ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「──ッ」
遂に始まった戦国エクシアとのバトルは、一瞬にして距離を縮められたことから始まった。
それはまさに疾風の如く、雨を切って、一瞬にしてレイジングとの距離を詰めると、その喉元に向かって刃を突き放つ。
勘が働いたのか、間一髪のところ両腕を重ねて防ぐのだが、戦国エクシアはお構いなしに、そのまま強引に押し切った。
「クッソ……ッ!」
仰け反った拍子に泥濘む地面に足を取られてバランスを崩してしまう。
しかしその大きな隙を見逃すはずがなく、胴体に袈裟切りを受けてしまい、損傷と共に胸部のクリアパーツが罅割れながらも後方へ大きく飛び退く。
「……」
飛び退いたレイジングを追撃することなく、戦国エクシアはまるで刃に付着した鮮血を払うように、一振りさせると、静かに、だがそれでいて強く輝くツインアイでこちらを見据えていた。
「チッ……。やっぱ生徒会ってところか」
時間にしてみれば、一分が経つか経たないかだろうか。
たったそれだけの短時間で、リュウマはアカリの実力を垣間見た。
彼女は強い。
それこそ自分よりも遥かに。
確かアカリはバトルの前に見定めるといっていた。
それはつまりリョウマを測ることが目的であって、彼女は別段、本気でバトルをするつもりはないのだ。
今のように追撃出来たのにも関わらず、そうしなかったのが何よりの証拠だろう。
「けどな、だからって縮こまるような性分でもねえんだ」
じっとりとした冷や汗を拭いながら、ジョイスティックを握り直す。
実力差はあるだろう。
だからといって臆する気は毛頭ない。寧ろ彼女の本気を引き出させる。
深く腰を落としたレイジングは各部装甲を展開すると、この雨空に逆らうように太陽の如き輝きを放った。
「レイジングゥウッフィンガアアアァァァァァーーーーァアアッッッ!!!!!」
レイジングは大きく飛び上がると、戦国エクシアを眼下に見据えて、常人ならば目で追うのは困難な程の爆発的な加速力で直角に飛行しながら、戦国エクシアへ向かっていく。
「何と猛々しい……」
戦国エクシアのモニターに映る光り輝くレイジングはまさに雄々しい気高い龍のように見えた。
しかし口ではそう言いつつ、アカリは眉一つ動かない。
こちらに向かってくるレイジングを前に静かに刀を構え、アカリはその刃のようにその瞳を鋭く細める。
「蛮勇とも言えますが」
一閃が走り、鎧武者と蒼き龍はすれ違う。
ただ雨音だけが響くなか、戦国エクシアが鞘に刀を納めた瞬間、レイジングは降り注ぐ雨と共に崩れ落ちた。
・・・
同時に一年生階のバトルルームに入室したのはアラタだった。
全員を集めて話をしたかったため、リュウマを探して、アイダを尋ねたら、生徒会に所属するアカリとこの場所にいると聞き、こうして訪れたのだ。
「……っ」
観戦モニターに映るバトルを見て、アラタの顔が強張る。
まさに今、戦国エクシアの一太刀によって、レイジングが崩れ落ちたからだ。
決着はついた。
アラタや、バトルをしているアカリもそう感じた時であった。
モニターに映る満身創痍のレイジングが立ち上がったのだ──。
・・・
「……まだ、立ちますか」
刀を納めたのは、決着を確信したからだ。
にも関わらず、立ち上がったレイジングにアカリは僅かに眉を顰める。
戦国エクシアの一太刀はレイジングの駆動系に深く響いたのか、自力で立ち上がることも出来ず、近くの大木に身を預けながら、レイジングは何とか立ち上がったのだ。
「……ったりめーだ。コイツを使う限り、俺は負けるわけにはいかねえ」
駆動系を狙った一太刀によって、レイジングはまともに動くことも出来ない。
だが、リュウマの戦意はいまだ衰えることはなく、ビームナギナタを杖代わりに戦国エクシアへと向かっていく。
「……見ていられません。何故、そこまで」
吹けば今にも散りそうなレイジングの痛ましい姿にアカリは理解できないとばかりに小さく首を振る。
何故、そうまでして過酷な道を選ぼうとするのか……。アカリには理解し難かった。
「……もう痛みから逃げねえって決めたんだ。俺に手を伸ばしてくれた奴の為にも」
リュウマ自身も以前の自分であれば諦めていただろうと思う。
だが、その”以前の自分”ではなくなったのは、何よりアラタの存在が大きかった。
「俺……バカだけど……。それでも……もう一度、心に灯った火は消したくねえ」
しかし泥濘んだ地面は今のレイジングにこれほど劣悪な状況はなく、足を滑らせてしまう。
倒れるかと思ったその矢先、何とかビームナギナタを支えにレイジングは踏ん張ったのだ。
「こんな場所だからこそ、俺には……ッ……大事なもんの価値が分かるんだよ……ッ!」
