報告を聞きつつ、克哉は少しだけ胸を撫で下ろす。

 

「一時沈静化、と言った所か………」

「どこもあの巨人を警戒し、様子見と言った所だろう」

 

 事態の急変を聞いて警察署に来たゲイルが、送られてきた画像を見ながら状況を整理する。

 

「まさか神取がここまでするとはな………前は機動兵器クラスだったが、これはなんと言えばいいのか………」

「同感だ。コレほどの物の運用には、あまりに多数かつ多量のコストが必要になる」

「どうやってそれらを用意したかは、この際放っておこう。考えなければならないのは、どう対処すべきかだ」

「正面戦闘は不可能と言っていい。いかなる作戦を立てるにしても、まずは情報だ」

「似たような物とライドウ君は戦ったと言っていた。まずはそこからか………」

 

 今までの敵と比べても、あまりに異質過ぎる敵に、克哉もゲイルも対策を見いだせないでいた………

 

 

 

「これは………」

「いつからロボット物になったのよ!」

「マジ、これマジ?」

「ウソだろ………」

 

 ムスビの撤退により、臨戦態勢をといた防衛の任にあたっていた者達が、業魔殿に集められ送らてきたばかりのそれの画像を見せられていた。

 

「ライドウ」

「間違いない、超力超神だ」

 

 ゴウトとライドウが、鋭い目つきでその巨人を見つめて呟く。

 

「海軍省から超力兵団計画資料を奪った理由はこれか」

「定吉になんと言えばいいか………」

「その時は、どう戦った?」

 

 険しい顔をするライドウに、達也が問う。

 

「先に打ち上げられた衛星タイイツから動力が供給されていた故、ロケットでそれに乗り込み、破壊したのだ」

「ゴウトはそれで前の体を失い、今はこの体になっている」

 

 それを聞いたたまきが思わず溜息をもらす。

 

「その手は無理ね。前に聞いたけど、レッド・スプライト号の動力って融合炉よ。わざわざ外から供給する必要ないし、マガツヒまで集めてたとなると、他の供給方法が有るかも」

「いや、確かレッド・スプライト号の融合炉の起動にはかなりのエネルギーが必要と聞いた。マガツヒはそれに使われたのだろう」

「じゃあ止められないって事!?」

 

 ロアルドの解釈に、アルジラが思わず叫ぶ。

 

「手が無いわけではない。内部の動力を停止させるか、制御系を停止させれば、停止は可能だ」

「入るの? あの巨大ロボに」

「かなりヘビーな手段………」

「そもそも近寄れるのかい?」

 

 ゲイルが淡々と指摘するが、リサ、ミッシェル、淳が矢継ぎ早に難色を示す。

 

「相手の武装も分からんのに、不用意に近付くのは愚策だろう。いささか消極的だが、あの巨体ならば各勢力も必ず反応する。まずはそれを見定めるべきだろう」

 

 ゴウトの提案に、誰もが顔を見合わせ、頷くしか出来なかった。

 

『連絡します。もう直降下していた部隊が帰還します。それに併せ、レッド・スプライト号ミーティングルームにて今後の方針についてのミーティングが行われます。一時間後、各リーダーの方はこちらに集結ください』

 

 そこへレッド・スプライト号からの通達が業魔殿へと伝わり、全員が悩んだ顔をしながらある者は体制を整えるために戻り、ある者はレッド・スプライト号へと向かう。

 だがそこで、達也がその場から動かず何か考え込んでいた。

 

「どうしたの情人?」

「………あれが本当に神取の切り札なのか? あの男なら、まだ何かを隠してるような気がする」

「考え過ぎだってタッちゃん」

「あれ以上に何かあるのかな?」

 

 仲間達が達也の懸念を否定するが、達也はその疑念を振り払えずにいた。

 

 

 

一時間後

 

『参加者の集結を確認、ミーティングを開始します』

 

 アーサーの宣言に、居並ぶ者達は表情を険しくする。

 

