ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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ビヨンド・ザ・ドラゴン

「──ふ、副会長にバトルを……!?」

 

 第08部の部室でイオリによって告げられた話の内容にマリカは驚愕しながら反復する。

 それはあまりに突飛で思いもしない言葉であり、マリカだけではなく、他のサイド0の面々も驚いていた。

 

「そう、生徒会を運営しているのは実質、副会長と今まで倒してきたチームのメンバーなの。ここで副会長を抑えれば、生徒会は機能不全に陥るはず……!」

 

 ゴールデンコスモスのサカキ、AIRBRUSH OF Zのシロイを破った今こそが好機と判断したのだろう。

 しかし、それは突然の話であり、何よりもイオリ自身がどこか急いているようにも感じられた。

 

「……でも、そんなに急ぐ必要があるの? 私達もしっかりと準備をしなくちゃ……」

「そんな悠長なッ!」

 

 とはいえ、生徒会長であるユウキと副会長であるセナの実力は飛びぬけている。

 それを身をもって知っているユイからしてみれば、まだ生徒会に真っ向から打ち勝つには時期尚早に思えてならないのだ。

 だが、イオリは尚も留まることなく、寧ろ強く反発するように机を叩いて反論しようとする。

 

 あまりにも様子がおかしい。

 机を突く叩いた衝撃でビクリと怯えるマリカを、ユイがそっと抱き、アラタとリュウマはいつにも増して急いているイオリになにがあったのかと顔を顰めていた。

 

「……っ……。いえ……分かりました。すみません、少し……頭を冷やしてきます……」

 

 冷えきった雰囲気と自分に対する困惑が伝わったのだろう。

 やってしまった、とばかりに悔悟したイオリはいたたまれなくなったのか、逃げるように第08部の部室を去っていく。

 

「イオリ先輩……焦ってた……?」

「だよなぁ……」

 

 イオリが去っていった部室の扉を見つめながら、マリカが困惑して、アラタ達に意見を伺うように呟く。

 リュウマも同意するなか、ユイは先程の急いた様子のイオリを思い返して、顎先に手を添えて考え込んでいるアラタを見つめる。

 

「ねえ、アラタ君。しばらくイオリちゃんの様子、気にかけておいてあげてくれる?」

「……まっ、ここ最近、明らかにおかしかったしな」

「うん、お願いね。イオリちゃん、無理しないと良いんだけど……」

 

 イオリの態度で不審に思える素振りは今まで何回か目にしてきた。

 何か悪い予感はするのは、アラタも同じなのか、難しい表情のまま頷いたのを見て、ユイはイオリを案ずるのであった。

 

 ・・・

 

 結局、その後、AIRBRUSH OF Zを破った記念としてカラオケで軽い祝勝会をしようという話になったのだが、イオリは誘っても断られてしまい、それ以外のサイド0の面子と、チナツ、レイナ、アヤ、シオンで盛り上がっていたのだが、シオンが歌い始めた直後、なぜか一部のシオン公国も乱入して大騒ぎとなってしまった。

 

「んー……久しぶりにあんなに大騒ぎしちゃったなぁ」

 

 数時間後、薄暗さが広がって行く帰り道をアラタとユイの二人が歩いていた。

 今までどっちらかといえば、生徒会に抗おうとする姿勢からか、周囲から腫れ物のように扱われ、中には突っかかってくる者達もいたせいで、こういった学生らしい楽しみをしていなかったのだろう。

 両手を組んで目一杯背伸びしながら、先ほどまでの騒ぎを思い出して嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「チナツとかシオンとか、デュエット曲ばっかり入れて、人に押し付けるもんだから、ほぼほぼ歌いっ放しだよ、俺」

「最後にはマリカちゃんも持ちかけてたね。私もアラタ君と歌いたかったなぁ」

「もう喉ガラガラだよ。下手したら天龍さんみたいになっちゃうよ、これ」

 

 アラタもアラタで楽しめたようだが、喉を痛めたのか、んん”と咳払いするように唸っている。

 そんなアラタの姿に苦笑しつつ、カラオケでの思い出話も程ほどにユイは次なる話題を口にする。

 

「そういえば、アヤちゃん達が言ってたけど、もうすぐ三連休だね」

「ここ最近、ゴタゴタばかりだし、俺達にとっても丁度良い息抜きになれば良いけど」

「……そうだね。イオリちゃんも心配だし」

 

 もうすぐやってくるという三連休。

 学園に入学してから、ガンプラ越しに火花を散らした争い事ばかりだった。

 生徒会を目の前にしているのであれば、ここら辺で休息がてらに息抜きをするのも良いかもしれない。あの時、急いていたイオリを見る限り、ユイにはそう思えた。

 

「アラタ君はどうするの?」

「田舎に帰る」

 

 三連休の予定に関して、こうして聞くのはアラタが初めてだ。

 何気なしに気になった問いかけに、元々、予定は決めていたのか、間髪入れられずに答えられた。

 

「田舎って私達がいたあの田舎?」

「帰るって言ってんだからそういうことでしょ。近況報告とかしないとうるさそうだし、遊びに行ってみるよ」

 

 時折、アラタとユイの間で話されるかつて自分達が過ごしたあの土地。

 三連休を利用して、子供といえば、手加減なしにガンプラバトルで遊んでくれた人達に会いに行こうというのだろう。

 その時を楽しみにしているのか、心なしかアラタの表情は楽しみを待つ子供のように緩んでいる。

 