リュウマの脳裏にアラタをはじめとしたサイド0の面々やこれまで紡いできた学園の人々の笑顔と苦しみが過ぎっていく。
やがて目と鼻の先にいる戦国エクシアへ向かって、拳を振り上げて、殴りかかる。
その一撃はあまりにも力なく、戦国エクシアにダメージを与えることは出来ないだろう。
しかし、その一撃は戦国エクシアも胸部に確かに届いていたのだ。
やがて完全に駆動系が機能を果たせなくなったのだろう。
レイジングのツインアイから静かに光が消え、機能を停止する。
ただ冷たく世界を覆う雨が降りしきるなか、蒼き龍は鎧武者に拳を届かせたまま、戦いは終わるのであった。
・・・
バトルを終えたリュウマはシミュレーターから出ると、そこにはアラタが待っており、彼の表情からバトルを見られたのだと悟り、申し訳なさそうに目を伏せる。
「……アナタもいましたか」
アラタが何か声をかけえようとした瞬間、アカリもシミュレーターから姿を現す。
生徒会役員ということもあり、どことなく警戒しているアラタだが、アカリのどこか沈んだ様子から、不思議がって雰囲気を和らげる。
「……私の勝ち……とは言えませんね」
バトルルーム内に重苦しい空気が流れるなか、思いがけない一言がアカリから放たれたのだ。
「彼の想いを上回ることは出来ませんでした。この胸の中の靄はなによりの証拠でしょう」
自身の胸に手を添え、先程のレイジングの姿を思い出す。
きっとあの場で幾ら攻撃したところでシステムが戦闘続行不可能を判断するまで、立ち上がったことだろう。
その意志をあのレイジングから感じて、一瞬でも慄いて、リュウマの戦意を折ることは出来なかったのだ。
だからこそ彼女は負けを認めたのだ。
「……故に目的は達成しました。これからもどうぞよしなに」
とはいえ、今回は勝敗は重要ではない。
意識を切り替えるように一度、目を瞑ぶと、微笑みを浮かべて、バトルルームを去っていくのだった。
残ったアラタとリュウマの間に重い沈黙が訪れる。
アラタは兎も角、リュウマは彼に顔向けできないとばかりに目を伏せていた。
彼が自分のために作ってくれたレイジングで負けただけでなく、戦国エクシアはほぼほぼ無傷だったのだ。
あまりに情けない結果にどんな顔で彼に接しれば良いのか、分からなかった。
「……なんて顔してんだよ」
「……レイジングで負けちまった。どんな面して良いんだよ」
やがてリュウマの姿を見かねて、ちょっかいをかけるようにその臀部を軽く叩くと、いつもならば文句を言ってきそうなリュウマだが、今は敗北を噛み締めて、物悲しそうに拳を握っていた。
「変なところで律儀な奴だな。別に負けても良いだろ」
自分がただ負けただけならば、ここまで責任を感じてはいないだろう。
アラタから託されたレイジングで負けたと責任と罪悪感に苛まれるリュウマにため息をつくと、その言葉が理解できず、顰めた顔を向けてきた。
「それだけ上がいるって事だろう。だからこそ諦めなければ躓いても何度だって挑戦できるし、強くなれる。お前はどうなんだ?」
第08部へ向かおうと歩き出しながら話すアラタの背中をリュウマは見つめる。
彼の言葉をそのまま自分に当て嵌めるのであれば、まさに挑戦しようと思える存在が目の前にいるのだ。
バトルルームの扉を開いて、肩越しに振り返れば、先程まで沈み込んでいたリュウマの表情も活気を取り戻していき、その姿に微笑んだアラタはリュウマと共にバトルルームを後にするのであった。
・・・
「さーて、みんな、集まったな」
リュウマも合流し、第08部室ではアラタがサイド0の面々を見渡すと、漸く当初の予定通り、話を切り出す。
わざわざ全員を集めて、何の話をするつもりなのだろうか、とユイ達が続きを待っていると……。
「学園は元には戻せない」
その言葉はユイ達に大きな衝撃を与えた。
イオリがどういうことなのかと詰め寄ろうとした瞬間、ユイが制す。
一先ず話を最後まで聞こう、ということなのだろう。
「アールシュの言う通り、学園を元に戻すには、俺はこの学園をあまりにも知らない。俺は本来ならば、サイド0のリーダーであるべき人間なのではないと思う」
「そ、そんなことはありません! アラタ先輩のお陰で救われた人はいますっ!」
僅かに目を伏せながら、かつてこの場でアールシュに言われた言葉を口にするアラタに、耐え切れずマリカが声を上げる。
確かにアラタは元の楽しかった学園を知らない。だが、それでもこの息が詰まるような学園で、もう一度、自然と笑えるようになった者達は自分を含めて多くいるのだと。
「ありがとう。でも、安心してくれ。今更、この舞台から降りるつもりはない。尻尾巻くくらいなら、最初から下がってるさ」
マリカが懸命に否定してくれるのは、純粋に嬉しくはある。
故に、ここでサイド0を抜けるつもりな毛頭ない。最後まで彼女達と戦うつもりだ。
