真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART68 THE PURE CHAOS

 

「ハッハァ~!」

 

 ダンテの哄笑と共にリベリオンが振るわれ、迫ってきていた大型シャドゥが大きな傷を刻まれながら弾き飛ばされる。

 即座にダンテはリベリオンからエボニー&アイボリーに変えると後方から迫ってきていた別の大型シャドゥに速射、向こうがたじろいた隙に更に今度はショットガンに持ち替え、また別の大型シャドウに散弾を叩き込む。

 

「ステージはメインの出番だ。バックグラウンドはここまでだぜ」

 

 不敵に笑うダンテは、まったくたじろがず三体の大型シャドゥに向かっていった。

 

「すごい………エレメント級三体と一人で戦ってる………」

「あれはあの人が規格外過ぎるだけ! 真似したらダメだからね!?」

「ワンワン!」

 

 乾がダンテの壮絶な戦いに呆然とする中、ゆかりが叫びながら階下から押し寄せるシャドゥの群れに矢を放ち続け、コロマルも吠えながらペルソナを発動させる。

 

「風花! 今あっちどうなってる!?」

「多分、振り向いたらダメだと思う………」

 

 押し寄せ続けるシャドゥの大群に状況確認もままならない中、ゆかりの問いに風花は震える声で答える。

 

「あちらは任せろ、その代わりここから一体も通すな!」

「こっちとあっち、どっちがマシだろうな………」

 

 拳を構えながら明彦が叫び、修二が思わずボヤく。

 彼らの背後では、更に大きな戦闘音が轟いていた。

 

 

 八雲が握るソーコムピストルから魔弾が立て続けに速射される。

 放たれた魔弾はニュクス・タカヤに突き刺さり、邪気開放や魔力爆発など種々の効果をまき散らすが、肝心のダメージに関しては薄かった。

 八雲はためらわず空になったマガジンをイジェクトすると、次のマガジンを叩き込んで再度速射する。

 

「いつまでやっているのです。そんな物はもう効かないと…がはっ!?」

 

 更に防護に力を入れるニュクス・タカヤだったが、そこで一際大きな爆発と共にその巨体が僅かに揺れる。

 

「なるほど、大抵ろくでもない物降ろした奴は調子乗って墓穴掘るからな」

「何を…した?」

「ただの水銀炸裂弾頭だ。魔弾ばかりに気使ってると、物理防御がおろそかになるな?」

 

 魔弾に混ぜて対装甲目標用の銃弾を放った八雲がにやりと笑う。

 

「だがその程度では…」

「攻撃パターン理解、そこです!」

 

 更にそこへアイギスの射撃が放たれる。

 先程補充した魔弾と一緒にあった徹甲弾、炸裂弾、焼夷弾なども混合した多種多様な弾幕がニュクス・タカヤに叩き込まれていく。

 

「ガンガン行くで!」

「無論です!」

 

 更にラビリスとメティスがトマホークを振りかざし、同時に叩き込む。

 

「効かないと言ったはず!」

 

 ニュクス・タカヤが巨体を動かしてラビリスとメティスを弾き飛ばす。

 

「アカンか!」

「いえ、手傷は負わせてます」

 

 ニュクス・タカヤの体に確か傷は刻まれている物の、その巨躯の前には微々たる物だった。

 

「攻撃を緩めるな! 傷が付くって事は不死身じゃねえって事だ!」

「はい!」

「アルテミシア!」『ニューロクランチ!』

 

 八雲の激に啓人が力強く答え、美鶴が返礼とばかりにペルソナ攻撃を放つ。

 

「だからその程度は…」

「かもな」

 

 生半可な攻撃は効かないニュクス・タカヤだったが、美鶴のペルソナ攻撃の直後に直前まで迫った八雲が至近距離でソーコムピストルを速射する。

 

「そう何度も同じ手を…!」

「そうか?」

 

 マガジン全弾を撃ち尽くした八雲がマガジンを交換する前に、ニュクス・タカヤが八雲に襲い掛かろうとするが、そこで八雲は左の義手を突き出すと、袖の中に仕込まれていたショットガンの銃口からコロナシェルが発射される。

 

「がっ!?」

「作り物だと熱くなくていいな。アタック!」

『はっ!』

 

 虚を突かれた攻撃にニュクス・タカヤが僅かにひるんだ隙に、八雲の仲魔達が襲い掛かる。

 繰り出されるジャンヌ・ダルクの剣やカーリーの六刀をその身に受けながら、ニュクス・タカヤは強引にその攻撃を振り払う。

 

「くっ!」

「おわっ!」

「もっと効かさないとダメか」

「はあ…はあ…」

 

 八雲は舌打ちしつつ、仲魔の状態を確認しながらマガジンを交換する。

 息を切らせながら、ニュクス・タカヤは八雲を睨みつけた。

 

