ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
いよいよランキングバトル当日を迎えた。
ランキングバトルには三つのランクで分けられていた。
まず下位ランカーで構成されるCASUAL、中間に位置するSTANDARD、そして上位ランカーによるHARDCOREだ。
公式戦によるG-cubeは学業の傍ら、数日に渡って執り行われる。
かつてイオリがアラタに説明しsたようにランキングバトルは3on3で執り行われる。
撃墜数、サポートや立ち回りの全て含めて、総合的に評価され、ランキングは変動するのだ。
ランキング上位者には学園側から厚遇されるということもあり、皆、血眼になってでも勝ちをとりに行こうのだ。
「──レイッジングゥゥッフィンガアアアァァァァァーーーーーァアアッッッ!!!!!」
特にCASUALとSTANDARDは顕著であった。
現在、STANDARDのG-cubeが行われていたが、レイジングの一撃によって、相手チームは全て撃破される。
「お前達がもっとサポートしてりゃあっ!!」
「人のせいだってのかよっ!?」
この学園にとって弱者の価値などないに等しい。
だからこそ皆、成り上がろうとするのだが、負けてしまえば、その道を閉ざされたのも同意義だ。
負けてしまえば、その殆どが次に活かそうと前向きになるのではなく、罵詈雑言が飛び交い、最悪、掴みあいにまで発展する。
「やめろってんだよ! っんなことしたって仕方ねえだろっ!!」
そこに楽しむという言葉が存在する余地もない。
今も乱闘に発展しそうな相手チームを見かねて、リュウマが止めに入るのだが……。
「止めるくらいだったら負けてくれればよかったんだよッ!!」
「……っ!」
何とか止めようとするが、掴んだ腕を振り払うように暴言と共に大降りに振るわれた腕はそのままリョウマの目尻に直撃し、そのままふらついてしまう。
だが相手のチームはそのことに一切、気にも留めず、再び罵り合いを始めてしまう。
「大丈夫、リュウマ君!?」
「目尻の辺りが切れてるわ……!」
その光景を目の辺りにして、一緒に出撃していたユイとイオリ、そしてチームのマリカが慌ててリュウマを案じて駆け寄る。
先程、受けた腕の影響か、目尻の辺りは切り傷のように開いて地を流していたのだ。
「……こんなのが当たり前ってのは、おかしいんだよ」
リュウマの他にを止める者などいやしない。
勝てば良いが負けてランキングが変動すれば、強者の尻に敷かれる弱者のままでいるだけだ。
まさに明日は我が身、そんな状況だから止める者なんていないのだ。
誰もがまるで日常の光景のように気にも留めないこんな殺伐とした世界にリュウマは拳を強く握り、歯を食い縛る。
皆、自分のことだけ精一杯で勝てたとしても喜べず、次も勝てるようにと息が詰まるような緊張感に襲われ、敗者は悔しさだけに留まらず、負けて逆上し、このような醜態を晒す者達もいる。
ハッキリ言ってしまえば異常だ。
怪我なんてなんてことはない。何より痛いのはこのような光景を目の当りにするその心なのだから。
「──おら、治療すっから、こっち来い」
リュウマのその姿にユイやマリカにはかける言葉がなく、痛ましそうに目を伏せてしまう。
誰もが喜ぶことも出来ない状況の最中、いきなり横から傷口を見るかのようにリュウマの頭を掴まれる。
何事かと思い、見てみれば、傷の度合いを確認しているマスミの姿が。
「いってぇな! なにすんだよ、テメエ!」
「あん? テメエって言うなよ。俺、29だぞ。せめてマスミンって呼べや」
「誰が呼ぶかっ! ぜってぇ呼ばねえぞ!」
苛立ちのあまりマスミを振り払うが、顔を顰めたマスミはそのままま不良がメンチを切るように首を上下に動かして顔を近づけながら、眉間にデコピンを浴びせてきた。
弾けるように顔を反らしたリュウマは涙目で眉間を両手で抑えながら、ぎゃーぎゃーと文句を言い始め、マスミと低レベルな言い争いを始める。
「あれ、マスミさん。なんでこんなところに……?」
「出張購買部だよ。バトルを眺めながら、摘めるもんが欲しいだろ」
最終的にはリュウマにアームロックを仕掛けるマスミにおずおずとユイが声をかけると、マスミは今、到着したばかりなのか、彼が顎で指す方向には三馬鹿が首に商品が入ったケースを抱えて、売り込みを始めていた。
「てめえ等もいつまでやってんだ」
