ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「アラター、いるー?」
ショウゴを打ち破った翌日、勢いよく教室に入ってきたのは、チナツだった。
目当てはアラタのようで、以前と同じようにアラタの姿を探すが、一向に見当たらない。
「アラタならいないわよ」
「えー? どこ行ったの?」
「さあ……。昼休みになったらフラッとどこかに行ってしまって」
イオリがアラタの不在を伝えるが、彼女自身もアラタがどこへ行ったか、分からないようだ。
アラタを目的に訪れただけあって、あからさまに不満顔を見せるチナツに苦笑しながら、いつもの飄々とした態度をとりながらも、どこか様子がおかしく感じられたアラタに想いを馳せるのであった。
・・・
そんなアラタは今、一人屋上にいた。
ベンチに腰掛け、プレバイで購入したドーナツを頬張りながら、所在無く空を見上げているその瞳に覇気はなかった。
「──だーれだ」
ふと視界が暗転すると同時に目元が柔らかな感触に包まれる。
何だと思うのも束の間、甘い香りが鼻をくすぐるのと同時に耳元で悪戯っぽく囁かれる。
「ジョン竹中」
「本当に誰かしら……」
適当に答えた名前に呆れられながら目元を覆っていた手を離される。
振り返ってみれば、そこには眉を八の字にして呆れているレイナがいた。
「聞いたわ、ラプラスの盾を倒したんですってね」
「まあ別にリーダーを倒したわけではないけど」
「それでもネームバリューがある分、この勝利は大きいわ。胸を張って良いのよ」
そのままアラタの隣に腰掛け、称賛してくるレイナに肩を竦めて、おどけるが、微笑と共に送られたまっすぐな言葉に照れ臭そうに頬を掻く。
「それにリュウマ君の件もね。お礼が遅れてしまってごめんなさい。今の彼、この学園に入学してから一番、輝いているように見えるわ。本当にありがとう、また一人、笑顔を取り戻してくれて」
「大袈裟じゃない? 俺は単にあのバカのビルダーとしての今後を見てみたいって思っただけだし」
「私は誇張はしないわ。あなたはそれだけのことをしたんですもの。一見、おちゃらけてはいるけど、ガンプラへはただ無邪気でありながらも、真摯で崇高な精神で接している」
ここまで手放しで褒められると、どうにも調子が狂ってしまう。
少しでも照れてしまうのを何とかしようとドーナツを気恥ずかしそうに頬張っていると……。
「──だからこそ……それが少し……怖かったりするのだけれど」
まるで消え去りそうなほど儚げに放たれた言葉ではあったが、確実にその内容は耳に届いた。
「……どういう意味?」
「……いえ、忘れて。悪い癖ね、少し心配性なのよ」
含みのあるその言葉を聞き逃さず、追及するのだが、やんわりと首を横に振ったレイナはすくっと立ち上がると、アラタに向き直ると、そっと手を差し伸べる。
「少し付き合ってもらえるかしら」
・・・
レイナに連れられて訪れたのは、第10ガンプラ部の部室だ。
何故、わざわざこの部室に連れてこられたのを考えていると……。
「あれ、これ……写真? 俺たちのも……」
以前は気にも留めなかったが、部室の一角にある壁にかけられたボードに気付く。
そこには無数のガンブレ学園の生徒達の姿が収められた写真が留めてあり、中には以前、ユイと二人で帰宅した時と思われる写真まであった。
改めて写真を見返していると、どれもこれも笑顔ばかりであり、写真だけでも楽しそうだという印象が簡単に伝わってくる。
「みんな楽しそうでしょう? そういう顔を見ると、思わず写真に撮っちゃうのよ」
「俺とユイ……先輩のは?」
「同じよ。帰りにアナタとミカグラさんを偶然、見かけたけど、その時の貴方達、まるで姉弟みたいで楽しそうだったから撮ってしまったの。気を悪くしたらごめんなさいね」
姉弟という言葉に頬をひくつかせながらも、改めて写真の一枚一枚を見てみれば、レイナが思わず撮ってしまうと言うのが頷けるほど、写真に写っているどの生徒も輝かしい笑顔 を浮かべている。
「今ではこういった顔も……中々、見れないのだけれど」
「……」
「第10ガンプラ部は遊び心をテーマとしている……というのは、前に話したわね」
どこか寂しそうにポツりと零すレイナに視線を向ければ、彼女はそのままここの部活動で作成されたと思われる個性豊かな作品達(一部アウト)が飾られた棚へ近づく。
「今のこの学園で遊び心なんて無用なものになってしまった。今の生徒会になるまで盛んに行われた春のアトミック祭りやドキッ! ふみなだらけの美少女大会も出来なくなったわ」
「まあ……内容は兎も角、今の学園のルールだとネタプレイは出来ないだろうけど」
「それは勿論、ランキング制の導入など理由は様々。どちらにせよ、今のこの学園はあまりに殺伐としている。ある者は学園で強者であろうとランキングに固執し、ある者はこの学園に嫌気が差すかのどちらかよ」