「やはり、貴方は一番のイレギュラー………あの時、あのタルタロスのエントランスで初めて会った時に、確実に殺しておくべきでした………」

「買いかぶり過ぎだ。オレよか強いサマナーなんてゴロゴロいるぞ。後ろで大剣振り回している奴とかな。それと…」

「タナトス!」『ブレイブザッパー!』

 

 ニュクス・タカヤが八雲を睨んでいる隙に横手から啓人がペルソナ攻撃を繰り出し、繰り出された斬撃がニュクス・タカヤの体に僅かに傷を刻む。

 

「くっ…」

「手前らのとこの連中も結構やるぞ。オレはこいつらの引率に過ぎない。地獄慣れはしてないみたいだからな」

「だが、幾らかすり傷を刻もうと、この体には…」

「じゃあ何で治さない? 力を誇示するならすぐにでも治癒するはずだ」

「…!」

 

 八雲の指摘に、ニュクス・タカヤのみならず味方も思わず息を飲む。

 

「元々違う世界に降臨するのを、強引にこっちに呼んだ弊害が出てるな? 恐らく本来の力は出せていない。依り代の意識がはっきり残っているのが何よりの証拠だ。大抵召喚した存在に飲まれるからな」

 

 更なる八雲の指摘に、ニュクス・タカヤの顔が歪む。

 

「こ、これで不完全………」

「有る意味良かったな。今ここでこいつをどうにかすれば、そっちの世界に降臨する力は失うだろうよ」

 

 啓人が呆然と呟くが、八雲の注釈に気を取り直して剣と召喚器を握り締める。

 

「分かった所で、どうにか出来るとは思えませんね。貴方方はここに来るまでに疲弊している」

「出来ればすぐに帰って一寝入りしてえ所だがな」

「させてあげますよ。永眠を…」

 

 

 

同時刻 珠間瑠市 レッドスプライト号周辺

 

「はっ!」

 

 小次郎が振るう刃が襲ってきたシャドゥを一撃で斬り捨てる。

 

「あれよ!」

 

 咲が指さす方向、奇妙なオブジェとも取れるような物からシャドゥや悪魔がランダムに召喚されるのを見た小次郎が一気に間合いを詰め、呼び出されようとした何か毎それを破壊する。

 

「ランダム召喚装置か………恐らく制御も一切効かない暴走装置だ」

「あっちにもあったぞ」

 

 他に敵影が無いかを確認した所で、キョウジが残骸を手にこちらへと歩いてくる。

 

「クソ、氷川の奴こんな最後っ屁を用意してやがったとは………」

「酷い代物よ。多分制御術式が組み込まれてなく、ただただ下にいる敵をデタラメに呼んでるみたい」

 

 キョウジと共に来たレイホゥが残骸に刻まれた術式を見ながらボヤく。

 

「で、あっちは?」

「中が一部異界化してるそうです。恐らくは麻希さんが………」

「逆に言えば、異界化してる間は大丈夫ってこった」

 

 レッドスプライト号を見るキョウジに、咲がつい先程内部から退避してきた者達から聞いた情報を話す。

 

「下手にその異界化を解く訳にも行かねえし、一応中にはそれなりの連中がいる訳だが………」

「全員負傷治療中という点を除けば、だが」

 

 キョウジが思わず頭をかきむしる中、小次郎が淡々と事実を述べていく。

 

「異界化直前に尚也さんが入っていったのが確認されたそうですが………」

「任せるしかないな。園村も尚也だったら通すだろうし」

「中に達哉君達もいるけれど、戦える状態かどうか………」

「とにかく、他に召喚装置が無いかを確認しよう。それにしてもいつの間に………」

 

 小次郎が先程自分が破壊した召喚装置を踏み潰しながら、周辺に気を配る。

 遠くから誰かの戦闘音らしき物が聞こえてくる中、四人は頷いてそれぞれ戦闘音が聞こえてくる方へと向かっていった。

 

 

 

「アメン・ラー!」『集雷撃!』

 

 尚也のペルソナから放たれた電撃魔法を、氷川は素早く手印を組み阻む。

 

「なるほど、中々…」

「はあっ!」

 

 氷川がその威力に笑みを返す中、尚也が手にした長剣で斬りかかるが、氷川は懐から出した独鈷杵でそれを受け止める。

 尚也のペルソナの力も上乗せされた斬撃が連続で放たれ、氷川はそれを次々と受け止める。

 

「確かに、強い………」

「悪魔もペルソナも従えるにはまず力、己が強くなければ意味が無い」

 

 鍔迫り合いで拮抗状態になりながら、二人は至近距離で睨み合う。

 