『まずは最初に新規参加の方の紹介を』

「ミカド国の元サムライ、フリンだ。状況は簡易的にだが聞いている。こちらも出来る事はさせてもらおう」

 

 先程開通したばかりのターミナルを通じて来たフリンが簡単に自己紹介した所で、ミーティングは始まる。

 

「まずはあの巨大ロボの元になった機体の説明を聞きたい」

『了解です。ギガンティック号はシュバルツバース調査計画の4号艦で、乗員の半数以上が機動班で構成された、戦闘艦としての役割を担っていました』

 

 開口一番の克哉からの質問に、アーサーが説明を始める。

 それにキョウジが続けて質問する。

 

「レッド・スプライト号との性能差は?」

『レッド・スプライト号は調査計画の要となる研究艦としての役割も持っていたため、ラボを中心とした設備にリソースを割いています。ギガンティック号にはそのような物がないため、戦闘力としてはあちらが上となるでしょう。ただし、あのような改造は想定外のため、私に記録されているデータの信用度は低いと思われます』

「超力超神は物理的改造に呪的改造を重ねている。別物と考えるべきだ」

 

 ライドウが補足した所で、皆の視線がそちらに集中する。

 

「ライドウ氏はあれと似たような物と戦った事があると聞く。どう戦った?」

「一部には話したが、こちらでは超力超神は二隻存在した。一隻は動力を絶ち、もう一隻は呪的要素が強かったので、調伏した」

「あれと戦ったのか、さすがライドウ」

 

 説明を求める克哉にライドウが説明するが、キョウジを含めて皆が半ば関心、半ば呆れていた。

 

「それで、今回はどちらだ?」

「神取が造ったのなら、恐らく機械的部分が多いはずだ。だああいつの技術は飛び抜けているから、どんな改造が施されている事やら………」

「あそこまで行けば、科学もオカルトも境が無いような物だからな………」

 

 フリンの確認に克哉が仮説を述べるが、尚也はセベクスキャンダルを思い出して言葉を濁す。

 

「内部潜入班を組織し、無力化を図るのが妥当だと思う」

「どうやって気付かれないように侵入するかだ」

「他の勢力も何らかのアクションを起こすだろう。便乗するのは?」

「相手が相手だ。陽動も難しい」

 

 仁也の提案を皮切りに、皆が具体的な対策を検討し始める。

 だがそれは突然中断された。

 

『お待ち下さい。現時点では、いかなるミッションも推奨できません』

 

 アーサーの一言に、検討の声が止まる。

 

「どういう事だ?」

『ギガンティック号にはある特殊兵装が装備されています。それが無力化されない以上、どのようなミッションにも極めて大きな危険が伴います』

 

 克哉の鋭い問いに、アーサーはどこか曖昧な返答をする。

 

「特殊兵装? 極めて危険?」

「一体何だそれ?」

「………まさか、核か?」

 

 誰もが疑問に思う中、小次郎が恐ろしく険しい表情でアーサーに問う。

 

『………その通りです。ギガンティック号には核弾頭が装備されています』

 

 アーサーの返答に、その場を驚愕が走り抜ける。

 

「核弾頭だと!? 聞いてないぞ!」

『最重要機密事項です。ごく一部の幹部クラスのクルーにしか知らされておりません』

 

 仁也が一番狼狽する中、アーサーは淡々と説明する。

 

「かか、核弾頭だぁ!?」

「ちょっと待ってくれ! 間違いないのか!?」

 

 キョウジの声が思わず裏返り、尚也は再度聞き直す。

 

『認識信号を確認、ギガンティック号内部には未だ核弾頭がある模様』

「すまんが、核とは何だ?」

 

 そこで状況を理解していないゴウトとライドウが首を傾げる。

 

「人類が作り出した最悪の兵器だ。オレのいた世界は、それで一度崩壊している」

「オレも見た。核兵器とやらで崩壊した世界を」

 

 小次郎とフリンの説明に、ようやく状況を理解したライドウも表情が険しくなる。

 

