ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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セナの嘲笑

「今度、サイド0のエンブレムをデカールにしてみようと思うのだけれど」

「わあっ、完成したら分けて貰っても良いかな?」

 

 第08部の部室には既に殆どの部員やサイド0にレイナやチナツ、シオンといった与する者達が集まっており、いつもの賑やかさを見せていた。

 それぞれが思い思いの行動で自由な時間を過ごすなか、レイナが自作したサイド0のエンブレムが映ったスマートフォンの画面を見せると、自分が属するチームということもあり、ユイがすぐさま食いつく。

 

「今日も賑やかだなあ」

「おっ、アラターじゃん! ねえねえ、三連休ってどうする予定ぃ?」

「シオンも気になるなっ」

 

 そんななか、扉を開いて到着したアラタは賑やかで楽しげなムードの部室に穏やかな微笑を浮かべると、彼の存在にいち早く気付いたチナツとシオンが駆け寄って、以前、アヤも話していた今度の三連休の予定について尋ねる。

 

 しかし、今までレイナと話の華を咲かせていたユイがその問いかけを耳にして、どこか焦った様子でアラタに声をかけようとする。

 

「ア、アラタ君! 今、レイナちゃんがサイド0のデカールを──」

「三連休なら俺が転入する前に暮らしてた田舎に帰るつもり。あぁそうそう、ユイねえ……先輩も暮らしてた場所だから、一緒に里帰りする予定だよ」

 

 なにやら強引に話を逸らそうと、声をかけようとするユイだが、その言葉が届くことなく、何気なく答えた三連休の予定はこの場に集まった面々の耳に届いてしまった。

 

「あら、なんだか楽しそうね。因みにその田舎ってどの辺りなのかしら?」

「えっ? んー……確か──」

 

 言ってしまった、知られてしまった、とそわそわと焦っているユイの両肩を後ろから掴みながら、ひょっこりと顔を見せたレイナはどこか悪い笑みを浮かべて、アラタの田舎について尋ねると、問題があるわけでもなく、アラタは聞かれたまま、田舎の所在をベラベラと答える。

 

(……あぁ、姉弟の里帰りっていうほのぼのビジョンが音を立てて崩れていく)

 

 大方、先程の誤魔化そうとした態度でアラタと二人きりで帰郷するというプランが察せられてしまったのだろう。

 然程、関心のないリュウマ以外の女性陣が、「へー」と相槌を打つなか、特にマリカなどが据わった目を向けてくる。

 ユイの頭の中にあった笑い合って追いかけっこをする二人の妄想が水泡のように消えていくのを感じながら観念したように項垂れていると……。

 

「──呼ばれてないけどジャジャジャジャーンッ」

 

 小柄の何かがまるで砲弾のように扉を打ち破って、部室に飛び込んできた。

 驚いているのも束の間、その正体であるアヤは飛び込んだ勢いのまま床を転がって、ポーズを取る。

 

「常に全力。それでこそアヤちゃんだわ」

「いつまで経っても部室にいらっしゃらないので、迎えにきましたっ!」

 

 襲撃じみたアヤの登場に誰もが驚いているなか、ユイの背後にいたレイナはいつものことで慣れているのか、特に気にした様子もなく、平然と声をかけると、どうやらアヤの目的は第10ガンプラ部部長であるレイナを探してのことのようだった。

 

 とはいえ、ローリングを決めるだけの勢いを持って突入してきたのだ。

 当然、それだけの勢いをつけるには助走が必要な為、走ってきたのだろうが、その間に多くの人間の目に留まることとなり、その直後、慌しい様子でアイダが部室に顔を見せる。

 

「こら、イチカワさん! 廊下は走ってはいけないし、扉は飛び込むものではありません!」

「で、ですが、個性は発揮しないと埋もれる可能性が……っ!」

「そう言ってこの前、怪我をしたのは誰ですか!」

「まさか鍵が閉まっていたとは露知らす……」

 

 声を張り上げて叱りつけるアイダに大人しく聞くことも謝ることもせず、何とか弁明をしようとするのだが、所詮は脆弁でしかなく、あわあわと周囲に助けを求めるのだが、これに関しては自業自得のため、アイダからありがたいお叱りを受ける羽目になる。

 

「そう言えば、先生。委員長に頼んだ用事ってもう終わったんですか?」

 

 程なくして、こじんまりと正座しているアヤへの説教を終えたアイダにアラタは先程、教室でイオリが話していたアイダから頼まれたという用事について尋ねる。

 しかし、当のアイダは今一、ピンときていないようで、眉を顰めると困惑した様子で口を開いた。

 

「コウラさんに……? なにか頼んだ覚えは──」

 

 その言葉の途中でアラタは部室を飛びだしたのだ。

 誰もが唖然として、背後から戸惑ったユイの声や、アイダから廊下は走っちゃダメですよ、などと注意が飛ぶが、アラタの耳には届かず、そのまま彼は走り去ってしまう。

 

 ──嫌な予感がした。

 

 ずっと引っかかっていたあのイオリの笑顔。

 ここ最近、すぐにでも副会長であるセナに挑もうとするなど、なにか焦っているのは感じてはいたが、ここに来て、なにか突飛なことを仕出かすのではないかという胸騒ぎがするのだ。

 

「あん? なんだそんなに急いで。魚ァ銜えたドラ猫なんざいねえぞ」

 

