ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
リョウコとの雑用から昼休みとなった。
いつも通り、イオリと何気ない雑談を交えながら穏やかな昼食をとっていると……。
「アラター、いるー? 迎えに来たよーっ!」
マシンガンデコガールことチナツが教室に突撃してきたのだ。
入り口でひょこっと教室中を見渡してアラタを見つけたかと思えば、タタタッと小走りで近寄ってくると……。
「「へいよーがんぶれっくすっ」」
小気味の良いハイタッチが行われた。
そのままチナツが用件を話し始めようとするが……。
「へ、へいよー……? それって……」
「えー? イオリン、知らないの? おっくれてるーっ」
「おっくれてr「ふんっ」俺だけあたりが強い!」
チナツが謎の挨拶をしたかと思えば、当たり前のようにアラタも返したのだ。
戸惑っているイオリに彼女の愛称を口にしながら、からかい半分にチナツが笑う。先日のイオリチャンと初遭遇した後の謝罪の反応から、やはり彼女達はある程度、気心が知れた仲のようだ。
そんなことを思いながら、チナツと同じように両指を指しながら、からかおうとするも、顎先を狙った一撃が放たれ、辛くも逃れる。
「それで、そのへいよーって……?」
「ガンブレ学園で流行ってる(って設定の)挨拶だよっ、ねー、アラター?」
「(昨日暇つぶしに考えただけだけど)ねー、ちなちー」
「なんかムカツク……」
ねー、と顔を見合わせて小首を傾げている二人の姿にわなわなとイオリが震えていると、時間が惜しいとばかりにちなつが漸く本題を切り出す。
「それよりそれよりぃっ! 一緒にガンプラデコろうよーっ!」
どうやら以前、塗装談義に花を咲かせたことからアラタと昼休みの間、塗装をしようと誘いに来たのだろう。
特にこの後の予定もないため、ちなつの誘いに乗ろうとした時だった。
「──……そういうの止めて欲しいんだけど」
一人の生徒が口を挟んだのだ。
突然の横やりにそちらを見てみれば、そこには何人かの生徒が不愉快そうな様子で立っていた。
「このクラスはサイド0のリーダーとそのメンバーがいるせいで、生徒会に目を付けられてるんだ。そんな状態なのに、自由にガンプラを作ろうって教室で言ってるのがバレたら……」
「だから教室で生徒会を刺激するような言動は止めて欲しいんだ。第一……」
どうして、と目で問いかけてみれば、どうやらそれは生徒会を恐れての行動だったようだ。
彼等の抗議はそれだけに留まらず、アラタを鋭く見やる。
「彼の近くにいると、みんな変人扱いされてしまうんだ!」
「なんですと!?」
思いも寄らぬ発言に今まで話を聞き流していたアラタも反応してしまう。
「待ちなさい!」
「い、委員長……!」
そこに待ったをかけたのはイオリだった。
勇ましく立ち上がった彼女にアラタが感激していると……。
「私は断じて変人なんかじゃないわ!」
「俺だって変人じゃないやいっ!」
どの口が言うのか。
その時ばかりは、いがみ合っていた両者だけではなくクラス全員の心がシンクロした。
「えー、マジで言ってるのー?」
「そうだ、ちなちー! 言ってやれ!」
「任しといて! ガンプラ作ろうも言っちゃいけないって、キミ達さあ、何の為にガンブレ学園に入ったの?」
「そっちもだけど、そっちじゃない!」
頼みの綱であるチナツでさえ、アラタのフォローは一切しない。
あまりの状況にアラタは一人頭を抱えていると、このやり取りを見かねた、居合わせたアイダが諭すように口をはさむ。
「カミサカさん、みんなの気持ちも分かってあげて?」
「えー、先生までそんなこと言うんだ。ガンプラ作らないならここにいる意味ないじゃん!」
「スルーされる俺の気持ちも分かってあげて!? 俺が変人のまま話を進めるんじゃないよっ!」
この生徒達だって、今の生徒会がなければチナツのように振舞えるのかもしれない。
だが、そうは出来ないのが今のガンブレ学園なのだ。
アイダが諭すも、それが逆にチナツの落胆を買ったのだろう。一人、ギャーギャー騒いでいるアラタの腕を掴むと……。
「アラター、ここがダメなら別のところへ行こうよっ!」
「貴様等、俺は忘れんぞ! この扱いを俺は忘れんぞおぉぉぉぉ! 俺は変人じゃない、変人だとしても変人という名の天才だあぁぁぁぁぁぁぁ!! ……──」
半ば強引に移動を開始する。
だがその間もずっと自称天才は呪詛の言葉を吐いていた。
・・・
「ここなら自由に話せるねー。ねえ、アラター。さっきの話なんだけど」
「俺は変人じゃないもん……」