「外部から停止は?」

『可能ですが、直接操作されれば解除は可能』

「神取が扱い方を知ってるかどうかか………」

 

 アレフが無力化を提案するが、アーサーの返答に克哉の顔が険しくなる。

 

「いや、むしろオフライン状態で外部操作を不能にし、認識信号だけ出しておく方が合理的だろう」

「存在だけを知らしめておけば、抑圧効果は十分だ」

 

 南条とゲイルの指摘に、その場に更に重い空気が立ち込める。

 

「よりにもよって核弾頭か………とても市民に情報公開出来んぞ………」

「そっちに関してはオレも同意だ。今でさえヤバいのに、完全に混乱状態になるな」

 

 克哉が頭を抱え込みながら呟くのを、キョウジも同様に天井を見上げて唸る。

 

「情報封鎖は必要だろう」

「すでに市民には作戦失敗の噂が流れている。むしろこの巨大ロボの情報を流して、他のを隠すのはどうだ?」

 

 ゲイルの指摘に、安奈が仮面党を通じて漏れ聞こえてきた情報を元に情報操作を提案する。

 

「核弾頭よりはマシ、かな………?」

「こんな閉鎖空間で核弾頭なんて使われたら、滅亡は必須だからな」

 

 尚也が少し考え込むが、小次郎の危険過ぎる指摘に誰もが納得するしかなかった。

 

『核弾頭の件は関係者のみに公開。変形したギガンティック号は以後《超力超神・改》と呼称いたします。今後のミッションは状況の変化に伴い、柔軟に対応しましょう』

『賛成ね。相手が悪すぎるわ』

 

 アーサーの総論に、なぜかフリンのガントレットのバロウズがいの一番に賛同する。

 

「それしかなかろう。警察、仮面党、自警団を通じて超力超神・改の情報を部分公開する。核弾頭の対処法が見つからない限り、こちらからは手出し出来ない」

「簡単にスイッチ押さない事を祈るしかねえな………」

 

 克哉の最終結論に、キョウジも頷き、皆もそれに同意する。

 そこで祐子が手を上げ、今後の予想を口にする。

 

「どの勢力もアレに対する方法を見つけられない限り、状況は膠着すると思うわ。対処方法が有るとしたら、守護を召喚する事だけだと思うけれど………」

「だがマガツヒが足りない。シジマが集めていたのは神取が奪った」

「他のもそうよ。ヨスガはカルマ協会と何か画策してるようだし、ムスビも…」

 

 ライドウの指摘に祐子が思案するが、突然動きが止まったか思うと、うつむいた状態でその体が震え始める。

 

「!?」

「待て」

 

 思わずフリンが刀に手を伸ばしかけるが、そばにいたライドウがそれを抑える。

 祐子のケイレンが全身に及んだかと思うと、突然止まり、顔を上げる。

 その顔が蛍光塗料でもぶちまけたかのような異常な物になっているのを見たフリンが目を細めて警戒し、同じく初めて見た悠に至っては腰を抜かす。

 

「汝ら、集いし迷い子達よ! 鋼の神は立てり! 争いの炎は猛く盛らん! 解放の時は近し! 全ては汝らの心のままに!」

 

 祐子の物とは違う、重い声が室内に響き渡り、再度祐子の体がケイレンしたかと思うと、元通りの顔に戻る。

 

「なな、何ですか今の!?」

「神託を見るのは初めてか」

「そうか、彼女も神憑きか………」

 

 悠が思わず裏返った声で聞くのにキョウジが答えると、フリンは納得しつつも、僅かに汗をかいていた。

 

「争いの炎は猛く、解放の時は近い、か」

「いい予言か悪い予言か分からないのが一番の問題だな」

「けれど、アラディア神の神託は私には絶対よ」

 

 克哉とキョウジが先程の神託の解釈に悩むが、荒い呼吸の祐子が告げる。

 

「確かに、アラディア神の神託はかなり大局的な物だ。私の予言よりも長期的な未来を予見しているが…」

「抽象過ぎて後からしか理解出来ないのでは………」

 

