ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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長き旅の始まり

「はぁー……負けた負けた」

「そこまで悔しそうじゃないんだね」

 

穏やかな風が肌を撫でる夕暮れの帰り道。

アールシュとのバトルを終えたアラタは清々しそうに肩の凝りを解していると、その様子にユイはクスクスと笑う。

 

「悔しいには悔しいよ。G-ブレイカーで負けたんだ。悔しくないわけがない」

「でも同時に楽しかったって気持ちも伝わってくるよ」

「あの人は本当に強かった。ガンプラの力も心もそのどちらも……。でもだからこそその一端に触れられたのが嬉しいんだ」

 

自分の全てをこめたG-ブレイカーでの敗北はそれこそ胸が締め付けられるような想いだ。

だがそれで俯いて終わりではない。バトルをしたからこそ、アールシュのガンプラにかける気高いまでの想いを直に感じることが出来たのだ。

 

「でも、俺だってガンプラが好きなんだ。その想いは負けちゃいない……。だからもっと進み続けるんだ」

「きっとその想いはみんな同じだよ。終わった後、みんなガンプラの話をしてたし、リュウマ君なんてこのままじゃいけない、なんて言って飛び出すように帰っていったし」

「少しは落ち着きを持って欲しいもんだねぇ」

 

バトルでは負けたが、ガンプラへの情熱ならば負けるつもりはない。

今度はその両方で勝てるようにとバックにしまったケースに眠るG-ブレイカーに想いを馳せる。

 

アラタとアールシュのバトルは見る者に多大な影響を与えたのだろう。

あの場にいた者達はこの後、好きにガンプラとの時間を過ごしているに違いない。

 

「けど、なんだかこうしてアラタ君と二人っきりでいると、昔のこと色々思い出しちゃうな。あの頃よく一緒にガンプラ作ってたよね……。朝から晩まで、お父さんたちに怒られるまで」

「あの頃、ねぇ」

 

和やかな時間を過ごしながら、会話を重ねていると、ふとユイが懐かしそうに話し、アラタは目を細める。

 

「ううん、アラタ君は怒られてからも、まだ布団の中で作ってたでしょ? 私知ってるんだからっ」

「それをやり続けたら、ポリキャップのみを抜き取られるという鬼畜の所業をされたわけだけど」

 

クスクスと当時のことを思い出して、悪戯っぽく笑うユイにアラタも笑みを浮かべつつも、親がとった行動を思い出してか、乾いた笑みになっていく。

 

「でも、凄いよね、アラタ君。私の方がお姉さんなのに、いっつも私より上手に作ってた」

「俺はあの時点で天才だったからな」

「ガンプラ作り以外はてんで残念なのに……」

 

幼い記憶であっても、強く脳裏に刻まれているのか、今でもアラタが手がけたガンプラを思い出すことができるようだ。

三本指をクルリと回しながら、自慢げに笑うその姿には流石に苦笑してしまうが。

 

「私、アラタ君が作るガンプラが好きだった。なんていうのかな……あったかい、そんな気がして」

「あったかいか……」

「今日のバトルを見て、思ったよ。それはアラタ君が心からガンプラが好きだからなんだ、って」

 

幼い頃のアラタの方が当時の自分より上手く作れていた。

それはあくまで当時のことで今思い返せば、手がけたガンプラも幼いゆえの拙さがある。だがそれを踏まえた上でユイの記憶には残っていたのだ。

 

「なんて、ちょっと恥ずかしいことも、キミにはなぜか言えちゃうんだよね……」

「気心が知れてるからじゃないかね」

「もぅ……それだけで済ましちゃうの?」

 

どこか気恥ずかしそうに頬を紅潮させながら、照れながらアラタを見て話すのだが、対してアラタは特に関心もなく指先を弄っており、これでも思い切って言ったということもあってか、肩を落とす。

 

「でも……うん……。今はイオリちゃんやマリカちゃん、リュウマ君。それに……キミが傍にいてくれるのは本当に心強いんだ。一人だったら、挫けちゃってたかもしれないけど、もう二度と負けないって思える」

「……ああ、これからも俺は力になる。きっと委員長達も。それが全て合わされば負けはしないさ」

 

ユイにとって、サイド0は心を支える大きな存在になっているのだろう。そのリーダーであるアラタも。

奮い立つように、力強く笑うユイの笑顔にアラタも穏やかに笑う。

 

「……そういう顔のほうが私が知ってるアラタ君っぽいかな。昔のアラタ君は自分を天才っていうどころか、気弱だったから再会した時はびっくりしたよ」

「……流石に幼い頃のままなんて人はいないでしょ」

「でも、ドーナツは好きなままなんだよね。今度、駅前にあるドーナツのお店に行かない? オススメなんだ」

「行くっ」

 