ガンプラバトルが全く新しいeスポーツとして世界中で人気を博しているとはいえ、その根幹は遊びなのだ。
その遊びが満足に行えないのは、レイナにとって不満そのものでしかない。
「遊びだから本気になれる……。私はこの言葉に感銘を受けたわ。命のやり取りをする必要もない遊び……でもだからこそ本気になれる、好きだからこそ本気になれる」
「ラルさんか。その言葉は俺も好きだ」
「この学園の皆も根はガンプラとバトルが好きなのよ。でも、遊びに“夢中”になることが出来なくなってしまっている。それは……ガンプラを取り扱うこの学園ではとても寂しいことだわ」
この部室のガンプラや怪盗をモチーフとしたマスカレイドガンダムも遊び心が生み出したガンプラだろう。
ただ強いガンプラのみを求めるのであれば、わざわざ怪盗をモチーフにいれる必要などないのだから。そんな風に遊びを楽しめる彼女だからこそ、現状を憂うのだろう。
「アナタのこれからはきっと平坦なものではないと思う。でもだからこそ忘れないで欲しい。遊び心を……遊びだから本気になれるということを」
まっすぐと向き直ったレイナはアラタの目を真剣な眼差しで見据えながら話す。
先程の含みのある言葉のこともあってか、その瞳はどこか不安そうにアラタを案じているように見えた。
──その時、第10ガンプラ部の部室の扉が開いた。
そこにいたのは、180cm以上はあるであろう高身長の青年だった。
褐色の肌、太陽を思わせるような瞳、その目鼻立ちは日本人のものではなく、南アジアなどで見られる外見的特徴が一番、重なるだろう。
「──この俺はわざわざ呼び出すとは……。不敬その物だが、まあまずは理由は聞いてやろう」
白色のガンブレ学園の制服を身を包んでいるところを見ると、少なくともこの学園の生徒のようだ。
日本語も堪能なようで、傲岸不遜のような振る舞いをとりながら近くの椅子へ腰掛ける。
「この人は?」
「留学生のアールシュ・アニク・カルナータカ、三年のクラスにいるわ。現インド政府大統領のご子息よ」
「そんな人がこの学園に?」
「ガンブレ学園は世界でも有数のガンプラバトルに特化した学園よ。ガンプラが世界中の人々に愛されるようになった今日で、世界でプロのガンプラビルダーが幅広く活躍の場を広げるなか、最新鋭の設備が導入しているこの学園は世界中の人々の関心も高く、これまでも何人もの留学生が在籍していたわ。何より日本はガンプラ発祥の地だしね」
この世界におけるガンプラは世界、いや、それこそ地球規模と言って良いほどの大流行を巻き起こし、愛されている。ガンプラの価値その物が高く、世界大会も盛んに行われている。彼もまたガンプラ発祥の地で学ぼうとこの学園にやって来たのかもしれない。
「それに彼は学園ランキングにおいて、10位圏内にいるほどの実力者よ。一部では生徒会長に匹敵する力を持っているとも。何よりその立場もあって、この学園のルール、いえ、副会長の圧力を受け付けない特異な人物なの」
「それは単純に凄いな……」
この学園のスクールカーストは半ばその実力で決まっている。だからこそ強者は弱者に逆らえない仕組みとなっているわけだが、それを踏まえた上でもその地位にいるこの青年の実力は凄まじいのだろう。
「俺を放っておくとは無礼にも程がある、が、俺の話をしているのであれば許そう。耳障りの良い話であれば尚更、な」
「失礼。よくぞいらしてくださいました」
アールシュの紹介をしているうちに彼を放置する形となってしまった。
少なくとも機嫌を損ねることはしていないようだが、下手に機嫌を損ねたらどうなるか分からないのか、レイナは丁寧に接する。
「よい。何かと思っていたが、サイド0のリーダーとやらに会うことになるとはな」
「ソウマ・アラタ。天才ガンプラビルダーです」
「ほぅ……噂通りの男のようだな。腫れ物のように扱われる俺に物怖じぬとは」
少なくともガンブレ学園で噂になっているサイド0のリーダーであるアラタを見て、気を良くしているようだ。そんなアールシュに三本指を回しながら、簡単な自己紹介をすれば、くつくつと愉快そうに笑っていた。
「けどどうして? もしかして俺達に協力してくれるとか?」
「彼はあくまでこの学園でノウハウを学んでいるだけで、生徒会などには不干渉の姿勢をとっている。だから生徒会とも不可侵のような状態なのよ。だからミカグラさんとも折り合いが良いとは言えないわ」
彼の口ぶりではどうやらレイナに呼び出されたようだ。そして自分もレイナによってこの場にいる。
引き合わせられたような形だが、もしかして彼と協力関係になれるのかと考えたアラタだが、どうやらそうことは上手くいかないようでフルフルとレイナは首を横に振る。