「食らえ!」

「くっ、急げ………」

 

 そのすぐそばではアモンを従えたアレックスがミトラと激戦を繰り広げ、更には達哉がアルシエルをペルソナでなんとか抑え込んでいる。

 

「どちらもSummonされたDebilならMasterを倒せばReturnされるはず!」

 

 皆を援護しながらも、医療カプセルの守備に回っているエリーが叫ぶが、どこも拮抗し、打開策は見えてこない。

 

「くそ、ヤバイのバンバン呼びやがって………」

 

 レイジは悪態をつきつつも、背後にいる妻や姪、そして崩れ落ちたままで荒い呼吸をしている麻希の前から一歩も動こうとしない。

 

「麻希! しっかり!」

「う………ん」

 

 駆け寄ったゆきのが麻希の体を支えて声を掛けるが、麻希からはうわ言のような返事しか返ってこない。

 

 

(園村がなんとかフィールドは確保してくれた………藤堂達に任せて退くべきか? だがこの状況でどれくらい逃げられる?)

 

 まずは非戦闘員の安全確保を最優先に考えるレイジだったが、状況が相変わらず厳しい事に動けずにいた。

 

「あなた…」

「オレの後ろから絶対に離れるな」

 

 妻が心配そうに声を掛けてくるのを、レイジは振り向きもせずに答える。

 

「麻希は私が守る。けど…」

 

 ゆきのも激戦が繰り広げられている方向を見つつ、どうすべきか迷っていた。

 

(どうする? どうすれば…)

 

 レイジが臨戦態勢のまま動けずにいる中、ふと医療カプセルの一つがアラームと共にロックが外れる。

 医療カプセルがゆっくり開いていく中、はい出る隙間が開くと同時に中にいた人物は転がるように飛び出し、カプセル脇に置いてあった装備を手に取った。

 その人物、仁也は治療溶液を全身から滴らせながらもジャッカルPピストルを瞬時に構え、氷川に向けて速射する。

 

「ちっ!」

 

 氷川は舌打ちしつつも即座に鍔迫り合い状態を弾いて後方に飛び退って銃撃をかわす。

 

「援護する!」

「助かる!」

 

 立膝体勢で油断なく銃を構えながら叫ぶ仁也に尚也は礼を言いながら体勢を立て直す。

 

「一人増えたか、だが一人程度…」

 

 氷川も体勢を立て直そうとするが、仁也の的確な射撃に回避に回らざるをえなくなる。

 だがそこで仁也の銃のスライドが後退状態で停止、残弾が尽きた事を知らせる。

 仁也はそこでプラズマナイフを抜いて氷川と対峙した。

 

「弾切れか、まあここにそれほど持ち込めるはずも…」

 

 氷川の言葉の途中で仁也は即座に間合いを詰めてプラズマナイフをかざし、氷川はそれを独鈷杵で受け止める。

 今度は氷川と仁也が何度となく斬り結び、鍔迫り合いになる前に両者が離れる。

 

「軍用ナイフテク、ではないな。小太刀術か………」

「少し古い家の出身でな、幼い頃からそういう事を学んだ」

 

 仁也の動きに古武道の要素が有る事に気付いた氷川に、仁也は油断なくプラズマナイフを構えたまま呟く。

 

「その顔、どこかで見覚えが有る。名は?」

「レッドスプライト号機動班所属、只野  仁也陸曹長」

「只野、だと!? 貴様只野家の者か!」

 

 氷川に問われて名乗った仁也に、氷川の態度が一変する。

 

「知っているのか?」

「こちらでは有名なサマナーの家系だ。そうかお前も特異点の一人………」

「そちらではどうか知らないが、今の自分は母船に侵入し、破壊工作を行っている者を排除する。それだけだ」

「ふ、デモニカ無しでは悪魔も呼べまい」

 

 警戒を強める氷川に、仁也は冷静に構えたままだったが、仁也の装備が緊急時用の最低限だと気付いて氷川はほくそ笑む。

 

「それはそちらものはずだ。シジマもほぼ壊滅状態と聞いている。手持ちもほとんど残っていないはずだ」

「その通りだ。だが、守護さえ呼べれば最早関係ない」

 

 仁也の指摘に、氷川は表情を崩さない。

 

「呼ばせると思うか?」

 

 尚也もそれに加わり、氷川を睨みつける。

 

「そうだな………いささか隔絶されているが、ここさえ出れば、後は艦内に満たされているマガツヒ、それにこれだけの特異点が居れば守護を呼ぶのは簡単だろう。もっとも誰を核にするかに迷いそうだがな」

 

 笑みを更に深くする氷川に、仁也と尚也は更に警戒して得物を構える。

 

「カプセルの中で僅かだが聞こえた。あの赤ん坊を使うかもしれないと」

「あの神取の娘だ、どれだけの力を秘めてるか見当もつかない。そしてそれは絶対させない」

 

 小声で話し合う仁也と尚也だったが、その前で氷川が印を組み始める。

 

「アメンラー!」『アギダイン!』

 

 氷川が何かをする前に尚也のペルソナが火炎魔法を放つ。

 だがそこで氷川は印を前に突き出し、防護の印が火炎魔法を阻む。

 

(フェイント! 攻撃を誘発された!)