「そっか……。じゃあ、私も……一緒に行っちゃおうかな……?」

 

 ユイはどこか気恥ずかしそうに頬を染めながらか細く呟くように話す。

 彼女の頭の中で二人きりで田舎に向かっている場景が浮かんでいるのだろう。

 やはり男女二人きりで、というのは思うところがあるようだ。

 

「良いんじゃない。喜ぶと思うよ」

「……もぅ! アラタ君のそうやって流すところ、ダメだと思うよ!」

 

 最もアラタは特に意識することなく、何気なしに答えると、自分だけ意識したのが、馬鹿みたいに思えたのか、たちまち抗議するが、彼女の言葉通り、再び適当に流されている。

 

「……あっ、でもユイ先輩と一緒ってなったら、またなんか言われそうな」

「私はユイ姉ちゃんだからね! アラタ君をしっかり田舎まで連れて行ってあげるっ」

「……昔から、そうやって張りきる時に限って、毎回、碌なことにならないんだよなぁ……」

 

 その態度が余計にユイの抗議を強くするわけだが、ふと何かに気付いたように足を止めたアラタの言葉に素早く切り替わって、ふふん、と得意げに胸を張っている。その姿に一抹の不安を感じながら、二人はそのまま帰路につくのであった。

 

 ・・・

 

 一方、アラタ達と同じく祝勝会に参加していたリュウマは帰路につくことなく、一人、とある店舗に訪れていた。

 そこは所謂、模型店であり、世界規模の流行であるガンプラバトルにおいて用いられるインナーフレームやガンプラが購入できたり、自然とビルダーが集まることから互いに刺激を受けたりと中々の刺激を受けられる場所なのだ。

 

 店内に足を踏み入れたリュウマはチラリと店内を見渡す。

 時刻はもう間もなく21時、閉店間際ではあるが、時間も時間だからか、仕事帰りのサラリーマン達の姿がちらほら見受けられた。

 

「……げっ」

 

 会計中のレジで一人、見知った顔を見つける。

 露骨な嫌そうな顔を浮かべると、相手もこちらに気付いたのか、さながら太陽のような黄金色の瞳を向けてくる。

 

「誰かと思えば、青トカゲか。このような場所で出会うとはな」

「そりゃあ、こっちのセリフだ」

 

 そこにいたのは、アールシュだったのだ。

 リュウマを見て、鼻を鳴らすアールシュにぶっきらぼうな物言いで答える。

 

「……ここで買い物してんのか」

「ここだけではないがな。模型店の中には、ビルダー達の作品が飾られている店が多くあることは知っているだろう。それらを直に目にすることによってインスパイアを受けられるのだ」

 

 店員から購入した商品を受け取り、微笑を浮かべて礼を言いながら受け取っているアールシュに、常連なのか聞いてみれば、どうやらここだけではなく、幅広く様々な模型店に足しげく通っているようだ。

 確かにこの模型店もそうだが、近くのショーケースには腕の立つビルダー達によって作製された自慢の作品達が所狭しと飾られており、どれも埋もれることなく存在感を発している。どれもこれもずっと見ていたくなるものばかりだ。

 

「貴様こそ、用あってここに訪れたのだろう」

「近くにある店がここだからな。足りなくなったプラ板とパーツ取りのガンプラを買いに来たんだよ」

 

 傍若無人の彼に珍しく、ただの気まぐれか、リュウマにこの店に尋ねた理由について触れる。

 何気なしに訪れたわけではなく、購入する品はハッキリしているようで、そのことにアールシュは目を細める。

 

「……このままじゃいけねえんだ。アイツがいるから俺達は立ち上がれた。でも、いつまでもおんぶに抱っこってわけにはいかねえ。アイツが期待してくれた俺はそんな奴じゃねえ筈だ」

 

 レイジングが収められたケースを軽く撫でながら、アラタに託されたあの日のことを思い出す。

 アラタと出会ったからこそ、自分は再びガンプラに向き合うことが出来た。だからこそそこで終わるわけにはいかないのだ。

 

「……フンッ、少しはマシな目を、というところか」

 

 リュウマのアラタに対する想いに感心したように鼻を鳴らしたアールシュは歩き出す。

 

「奴は歩き続けることだろう。ならば、真っ直ぐその足跡を辿った先に貴様がなにを見て、なにをするか……。期待しておこう」

 

 すれ違いざまに立ち止まり、珍しくアラタではなく、リュウマに期待の言葉を投げかけてきたアールシュに驚いていると、不意に彼がこの店で購入した袋の中身が目に留まる。

 

「作ってはまた作る……。ビルダーとはそういうものだ。俺もシヴァもまた同じ。果てを決めるのが自分なのであれば、俺達は進み続けることだろう。作るものは皆、違う。ソウマ・アラタ、そして貴様がなにを作り上げるのか、楽しみだな」

 

 袋の中にはキマリスヴィダールなど数点のガンプラが収められていた。

 彼の言葉から推測するに、シヴァを改修しているのだろうか。

 シヴァに対して、絶対的な自信を持っているのは、様々なものに触れて、自身の糧にしてシヴァに幾度となく注いで作り続ける自分自身の道だからなのかもしれない。

 

 店を後にしたアールシュの背中を見送りながら、リュウマも買い物を始める。

 彼の自室の机の作業スペースには、いまだ完全な形にはなっていない未完成のガンプラがある。

 いまだ完成の目処すら立ってはいない。だが何れ燃え盛る炎のように荒ぶる龍が産声を上げる日は近いことだろう……。

 

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