ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
放課後の第08ガンプラ部の部室は普段ならば、和やかな時間が流れているのだが、今日ばかりは違った。
「まさか学園トップランカーの一人がこの部室に来る日があるなんて……」
それはやはりこの部室がさも自分のものであるかのように腕を組んで堂々としているアールシュの存在があるからだろう。
事情はアラタから話されたとはいえ、この部室を長らく使用しているマリカもサイド0潰しでもないのに、上位ランカーがこの部室にいるこの状況は信じられないくらいだ。
「まさかよりにもよって、アラタ君がアールシュ君とバトルすることになるなんて……」
「この学園で最も特異な存在……。話には聞いていましたが、目の前にするのは初めてです」
アールシュは権力実力ともに学園を変える力を有しているいるにも関わらず、不干渉を貫いている。
それは是が非でもガンブレ学園を元に戻したいユイからすれば、複雑だ。イオリもアールシュのことは噂には聞いていたが、実際に目の前にして、彼の持つ威圧にさえ感じる厳かな雰囲気に知らず知らずに息を呑む。
「っていうか、知らねぇうちに結構、人が集まってんな」
実はこの第08ガンプラ部の部室に集まっているのはサイド0の面々とアールシュだけではなかった。
他にもアラタからの誘いを受けたレイナに、チナツやシオンの姿があった。
「なんで、チナツまでいるのよ」
「ちなちーって呼んでよー。アラターがタイマンでバトルするって聞いたから来たんだよっ!」
当たり前のように部室にいるチナツに声をかけると、自身の愛称を呼んでくれないイオリに不満顔を浮かべながらも、これから行われるであろうアラタとアールシュのバトルに胸を高鳴らせている様子だ。
「大佐はシオン公国の臣民だからね! ちゃんとシオンが見届けてあげなくっちゃっ!」
「シ……シオン公国……?」
「シオン公国はガンブレ学園の優良種を集めて建国されるシオンによるシオンの為のシオン公国なのですっ」
ジオンなら兎も角、聞きなれぬ単語に頬を引き攣らせるユイの疑問に元気たっぷりに答えながら、大佐と任命したアラタの勝利を祈る。
「不躾な奴等が揃いも揃いよって……。だがよい、此度の俺は寛大である。なにせ久方ぶりにまともなバトルが出来そうなのでな。この期待、裏切ってくれるなよ」
「ああ。それじゃあ早速、はじめましょうか」
ゾロゾロと人が集まるこの状況に眉を寄せながらも、それを上回るバトルへの期待感に心を躍らせるアールシュに頷き、二人はバトルシミュレーターに乗り込んでいく。
マッチングが行われるなか、お互いにこれから行われるバトルに期待感に胸を膨らませながら自身の全てを注ぎ込んだガンプラをセットする。
「G-ブレイカー!」
「ガンダムシヴァッ」
「ソウマ・アラタッ!」
「アールシュ・アニク・カルナータカ……!」
「行きますッ!」
「出るッ!」
お互いの想いはその声を聞けば分かる。声を重ねあいながら、二機のガンプラはカタパルトを飛び出していくのであった。
・・・
バトルフィールドに選ばれたのは、コロニー内に建造された市街地であった。
高低差のある建造物の数々は障害物としての役割を果たし、バトルを更に引き立たせることだろう。
「どこにいる……ッ」
そんな市街地の上空を鮮やかな噴射光による尾を引きながら飛行しているのは、G-ブレイカーであった。今回はG-cubeではなく、完全なる一騎打ちだ。
相手となるシヴァを探していると、センサーが敵機体を捉え、確認すればそれはシヴァのものであった。
「すっげぇ……!」
ガンダムシヴァを改めて目にした時、アラタはこれから戦う相手にも関わらず、子供のように瞳を輝かせる。
ガンダムバエルをベースにカスタマイズされたそのガンプラはバエルの高速近接型を更に昇華させたようなガンプラだったのだ。
シヴァは両腕と翼をひろげ、その圧倒的な存在感を示す。
機体そのものの完成度だけではなく、両腕に装備されたFファンネルはその一つ一つが精巧に作られており、G-ブレイカーのフォトン装甲に負けぬほどの輝きを放っている。
純粋にシヴァのここまでの作り込みにアールシュの愛を感じたのだ。でなければ、圧すら感じるあれほどまでの存在感を示すことなど出来ないだろう。
「シヴァに見惚れたか。よい、それは至極当然なことだからな」