 しかし、イオリが今、どこにいるのかも分からなければ、スマートフォンへの連絡もつかない。

 道行く生徒にイオリを尋ねながら、あちこち駆け回っていると、偶然、マスミと遭遇した。

 

「マスミン、委員長を見なかった!?」

「委員長ぉ? あぁ、イオリか。んなら、向こうのバトルルームに行くのを見たぞ」

 

 時間が経てば経つほど胸騒ぎは大きくなっていく。

 鬼気迫る様子でイオリの所在について尋ねると、たまたま見かけたのか、マスミがこの階のバトルルームがある場所を指し示し、すぐさまアラタはマスミの横を通り過ぎて、バトルルームへと向かう。

 

 ・・・

 

 ──夜闇に片腕が舞い上がる。

 

 バトルフィールドである廃都市に、鈍い音を立てて落ちたのは、サファイアの右腕であった。

 

「そん、な……っ」

 

 ビルダ-であるイオリは動揺のあまり、言葉どころかジョイスティックに込める腕の力も失ってしまう。。

 膝をつくサファイアは既に至るところから火花が散るほど、満身創痍であり、まさに吹けば崩れ落ちてしまうのではないかという程、悲惨な姿と化していた。

 

「──まさか、一人で挑んでくるとはな」

 

 茫然としているイオリは通信越しのその冷淡な声に身体を震わせて、目の前のモニターを見やる。

 そこにはサファイアとは対照的に一切の損傷もなく、さながら刃のように容赦なくこちらを見下ろす黒暗色のガンプラがいたのだ。

 

 ローゼン・ズールをベースにシナンジュのパーツを組み込んでカスタマイズされたそのガンプラの名前はクリンゲ・ズールであり……。

 

「チームプレイにはもう飽きた、というところか? ──ソロモンの魔女よ」

 

 操るのは、現生徒会副会長セナ・ダイスケであった。

 凍えるような冷たい物言いから放たれた“ソロモンの魔女”という異名にイオリは目を見開いて、息を呑む。

 

「驚くことはあるまい。言っただろう? 貴様は色々と有名だとな」

 

 通信越しに聞こえたのだろう。

 イオリの動揺を、心底、可笑しそうにせせら笑うのだが、やがて失望したかのように嘆息する。

 

「まったく嘆かわしい……。貴様は本来、我々側の人間のはずだ。力の正しさ、そして強さの素晴らしさを知る側だったはず……。それが前副会長の元でくだらん仲良しごっことは……。これを嘆かずしてなにを嘆く?」

 

 ──やめて

 

 セナの言葉の一つ一つがイオリの胸を抉るかのようだ。

 思わず叫びたくなるが、動揺による心の波紋は大きく、満足に声すら発せられないまま、その言葉を聞くしかなかった。

 

「知るが良い、身の程を弁えぬその行いが、貴様を敗北させたのだ」

 

 気付けば、目の前に光の刃が振り上げられていた。

 しかし、イオリにもサファイアにも、その言葉を、そしてその刃を止める術はなく、振り下ろされた凶刃は静かに戦いの幕を閉じるのであった。

 

 ・・・

 

「──委員長ォッ!!」

 

 蹴り破るようにして、バトルルームに乗り込んできたのはアラタだった。

 しかし彼が見たのは、悠々と制服の埃を払うセナとシミュレーターからおぼつかない足取りで出てきたイオリの姿であった。

 

「……サイド0のリーダーか。一足遅かったな」

 

 アラタの存在にイオリが驚くなか、彼がイオリを探してこの場に訪れたのを察したセナは鼻で笑う。

 

「……委員長になにをした」

「そう怖い顔をするな。バトルを持ちかけたのは、そこにいるソロモンの魔女だ」

 

 憔悴しているようにも見えるイオリにいつもの飄々とした態度は既に消え、鋭い眼光を突きつけるも、セナは意に介することもなく、ソロモンの魔女と呼ばれてピクリと震えるイオリを一瞥する。

 

「……ソロモンの魔女?」

「知らなかったのか? フンッ……これは面白い。ならば直接、聞くといい」

 

 しかし、ソロモンの魔女とは何のことかも分からず、顔を顰めるアラタに傑作だとばかりに愉快そうに笑ったセナはこの場を後にしようと歩き出した。

 

「貴様達を今、ここで潰しても仕方ない。チームごと潰すに相応しい舞台を用意しておこう」

 

 すれ違いざま、セナは嘲るように笑みを投げかける。

 いつでも潰せるというその余裕にイオリが歯を食い縛るなか、セナはバトルルームを出て行った。

 

「……勝手なことして、ごめん」

 

 アラタとイオリの二人だけになったバトルルームに痛々しいほどの沈黙が圧し掛かる。

 居た堪れなくなったイオリはポツリと呟くように謝罪の言葉を口にすると、物言いたげなアラタはチラリと見やる。

 

「……まずは話を聞きましょうか」

「そう、よね……。アナタには、話しておかないといけないから」

 

 副会長に単身、バトルを挑むなど言いたいことは山ほどある。

 とはいえ、まずはその前に何故、そこに至ったのかを聞くだけの猶予として話をしてもらおう。

 イオリもこうなった以上は話さなくてはいけないと思ったのだろう、たった二人しかいない息が詰まるようなバトルルームでイオリは重い口を開くのであった……。

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