ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「えーっ、大佐、どうしたのーっ!?」
アラタを脇に抱えたまま、アールシュは第10ガンプラ部に訪れる。
部室内にはレイナやアヤの他にシオンや数名の部員がいるが、アールシュがやって来るなどとは聞いてはいなかったのだろう。部員達はもとよりレイナも僅かに驚いている様子だった。
そんななか、シオンがアールシュが小脇に抱えたアラタに気付き、声をかける。
「此度はランキングバトルについての用件で来た」
「それはそれは……。アラタ君を抱えているようですが、どのようなお話を?」
目で何かを尋ねるレイナに鼻を鳴らしながら、用件を伝える。
ランキングバトル、という単語で話は通じているようだが、脇に抱えられているアラタに関しては全く分からないのか、そのことについて触れると……。
「此度のランキングバトル……。俺と貴様、そして、このクラウンと共に出る」
堂々と放たれた言葉にレイナは驚いていた。
その様子からはアラタに関しては何も知らなかったように感じられる。
その姿にアラタはてっきりレイナには事前に話されているのかと思っていたため、どういうことなのかとアールシュに尋ねようとした瞬間……。
「ちょおおぉぉぉぉっと待ってくださいぃいっ!!」
そこに待ったをかけたのは席について、ニャンチュ……紫色のネコのようなベアッガイを作成していたアヤだった。
「どういうことですか!? ここ最近では、アールシュさん、部長、そして私でチームだったじゃないですかぁっ!」
抗議、抗議です! と机を叩いて立ち上がったアヤはプンプンと何度もアールシュを指差しながら抗議する。
G-Cubeの公式戦は3on3によるチーム戦。そもそもチームを組まなければ傘下すら出来ない。その為、どうやら今年、アラタが転入する以前はアールシュ、レイナ、アヤの三人でランキングバトルに参加していたようだ。
「喧しい奴め。此度は此奴と参加する。それだけであろうが」
「それが納得できないって言ってるんですっ。第一、この人なんて転入生じゃないですか! 戦隊モノでいえば、追加戦士みたいなもんですよ! なーんでそんな人に私が譲らなくちゃいけないんですかぁっ!?」
やがて我慢できなくなったかのように詰め寄ってくるアヤに鬱陶しそうにため息をつくアールシュだが、その際にアラタを抱える腕を解き、受身は取れなかったが漸くアラタは解放される。
「おーい、アヤちゃん」
「何ですか、ガンブレシルバー! 私はまだガンブレッドと話が……っ」
身体に付着した埃を手で払いながら、いまだにやいややいやと抗議しているアヤに声をかける。
いつの間にかシルバー認定されたのに、ツッコミをいれたかったが、それよりもと包装されたパンを取り出し、有無を言わさず、アヤの口にねじ込む。
「にゃにするんで”ふかぁーっ!? わだ”しはものに釣られたりは……」
直前の光景と舌触りからパンと判断したアヤは餌付けをしようとも、そうはいかないと両腕をブンブン振るって、口に咥えたまま文句を言おうとするのだが……。
「こ、これはプレバイの限定パン……っ!?」
「なんだったらアヤちゃんにあげるよ?」
だが、やがて口に広がる豊かな味にアヤに電流が走る。
アラタが取り出したのは、マリカがマスミに餞別に送られたという限定パンだったのだ。
やがてアヤも限定パンに集中しているのか、次第に大人しくなっていく。
「ま、まあ、なんだかんだ大概最後はみんなで名乗りポーズをしますからね! 今回はガンブレゴールドにお譲りします!」
「金か銀かハッキリしてくれ」
「それはそうと、いただきますっ!」
限定パンに気を取られて、それどころではないのか、それだけ言うと、限定パンを両腕で持って、もきゅもきゅと幸せそうに食べ始める。
その様子がさながら小動物のようでレイナやシオンなど、その場の殆どが愛でるようにアヤの頭を撫でていた。
「それで? また随分と急な話ですね。てっきりアラタ君はサイド0のメンバーと参加するものだと思っていましたが」