「ああ、そんなガンプラと今からバトルが出来るッ! それは純粋に光栄なことだッ!」
火蓋を切るように互いに向けられたビームライフルの引き金が引かれる。
ビームが交差し、シヴァは僅かに機体を反らして避けるなか、G-ブレイカーはフォトン装甲シールドからビーム・プレーンを幾つも展開する。
ビームを吸収するだけでなく、いくつも展開されたビーム・プレーンは目眩ましとしての役割を持つ。アールシュが眉を顰めるなか、流星を描きながらG-ブレイカーは飛翔する。
「賢しい真似を……」
G-ブレイカーはその機動力を惜しみなく活かしながら、シヴァの周囲を撹乱するように飛び回りながら、ビームライフルの引き金を引く。その一つ一つを確かに避けながら、アールシュは目を細める。
彼の目はG-ブレイカーの姿を確かに捉えていたのだ。
「ッ!?」
次の瞬間、アラタは息を呑む。
十分な距離を置きながら、シヴァの動きを乱していたつもりなのだが、シヴァがそのウィングを展開し、スラスターを稼働させた瞬間、瞬く間にG-ブレイカーとの距離を詰めてきたのだ。
「ハエが飛び回ったところで太陽は墜ちはせん」
瞬時にシヴァは一対のバエルソードを引き抜くと、交差させるように振るう。
辛くもフォトン装甲シールドを構えたG-ブレイカーであったが、さながらバターのように切断されたのだ。
「ッ!?」
「遅いッ!」
G-ブレイカーに絶対的な自信を持っていたアラタもこれには驚くしかない。
しかし驚いている間にもシヴァのタックルを受けて、大きく吹き飛ばされてしまう。
「ならッ!!」
なおも追撃の手を休めず、迫ってくるシヴァにされるがままに終わるつもりのないアラタが動いた。
その身を真紅に染めるrことでアサルトモードを発動させると、トラフィック・フィンと共に最大出力のビームを解き放ったのだ。
「チィッ……!」
軽やかに避けるシヴァだが、作りこまれたG-ブレイカーの最大出力のビームはそのままコロニーの外壁を打ち破ったのだ。
空気が一気に漏れていき、機体のバランスをも持っていかれそうになる。何とか姿勢を制御しようとしていた時であった。
「──っ!」
前方にはツインアイを輝かせるG-ブレイカーがいたのだ。
次の瞬間、G-ブレイカーのバックパックから、煌く無数の粒子が放たれたのだ。
だが、ここであえてシヴァはG-ブレイカーへ突き進んだ。
・・・
「コロニーが……っ!?」
バトルを観戦していたユイが溜まらず叫ぶ。
戦いの末に放たれたG-ブレイカーの攻撃はコロニーの外壁を打ち破り、そのフォトントルピードによって、コロニーを崩壊させるに至ったのだ。
「おい、バトルはどうなったんだ!? 一体、どうなって……」
「待って。まだ戦っているわ」
崩壊するコロニーによって、G-ブレイカーとシヴァのバトルがまともに見えなくなってしまった。
なにがどうなったのか、確認しようとするリュウマに、バトルの様子にいち早く気付いたレイナが観戦モニターを指差す。そこには崩壊するコロニーを抜け、宇宙空間に飛び出す二つの流星の姿が。
「G-ブレイカーが……っ!」
G-ブレイカーの姿を見た瞬間、マリカが悲鳴のような声をあげる。
いや、マリカだけではない。ユイやチナツ達もまた悲痛な面持ちを見せる。
なんとG-ブレイカーは今まさに満身創痍の状態だったのだ。
各部のフォトン装甲は罅割れ、全身の装甲も酷く傷ついている。
対して、シヴァはフォトントルピードの影響を受けたものの、G-ブレイカーに比べ、その損傷は酷くはない。
これまで圧倒的な力を見せてきたG-ブレイカーの痛ましいその姿はユイ達に与えたショックは計り知れなかったのだ。
「まだだッ!」
このままではシヴァに勝てないのではないか。
そう誰かの脳裏に過ぎった矢先、否定するようにリュウマが叫ぶ。
「アイツはまだ……諦めちゃいねぇッ!!」
リュウマはG-ブレイカーのその姿を決して見逃すまいとしかとその目に焼き付けるように見つめていた。
画面に映るG-ブレイカーはリュウマの言うように、まだ戦えることを示すようにツインアイを確かに輝かせていたのだ。
・・・
「勝利へのパーツが全く揃わない……ッ! けど……」
コロニーを抜け出し、宇宙空間を戦場に移したG-ブレイカーとシヴァの激闘はいまだ続いていた。既にG-ブレイカーはコロニー崩壊中にシヴァからのFファンネルとレールガンの猛威を受け、傷だらけであった。
「──最っっ高だァッ!」