「何で……? 生徒会長にも匹敵するほどの実力っていわれるくらいなんでしょ?」
「おいそれと揉め事を起こして、親に負担をかけるつもりはない。この学園への留学も無理を聞いてもらったのだからな。それにバトルか……。フンッ、奴等とバトルをするつもりもない」
もしかしたら自分が来る以前にどうにか出来たかもしれない。
だがアールシュは事を構える気はないようで、生徒会のことを思い出してか、不愉快そうに鼻を鳴らす。
「書記は兎も角、奴等のビルダーとしての姿勢……いや、ビルダーと呼んで良いとも思わんが、少なくとも俺のガンプラと戦わせるには値しない。ランキングも興味はないが、降りかかる火の粉を払ううちに今の順位になっただけのこと」
不可侵とはいえ、生徒会その物は不愉快に思っているようだ。
その理由は、ガンプラビルダーと呼ぶに値しない存在だから、とのこと。
「俺は生徒会を倒すための手段としてだけにガンプラを用いる気はない。それはガンプラに対して侮辱に値する行為だからな。俺のガンプラはあくまでガンプラへの敬意を持つ者だけにその相手を務めさせたいのだ」
「……っ!」
彼は彼なりに己のガンプラを愛しているのだ。
ふと見せた優しげな表情がそれを物語る。そして何よりその考えはアラタも理解できることなのだ。
「ほぅ……その顔、貴様も思うところがあるようだな」
「俺……昨日、ラプラスの盾のメンバーとバトルをした時に自分のガンプラへ申し訳なかったんです。あの時の俺は仲間を侮辱されて、怒りをぶつける手段にガンプラを使ってしまった……。あのガンプラは……俺の全てを……情熱を注ぎ込んで作ったんです。あんな風に戦わせるためじゃない……。それが凄く情けなくて……申し訳なくて……」
表情が強張り、拳を握って、顔を伏せるアラタをアールシュは見逃さなかった。
その言葉に先日のバトルとシミュレーターの中で膝を抱える自分を思い出し、ガンプラを愛しているからこそ、あのような使い方をしてしまった自分への情けなさを吐露する。
「……この学園で見所のあるガンプラビルダーもういないと思っていたのだがな」
「えっ……?」
「よい、許す。貴様、放課後に俺とバトルしろ。一対一で、だ」
今までどこか不機嫌さを感じさせていたが、どこか穏やかに息をつくと、アラタに一対一によるガンプラバトルを持ちかけてきたのだ。
「とことんまで遊ぼうではないか。全力で、心ゆくまで」
突然のバトルの申し出に驚いていると、もう用はないとばかりにアールシュは席を立ち、最後に彼自身の高揚感を感じさせる笑みを見せながら、この場を後にしたのだ。
「あの……これって……」
「あの人もまた燻ってたのよ。でもアナタのガンプラへの後悔の念に触れて少しでも火がついた。だって愛してなくちゃ後悔なんて出来ないもの。あの人はそんな風にガンプラを愛している人を求めていた。ただただ強いガンプラを求めているような人達ではなくてね」
「そっか……。そう思われるのは純粋に嬉しい」
「それに彼は10位圏内の上位ランカーよ。このバトルは決して無意味なものではないわ」
いまだ戸惑いつつレイナを見てみれば、彼女は苦笑した様子で肩を竦めながら、先程のアールシュを思い出す。
ガンプラを愛しているからこそ、ガンプラビルダーとしての愛を感じられない者とは戦わない。逆に言えば、アラタは彼の目から見て、愛を感じられたのだ。
「……最っっ高だッ! なんだかテンションが上がってきた! 放課後、見に来てくれよなっ」
「ええ、勿論」
段々とアラタも実力者とのバトルに高揚してきたのだろう。
歓喜のあまり、頭を掻き毟りながら屈託のない笑顔を浮かべると、レイナに声をかけて教室に戻っていくのであった。
・・・
「実力があるに越したことはないが、今は問うまい。そのガンプラへの想いを感じさせてくれれば、それで十分だ」
三年の教室が並ぶ廊下の窓辺に寄りかかりながら、アールシュは人知れず笑みを浮かべていた。
この後のバトルへの想像を働かせる。一体、どんなバトルが、どんな想いを感じられるのか、それが楽しみで仕方なかった。
「そうであろう、シヴァ」
彼の手には彼が手がけた渾身のガンプラが。
ガンダムバエルをベースにカスタマイズされたインド神話における最高神の名を冠したガンプラを見て、胸を高鳴らせるのであった。
アールシュ・アニク・カルナータカ
【挿絵表示】
ガンプラ名 ガンダムシヴァ
元にしたガンプラ ガンダムバエル
WEAPON 60mm高エネルギービームライフル
WEAPON バエルソード
HEAD ガンダムバエル
BODY ガンダムバルバトスルプスレクス
ARMS ガンダムAGEⅡマグナム
LEGS ガンダムバエル
BACKPACK ストライクノワール
拡張装備 大型アンテナ(額)
スラスターユニット×2(脚部)
例によってリンクが活動報告に(ry