 

 尚也が己の失策を悟ると同時に、氷川は残った手で握った独鈷杵で早九字を切る。

 

「させん!」

 

 そこへ仁也が斬りかかるが、氷川は早九字を中断して独鈷杵でそれを受け止める。

 

「なるほど、やはり魔術戦は素人か」

「く…」

 

 こちらもフェイントだった事に仁也も気付くが、氷川が独鈷杵を返してプラズマナイフを弾き、こちらの腹に向けて強烈な蹴りを放った来たのを腹筋に力を籠めつつ、他を脱力してむしろ蹴り飛ばさせる。

 

「ほう…予想以上に鍛えているな」

「市民を守るのが務めだ、そのために鍛えた」

 

 足から伝わる感触に氷川が少し驚き、蹴り飛ばされながらも仁也は即座に立ち上がる。

 

「そちらも相当修羅場を潜ってるようだな」

「東京受胎までに私がどれだけ屍の山を築いたと思っている? 創世とは奇麗事では為せぬのだ」

「全人類を生贄にするような奴に、今更そんな事を言われてもな!」

 

 尚也が叫びながら斬りかかり、氷川がそれを受け止める。

 

「畳みかける! こいつに術を使う隙を与えるな!」

「了解!」

 

 術式の違いなぞ理解出来ない尚也と仁也が、ならばこそ逆に使える隙を与えないという結論に達し、二人が矢継ぎ早に攻撃を加えていく。

 

「そう、くるだろうな…!」

「詠唱の可能性も有る! そちらにも気を付けるんだ!」

「こうか!」

 

 二人掛かりの攻撃をさばき続ける氷川だったが、尚也の更なる忠告に仁也は攻撃にアゴやのどを狙った斬撃や打撃を混ぜていく。

 しかしそこに突如として飛来したレイピアが足元へと突き刺さり、全員がその場に思わず止まる。

 

「エリー!?」

「足元! 反閇、Magic Stepを使われてますわ!」

「おっと、詳しいのも混じっていたか」

 

 驚いて投じてきたエリーの方を見た尚也だったが、エリーの指摘に氷川は苦笑する。

 反閇、陰陽道等に用いられる魔術的歩法が完成間近だった事に尚也は改めて構え直す。

 

「反閇、聞いた事は有るが、戦闘中に行える物なのか………」

「魔術戦では基本だよ。さてこれで君達はどれに注意すればいいか分からなくなってきただろう」

 

 仁也が思わず漏らすが、氷川の指摘通り、魔術師としても一流の氷川に仁也も尚也も一時手を止めざるを得なくなる。

 

「彼女、詳しいのか」

「元エミルン1のオカルトマニアだ。セベクの時は大分助けられた」

「援護は、難しいか…」

 

 仁也はちらりとそばで繰り広げられるアレックスや達哉の戦闘の余波が、残った医療カプセルに及ばないようペルソナを駆使しているエリーを見て必要以上の援護は不可能と判断する。

 

「考えてみれば、シュバルツバースには人間の魔術師はいなかった」

「悪魔召喚プログラムの普及で純粋な魔術師は減ってるらしい。こいつは、両方使えるタイプのようだ」

 

 想像以上の難敵である氷川に、仁也と尚也は守勢に回らざるを得なくなる。

 

「さすがに医療室にこれ以上の装備は持ち込んではいない………デモニカもだ」

「だろうね………だが向こうも後が無いはず。シジマは実質壊滅状態らしいからな」

「確かに部下は大勢失ったよ。だが、私は東京受胎をほぼ一人で行った。まあ巫女の力は借りたがね」

 

 呟きながら氷川は残された医療カプセルの中にいる祐子やセラの方をちらりと見る。

 

「あれでは使い物にならんか………テクノシャーマンもしかり。となると…」

 

 氷川はその場にいる者達を文字通り値踏みするように見定めていく。

 

「残った者達でも十分行けるか」

『何がだ!』

 

 仁也と尚也が同じ言葉を叫びながら、同時に氷川へと斬りかかるが、氷川は半歩引いて仁也の攻撃をかわしつつ、手にした独鈷杵で尚也の斬撃を受け流す。

 仁也は連続してプラズマナイフの攻撃を繰り出すが、氷川はことごとくそれを独鈷杵で受け止め、受け流す。

 