シヴァのバエルソードに対して、G-ブレイカーもビームサーベルの二刀流で挑む。そんななか、アラタは興奮気味に叫んだ。
「G-ブレイカーにさせたかったのは、こういうバトルなんだッ!!」
ただただ夢中になって笑顔で叫ぶ。
アールシュは確かに強かった。その実力はアラタを遥かに上回るといっても過言ではないだろう。
しかし、アールシュはそれだけの……ただ強いだけの人物ではなかったのだ。
「シヴァ! 俺達はこれだけではない、こんなものではないッ! 俺達の力を示してやろうぞッ!!」
戦えば戦うほど、彼のシヴァへの……ガンプラへの情熱を感じることが出来たのだ。
それはもっと先へ、その一挙手一投足に己のガンプラへの絶対的な自信と信頼を乗せ、共に更なる高みを目指していこうという愛を感じられたのだ。
「だから行こう、G-ブレイカーッ! お前となら……どこまでもいけるッ!」
まだ終わらせたくない。こんな時間をもっと味わいたい。だからこそ飛ぶのだ。
創造主であり、相棒といえるアラタの想いに応えるようにG-ブレイカーは瞳にあたるツインアイをより一層、輝かせると、咆哮の如くスラスターを噴射させ、シヴァへ向かっていく。
「……先程、ハエと言ったことは撤回しよう。非礼にあたる発言であった」
主の未来を導く光になるように、G-ブレイカーの罅割れた各部のフォトン装甲からは、更なる光が輝く。
そんなG-ブレイカーの姿を目の辺りにして、アールシュは静かに先程の自身の発言を撤回する。
「であればこそ、全力を持ってぶつかるのみッ!」
バエルソードによってG-ブレイカーの左腕が丸々切断される。
しかしそれでもなお、立ち向かおうと頭突きを浴びせてくるG-ブレイカーにシヴァも押し返すように、ガンダム同士の額が拮抗するも、シヴァの蹴りが深々とG-ブレイカーに突き刺さり、大きく吹き飛ぶ。
何とか姿勢を立て直したアラタはシヴァを見やる。
シヴァは追撃することなく、距離を開けたG-ブレイカーを見据えていたのだ。
「あれ、は……っ」
だが次の瞬間、シヴァの全身に光が駆け巡ると、全身に赤色の光を纏ったのだ。
鮮やかなまでに輝くその光にアラタも知らずのうちに釘付けになる。
「──覚醒……。いまだ貴様が届かぬ領域の力よ」
鮮やかな赤き閃光を放ちながら、アールシュは静かに答える。
覚醒……それは学園のトップランカーの一部が使用できる進化の輝き。共に進むガンプラの性能を飛躍的に上昇させ、リアルカスタマイズバトルで組み替えていれば、本来の姿を取り戻すことも出来るまさに破壊と創造の力だ。実力と想い、そしてきっかけの全てを揃えた時に始めて実現するこの力は現在において学園のトップランカーとプロのガンプラファイター達の中の一部がこの力を行使している。
「貴様はまだこの力を手にしていない。よってより差は開いただろう。だが俺はあえてこの力を使い、貴様と戦う」
「良いねぇ。本当に全力で来てくれるってわけだ」
「左様。貴様のガンプラへの愛が俺にこの力を使わせたのだ。誇れ。そしてその身にこの力の全てを刻めッ」
覚醒を使用せずとも、戦うことは出来ただろう。
しかし自身の手の内を明かすような真似をしてでも、覚醒を発動させるに踏み切ったのは、アラタにそれだけの価値があったに他ならない。
「貴様は何れこの力を手に入れることが出来るであろうッ! 貴様が貴様として進む限りィッ!」
再びG-ブレイカーとシヴァはぶつかり合い、その刃を重ねる。
しかし、鍔迫り合いになるかと思いきや、G-ブレイカーは押し負けたのだ。
「ああ、そうだ! 俺とG-ブレイカーはこんなもんじゃない! まだまだ進み続ける……! 今より高く、俺達はまだ飛ぶんだッ!」
「よい、実によいッ! だが忘れるな! 頂点はただ一人! そこにいるのは俺であり、シヴァだ!」
「だって──!」
「何故なら──!」
怯むG-ブレイカーにタックルを浴びせると、姿勢を立て直したG-ブレイカーとシヴァはこの広大な宇宙を思うがままに飛び回り、自身の燃えるような想いが籠もった言葉を重ねあいながらぶつかり合う。
「「俺のガンプラが──」」
これが最後だ。
二機は全速力で真正面から向かっていく。
「「──最強だッ!」」
宇宙を走る二つの流星がぶつかり合った瞬間、見る者全てが目を反らすような強い輝きがあふれ出る。
互いに拮抗するようなガンプラへの想いがぶつかりあったのであれば、勝敗を決するのはその実力のみ。
勝者……ガンダムシヴァ