ギブギブ、とアームロックを仕掛ける腕を叩いたリュウマを解放すると、マスミはそのまま罵り合いを続けるチームの仲裁に入り喧嘩両成敗だとばかりに首根っこを掴んで、そのまま三馬鹿達と同じ売り子に回す。
「た、助かりました……」
「ったく、どいつもこいつも殺気立ってやがる。ガンプラを扱う学園とは到底思えねぇな」
一先ず事態の沈静化を図ることは出来た。
ユイがそっと胸を撫で下ろしながら、止めに入ってくれたマスミに感謝すると、彼は礼よりも今のこの場の雰囲気にポリポリと頭を掻く。
「と、とととと、ところでシーたんはいつバトルすんだ?」
「それが目的かよ、ドルヲタ」
すると本題とばかりにマスミは忙しない動きでシオンのバトルについて聞いてくる。
確かシオンはアヤと臣民であるショウゴと共に参加している筈だ。
バトルに託けて何をやってるんだとばかりに呆れるリュウマが癪に障ったのか、また言い争いと共に掴みあいを始める。
「……」
ユイ達がその光景に顔を見合わせて苦笑しているなか、遠巻きにその姿を見つめている者がいた。
アカリだ。
腕を組んで壁に寄りかかったまま、喧騒を遠巻きで見つめている彼女は、リュウマ達を……いや、リュウマを見定めるかのようにその口元に微笑を携えながら、見つめるのであった。
・・・
「ふぃー……」
一方、こちらはHARDCOREが執り行われているバトルルームだ。
丁度、バトルを終えたばかりのアラタがシミュレーターから出てきて、一息つく。
(流石、上位ランカーってところか)
近くの壁に寄りかかって、腰掛けながら疲労感から肩を落とす。
甘く見ていたわけではないが、やはり上位ランクに位置するビルダー達だけあって、特に一桁台は強豪揃いで一つ一つのバトルに神経を使う。
「負けた……」
ふと先程までバトルをしていたチームがシミュレーターから出て来た。
先程のバトルはアラタ達の勝利で終わった為、敗北を喫した彼等は肩を落として、さながらこの世の終わりのような顔を浮かべていた。
「ランキングから下がったら、学園側の援助がどれくらい減るんだ……?」
「それよりもHARDCOREから落ちたら、その援助その物がなくなるじゃないか……!」
「必死にHARDCOREまで昇ってきたって言うのに……」
そのチームは、負けても悔しさどころか、自分達のランキングばかりを気にしている。
そこに先程のバトルについて振り返ることも、悔しさを噛み締めることもなかった。
「去年から学園内ランキングが導入され、上位ランカー達は学園から様々な援助を受けられるようになった……。今では上位ランカーでも、あのような光景は物珍しくはない」
バトルその物を蔑ろにするような光景に複雑そうな様子のアラタの隣の壁にいつのまにアールシュが寄りかかっていた。
彼の言葉に再びそのチームを見る。
確かイオリの話ではランキング上位者には資金的、人材的なサポートが行われるという。
それが順位によって差があるというのなら、より上へ目指そうとは思っても、その下に落ちたいとは思わないだろう。
「もしも学園を言葉通り元に戻すのならば、ランキング制もなくなり、援助もなくなるということになる。果たして、あのように甘美な蜜に毒された輩は黙っていられようものかな?」
やがてSTANDARDの時同様に、敗因を探ろうとして責任の擦り付け合いが始まろうとする。
その光景を鼻で笑いながら、試すかのようにこちらを見てくるアールシュにアラタは押し黙って、考えるように眼前に手を組む。
「この世は妥協で出来ている。一つの考えが実行されれば、そこに異は出てくる。考え方が違う以上、不特定多数を満たすことなど出来やしない。思考、価値観、信仰、哲学……。全てが違うから衝突する。だからこそ全て満たすことは出来ずとも、妥協を提示するのだ」
現生徒会に異を唱えたからこそ、サイド0は生まれた。
確かにアールシュの言うとおり、ただ学園を元に戻すだけでは綻びが生まれるのかもしれない。
「他者を糧として成長し、前に進むことが出来る。それこそが人だ。思考を放棄するな、ソウマ・アラタ。生徒会を、今の学園を、そしてこの俺を糧にしろ。今のまま夢みたいな目標を掲げて起こした革命の後では、どうなっているかな」
アールシュの考え方に異を唱える者も勿論、いることだろう。
だがアールシュにとって、それは望ましいことだ。
ただただ全てが自分と同じ考え方など考えるだけで気持ちが悪い。
言いたいことは言った。
いまだ俯いた顔の下に思いつめたような表情を浮かべるアラタを一瞥すると、アールシュはこの場を離れていくのであった。