 フトミミの見解に、聞いていた美鶴も首を傾げる。

 

『お待ち下さい。現状に動きあり。どこかの勢力が超力超神・改に攻撃を仕掛けた模様』

『!!』

 

 アーサーからの突然の報告に、全員が顔色を変える。

 

「どこだ!?」

「しびれ切らした連中がいたか!?」

『監視装置からの映像回します』

 

 誰もが思わず興奮する中、ミーテイングルームに設置されていた大型画面に、前回の撤退のどさくさに設置された監視装置の映像が流れる。

 そこには、超力超神・改の巨体に群がるように向かっていく天使や鬼達の姿が有った。

 

「この構成、ヨスガか」

「これで超力超神・改の能力の一端でもわかれば………」

 

 ゲイルと仁也が呟く中、全員が画面を凝視する。

 押し寄せるヨスガの軍勢は、天使による上空からの攻撃と鬼による地上からの攻撃に分かれていたが、相手の巨体の前ではどちらも中途半端としか言いようが無かった。

 そして天使の先陣が手にした槍で襲いかかろうとした時、突然発生したプラズマ装甲が天使をまとめて弾き飛ばす。

 

『プラズマ装甲の発生を確認。防御システムは健在のようです』

「ば、バリア?」

「ライトニング級揚陸艦の標準装備だ、レッド・スプライト号にも付いている。これのお蔭で我々はシュバルツバースを探索出来たが、敵に回るとなると厄介だ」

 

 悠が呆然と呟くのを、仁也が解説する。

 画面の中でヨスガの軍勢がプラズマ装甲を破ろうと攻撃を繰り返すが、堅牢な装甲は貫けない。

 

「構成がおかしい。カルマ協会と手を組んでいるはずだが、見当たらない」

「高ランクの大物も混じっていない。威力偵察だろうな」

 

 ゲイルと小次郎の指摘通り、ヨスガの軍勢は決定打に欠ける構成で、それでもなお超力超神・改に攻撃を仕掛ける。

 

「反撃してこないな」

「おそらく、性能テストの最中だと思われる。これだけの巨体ともなると、起動後に不具合が出ない方がおかしい」

 

 ロアルドがプラズマ装甲を展開するだけで動きの無い超力超神・改に違和感を覚えるが、仁也が解釈した時、超力超神・改が動き始める。

 見る分にはスローモーに、だが実際はその巨体故にかなりの速度で歩を踏み出し、足元にいた鬼達がそれだけで文字通り蹴散らされる。

 

「これは凄まじい………」

「確かに」

 

 フリンが思わず呟き、ライドウも頷く。

 歩みを進めるだけで地上に居た戦力を蹴散らしていく超力超神・改は今度はその腕を持ち上げ始める。

 

「あの、ロボット物だとこういう時は…」

 

 ただ唖然と見ていた悠だったが、その動きの後を予想した後、それが現実の物になる。

 超力超神・改の指から、無数のロケット弾が発射され、周辺を取り囲んでいた天使達を次々と撃墜していく。

 

「対悪魔用に改造されているようだな」

「巨大ロボで悪魔と戦ってるのはさすがに初めてじゃないか?」

 

 冷静に兵装の分析をする克哉とキョウジだったが、画面内ではロケット弾から逃れて背後に回り込もうとした天使が、背部に設置されたイージスファランクスで迎撃される。

 やがて不利を悟ったのか、ヨスガの軍勢は一斉に退却を開始する、

 超力超神・改はそこで動きを止め、腕を下ろしたかと思うと、胸部が展開を始める。

 

「………は?」

「オイオイ」

「マジかよ………」

 

 ロボットアニメまんまの状況に誰もが思わずぼやく中、超力超神・改の胸に巨大な砲塔が出現、そこから撤退していくヨスガへと向けて巨大な砲弾が放たれる。

 放たれた砲弾は着弾直前、閃光を発し、画面が自動的に閃光を遮断する。

 

