ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
砂煙が舞い上がる荒れ果てた荒野のステージで二機のガンダムがぶつかり合っていた。
一機は希望を表すように装甲を輝かせるG-ブレイカーと荒ぶる蒼き龍・レイジングガンダムだ。
「ウオォッラァアッ!!」
受ければ全てを打ち壊すような鋭い拳が放たれる。
対してG-ブレイカーはビームライフルとシールドを捨て、徒手空拳で受け流す。
しかし元々がシャイニングガンダムなどのMF系を扱っていたリュウマとは違うため、一日の長であるリュウマの猛攻を前に、何とか辛うじて捌いているような印象を受ける。
「ッ!」
G-ブレイカーの頭部を狙った刺すような鋭い拳が放たれる。
辛うじて頭部を反らして避けたものの、それが狙い目だったようでそのまま撓るような裏拳を受けてしまう。
追撃させまいと何か反撃をしようと前を見た瞬間、レイジングを見失っていた。
「違っ──!」
「ッラァアアッ!!!」
否、レイジングはその稼動域を活かした側転蹴りを放ったのだ。
驚くのも束の間、怯んだG-ブレイカーにレイジングはそこから更に捻りを加えた胴廻し回転蹴りを放つことで大きく吹き飛ばした。
「──レイジングゥウウッ!!」
「っ!?」
ここで決めるとばかりにレイジングは全身の装甲えを展開して、唸りを上げるかのように駆動音を響かせると、必殺の拳を放とうとする。
「フィンガアアァァァァァーーーーーァアアアッッッ!!!!!」
このままではまずい。
避けるには間に合わないと半ば直感でG-ブレイカーの高トルクモードを起動させると、レイジングに真っ向から立ち向かっていくのであった。
・・・
「今日もシオン公国のために頑張るぞー! えいえいおー!」
ある日の第08ガンプラ部の部室では、今日も賑やかなひと時が流れていた。
たまたま遊びに来たシオンが高らかに小さな拳を掲げると……。
「えいえい、おー!!」
これまた当たり前のようにこの部室にいるショウゴが拳を突き上げて、全力で応えていた。
「シオンちゃんがいるのは分かるけど、モリタ君まで……。サイド0が受け入れられてきたってことで良いのかな?」
「……モリタ先輩に関しては、シオンに会いたいだけです」
かつては対立していたとは思えないほど馴染んでいるショウゴの姿を横目にユイとイオリは何ともいえない様子で話していた。
「なんだよなんだよぉ! 仲良くやっていこうぜぇ!」
……最もそのショウゴ自身は一切、悪びれる様子もなかったのだが。
「ですが、この前のバトルでモリタ先輩に勝った事により、またサイド0の知名度が上がっているのは事実です。あまり表立ってではありませんが、少しずつ賛同してくれる意見も出始めているようです」
「勿論、生徒会に目を付けられたら大変だから、秘密で、って感じだけどね。それでも状況は少しずつ良くなっている……そう考えてよさそうね」
とはいえ、こうしてショウゴが第08部の部室にいることの他にもかつてのクラスメイト達に囲まれたときを思い出しながら話すイオリに、少しずつ希望が見えてきたとユイも表情を明るくしながら微笑む。
「……みんな、心の中では分かっているんです。このまま、思いやりも何もない力だけが絶対正義の支配に屈しちゃいけないんだって」
イオリも光明が見えてきた子の状況に喜んではいるものの、視線を伏せ、肘を抱えると、どこか陰を落とす。
そんなほんの小さなイオリの態度の変化に気付かぬまま、マリカもおずおずと会話に加わる。
「わたしのクラスでも……サイド0を応援する人がいます」
「そうなの? それじゃマリカちゃんも有名人だね!」
「いえ、あの、わたしは……皆さんのガンプラをチェックするくらいでしかお役に立てないので……」