ふと隣を歩くアラタに過去の自分が知っていたアラタの面影を重ねる。

だが、それはアラタにとっては好ましくはないのか、どこかぶっきら棒に答えるも、直後のユイの誘いに子供のように反応し、二人はそのまま帰路につくのであった。

 

・・・

 

「どうでした、アラタ君は」

 

風が頬を撫でるなか、ガンブレ学園の屋上にはレイナとアールシュの姿があった。

距離を置いた状態でフェンスに背中を預けているレイナはさながら神が地上を見下ろすように、ここから見える景色を眺めているアールシュに問いかける。

 

「……よい。奴を俺は大いに期待している」

「まるでサイド0には期待していないかのようですね」

「当然だ」

 

先程のこともあって、傲岸不遜に振舞う彼も慈善家のような笑みを浮かべている。

しかしその言葉はアラタだけに期待をかけており、そのことに気付いたレイナの追求にキッパリと答える。

 

「ソウマ・アラタ……。ヤツは確かに強い。ガンプラへの想いも全てな。それはあのサイド0を支える支柱であろう」

 

サイド0はアラタが転入してから、彼が出会った理不尽に抗おうとするガンプラビルダー達の間で結成されたチーム。故にその中心にはアラタがいる。

 

「だが、だからこそ奴が欠けた時……。そうさな……奴の心が壊れた時、サイド0は水泡の如く消えるだろうよ」

「……」

「貴様もそのことは理解していよう。奴に目をかけるのは、そうなった時のことを怖れてのことであろう?」

 

アールシュの言葉と共に強い風が吹き抜けた。

風によって強くその白髪が靡くなか、アールシュの問いかけに目を瞑り、何も答えない。だがそれは逆に彼の問いに対する肯定になっていた。

 

「奴のガンプラへの想いは本物だ。今のこの学園には向かないほどな……。奴は繊細なのだ。だからこそG-ブレイカーを怒りをぶつける手段として用いた後には激しい後悔に襲われていた。まだまだサイド0の道のりは始まったばかりだ。この調子では生徒会に辿り着く時には、どうなっていることやら」

「……そんなことはさせません」

「だからこそ俺を引き合わせたのだろう?。奴等はまだ同じ道を歩き始めたばかり。真に支えあえるチームとなるか、それとも勇者にしがみ付く愚者の群れとなるか……これからが見物であろうな」

 

アラタを気に入ったからなのか、自分のことのように鋭く目を細め、厳しい表情を浮かべると、フェンス越しに見える太陽に背を向け、この場から立ち去ろうとする。

 

「なに。折角こうしてめぐり合ったのだ、これも何かの縁であろうよ。俺とて奴が壊れようものなら、見過ごすつもりはない」

 

重々しいまでの雰囲気が屋上を支配 するなか、アールシュは去り際に心強さを感じるような笑みを見せ、レイナを残して屋上を去っていく。

 

「ソウマ・アラタ……。貴様はまさに諸刃の希望だな」

 

サイド0が、アラタが生徒会と戦い続ければ、やがては生徒達の中から賛同者が増えていくかもしれない。

現にラプラスの盾のショウゴの撃破は学園中を駆け巡って、大きな騒ぎとなっているのだから。

 

賛同者が増え、彼等の中で希望が芽生えるのと同時に、アラタが一人、絶望を溜め込んだら……。

そこまで考えて、一息つくと夕暮れの学園を一人、歩いていくのであった。

 

・・・

 

翌日、ガンブレ学園の昼時はショウゴを撃破したサイド0で大きく賑っていた。

 

「えっ……と……」

 

ユイもそのことについて聞かれるのだが、今はそれよりも目の前の光景に戸惑い、頬を引き攣らせていた。

 

「俺の前でそのような間抜け面を晒すか。この不敬者め」

 

彼女の目の前にはアールシュが。

元々の高身長のせいで、見上げる形となるわけだが、今はそれよりも彼の脇に目が行くのだ。

 

「……」

 

そこには小脇に抱えられているアラタがいた。

 

「ど、どうしてアラタ君を……?」

「なにを下らぬことを。俺はこれから昼食をとる。そこで此奴の同席を許したまでのこと」

 

まるでぬいぐるみのようにアールシュに小脇に抱えられているアラタの姿は非常にシュールである。

戸惑いながら聞いてみれば、当たり前のことを聞くなといわんばかりに小馬鹿に笑うと、何故の自信に満ち溢れながら答えられてしまった。

 

「はあぁなあぁせえぇぇぇぇぇ……」

「許したっていうか……凄く不服そうなんだけど……」

 

一方のアラタは顔を顰めて、不満を露にしている。

まるで子供のようなその姿はユイにとって可愛らしく感じられてしまい、苦笑が交じってしまう

 

「──見つけましたよ!」

「イオリちゃん!?」

 