「何だ今のは!?」

「まさか核弾頭を使ったのか!?」

『いいえ、あの距離ではプラズマ装甲でも核爆発は防げません』

 

 皆が慌てる中、アーサーは状況からそれを否定。

 程なくして画面が復帰し、そこには浅いクレーターと共に跡形も無くなった光景が映し出されていた。

 

『周辺状況を解析、おそらくサーモバリック砲弾を使用と推測出来ます』

「熱気化砲弾!? そんな物までギガンティック号には積まれていたのか!?」

『数は限られています』

 

 アーサーの解析に仁也が一番驚く中、アーサーは淡々と説明する。

 

「なかなか厄介だな」

「ああ」

 

 一方的な戦闘が終わり、その感想をゴウトが一言でまとめ、ライドウも頷く。

 

「あれとどう戦う?」

「正面から行ったら消し炭か………」

 

 小次郎とアレフも、予想以上の超力超神・改の戦闘力に表情を険しくする。

 

「他の勢力も見ていただろう」

「威圧も込めた戦闘という事か」

 

 ゲイルの断言に、フリンも頷く。

 

「真っ当な戦い方では、歯牙にもかけられないだろう………」

「だが、どうするよ?」

 

 克哉が彼我の戦力差を思案するが、キョウジに至っては頭を抱え込んでいた。

 

『先程の戦闘から得られたデータを元に、対処法をシミュレートします。核弾頭の対処法とは別になりますが』

「巨大ロボと核弾頭を同時に相手せねばならいのか。質の悪いSFムービーのようだ………」

「怪獣と戦う奴ですか?」

 

 美鶴が思わずボヤいた事に、悠も思わず同意する。

 

「問題を整理しよう。第一の問題はこのプラズマ装甲とか言うバリアシステム、第二はこの火力だ」

 

 小次郎が一方的とも言える戦闘を見て感じた点を述べる。

 

「プラズマ装甲は常時展開するのか?」

『いいえ、あくまで緊急時だけです。ただし、乗員の乗降が無い場合、その限りではないと推測出来ます』

 

 アレフの問に、アーサーが答える。

 

「いや、今解除したようだ」

「だが、その気になればいつでも立て籠もれる。立てこもり場所自体が攻撃してくるというのが問題だが」

 

 中継画面を見続けていたゲイルが指摘するが、克哉もまずその防御力を問題視する。

 

「動きはそれほど速くは無いが、かといって無視出来る存在でもない」

「そもそも、あれの目的は?」

「アラディア神は鋼の神と言っていたわ。つまり、神取はあれを守護にしようとしているのかもしれない………」

 

 ライドウもかつての体験を元に思案し、フリンの指摘に祐子がある可能性を口にする。

 

「だったら目的はカグツチ、そしてそこに至るタルタロスか?」

「あんな物に攻め込まれたら、ひとたまりもないぞ。タルタロス内にはまだ大勢いる」

「そもそもどうやって登るんだ?」

「よじ登るか、飛ぶかだろ」

「よじ登って到達出来るのだろうか………」

 

 種々の意見が飛び交うが、根本的な対策は誰も見いだせない。

 

「………このままここで話し合っても解決策は出ないだろう。一度各自で対策を協議してみるのは?」

「そうした方がいいかもな。巨大ロボと核を同時相手する方法が見つかればいいんだが」

 

 克哉のミ―テイング中断の提案に、キョウジも賛同。

 皆もそれに賛成し、その場は一時解散となる。

 

「さて、皆にどう説明しよう………」

「どうもこうも、ありのまま説明するしかなかろう」

 

 沈痛な顔をしながら席を離れる悠の背後で、美鶴が腕組みしながら吐息を漏らす。

 

「ついでだ、こちらとそちら合同で会議としよう。ペルソナ使い同士、何か思いつくかもしれん」

「巨大ロボだの核弾頭の対処なんて考えた事も無いんですが………」

「こちらもだ」

 

 

 

「そういう事で、広く意見を求める事となった」

 