同じ一年のどこぞの金髪少女が、“いやー、サイド0ってナウなヤングにバカウケですねー!”などと話してけてきた姿を思い出しながら、小首を傾げるマリカだが、ユイの何気ない言葉に途端に慌てて、己への自信のなさからしょんぼりとしながら答える。
「ダメよ、可能性を狭めちゃ。そうだ! なんなら私達でバトルの手解きをしてあげる!」
「いえ、あの……それはソウマ先輩にっ……」
マリかを見かねて、好意でバトルを教えようとするも、普段はおどおどとそのまま頷きそうなマリカがやんわりと断ったのだ。
どことなく頬を染めながら、楽しみにするようにその声色を弾ませながら、見つめる視線の先にはリュウマと一緒にシミュレーターから出てきたアラタの姿が。
(やはり格闘縛りだと、こいつの相手は辛いな……。まるで野生か何かだ。全く予想のつかない動きをしてくる)
先程のG-ブレイカーとレイジングとのバトルは格闘縛りの近接戦で行われていた。
それは単純にお互いにバトルの練習もあるのだが、一番の理由はアールシュを考えてのことだ。
ガンダムシヴァは元型機に比べ、中距離に対しても大きく対応できる構成となっているが、何よりその本領が発揮されるのは近接戦だ。
以前、バトルをした時も終始、近接戦では押され気味だった。
それを踏まえ、更なる近接戦の技量向上のため、リュウマに声をかけてバトルを行ったわけだが、ある程度、理詰めでバトルを行うアラタに対して、リュウマは思うがまま、奔放なまでにバトルを行うのだ。
それ故、一度でもアラタの中にあるペースを、集まりかけた勝利へのパーツをバラバラに崩されたが最後、防戦一方に追いやられてしまうのだ。
「へへっ、やっぱつえーぜ!」
「調子に乗るんじゃないよ」
それはリュウマ自身の高い資質と実力があってのことだが、内心ではそれを認めても、口に出すことはしないのか、握り拳を突き上げて、喜んでいるリュウマを窘める。
「けど、本当にレイジングってすげぇよな。元キットよりも稼動域増えてんだから」
「最っ高でしょ? ガンプラバトルを本格的にやるのなら、稼動域を弄るのは責務みたいなものだからな。それに俺から見たお前のクセを考慮して作ったんだから、ある程度自由にバトルできるはずだ」
「俺も早くこんなガンプラを作ってみてーなぁ……」
レイジングはアラタがリュウマのバトルを寝る間を惜しんで研究して組み上げたガンプラだ。それ故にリュウマとレイジングが合わさって高いポテンシャルを発揮できる。
近くの机の上にドカッと腰掛けながら、アラタから託されたレイジングを子供のような無邪気さでその可動域やプロポーションを改めて確認していると、レイジングの出来には自身があるのか、アラタは得意げにフフンと鼻を鳴らしていた。
「……っ!」
そんな二人を……というよりはアラタに憧れを抱いた熱のある視線を送っていたマリカだが、不意にスマートフォンが震える。
スマートフォンを取り出して、送り主の名前を見た瞬間、その柔らかな顔が強張り、そのまま誰の目にも入らぬようにと背を向けながら、送り主とやり取りをする。
「どうかした、マリカちゃん? ずっとケータイを見てるけど、もしかしてチャットで忙しくなっちゃった?」
「……っ! すっ、すみません……。そのっ……クラスの人から課題の連絡とか……来てて……」
突然、スマートフォンに集中し始めたマリカにユイが後ろから声をかけると、大きくその小さな身体を震わせると、必死に取り繕いながら話す。
「そうだよね。学校の課題は課題で、きちんとやらないと。勉強をおろそかにしていいって話じゃないもんね」
「は、はい……」
とはいえ、ユイは然程、気に留めていなかったのか、うんうんと話していると、マリカは頷きながらも、どこか助けて欲しい、けどそれを口には出来ないような複雑な表情でリュウマと話しているアラタを一瞥すると何とか誤魔化す。