「アメンラー!」『アギダイン!』

 

 一歩引いた尚也がそこで火炎魔法を放つが、氷川はそれをギリギリでかわし、セラの入っている医療カプセルを背にする。

 

「く…」

「フィールドは確保できても、肝心のがそのままではな」

「ガブリエル!」『アクアダイン!』

 

 そこへ横手からエリーの魔法攻撃が放たれ、なんとか氷川を医療カプセルから引きはがす。

 

「くっ!」

『アレックス!』

 

 向こうではアレックスがミトラ相手に苦戦しているのをジョージがなんとかサポートしている。

 

「アポロ!」『ヒートカイザー!』

 

 さらにその反対では達哉がアルシエル相手にペルソナで攻撃を加えるが、まだ回復しきっていないのか、その顔色はすぐれない。

 それらを見ながら尚也は考える。

 

(対サマナー戦ではサマナー自身を倒すのがセオリーだが、隙が無い上に仲魔も強い。氷川だけに集中攻撃出来る隙を与えてはくれないか………)

 

 状況が状況だけに、完全に分断されている状態に尚也は打開策を考える中、ふと医療カプセルの中で祐子が目を開けている事に気付く。

 氷川に見えない位置から祐子が視線を送って来た事に尚也が気付いて視線を向けると、祐子が頷いて医療カプセルの中で両手を構える。

 術式発動の前振りだと判断した尚也が、氷川に向けて突撃する。

 

「そんな1パターンを…」

 

 氷川が尚也に気を取られた瞬間、医療カプセルの中からくぐもった柏手と共に祝詞が詠唱される。

 

「ヒフミヨ イムナヤ コトモチ…」

「巫女、目覚めてたか!」

 

 医療カプセルの中から祐子が氷川を術式で呪縛しようとし、氷川がそれに抵抗する。

 

「只野曹長!」

 

 尚也の声に仁也も駆け出し、氷川が独鈷杵を構えて備えようとするが、なんと二人は氷川の脇を通り抜ける。

 

「! 狙いはそっちか!」

 

 尚也が達哉の方に、仁也がアレックスの方に向かうのに気付いた氷川が振り返るが、その体は呪縛され、思うように動けない。

 

「達哉! 一気に行く! アメンラー!」『ヒエロスグリュペイン!』

 

 尚也が声を掛けながら自身のペルソナの最大攻撃を発動、無数の光の玉がアルシエルと収束していき、そして一気に爆散する。

 

『ぐ、オ…』

「アポロ!」『ギガンフィスト!』

『があああぁぁ!』

 

 光の爆散が消えさるより早く、達哉のペルソナが渾身の鉄拳をアルシエルへと叩き込み、限界に達したアルシエルの体が崩壊していった。

 

「アレックス!」

「ヒトナリ!」

 

 こちらに向かってくる仁也に向かって、アレックスは己のプラズマソードを投げ渡し、仁也はそれを受け取って二人でミトラへと向かう。

 

「二人掛かり程度で! メギドラ!」

「させるか! メギドフレイム!」

 

 ミトラが放った万能魔法とアモンが放った火炎魔法がかち合い、その場に吹き荒れる。

 

「後ろに!」

「了解」

 

 吹き荒れる魔法の余波にアレックスがデモニカで受け止め、仁也を背後にかばいながら突撃する。

 

「食らえ!」

 

 アレックスがレイガンを速射、ミトラに命中してひるんだ隙に、仁也がプラズマソードで斬りかかる。

 

「その程度!」

 

 ミトラが両手に握った鎌のような得物で仁也の斬撃を受け止め、かち合った場所からプラズマの火花が飛び散る。

 

「すう…はぁっ!」

 

 仁也が鍔迫り合いのまま、一度息を大きく吸うと、足に力を籠め、鍔迫り合いのまま一気にプラズマソードを押し込む。

 瞬時に押し切られたミトラの手から得物が破砕しながら飛ばされ、瞬時に返ったプラズマの刃がミトラの体を下段から斬り上げる。

 

「がはっ!」

 

 モロにダメージを食らったミトラに仁也が再度斬りかかるが、ミトラは一気に飛び退ってそれをかわす。

 

「き、貴様只者ではないな!?」

「鍛えている。それとシュバルツバースで感じた、悪魔は人間を侮っている」

 

 ゆっくりと構えを八双にしつつ、仁也はミトラとの間合いを図る。

 

「古流剣術、データにはあったけど…」

『シュバルツバースを破壊する男だ、実力もそれ相応という事だろう』

 