「ハイハイ、アラターはてぇんさいだもんね。そんなことよりも……「そ、そんなこと……」なんか、みんなガンプラを作る楽しみを忘れちゃってる……」
二人が移動したのは、第08部の部室だった。
これで気兼ねなくと話し始めるちなつだが、当のアラタは椅子の上で体育座りになって拗ねてしまっている。
そんな涙目のアラタを撫でながら、先程の生徒達を思い出して悲しげな表情を浮かべる。
「も~! 一年のときは、全然こんなんじゃなかったのに! このままじゃダメだよね!? ぜーったい、生徒会ヘコませてやろっ!」
「俺の認識もこのままじゃいけない……」
「あたしたちで前みたいなアゲアゲな学園に戻しちゃおー! そのためにもえーきを養うためにガンプラ、作ろっ」
そういって、チナツが取り出したのは、持ち込んだガンプラだ。
いくつかをいまだに拗ねているアラタに渡しながら、二人は気ままにガンプラ制作を始めるのであった。
・・・
「他の子はもう諦めムードみたいでさ、つまんない。生徒会生徒会ってそればっかりでホントつまんない。先生達まで言いなりでさ。ガンプラを作る為にこの学園に来たのに……」
ガンプラを作り始めたことでアラタの機嫌も直り、今ではガンプラに触れられていることで鼻歌まで歌っている始末だ。しかしチナツは先程の一件が尾を引いているのか、少しずつ眉を寄せる。
「はー、もっと自由にガンプラをデコって、楽しい学園にしていきたいじゃん?」
「そだね」
不満を口にするチナツに、それよりも今、自分が手がけているガンプラがどれだけ綺麗に作れるのかに気を取られているアラタは気のない返事をする。
しかしチナツにとっては、今のそのアラタの反応のほうが良かったのか、途端に快活に笑みを浮かべる。
「……あたしね、思うんだ。キミみたいに心のそこからガンプラを楽しんでバトルしている人なら、どんなヤツにも勝てるって……つまんなそーにしてるヤツ等の心にも火をつけられるって!」
「おっ、これはまさかの高評価。まあ正直、俺はただガンプラに向き合ってるだけだけどね」
「それが大事なんだよ! だからアタシもサイド0に思いっきり協力してくから、二人でガンブレ学園のバイブス、あげてこーッ!」
「うん、二人で? なんか前にも似たようなこと言われたような……」
チナツもアラタに光るものを見出しているのだろう。
その手を掴んで、元気一杯に話すチナツの姿に何か既視感を覚えながらも、残念なことにもう間もなく昼休みも終了してしいまうということで、この日のガンプラ作りは終わってしまう。
(……俺達だけではないかもな)
チナツと別々のクラスのため、途中まで一緒に移動しながらも、先程の男子生徒たちのことを思い出す。
あんな風に突っかかってくるのは、自分やイオリだけだとは思えなかったのだ。
・・・
「だからよー。お前、調子に乗ってんじゃねえの?」
「そうそう、サイド0だっけ? 生徒会に反抗してるって噂になってるみたいだけどさ。同じクラスのあたしたちも共犯扱いされて迷惑なんだけど!」
アラタの予想は当たっていた。
放課後、サイド0の部室へ向かおうとするユイの前に二人の男女生徒が立ちふさがって、因縁をつけてきていたのだ。
「きょ、共犯ってそんな……っ!」
「実際、ラプラスの盾の連中にパーツを巻き上げられた連中が何人もいるんだよ! お前らの連帯責任だとか言われてな!」
何か弁明しようとした瞬間、思いも寄らぬ発言を受けて動揺してしまう。
確かに自分達の行動によって生徒会やその関係者から何の妨害もないなどとは考えていなかったが、まさかそのような事態になっているなどと聞かされては動揺せざるえなかった。
「大体よぉ、今の生徒会になってギチギチの校則が作られたのは、お前らの生徒会が弱かったせいだろ。それを今更、正義の味方ヅラされたって、なぁ?」
「あたし、あんたたちのバトルも見てたけどさー。あんた副会長にフルボッコにされてたじゃん。あれから、差は開いているだけじゃないの?」
「そんなことない……。わたしだってずっと練習してきて……っ!」
この場には、この三人だけしかいないわけではない。
しかし誰も悲しげに顔を歪めるユイを助けようとするどころか見て見ぬふり、最悪は嘲笑するものまでいた。
「練習や経過は問わない、結果が全て。この学園のガンプラバトルの基本だろうが」
「そんなの違う! ガンプラは作るだけでも楽しいし、手を入れれば入れるだけ、愛着も湧くものっ!」
「じゃあ、一人で作ってれば良いじゃん。あたし等を巻き込まないでよねー」
何を言っても弱者であるユイの言葉は誰にも届かない。
それどころか、ただバカにされて終わる。ユイもそんな状況と己の無力さのあまり下唇を噛んでいると……。
ピピーッ!