 葛葉のメンバー全員(八雲達は通信参加)の前でゴウトが議長となって超力超神・改の概要が公開される。

 

『よりにもよって核とはな………』

『本当でしょうか?』

『核弾頭ってナニ?』

 

 通信画面越しに八雲が何時になく深刻な表情でボヤき、カチーヤも沈痛な表情をしていたが、ネミッサは変わらない。

 

「さすがにそんな物の相手は葛葉でした事ある奴はいないだろうからな」

「原爆落とされた時は周辺の悪魔すら逃げたって話もある」

 

 キョウジとキョウジ(故)も思わず唸るが、それは誰もが同じだった。

 

「一応、最新型の奴よね? だったらそう簡単には爆発しないんじゃ………」

「簡単に爆発されても困るけど、ただ有るってだけで大問題よ」

 

 たまきの意見に、レイホゥもある程度肯定はするが、確かに存在其の物が最大の問題なのも事実だった。

 

「あの巨体に障壁と重武装、そして核弾頭とやら。これらを全て踏破せぬと、事態は解決せんな」

 

 ゴウトが一つ一つ問題点を挙げるが、その難問に誰もが押し黙る。

 

「ましてや、中には神取がいる。ひょっとしたらこいつの方がこのデカブツよりも厄介かもな」

「海軍省に一人で攻め入り、いとも簡単に超力兵団計画資料を強奪するような男だ。頭も力も半端でないのは確かだ」

 

 キョウジの言葉に、ライドウが更に余計な情報を付け加える。

 

『このプラズマ装甲、これだけならこちらの攻撃を集中すれば破れるかも………』

「だが、それを抜けたら蜂の巣だ」

「そもそも、ちょっとサイズ差が…」

「簡単に核弾頭起爆させたりはしないとは思うけれど………」

「あの、クエスチョンなのですが」

 

 種々の議論が飛び交う中、凪が恐る恐る手を挙げる。

 

「何かしら?」

「その核弾頭というウェポン、このビッグゴーレムのどこにあるかは分からないセオリーでしょうか?」

「あ、そういやアーサーが信号が確認出来るって言ってたが………」

「ならば、キャプチャーは可能なケースかもしれません」

『!』

 

 凪の提案に、皆が思わずそちらを見る。

 

「ゲイリンに伝わる秘術に、邪神 トウテツの力を持って、空間を食らう秘術が有るセオリーです。それを用いれば、その核弾頭をキャプチャー出来るかと………」

「! フィラデルフィア事件を収束させたアレを!?」

 

 続けての凪の説明に、レイホゥが思わず上ずった声を出す。

 

「知っているセオリーですか?」

「ええ、話だけは。けど、危険な術だと知っているの?」

「イエス。こちらの世界で起きたケースで、まだ未熟だった私に代わり、ライドウ先輩が行ったのですが、二日間程目を冷まさないケースでした………」

「私が聞いたのは、こちらの18代目ゲイリンは、その秘術と引き換えにサマナーとしての力をほとんど失ったって聞いてるわ」

「………! そういうセオリーですか………」

 

 レイホゥの話に凪は顔色を変えるが、有る種納得したのか、頭を垂れる。

 

「そうかアレか。空間ごと食らうなら、あるいは………」

「だがそんな隙があるかだな。いくら空間ごと食らうといっても、雨霰と来るミサイルや銃弾まで食らえるかどうか………」

「逆に言えば、それらをどうにかできればなんとかなるんじゃ?」

『あの重武装相手に術式発動までの時間をどう稼ぐか………』

 

 僅かな可能性に、葛葉の者達はそれをどう活かすかを熟考していった。

 

 

 

「…しかないな」

「そうだな」

「は?」

「なるほど」

 

 今後の方針の話し合いのためにタルタロスを訪れた小次郎とアレフの提案に、修二は首を傾げ、フリンは頷いた。

 