 アレックスが改めて仁也の剣技に驚き、ジョージが賛同する中、仁也が片手構えにしながら背後のアレックスにハンドサインを送る。

 アレックスが確認したかも確かめず、仁也はミトラへと向けて駆け出し、プラズマソードを袈裟懸けに振り下ろす。

 ミトラが背後に下がってその一撃をかわすが、斬撃はそこから横薙ぎ、斬り上げ、唐竹割と次々と変化してミトラを狙い続ける。

 

「この、くっ!」

 

 連続斬撃をなんとかかわすミトラだったが、最後の唐竹割の時、そのまま仁也が一気に体を沈め、その背後からアレックスがレイガンを狙い定めて速射する。

 

「がっ! だがその程度では…」

 

 仁也をカバーにしての奇襲に、ミトラはまともに銃撃を食らうが、致命傷には遠い。

 

「ヒトナリ!」

 

 そこでアレックスの声に反応するように、身を低くしていた仁也が一気に飛び込み、ミトラの腹にプラズマソードを突き刺す。

 

「こいつ…!」

 

 腹にプラズマの刃を突きされながらも、ミトラは鋭い爪の生えた手を仁也に振り下ろそうとするが、そこで仁也は柄から手を離して思いっきり後ろへと跳ぶ。

 

「狙え!」

 

 後ろに跳びながらの仁也の声に応じるようにアレックスが狙いすました銃撃が、ミトラの腹に突き刺さったプラズマソード、そのエネルギー源である高出力バッテリーの入った柄を正確に撃ち抜く。

 

「な、に…」

 

 レイガンと高出力バッテリーが過剰反応し、一気に爆発、周辺にプラズマをまき散らしながらミトラ諸共吹き飛んでしまう。

 

「目標、消滅を確認」

「後に続けなんて送るから何かと思えば、これが狙いだったの………」

『ナイスアシストだった、アレックス』

 

 仁也のハンドサインの意味をようやく理解したアレックスが半ば呆れる中、ジョージはアレックスを賛美する。

 

「残るは…」

「オン!」

 

 仁也が振り向こうとする中、真言と共に氷川が呪縛を振り解く。

 

「ふん、往生際が悪いな、巫女よ」

「う………」

 

 氷川が吐き捨てるのを、祐子は医療カプセルの中から苦悶と共に睨みつける。

 

「君達もだ、狙うなら仲魔ではなく私から狙うべきだったな」

「動けない程度でどうこう出来る相手ではないだろう」

 

 氷川が他の者達を睥睨するが、尚也はまだ氷川が何か隠している可能性を感じていた。

 

「どうやら魔術に関して全くの素人という訳でもないか。己の身命を贄として召喚する、という手も有る」

 

 氷川の一言に、全員が一気に警戒する。

 

「だが、必要なかったようだ。特異点の争いがこれほどとはな」

 

 そう言いながら氷川が片手を上げ、小さく何かを唱える。

 すると周辺の森が崩れ、マガツヒとなって氷川へと集っていく。

 

「君達の戦いのお陰で守護を呼ぶ準備は整った! 礼を言おう!」

「な…」

「しまった!」

 

 自分達の戦いが逆にマガツヒを集める効果となった事に皆が驚きながらも一斉に氷川へと攻撃しようとするが、そこで突然マガツヒの流れが停滞する。

 

「何? これは…」

 

 氷川も予想外だったのか何とかマガツヒのコントロールをしようとするが、そこで聞こえてくる歌声に気付く。

 

「テクノシャーマンか! まさかマガツヒまで鎮められるのか!」

 

 医療カプセルの中から響くセラの歌声が、守護の召喚を阻害している事に氷川が激昂しながら、セラの入っている医療カプセルへと向けて独鈷杵を投じる。

 だがそれは横手から飛来した円刃が弾く。

 

「させないよ!」

 

 ゆきのが円刃を構えて氷川を牽制する。

 

「ふ、死にぞこないばかりかと思えば、しぶとい連中ばかりか………」

「当たり前だ、どれほどの修羅場を潜ってきたと思う」

 

 尚也がアルカナカードを手に氷川へと迫る。

 他の者達も油断なく構えるが、元からダメージを負っていた仁也と達哉の顔色が優れないのを、それぞれ隣にいた者達は気付いていた。

 

「この状況では守護とやらを呼ぶのは不可能だろう。観念するか?」

「そちらの足手まといと思ってた者達が、ここまで頑強に抵抗するとはな………なら」

 

 そこで氷川の手首の数珠型COMPが発動、そこから陰陽道で式神などに使われる犬の霊、魔獣 イヌガミが飛び出したかと思うと目にも止まらぬ動きでレイジの背後でレイジの妻に抱かれていた静菜を奪い去る。

 

「ああっ!」

「手前!」

 

 妻の悲鳴染みた声にレイジの殺気がほとばしるが、その時すでに静菜は氷川の腕に握られていた。

 