突然のホイッスルが鳴り響いた。
なんだなんだと思い、見てみれば、そこにはホイッスルを口に咥えたまま据わった目つきでこちらに指差しているアラタの姿が。
「な、なんだお前!?」
「ピピッ! ピピピッピピピピィー!! ピィーピィーピィ-ッ!!」
その場の三人が驚いている間も威嚇の如く、ホイッスルを響かせ、手信号激しく行いながらジワリジワリと近づいてくる自称天才……っていうか不審者。
「も、もういいよ、ほっとこ! あれ噂の転入生だよ。近づいたらなにされるか分からないし……アイツに関わった奴、みんなおかしくなるって……」
「あぁ、だからミカグラも……」
恐怖のあまり表情を引き攣らせて怯えながら、男子生徒の袖を引っ張り、先程まで嘲笑されていたユイに同情の視線さえ送られる。しかしその間にも自称天才を名乗る不審者は近づいてきており……。
「ピピイイイイイィィィィィィィィィィィッ!?」
「ひぃっ、逃げろぉっ!!」
「キャーッ!? 助けてぇーッ!」
今のこの男に下手な刺激は禁物である、特に変人とかその手の話題は。
挙句の果てにはホイッスルを全力で鳴り響かせ血走った目で両手をブンブンと振りながら全力疾走してくる自称天才にユイに絡んできた生徒達は一目散に撤退する。
「……し、心配して見に来てくれたのかな?」
「あの手合いはなに言っても無駄なんだよ。真剣に相手をするだけ無駄だ」
「う、うん……。でも、そのやり方もどうかと思うけど……」
おどおどと声をかけられ、ホイッスルを口から放し、去っていく生徒達を見て嘆息しているアラタに先程の狂乱する様を思い出しながら、頬を引き攣らせる。
「でも、ごめんね。こんなとこばっかり見せちゃって……。私、アラタ君の前ではしっかりとしたお姉さんでいようって決めてたのに……」
「力になるって言ったでしょ。なんだったら、今後こうやってアイツを追い払って──」
「そ、そうやってだったら止めて欲しいな……」
普段、弟扱いしているアラタに何度も助けられたことで申し訳なさそうにシュン……と落ち込んでいるユイにかつてのように男らしい勇ましさを感じさせるような精悍さで答えるが、やはり先程の光景を思い出して、頬を引き攣ってしまう。
だがやがて、息を決したように自身の頬をパンッと気合をいれるように両手で叩くと……。
「よーし、もう大丈夫! 気合入れた!!」
「それでこそ。じゃあ、部室に行こうか」
「うんっ!」
柔らかな笑みを見せるユイに、どことなしに安心したように微笑む。
そんなアラタの笑みに嬉しそうに頷くと、二人でサイド0の部室へ向かうのであった。
・・・
「サイド0って結構、有名になってるみてーだな」
部室に到着して、暫らく。
ふとプロテインバーを片手にリュウマが学園でのサイド0の知名度について口に出した。
「実際にラプラスの盾のメンバーを倒しているもの。とはいえ、予想以上に情報の伝達が早いようね」
「……ちょっと……怖い、です……」
やはり良くも悪くもラプラスの盾のメンバーを打ち倒せたのは大きかったようだ。
放送部によって配信されているとはいえ、何かあれば瞬く間に拡散されていくような状況にマリカも怯え気味なのだが……。
「でも、後戻りは出来ないわ」
そこに口を出したのは、ユイだった。
「それにこう考えたら、どうかしら? 生徒会に不満を持っていた人達の決起のきっかけになるって」
近いところで言えば、リュウマやチナツであろう。
彼らも生徒会に異を抱き、リュウマはサイド0への加入、チナツも協力してくれるといっていた。
「なるほど……。そんなに上手くいけばいいのですが。今のところ嫌がらせや遠巻きに見られているだけですね」
「全くだ。俺が変人だなんて嫌がらせにも程がある。たまに変になる委員長なら兎も角としt──」
無言のチョークスリーパー。
いつの間にか、背後に移動したイオリによって、アラタが締め上げられていると……。
「──そうそう、人生そんなに甘くねえってな」
第08部の部室の扉が荒々しく開かれたのだ。
「よぉ、遊びに来てやったぜ、ユイ」
そこにいたのはショウゴとその取り巻きだった。
この場にいる全員(意識が飛びかけている自称天才を除く)が驚くなか、シュウゴ達はただただ下卑な笑みを浮かべるのであった……。