ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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期待の重さ

 工作室を舞台に人知れず、だがそれでいて激しいバトルが行われていた。

 G-ブレイカーとグリーンドールを容易く寄せ付けないほどの猛威を振るうのは、青色の宇宙戦艦であるプトレマイオス2だ。

 GNキャノンとGNミサイルを併せての攻撃が並のファイターでは近づくことすらままならぬだろう。

 

「スメラギさんの身体に惹かれました」

「何の告白!?」

 

 ペダルを巧みに操作して、紙一重でプトレマイオス2の弾幕を避けながら、両腕で二つの大きな円を描くアラタにすかさずRECOCOからのツッコミがスピーカーから響き渡る。

 

「今更だけど、アヤメさんやモモちゃんのアバターって自分のよりも大きく盛ってるんだよね」

「……ごふっ」

「まあ、それも良さっちゃ良さだけど、俺はやっぱり……って、どうしたの?」

「な、なんでもないよ」

 

 何気なくとあるガンダム作品について話すアラタだが、流れ弾を受けたかのようにRECOCOは一人、悶えており、そのことを尋ねてみれば、通信越しにでも分かるほど引き攣ったような声が聞こえてくる。

 

「……とはいえ、いつまでも悠長に話してはいられないか」

「うん、時間も迫ってきたしね」

 

 チラリと残り時間を確認すれば、10分内に制限された時間も後僅かとなっていた。

 やはり戦艦の類は骨が折れるのだろう。

 本腰を入れようと、ジョイスティックに手をかけると、RECOCOも同じことを思ったのか、声を弾ませ、二対の翼は撃ち落そうと迫る閃光を華麗に避けながら、プトレマイオス2に接近する。

 

「私も案外、強いんだよっ」

 

 囮役を自ら買って出たグリーンドールは撹乱するようにプトレマイオス2の周囲を飛行する。

 その様はまさに妖精のようだ。

 とはいえ、RECOCOの凄い所は囮になって飛び回るのが精々なのではなく、要所要所で隙間をつくような反撃でプトレマイオス2の動きを鈍らせる。

 

 そこに動いたのが、G-ブレイカーだ。

 グリーンドールを狙って、GNミサイルが放たれようとした直前にアサルトモードによる砲撃を浴びせつけ、その巨体を大きく揺らめかせる。

 

 その隙に急接近するG-ブレイカーにGNキャノンが放たれるが、リフレクターモードとビーム・プレーンを展開して接近すれば、全てG-ブレイカーのエネルギーに変換されて、猛威を振るう。

 最後には時間もギリギリになったところで、紙一重で接近したG-ブレイカーが突き出したビームサーベルがブリッジに深々と突き刺さり、轟音をたてて爆発するのであった。

 

 ・・・

 

『さっすが、アラタ君! メキメキと実力を上げてるねー! ゴールデンコスモスを倒せたって言うのも納得だねー』

 

 バトルを終えたチャットルームでは、別れるまでの僅かなひと時をいつものように談笑に費やしていた。

 

『……サカキ君も、これで自分のガンプラ作りを思い出してくれるといいな』

「その口ぶりだと、RECOCOは知ってるの?」

 

 ふとゴールデンコスモスの名を挙げたことから、かつてのサカキを思い出すかのように、どこか懐かしむように話すRECOCOにそのことについて尋ねてみれば、画面に映る彼女はゆっくりと頷き……。

 

『彼、おうちがお金持ちで、昔から色んな工具や高価な素材を使ってたんだけど、彼の本当の凄さはそれで誰も見たことがないような新しいガンプラを作る力だったんだよね』

「へぇ、それがあの人の個性だったわけか……」

 

 正直に言って驚いた。

 以前のサカキとのやり取りを思い出す限りでは、彼は金にものを言わせて、全て他人任せの印象だったが、かつての彼は違かったようだ。

 

『ラプラスの盾のモリタ君もそう。ちょっと調子に乗りやすいところはあったけど、勢いで作ったガンプラが意外とカッコ良かったんだっ。でも、みんな、今の生徒会に関わってからおかしくなっちゃって……』

「そっか……。でも、そうだったのなら是非、見てみたいな。あの人達の個性が生んだ愛を」

 

 サカキだけではなく、ショウゴもかつてはRECOCOも感心するようなビルダーだったようだ。

 だが、それがどうなってしまったのかはアラタも知るところだろう。

 とはいえ、今のサカキもショウゴも熱意を取り戻している。遠からずかつてのような輝きを見せてくれることだろう。

 

『アラタ君、お願い……。この学園を……みんなを元に戻して。学園も性別も年の差も関係なく、誰もが自由にガンプラバトルを出来る学園に……そんな当たり前の日々を、きっと君なら取り戻せる! 期待してるからねっ』

「お任せあれ。こんな風に縮こまってバトルをする必要のない学園にしちゃいますよ」

 

 アバターとはいえ、RECOCOから真摯な想いが伝わってくる。

 それほどまでに彼女もかつてのような学園を取り戻したいのだろう。

 そんな彼女の想いを確かに感じたアラタは三本指をクルリと回して、余裕の態度で答える。

 

