ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「うーん、どうしましょう。誰か適任はいないかしら」
リュウマのサイド0加入から翌日。
昼食を済ませたアラタは廊下に出て、暇潰しにでもプレバイに向かおうとしている道中で、なにやら眉を八の字にして見るからに困ってますといわんばかりのアイダを見かける。
「おはざーす」
「あら、アラタ君。良い所に!」
朝ということもあってか、気怠るさを感じさせながら力のない挨拶をすると、光明を見たとばかりにアイダは表情を輝かせる。
「……良い所にって、大概、相手からするとバットタイミングですよね」
「なに、その顔は。先生、生徒に信頼されてなくて悲しい……」
面倒事の匂いを感じ取り、露骨に面倒臭そうに顔を顰めているアラタだが、その反応にアイダはよよよ……と泣き真似を始めたために頭が痛くなってくる。
だが、所詮は泣き真似のため、時間が惜しいからとすぐに切り替える。
「それはそれとして、ですね。ちょっとお願いごとを聞いてもらえないかな。今から至急、バトルルームに向かって欲しいの。実は、授業に必要なパーツとか動画資料とかあって……その準備を手伝ってもらえない?」
「……まあ、それくらいなら」
「ありがとう! ホームルームまでには余裕で終わると思うから、よろしくお願いします。資料は職員室に運んでくれればいいからっ」
面倒であることに変わりはないが、いつまでも駄々をこねるほど捻くれてもいないつもりだ。
ごめんね、と手を振りながら立ち去っていくアイダを見送って、所在なげに頬を掻くと言われた通り、バトルルームへ向かうのであった。
・・・
「朝にバトルルームって言うと、あの日のことを思い出すな」
指示されたバトルルームに到着すると、ふと以前、リョウコに連れて来られた日のことを思い出す。
そういえば、あれからリョウコと会っていないな、と入室すると……。
「──必要な資料はコレとコレと、あとは……」
屈んでいようが後ろから見ても分かる高身長のスタイルの良さ。
入室音と共に気配に気付いて、こちらに振り返ったのはリョウコだった。
「なっ……。お前が何故ここに……?」
「リョォーウコちゃぁーんっ」
「不二子ちゃんみたいに言うなっ」
性格はまるっきり違うが、リュウマのような資質を感じる。
「まあ、冗談は置いといて。先生から雑用を……」
「……それはアイダ先生のことか? なるほど、お前も私と同じクチか」
どうやらリョウコも同じようにアイダに頼まれていたようだ。
これが普通の生徒達ならば、何ら問題ないだろう。
しかし彼等は違う。彼等は曲がりなりにも敵対している間柄なのだ。
「まったくなにを考えているんだか。私とお前の関係を知らないわけではあるまいに」
「そうですね。俺はあの日、先輩に初めてを……」
「そうだ、危うく忘れるところだったぞっ! お前のせいで私は生徒達からあらぬ誤解をされたんだぞ!? “オオトリさんの趣味ってあぁいう子なんだね。いや、顔は可愛いと思うけど、まあ……うん……。人の好みは千差万別だしね? あぁでも流石に初めてを奪うだけ奪って捨てるのはよくないと思うなぁ”とやんわりと注意された私の気持ちが分かるかぁっ! 自分でも言うのもなんだが私の人柄があったから、誤解は解けたものの……!」
「あぁそう言えば、俺も“初めてを奪われたショックでそんな性格になってしまったのね”って最初のほうは妙に優しくされていたような……」
「お前の
ポッと頬を染めて、頬を抑えるアラタにたちまち噴火したように詰め寄ってくるリョウコ。
その怒りようから今は事なきを得たようだが、当初は苦労していたようだ。
「まあ良い……。いや良くはないが……兎に角、時間も惜しい。アイダ先生が求めていた資料は後少しで全て揃う」
「流石、先輩。じゃあ、ちょちょいと終わらせましょうかね」
手際が良いリョウコのお陰で面倒事もすぐに終わりそうだ。
アラタはそのままリョウコと共に残りの資料を全て集めると、職員室へ向かう。
当初はリョウコが自分で持っていくと言っていたが、何から何まで押し付けて、荷物運びまでさせるのは気が引ける。
・・・
「すまないな。まさか全て持ってくれるとは」
「このくらいはって奴ですよ。寧ろ先輩こそ自分の教室に行って良いんですよ?」
「なに最後まで付き合うさ」
職員室までの廊下を共に歩きながら、申し訳なさそうに横から言われる。
アイダに頼まれた資料は全てアラタが運んでいる。これはアラタ自身が自分で申し出たことだ。
ただでさえリョウコが早い段階から資料を集めてくれていたから早く終わったというのに、それで荷物持ちまでさせてしまっては、自分の立つ瀬がない。
教室へ向かうことを促すが、彼女らしい返答を返されてしまった。
「しかし……お前は本当に、楽しそうにバトルをするな。正直、見ていて羨ましいと思わなくもない」
「何ですか、藪から棒に」
「いや以前、この時間に行ったお前のバトルを思い出してな」
職員室までの道中、何気ない会話を繰り返していると、ふとそんなことを言われた。
アラタが早朝のバトルルームでリョウコを思い出したように、その逆もあったようだ。