ドタドタと音を立てて、自分たちのクラスに突入してきたのはイオリだった。

ユイへの挨拶も程ほどに睨むようにアールシュを見やる。

 

「いきなり人のクラスに入ってきたと思ったら、“よい、許す!”とか言ってアラタを攫って……っ! アラタを返してくださいっ!!」

「ふんっ、なにを言うかと思えば……。今日、此奴は俺と昼食をとる。貴様は一人、便所で食ってるんだな」

「誰がですかっ!? こうなったら実力行使でもアラタを返してもらいます!」

 

どうやらいつも通り、アラタを昼食をとろうとした所、アールシュによってアラタを拉致されてしまったようだ。

噛み付かんばかりのイオリにアールシュは鼻で笑い、わーわーと三年の教室で騒ぎが起こる。

騒ぎともなれば、それを聞きつける者もおり、リョウコが姿を現す。

 

「なにを騒いで……って、なんだこの状況はっ!? 何故、アラタは抱えられてるんだ!?」

「助けて、リョウコちゃん!」

「ちゃん付けはやめろっ! えぇい、仕方あるまい! 少しの辛抱だ、待っていろ!!」

「よ、呼び捨て……。いつの間にかアラタ君とリョウコの関係が進んでる……。レイナちゃんもいるし、このままじゃ姉の立場が……っ」

 

いつの間にか親しさを感じるほどの距離感をみせるアラタとリョウコに何ともいえない複雑な様子のユイを他所に騒ぎの中にリョウマまで入り、更に騒がしくなっていく。

 

・・・

 

「酷い目に遭った……」

 

そのまま放課後となり、騒動の結果、ボロボロとなったアラタは別件があるイオリと別れ、一人で部室にやって来ていた。

 

「大佐ーっ! シオンの新曲、出来たんだよーっ!」

 

部室に入り、マリカに出迎えられるのかと思いきや、ここにいると思いもしなかったシオンの満面の笑みに出迎えられ、面食らってしまう。

部室内には他にもリュウマ、マリカ、チナツの姿が見受けられた。

 

「トモン君、少しずつですけど……ガンプラ作りが上手くなってますっ」

「へっ、俺だって、ただのバカじゃねーんだ!」

「サクラインのお陰でしょー。って、アラター、やっと来たーっ!」

 

どうやらアラタとの約束を果たすため、マリカから製作技術を学んでいるようだ。

調子に乗るリュウマに釘を刺しながら、シオンとやり取りをしていたアラタに気付き、チナツがそのまま勢いよく飛び込んで抱きつくと、自称天才はまた安穏を手に入れる。

 

「あら、今日は賑やかね」

 

よく喋る人間が多いせいか、賑やかな第08部の部室に新たな来訪者が訪れる。

そこには室内の様子に微笑むレイナが。

 

「どうしたの、いきなり」

「今、学園はサイド0の噂は持ちきりよ。ある意味、ここからが始まりよ。だから今日はプレゼントを持ってきたの」

 

自身が部長を務める第10ガンプラ部もあるため、この時間にレイナが第08部に訪れるのは珍しい。

だが、どうやら今日はサイド0に何かプレゼントを用意してきたようだ。

なんだなんだと集まるなか、レイナはタブレットの画面を開いて、アラタ達に見せる。

 

そこにはコロニーをモチーフにSide.0と記されたマークが。

 

「こ、これって……!」

「ええ、サイド0のエンブレムはまだなかったと思うから、考えてきたの。どうかしら、リーダー君?」

 

マークを見て、なにやら感激して興奮気味に詰め寄るマリカの頭を撫でながら、サイド0のリーダーであるアラタにこのエンブレムの使用の有無を尋ねる。

 

「良いんじゃない? 確かにサイド0はここからが始まりだ。改めてスタートを切る意味でも、チームのマークがあるのなら、身も引き締まる」

「俺の身体はもう引き締まってるぜ?」

「そういう意味じゃないんだよ、筋肉バカ」

 

口では飄々としているが、アラタ自身もこのサイド0のエンブレムを気に入っているようだ。

そんな矢先、天然なのか、右腕に力瘤を作って自慢するように見せ付けるリュウマに呆れながらツッコむ。

 

「ここからが本番だ。さあ、希望を組み立てようか」

 

人差し指を顔の横に添えると、やがて光明を得たように笑みを見せながら両手を広げる。

そんなアラタの姿にこの部室にいる面々も笑顔で頷いていく。サイド0が大きな歩みを踏み出した瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──サイド0……面白い。次は私のチームがお相手しよう」

 

 

 

戦いの時は近い。

それを表すようにショウゴとサイド0のバトルの映像を見つめながら、不敵に呟いた青年の手にある金色のガンプラは静かに輝くのであった。




第一章 完
ちょっと真面目が続いたナー。そろそろとち狂ったアラタに戻らないかナー
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