「向こうが神を用意したのなら、こちらも神を用意するしかない」

「アレだけの力を持つ存在には、なまなかな力では敵わない。対抗できるだけの存在が必要だ」

「つまり、こちらも守護を呼ぼうってのか?」

「いや、東京にすでに守護神がいる」

 

 小次郎とアレフの説明に、一応納得しかけた修二だったが、フリンの言葉に再度首を傾げる。

 

「それって………」

「将門公の事ね」

 

 修二に代わり、一緒にタルタロスを訪れていた祐子が答える。

 

「確かに、将門公の力を借りれれれば………」

「あれを倒せるかはともかく、動きは封じれるかもしれないわ」

 

 咲とヒロコも賛同するが、祐子の顔は険しいままだった。

 

「けれど、東京受胎の前に、将門公の力を警戒した氷川は将門塚の周囲に封印陣を用意してたはず。漏れ聞いた話だと、将門公は力の維持のために、それを逆利用して四天王に警備を固めさせてるという話よ」

「けれど、それを解きさえすれば助力を得られるのではなくて?」

 

 祐子の説明に、イザボーが異論を唱える。

 

「要は、その引きこもりの神様引きずり出せばいいんだな?」

「あんたは絶対ややこしい事になるからやめとけ」

 

 ダンテが大剣を手にやる気になっているのを修二が止める。

 

「こちらでは、核攻撃から大天蓋を持って東京を守り抜いた存在だ。力を制限されているとしても、助力を得るというのには賛成だ」

「じゃあ決まりか」

「なんか面白そうな事話してるな」

 

 フリンも賛成し、小次郎が頷いた所へ、葛葉の協議が終わった八雲が顔を見せる。

 

「そちらはどうなった」

「核弾頭の方、うまく行けば秘術を使ってパクれるかもしれないらしい。その秘術の発動をどうするかが問題だったが、何かであのデカブツの動きを封じれれば………」

「確かに、将門公の力でも超力超神・改と核弾頭二つ同時の相手は難しいだろう」

「奪ってしまえば、こちらの物か?」

「遠隔操作とかあんじゃないのか?」

 

 八雲の話に小次郎とアレフが自分達の提案と突き合わせるが、修二の言葉に一時止まる。

 

「そいつが問題だな。ハック出来ればオレがなんとかするが、核兵器なんてのは下手したらスタンドアローンの可能性が高い。ましてやシュバルツバース吹っ飛ばすために持ってったとしたら、最悪ほっておいても爆発するかもな」

「一般の隊員達は存在すら知らなかったと聞いたが、そこまでする可能性が有るという事か?」

「恐らくだがな。政治家なんて保身のためには何するか分からない連中だろうし」

 

 フリンが思わず聞き返して考え込む中、八雲は協議用に使っていたらしいタブレットに表示されている超力超神・改を見て呟く。

 

「ガワと核は目処がついた。あとは兵装とプラズマ装甲、でもって遠隔爆破の可能性か」

「多いな」

 

 修二のボヤキに否定する者はいなかった。

 

 

 

「………え?」

「核?」

「核って、核兵器の核?」

「核って何クマ?」

「積んでんの?」

「あの巨大ロボに?」

 

 特別課外活動部、特別捜査隊共同で開かれた協議の場にもたらされた情報に、そこにいた者達は全員絶句するしかなかった。

 

「どうやら本当らしい。シュバルツバース調査隊の一般隊員にすら秘匿されていた情報だそうだ」

「それで、下手に手出したら爆発するかもしれないって………」

 

 美鶴の説明に、悠が恐る恐る補足する。

 

「あの、それって…」

「もし爆発したら、どうなるんでしょうか?」

 

 順平と雪子の問に、皆が顔を見合わせる。

 

「まずその核弾頭のサイズにもよるでしょうが、大規模な爆風と熱波が周辺に吹き荒れるでしょう」

「ここは球状の閉鎖空間ですから、爆風は上空に抜けないで、最悪内部を撹拌、そして同様に放射線や放射性物質も拡散しないので内部で更に撹拌されて…」

「ストーップ! それ以上言わないで!」

「怖いから! 想像するとすごい怖いから!」

 