「テクノシャーマンの鎮めも、無垢なる者には通じまい。もっとも純粋なマガツヒよ! この場のマガツヒを集わせ、シジマの守護を!」

 

 氷川が静菜を掲げると、それに驚いたのか静菜が大きな声で泣き始め、それに呼応するようにマガツヒが集い始める。

 

「NO! あの子をCoreにして守護をSummonする気ですわ!」

「させるか…」

 

 皆がなんとか静菜を取り戻そうとするが、マガツヒの流れが強くなって近寄る事すら容易ではなくなっていく。

 

「返せ! そいつは今日からオレの娘なんだ!」

「そして、シジマの母となるのだ!」

 

 レイジが強引に近寄ろうとするが、氷川は哄笑しながら更に静菜を掲げ、鳴き声が更に大きくなっていく。

 

「今、助け…」

 

 マガツヒに視界が塞がれようとした時だった。

 

「その子を返せぇ!」

 

 アレックスがデモニカスーツの出力と防御で強引にマガツヒの流れへと飛び込んで行く。

 

「は、無駄な事を」

 

 氷川はそれを見て嘲笑するが、アレックスは次々とエラーを発生させるデモニカスーツを無理やり動かす。

 

『…アレック……ス、スーツが限界を………超えている。退避を』

「ダメだ。あの子を守ると誓った、あんな奴の好きにはさせない…!」

 

 ジョージのノイズまみれの警告を発するなか。ついに一歩も進めなくなったアレックスが歯噛みする。

 

「お願い、あと少し……」

 

 アレックスが何かに懇願した時、デモニカスーツの胸元から一枚の何も描かれてないアルカナカードが、光りながら飛び出していく。

 

「あれは………」

 

 それは超力超神・改から退避した時に静菜を包んでいたアレックスのデモニカスーツに、いつの間にか紛れていた物だった。

 スーツを回収したアレックスがなぜか深く考えも出来ずにスーツに忍ばせていた物。そのカードに与えられていた加護の力により、AIであるジョージの認識すら通り抜けた物が持ち主の危機に反応しマガツヒの流れを突き抜け、静菜の体に溶け込むように吸い込まれていく。

 その途端、突如として静菜の体からマガツヒとは違う光のような物が溢れ出す。

 

「何!?」

 

 氷川も驚く中、その吹き出した光の中から伸びた細い腕が静菜を掲げていた腕を掴んだかと思うと、すさまじい力で握り潰す。

 

「がっ、はっ!」

 

 全く予想外の事に氷川が静菜を取り落としそうになるが、光から伸びたもう一つの手が静菜をやさしく抱き止める。

 

「まさか、あれは………」

 

 その場にいた者達も全員驚く中、光はどんどん形となっていき、それは半人半蛇の女性の姿へとなっていく。

 

「PERSONA!? Newbornが!?」

「だがあれは………」

 

 静菜の体から出てきたのが、紛れもないペルソナである事にペルソナ使い達だけでなく、他の者達も絶句する。

 

『妾は女禍、始まりの母なり。汝、苦界に生まれし現身よ、始原の愛にてそなたを包もう………』

 

 古代中国神話で人類を創造したとされる夫婦神が一柱、ペルソナ・女禍はそう言いながら本体である静菜をやさしく抱き締める。

 その女禍の顔を見た者達の数名がある事に気付いた。

 

「あの顔は…」

「ワンロン千鶴………」

 

 エリーとレイジが呆然と呟く中、女禍は氷川を睨みつける。

 

「ば、馬鹿な! 新生児が神降ろしだと!? 生まれた時から降臨でもさせていたのか!?」

 

 氷川ですら全く予想外の事に驚愕した時、女禍の蛇の下半身が持ち上がっていた事に気付くのが遅れた。

 

『混沌の泥濘!』

 

 振り下ろされる巨大な蛇の尾に氷川が気付いて防ごうとするが、叩き下ろされた尾はすさまじい振動と共に辺りを揺らす。

 

「うわ!?」

「なんてペルソナだ!」

 

 強烈な一撃に皆が思わずしゃがみこむが、攻撃は止まらない。

 荒れ狂う尾の一撃一撃が凄まじい振動を伴い、辺りを激震で揺らしていく。

 

「ふ、伏せろ!」

「強烈過ぎる!」

「すごい………」

 

 桁外れの攻撃に皆が伏せる中、何かが聞こえてくる。

 

『…にが創世? 人の娘をそんなつまらない事に巻き込むな! まずは手前の性根から創世しな! この××××野郎!』

 

 女禍の口から、確かにワンロン千鶴と同じ声だが、生前のそれとはかけ離れた暴言と共に氷川に攻撃が叩き込まれ続ける。

 