「ユイから聞いているだろう。“今の”この学園では、バトルの強さこそ全てだ。みな、自らの地位を守る為にバトルする。そればかりに必死になり、楽しさを感じる余裕もない……」
「……そんなのはガンプラに失礼だ。ガンプラは楽しむものであり、手段じゃない」
「……そうだな、お前の言うとおりだ」
わざわざ聞かされなくともこの学園にいれば、うんざりするほどそんな光景を目にすることが多くある。
普段は飄々としているアラタもそれだけに対しては思うところがあるのか、露骨な不快感を露にすると、その様に僅かに驚きつつも、その一端であるリョウコは自嘲気味な笑みを浮かべる。
「なあに、俺達が変えてみせますよ」
「お前たちが……? いや、そのためのチームサイド0だったか……。愚問だったな、期待のジーニアス」
「おっ、嬉しいことを言ってくれますね。ならご期待通り、頑張っちゃいますよ」
リョウコのそんな笑みを横目に、またいつもの飄々とした態度に戻るアラタ。
その軽い笑みにリョウコの笑みも力が抜けたように微笑に変わり、期待の言葉をかけるとアラタは三本指をクルリと……は荷物を持っているため、回せないのでウインクする。
「まったく……。しかし、気をつけろ。お前たちは……いや、大体、お前のせいだが、サイド0は今、目立ちすぎている。いつ下手な横やりがあるかも分からん」
「埋もれていくよりは良いでしょうよ。まあ今のところ、おめーの席ねぇからみたいなことはないから、大丈夫です」
「流石にソレは……。言えた立場ではないのは承知の上だが、そんなことがあったら私に言うんだぞ? そうだ、サイド0以外で友人は出来たか? お前はアクが強いからな……」
(……あれ、弟みたいな扱いされてない?)
冗談で言ったことなのだが、本気で心配されてしまった。
少なくとも今、学園生活でイジメのような目に遭っていないし、いかに人の目を逃れられるかという点を注目されるエクストリームスポーツ・便所飯をする必要もないくらいには交友関係はあるつもりだ。
「そんなことより、一つ聞きたいことがあるんですよ」
「荷物を持ってもらってるいるからな。答えられる範囲であれば答えよう」
これ以上、下手な心配をされないようにと話題を変えるように質問をしようとする。
「シイナ・ユウキについて教えてもらえませんか?」
「……っ!」
その質問は先程まで、和やかだった雰囲気を凍りつかせたのだ。
「……何故だ?」
「……ちょっと気になってましてね。覚えがあるんですよ、その名前に」
生徒会長の話題ともなれば、リョウコの顔つきも変わる。
鋭い眼光を突きつけられながらも、意に介さず、その目をしっかりと見返しながら答える。
「……私にも良く分からない。嘘ではない。あの人の考えは私の及ぶところではない。この学園で一番、生徒会長を理解しているのは、副会長くらいだろう」
「副会長ねぇ……」
「副会長のもとへ行っても無駄だ。まず取り合うこともしないだろう。寧ろこうして私とお前が共にいるのが、おかしなくらいだぞ」
言われて見れば、確かにその通りだ。
片や今の学園を作り上げた生徒会の一人、片やそれを良しとせずに抗うチームのリーダー。
普通ならば、話もしないどころか、いがみ合っていてもおかしくはないのだ。
「まあ……いずれは会うことになるでしょうよ。その時を待ってます」
「……不思議だな。お前が言うと、本当にそうなるように思えてしまう。だが忘れるな、生徒会長のもとへ向かうのならば、私達生徒会やその傘下のチームが必ず立ち塞がる」
「誰が立ち塞がろうとやることは変わりませんよ」
生徒会長と……シイナ・ユウキと相対するのは、必然だとそんな運命的なものを感じるのだ。
迷いなく放たれたその言葉に、リョウコは感心しながらも生徒会書記として刺すように忠告するが、望むところだとばかりにアラタが笑ったために、全く……と呆れたように微笑を浮かべながら肩を落とす。二人はそのまま職員室へ向かうのであった。
・・・
ガンブレ学園の一室。
日差しが入るというのに、薄暗いこの部屋はまるで子供の遊び部屋のようにガンプラのパーツが散乱していた。
ここはガンブレ学園の生徒会室。
何れはアラタ達が訪れることとなるかもしれない場所だ。
《さあ、勝利を組み立てようか》
その最奥にあるデスクのパソコンにはかつてのサイド0とショウゴとその取り巻き達とのバトルの映像が映し出されていた。
「ソウマ・アラタ、か……」
映像をループ再生させながら、それを見ていた肩まで無造作に伸ばした白髪の男子生徒は腰を落ち着かせていたレザーチェアにもたれかかる。
「まだここにいる理由は出来たかな……」
そう言って彼が懐から取り出したのは、一枚の写真だった。
その写真は非常にボロボロであり、青年の物持ちもあるが古いものなのだろう、
青年はその目に映る景色全てが色褪せているかのように気怠るげな瞳をしているが、この写真だけ見る目が違う。
「僕はキミを忘れたことなんてなかったよ」
そこには幼い青年とアラタが一緒に映っていたのだ。
二人ともガンプラを持って、ただただ無邪気な笑顔を浮かべている。
青年がそのままパソコンの画面を切り替えれば、そこには無数の写真が映し出される。
それは全てこの学園に転校して来てからのアラタのものだった。
それらを眺めて、青年は歪に笑う。
それはまるでアラタに固執するかのような歪んだものだった。