 直斗と風花の予測を、千枝とゆかりが慌てて止める。

 

「つまり、爆発したら一貫の終わりという事か」

「そういう事っすね………」

 

 明彦が険しい顔をし、完二の喉が思わず鳴る。

 

「ぶっちゃけ、それってオレらの手に余るんじゃ?」

「核兵器なんてペルソナでもどうにもならないと………」

 

 陽介と乾が出したストレートな結論に、誰もが頷く。

 

「そうも言っていられない。いつあの巨体の砲がこちらに向くか分からん」

「そうは言っても…」

「ねえねえ、核って言っても爆弾なんだよね? 解体とかしちゃえばいいんじゃ?」

 

 美鶴がそれでも打開策を出そうとし、悠は口ごもるが、そこでりせが一つの案を出す。

 

「無論それは考えているだろう。だが、実質問題あの巨体のどこにあるかも分からなければ…」

「あの、全くわからないんですか?」

 

 解体案を美鶴が思案するが、そこで風花が手を挙げる。

 

「そう言えば認識信号は確認出来てるとか言ってたような」

「だったら、私とりせちゃんでアナライズすれば、正確な場所、分かると思います」

『あ…』

 

 風花の提案に、皆が思わず声を出す。

 

「なるほど、いいアイデアだ」

「でも、どうやってそこから引っ張り出すか………」

「それはそういう事を慣れてる人達に任せよう。場所が分かるだけでも大分違うと思う」

 

 美鶴が頷き、明彦が更に思案するが、悠が消極的だが間違っていない提案をする。

 

「な、なあ核って言っても爆弾なら、リモコンでドカンとかって事もあるんじゃ………」

「映画とかでよく有るよね………」

 

 陽介の反論に、ゆかりも青ざめた顔で頷く。

 

「大丈夫。私のペルソナなら止められる」

「そっか、その手が有るな」

 

 そこにチドリが立ち上がり、順平も手を叩く。

 

「どういう事クマ?」

「チドリのペルソナ能力はジャミングだ。ペルソナにも、機械にも効果が有る。確かにそれを使えば、遠隔操作も無効化出来るだろう」

「なんか、少しずつ希望が出てきた」

「ジャミング能力というのなら、うまく行けばあの超力超神・改にも効果が有る可能性も…」

「チドリの事はまだ敵勢力に知られていない。ギリギリまで隠す必要が有るな」

「まずはどうやって効果範囲まで近付くか…」

 

 微力ながらも己達に出来る事を探りつつ、ペルソナ使い達は協議を続けていた。

 

 

 

「偵察部隊は全滅か」

「予想はしていた。もっとも予想以上の点も有ったがな」

 

 マントラ軍本営で、超力超神・改と交戦した部下が全滅したのをカルマ協会の偵察兵が送ってきた映像で確認した千晶が呟き、エンジェルも少し考える。

 

「まさか巨大ロボとはね。なかなかやる事が派手な奴もいたようね」

「こんなに早く出すとは思わなかったがな」

 

 エンジェルの一言に、千晶が眉を潜める。

 

「知っていたのかしら? アレの事………」

「改造に協力したのは我々カルマ協会だ。もっとも、起動には多大なエネルギーがいるとも知っていたから、まだかかると思っていたのだが、どうやらすでにかなりのエネルギーを保有していたらしい」

「余計な事をしてくれたわ。けど、それはアレの中には守護を呼べるだけのエネルギーが有るって事でも有るわね」

「そういう事になるな。だが先程の威力偵察でどこも慎重になるだろう」

「つまり攻略法を他が考えてくれるという事でも有るわね」

「ああ、そうだな」

 

 千晶とエンジェルは互いに相手の言わんとする事を理解し、ほくそ笑む。

 カグツチに至る激戦への幕が今上がろとしていた。

 

 

 そそり立つあまりに巨大な壁を前に、糸達はそれを超えんともがき続ける。

 その果てにあるのは、果たして………

 


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