「あの人、あんなキャラだったか………」

「PERSONAの側面が出ているのか、ただ純粋にAngryなのか………」

 

 攻撃の度に激震が起きる中、達哉が思わず呟いた事に、エリーも首を傾げる。

 

「な、何が起きているの?」

 

 ペルソナを感知出来ない妻の問いに、レイジはなんと説明すべきか悩むか、やがて口を開く。

 

「清奈の母親がぶち切れて氷川をボコボコにしてる」

「…それは、そうでしょうね」

 

 夫からの説明に妻は何か納得した所で、ようやく激震が止まる。

 後には、震源となった氷川がボロボロの状態で地面に半ば以上めり込んでいた。

 

「死んだか?」

「待って、まだかろうじて生体反応がある」

 

 何人かが近寄ろうとするのを、デモニカのセンサーで確かめたアレックスが制止する。

 

「頑丈な奴だ」

「Guardの術式を使ったのでしょう」

「どうする? さすがにこれは…」

 

 瀕死の氷川をどうすべきかを皆が悩むが、そこで氷川が半ばから砕けた独鈷杵を構える。

 

「シジマの守護よ………我が魂にて」

「貴様…!」

「させん! メギドフレイム!」

 

 最後の手段で氷川が自らを贄に守護を呼ぼうとし、アレックスがレイガンを向けるがマガツヒの奔流に巻き込まれたそれは破損しており、代わりにアモンが氷川の手を掴み、業火で氷川を焼き尽くす。

 

「アモン…」

「こうするしかなかった。それに、これ以上アレに暴れられても困る」

 

 己の仲魔の突然の行動にアレックスが驚くが、そこでアモンは静菜を抱き上げたままの女禍を見る。

 

「それは、そうね………」

『最後まで危険な男だった。アモンの判断は間違っていない』

 

 アレックスもジョージもそれを肯定し、危険が去ったからか異界化していた其の場が医療室へと戻っていく。

 

「無事か!?」

「何とか大丈夫。ただ何人か見てもらいたい人が」

 

 ずっと待機していたらしいゾイの呼びかけに尚也が答える中、ゾイの視線はふとある一点に向けられる。

 

「所で、その子はなぜ浮かんでいる」

「デモニカ使えば分かります」

 

 デモニカ無しでは静菜がただ宙に浮かんでいるように見える中、女禍がレイジの妻へとそっと近寄ると、抱えていた静菜を静かに差し出す。

 

「………」

 

 無言でそれを受け取ったレイジの妻が、表情を少し崩す。

 

「見て、笑ってる」

「ああ、そうだな」

「今確かに何かに触れたわ。すごく優しい手に感じた」

「そりゃそうだろうな………」

 

 女禍の形が崩れ、静菜へと戻っていくのを見ながらレイジも頷く。

 

「うわ、なんだこの消し炭!」

「氷川だった物だ」

「また派手にやったな………」

「インフラ班にシステム確認を。設備にダメージが出てるかもしれない」

 

 異界化が解除された医療室に入って来た調査隊の者達が各所に残る激戦の後に絶句するが、即座に医療室の機能復旧に動き出す。

 

「なんとかなったか………」

「そうだな………」

「そこの二人、カプセルに戻れ」

「すまない、一つ壊してしまった」

 

 一息つくと同時に崩れ落ちそうになっている達哉と仁也にゾイが冷たく言い放つが、達哉の入っていたカプセルは戦闘の余波で黒焦げになっており、どう見ても使えそうになかった。

 

「自分は一応終了まで入ってましたが………」

「出てすぐ戦闘は想定していないわ。ふさがった傷が開いたらどうするの」

「ゾイ先生! 麻希と高尾先生とセラちゃんが無理したからこっちを先に! あとアレックスも!」

「誰だその三人に無茶させたのは! しかも増えてるし!」

「どれかカプセル開けていいのは!?」

 

 負傷者が増えている事にゾイとメイビーが慌てる中、尚也はその様を見てから踵を返す。

 

「周防署長に連絡を。氷川も倒れた今、もうここを襲う余力のある組織は無いだろう」

「それはそうかもしれないけど………」

 

 その場を離れようとする尚也に、ゆきのが考えながらも小さく頷く。

 

「あんたはどこに行く気だい?」

「タルタロスに向かう。あそこが、最後の戦場になるはずだ」

「…あそこはすげえ激戦になってるらしい。気を付けろよ」

 

 ゆきのの問いに尚也が答える中、レイジが険しい顔をして忠告する。

 

「間に合えばいいが………」

 

 尚也の勘は、最後の戦いが近いであろう事を感じずにはいられなかった………

 

 

 激しき戦いの果てに、立ちふさがる壁がまた一つ崩される。

 糸達が向かう壁の向こうに有るは、はたして………

 

 

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