「だからこそなんだ。学園は元に戻せない。なぜなら、サイド0の中心には元の学園を知らない俺という異物がいるし、既に変わってしまったから。ただ戻すだけなら、きっと俺達のように不満に思う層がまた出てくると思うんだ」
サイド0に身を置く以上、ただ立ち塞がる敵を倒して、全てが終わった後は元の学園を知っているユイ達に丸投げを、ということは出来ないし、したくないし、させるつもりはない。
何より今のアラタにはアプサラスⅡのリーダーの言葉が残っているのだ。
「時間は戻せない。進むしかない。学園は変わってしまったのなら、また新たに学園を変えるしかない」
本題とばかりにいつになく表情を引き締めたアラタはスッと息を吸って、まっすぐに話す。
「元の楽しかった学園、そして今の学園。この二つの要素を取り込んだ新たな学園を作りたいんだ。みんなが楽しく自由にバトルが出来るのは、勿論、ランキング制は撤廃して、イベントを開催して優勝者には援助が受けられる……。そんな風に学園が歩んだ道のりを無駄にせず、学園を変えたいと思ってる」
勿論、これは一つの提案だ。
アラタが全てを決めるわけではなく、学園を変えるというのなら、色んな意見に耳を傾けて、全てを満たせずとも、理想に近づけることは筈だ。
「その為にも、みんなの力を借りたい……。どうかな……?」
もしかしたらこれは全てアラタがそう思っているだけで、ユイ達は学園を元に戻す方向性を選ぶ可能性は大いにある。
願わくば、同じ道を歩みたいものだが、こればかりにその意志を尊重しなければならない。
アラタが伺うようにユイ達を見ると……。
「……やっぱり、アラタ君は学園を……世界を変えていけるかもしれないね」
かつてガンブレ学園でユイと再会した時に言われた言葉。
あの時の言葉を確信に変えたかのように口を開いたユイは、あっすぐアラタを見つめる
「私は……良いよ。きっとアラタ君が目指す学園なら、決して悪いようにはならないと思うから」
すると、柔らかな笑顔を浮かべて、彼と共に同じ道を歩んでくれるという。
イオリ達も見渡せば、彼女達も微笑みながら頷いてくれた。
「ありがとう……。そして、一緒に進んで行こう」
サイド0はまた新たな道のりを歩もうとしている。
改めて、サイド0の面々に感謝しながら、新たな学園への道を示すようにユイ達に手を伸ばすと、彼女達はそれぞれアラタの手へ自身達の手を重ねると、結束を表すように強く握り締めるのだった。
・・・
「大佐、イオリさん、ジーク・シオン!」
「「おはよ……」」
ランキングバトルの翌日、学園へ登校してきたアラタは偶然、出会ったイオリと教室を目指していると、何人かの臣民を引き連れたシオンに出くわす。
いつもと変わらぬテンションで挨拶をしてくるシオンにアラタも挨拶を返そうとした瞬間……。
「ジーク・シオン! ジーク・シオン!!」
シオンの号令に続くように声を張り上げる臣民達の中にサカキの姿があったのだ。
思わず寝ぼけているのかと目を擦ってみるが、紛れもなくそこで拳を突き上げているのはサカキだった。
「おはよーです」
「……アヤちゃん、あの人はなんであそこにいるの?」
臣民に紛れて、シオンからの賄賂である飴を舐めていたアヤがひょっこりと姿を現すと、丁度、良かったとばかりに彼女にサカキについて尋ねる。
「何でもバトルをした時に、シオンさんの動きが美しいってて、臣民になったそうですよ」
「あそこまで美しくガンプラを動かす……。紛れもない愛に満ち溢れていた。私も深い感銘を受けたのだよ。あんな風に己のガンプラを動かしてみたい、とね……! だから私はシオン公国の民として経験を積もうと考えたのだ!」
あー、と然程、興味もなさそうに、まさに他人事のように答える。
確かにアラタもシオンとミッションを行ったが、パフォーマンスのようだったのは覚えている。
すると話を聞きつけたサカキが自ら当時のバトルを思い出し、感極まりながらハンカチ片手にその長身を震わせていた。
「これって……新しい学園に向かっている、の?」
「……ある意味では」
感動もそこそこにサカキはジーク・シオンと拳を突き上げると、どこから沸いてきたのか、ショウゴを始めとした臣民達が押し寄せ、シオンを中心に大合唱が始まっていく。
その姿にイオリとアラタは頬を引き攣らせ、アヤはその横でこれ美味しいですねー、と飴玉を舐めていた。
10000UA突破ありがとうございます!
さて、第二章はこれにて終了です。
次章に入る前に記念小説の一話限りの短編をやる予定ですが、内容はNewガンブレのメインヒロインの一人の過去話をやるか、それともただのギャグ話をやるかで悩んでますね。
過去話に関しては、そのヒロインのゲーム中の話から生んだ話ですが…。うーん、構想は出来てはいるのですが、これは多分、そのヒロインの恩人に関しては人によって反応が変わると思いますね…。