「そ、それじゃ……ちょっと用事があるので……すぐ戻りますから……」
温かく接してくれるユイ達を眩しそうに目を細め、居た堪れなくなって逃げるようにマリカは部室を飛び出す。
「……」
泣き腫れたような目の下にクマが出来、元々、華奢な体格も以前より痩せたようにも見える。
ただ一人、イオリがその姿に考えるように眉を寄せていた。
結局、この日……最後までマリカが戻ってくることはなかった。
・・・
「あの……もう、こんなことは……」
マリカは一人、とある部室にいた。
そこは第08ガンプラ部とはまさに雲泥の差があるほど、最新設備が導入された夢のような環境といえるかもしれない。
しかし、その場にいるマリカの表情は決して明るいものとはいえず、苦しさを我慢するように目の前にいる人物を見やる。
「──こんなこと、とは? 私は何も強要などしていないよ?」
そこには金色の長髪を一本に纏めた長身の男子生徒が傍らに従者のように生徒達を控えさせながら椅子に腰掛け、嗜好品のように手に持っている金色のガンプラを弄っていた。
「私はただ、サイド0のデータを元に、彼等の戦術に完全対策した機体が欲しい、そう言っているだけだよ?」
「そんなこと……できません……」
「なぜ? 今まで君はそうしてきたじゃないか。キミが作り、私達が動かす……。報酬だって、今まで享受してきただろう?」
口調は穏やかではあるが、その様子は自身が絶対的優位に立っているからこその嫌味さが滲み出ている。
現にマリカは心の底から辛そうに、悔しそうにギュッと小さな手を握り締めていた。
「あぁ、それとも……“お友達”を裏切るのは流石に心が痛むのかな? では、どうだい。いっそ私のチームに入るのは。これなら裏切りではない……なにせそもそも敵だからね。今まで以上の厚遇も約束しよう。どうかな?」
「……できませんっ! 私は……サイド0の一員です!」
サイド0を捨てて、この青年のチームに入る。
これだけの設備だ、マリカの高いモデラーとしての腕だけは振るえるだろう。
だが、マリカにとって、それだけは決して出来ないことなのだろう。
いつもの彼女では想像がつかないほど、声を張り上げたのだ。
「ほぅ。だが分かっているかな? キミはこれまでサイド0に協力する陰で、私達”生徒会派のチーム”にガンプラを提供し、彼等の戦闘データを流していたことを」
「それ、は……っ」
この青年の言葉をそのままに取るのであれば、マリカはサイド0として活動する裏でスパイのような行動をしていた。
例え、どんな形でそうなったとはいえ、事実に違いないのか、マリカは罪悪感から顔を歪めて、沈痛な面持ちで俯く。
「そんなキミの正体を彼等が知ったら、果たして、キミにどんな顔を向けるのだろうね」
その言葉はマリカの心を深く抉るかのような言葉だった。
一瞬でも想像してしまった。
親身に温かく接してくれるサイド0が、アラタが自分を蔑むように見つめる姿を。
「なに、この場で決めろとは言わないよ。急かすことなど美しくはないからね。だが、君が何故、我々に協力しているのか……その理由だけはよく考えることだ」
少なくとも弱者である今のマリカを見て、気を良くしたのか、青年は立ち上がると薄ら笑いを浮かべ、すれ違いざまにマリカの小さな肩を軽く叩き、部員達と共に部室を後にする。
「やだ……。やだぁっ……!」
後に残されたマリカはその場に崩れ落ち、ボロボロと涙は頬を伝って、顎先から落ちていく。
どうしても耐えてでもハッキリと拒絶できない理由があるのだろう。
「たす……けて……っ……! ソウ、マ……先、輩っ……」
誰かに助けを求めることも出来ない。特に裏切っているサイド0には。
だが、それでも助けて欲しいと、頭に浮かんだ余裕たっぷりに何事にも立ち向かおうとする自称天才の名を口にするのであった。