「サイド0のリーダーとして此奴に足りぬものは、何よりこの学園についてだ。ランキングバトルでその全てを把握することは出来ぬだろうが、それでも此奴の糧になるのは違いなかろう」
アヤを撫でるのも程ほどに話を戻す。
普通ならば、アラタはサイド0のメンバーとランキングバトルに参加すると考えるものだが、まさか自分達と出撃するとは思っても見なかった。
当初はアールシュに抱えられていたため、無理やり参加させられそうになったのかと考えていたが、話を聞いて、抗議するアヤとは対照的に落ち着いている姿を見るに、そういうわけでもない。
そこまで観察して問いかけると、フンッと腕を組んで答えるアールシュにレイナはなるほど、と顎先に手をかける。
「私のランキングは確か13位だったかしら……。それとなによりランキング2位の貴方は必然的にランキングバトルの上位ランカー達が争う高位に振り分けられる。アラタ君にとってはひょっとしたら厳しいものになると思うけど……」
「そこは心配御無用。寧ろ、この天才の相手に相応しいというものさ」
然程、ランキングには興味がなかったのか、自身のランキングにはうろ覚えのようだが、それでもアールシュとチームを組めば、必然的に相手は上位ランカーになってくる。
良い経験にはなるだろうが、それでも上位ランカーとのバトルの経験が乏しいといえるアラタを案じると、彼はいつもの調子で三本指をクルリと回してウインクする。
「バトルは元より上位ランカーと触れ合うことに意味がある。奴等の想いに触れ、なにを思うか……。貴様のサイド0のリーダーとしての資質が問われることになる」
「なら退くわけにはいかない。俺はただやるようにやるだけさ」
まるでそれはアラタの内面を、その器があるかどうかを見定めるかのような目を前に、物怖じせず余裕の態度を見せるも、アールシュは笑みを浮かべることなく、ただその姿に思うところがあるかのように見つめ続けていた。
「……なんであれアラタ君が参加するというのなら、少しは連携を強化しないといけないわね」
「確かに。上位ランカー達とバトルをするのであれば、お互いの特性を知らないとな」
それはレイナも同じようで、物言いたげに目を瞑って僅かに肩を落とすと、チラリとこの部室内にあるシミュレーターを一瞥する。
チームを組むにせよ、サイド0として戦うアラタなら兎も角、レイナやアールシュなどのバトルに関しては数える程度しか知らない。
これに関しては、アールシュも同意見なのか、何も言わずにシミュレーターに向かっていき、アラタとレイナもその後を追うのであった。
・・・
一方、サイド0の部室内では息が詰まるかのような空気が流れており、そこにるリュウマ達は皆、深刻そうに思いつめた表情のまま俯いていた。
それはやはり先程のアールシュの言葉が彼等の胸に突き刺さっているからだろう。
互いに自問自答を繰り返すなか、ふとリュウマが立ち上がって、部室を出ようとする。
「リュウマ、どこに……」
「少し外に出てくる」
イオリの問いに扉を開いたリュウマは背を向けたまま声のトーンを落として答えた。
「……俺は今更、サイド0を抜ける気はねえ。そりゃあ、あのインドヤローの言うことも分かるけどよ。それでも今の学園のままで良いなんて思えねえんだ。だから俺はサイド0で戦う」
彼の脳裏にはかつて無残にも破壊された自身のガンプラの姿が蘇る。
いまだ自身とレイジングにあのような被害は起きていないが、願わくばもう二度とあのような想いをするのも御免だし、ショウゴ達にパーツを奪われても、権力に怖れて何も言えなかったこの学園のままで良いとは思えないのだ。
「けど、やっぱり……」
とはいえ、やはりリュウマもアールシュの言葉に思うところがあるのか、ユイ達に背を向けたまま、ゆっくりと口を開き……。
「いつまでも甘んじてらんねえ。俺達も変わらなきゃいけねえのかもな」
ケースから取り出したレイジングを見つめる。
アラタがリュウマへ託したこのガンプラを見つめる彼の目には様々な葛藤が渦巻いていた。
確かにアラタが作成したレイジングはリュウマが今まで触れたことのないほどの出来栄えであり、バトルにおいても不自由はない。
だが、だからこそこのままで良いのかと自問自答の末の答えを残し、08部を後にするのであった。