『それじゃ、今日はこれで。いつも時間が短くてゴメンねー』

「ああ、また今度、一緒にミッションをしよう」

 

 時間もそろそろ良い頃合だ。

 RECOCOは別れを告げると、程なくしてアラタもバトルシステムの電源を落とす。

 

「やれやれ」

 

 暗転して、薄暗いシミュレーターの中で先ほどまでのRECOCOとのやり取りを思い出しながら、ため息交じりにアラタはシートに持たれる。

 

「進めば進むほど、足が重くなるもんで」

 

 当たり障りのなかった日常から一転、今のような立場になるなんて転入する前は思いもしなかった。

 誰もいない自分ひとりだけの空間だからこそ、放たれた言葉とともにキチッと締めたネクタイを緩める彼は今、どんな顔をしているのか、薄暗い閉鎖的なこの球体の中では誰も分からなかった。

 

 ・・・

 

 一方、ガンブレ学園の生徒会室は不気味でそこにいるだけで刺さるような張り詰めた空気で満たされていた。

 何故ならば、そこには現生徒会執行部のメンバー全員が集まっていたからだ。

 

「──……ゴールデンコスモスも敗れたか」

 

 口火を切るように、重々しく口を開いたのは現生徒会副会長であるセナ・ダイスケだ。

 理知的だが眼鏡の下の鋭く光る眼光は、あまりにも冷徹で、それだけで威圧感がある。

 

「……この敗北が齎す影響は大きいでしょう」

 

 ゴールデンコスモスが敗れたことで予想される影響について話すリョウコだが、心なしか、どことなくサイド0の勝利を喜んでいるかのようだ。

 

「水面下でサイド0を支持する層もいるという。このままでは奴等を増長させるだけだ。ここは一度、ラプラスの盾による粛清も視野にいれるべきか……」

 

 セナはゴールデンコスモスが敗北したことを惜しむよりも、それが齎す影響を懸念している。それは彼の中でゴールデンコスモスが弱者でしかなかったと考えるにも値しないと切り捨ててのことだろう。

 チラリとセナがリョウコを見やれば、彼女は何れこうなる可能性は頭の中にあったのか、やり切れないとばかりに眉を寄せていた。

 

「──余計なことはしなくていいよ」

 

 正式にラプラスの盾による粛清がセナの命で下されようとした時だった。

 そこに気だるげな声が待ったをかけた。

 

 一同の視線が最深の窓際に注がれる。

 そこには白髪の青年がまるで子供のようにガンプラをガチャガチャと弄っていたのだ。

 

 彼の名はシイナ・ユウキ。

 この学園の頂点に君臨する生徒会長だ。

 

「ユウキ、だが……」

「強くなってるんだろう? いいことじゃないか。僕にとってはそれが重要だ」

 

 決して良いとはいえないこの状況にセナは手を打つべきだと、諭そうとするのだが、ユウキは目の前のパソコンに映るサイド0とゴールデンコスモスのバトルを横目に、いや、そこに映るG-ブレイカーのみを見つめている。

 

「余計なことはしなくていいんだ。そんなことをして、万が一にでもアラタ君を穢すようなことがあってはならないからね。寧ろ“その時”まで真っ直ぐ伸びてもらわないと」

「……奴等はこの場所に来ると」

「アラタ君は来るよ」

 

 ユウキの口調からは自分以外のこの場にいる生徒会メンバーは結果としてアラタに敗北するというのだ。

 それは一切の迷いはなく、リョウコは戸惑い、セナは自分もその中に入れられ、顔を顰める。

 

「きっと、これは運命なんだ」

 

 彼が取り出したボロボロの写真には、幼い頃のアラタとユウキが写っている。

 彼自身、予期せぬ再会に感じるものがあるのか、どこか歪な笑みを浮かべていた。

 

「……あぁ、そうだ。今、思い出したけど、もうすぐランキングバトルだね」

 

 それはユウキのアラタへの執着なのか、肌に纏わりつくような異様な雰囲気が生徒会室を満たす。

 リョウコが僅かに顔を強張らせるなか、何気なく放たれたユウキの言葉にそういえば、とダイスケ達と顔を見合わせる。

 

「──ミツルギさん、少し頼みたいことがあるんだけど良いかな?」

 

 ユウキは目をスッと細めると、セナとリョウコの後ろで控えていたワンサイドアップの少女に声をかける。

 

 彼女の名前はミツルギ・アカリ。

 マリカやアヤのような一年生ではあるが、その佇まいは非常に落ち着いており、奥ゆかしさも感じる。

 

「──はい、生徒会執行部会計、このミツルギ・アカリに御命令を。その期待に全力でお応え致します」

 

 そう、彼女もまた生徒会の一員。

 美しく艶やかな黒髪を揺らしながら、彼女は、ただ優しく微笑む。

 その烈火の如き緋色の瞳の中には、一体、何が秘められているというのだろうか──。

 

 




ミツルギ・アカリ

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