ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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宿命の再会

 イオリを巡る問題は一先ずの収束を迎えた。

 リョウマはあれから部室に戻ることなく、“先に帰っててくれ”と連絡が来るのみで、今日はこのままみんなで遊びに行こうとなったのだが、アラタは一人、外せない用事があると泣く泣く辞退した。

 

 先程のこともあってか、イオリが心なしか誰よりも残念そうにしていたのだが、こればかりは仕方ないとユイ達に連れられて、一足先に下校した。

 

 ユイ達を見送り、一人だけになってしまった部室でGBを取り出す。そこに表示されていたのは既に目を通してある一通のメールだ。

 

【やっほー、アラタ君! 今日の放課後ってヒマ? 良かったらまたチャットルームでっ!】

 

 差出人はRECOCO。

 このメールが送られてきたのは、今朝のホームルーム直前だ。

 

 大方、この後、RECOCOと共にバトルをするのだろうが、ユイ達の誘いを蹴ってまで彼女を優先したのには理由がある。アラタはバトルシミュレーターに乗り込むと、RECOCOが待っているであろうチャットルームに繋げるのであった。

 

 ・・・

 

 《──聞いたよー。今度はAIRBRUSH OF Zのシロイ君をやっつけたってっ!》

 

 チャットルームに到着すれば、早速、待っていたRECOCOからAIRBRUSH OF Zを撃破した話題を持ちかけられた。

 

「相手は手強かった。しかし俺は天っっ才であり、心強い味方もいたからな」

 《凄いよねー! シロイ君って塗装だけじゃなくて、ガンプラバトルもかなりのレベルだったはずだよ!》

 

 とはいえ、RECOCOとのやり取りは毎回、サイド0の近況に関することから始まるので、アラタはいつもの調子で三本指をクルリと回しながら、得意顔だ。

 

 《そのシロイ君なんだけど、小学校に入る前からエアブラシを使いこなして、大人顔負けの作品を作ってたんだって。コンテストでも常連で、海外からも注目されてたんだよ! 私も見たことあるけど、ほんっと凄かったー!》

 

 確かにバトル中であって、シロイのドムタクティークの塗装技術はあのフィールドにいた誰よりも凄まじかった。

 それはデコるのが趣味と口にするほど塗装を説く意図するチナツや天才を自称する自分よりもだ。

 天才と豪語するだけあって、自分よりも優れたその塗装技術に悔しい思いはあるが、それと同時に唸らされるような思いではあったのだが……。

 

 《でも、最近の作品はカッコいいけど、ワクワクしないっていうか……》

 

 あの塗装を自分も目指してみようとは思わなかったのだ。

 それは何よりその塗装を行っていたシロイが楽しむことを忘れて、ただ正確さだけを求めていたからだろう。ただただ神経をすり減らすような作業で本来の楽しみ方も愛も満足に注ぐことすら出来なかったはずだ。

 

 《だから、生徒会の傘下から外れたら、また昔みたいに凄いガンプラを作ってくれると思うっ!》

 

 だが、少なくとももうシロイはそのようなことをする必要はなくなった。

 敗北を許さぬ生徒会はすぐにでもAIRBRUSH OF Zを切るであろうし、それを見越してか、シロイ自身も、「どうせなら君達を応戦する」とこれからのサイド0の活動に背中を押してくれたのだ。

 これからシロイとは良好な関係を築けていけるだろうし、RECOCOがいうように彼の愛が注がれた渾身のガンプラはぜひとも見てみたい。

 

 《……で、そのシロイ君を倒したってことは、いよいよ生徒会役員とのバトルだね!》

 

 生徒会傘下のチームは軒並み撃破したといって良いだろう。

 まさかここまで順調に事が運ぶとは思ってはいなかったが、どちらにせよ、手が届くのであれば、それに越したことはない。

 

 《会計のミツルギさんと書記のオオトリさんに副会長のセナ君、それから会長のシイナ君……。四人とも、物凄く強いのは間違いないからねー》

 

 だが、生徒会は今までのように甘くはいかないだろう。

 リョウコは勿論のこと、自分は実際に刃を交えていないが、アカリもセナもかなりの実力者であることは伺える。

 そして何より、その長として君臨するユウキも……。

 

 《私で良かったら、練習に付き合うよ? ……っていうか、私が君と一緒に遊びたいだけなんだけど》

「……ああ、そうだな。お言葉に甘えるとしますか」

 

 ふと脳裏に過ぎった記憶に耽っていると、今か今かと待ちきれない様子のRECOCOの言葉に我に返ったアラタはセットしたG-ブレイカーと共に出撃するのであった。

 

 ・・・

 

 ──温もりを失えば、凍てつくような冷たさに襲われる。

 

 当然といえば、当然のことだろう。

 しかし……いくら陳ずろうとも、その冷たさは実感した時にしか分からないことだ。

 温もりが大きければ大きいほどに、自分の身を襲う冷たさは強くなっていくのだ。

 

 沈みゆく夕陽を見つめる。

 太陽を失えば、空は闇夜に染まる。

 それはまさに自分のことのように思えた。

 

 そう、太陽を失ったのだ。

 もう一度、太陽が欲しいと思った。

 もう一度、昇って欲しいと思った。

 しかし、それは叶わないことは分かっていた。

 ならば、と代わりを求めたところで太陽になりえるような存在などいるわけがない。

 

 自分の心に暗い雲が染み渡った。

 いくら待てども晴れ間は訪れることがない。

 

 ……これ以上の人生に意味などないと思っていた。

 

 しかし……。

 

『さあ、勝利を組み立てようか』

 

 太陽は再び昇ったのだ。

 あまりにも唐突に、あまりにも強烈に、あまりにも眩しいほどに。

 

「──入るぞ」

 

 物思いに耽っていると、自分しかいなかったこの無駄に広い部屋に来訪者が現れた。

 眼鏡の奥に光る切れ長の瞳はあまりに鋭く、見る者を威圧することだろう。

 最も自分に向けられているのは、どうしようもないほどのお節介だが。

 

「そろそろ下校時間だ。行こう」

 

 時間というものは残酷なまでに止まることがない。

 いっそ止まってくれればと思うほど、時間を無意味に浪費してしまっている。

 

 だが、それは仕方のないことだ。

 僕には太陽(アラタ君)以外に意味なんて見出せないのだから。

 

 ・・・

 

 《──やっぱり君のガンプラ捌きは一味違うねー。その調子なら生徒会役員を倒すのも、夢じゃないかもっ!》

 

 RECOCOとのミッションを終え、再びチャットルームでは和やかな時間が訪れていた。

 アラタ自身、ガンブレ学園の環境に揉まれ、日々成長しているのだろう。それを近くに感じて、RECOCOは感心するに画面越しに頷いていた。

 

 《そうそう、これは友達から聞いた話なんだけど……》

 

 談笑も程々にRECOCOはなにやら前置きを置いた上で話を変えてくる。

 一体、なにを話されるのだろうと、アラタがこれから話されるであろう続きに耳を傾けると……。

 

 《会長のシイナ君、前の学校では不登校気味だったんだって》

 

 ユウキの話題が出されたのだ。

 アラタが目を見開くなか、そのことに気付いていないRECOCOは話を続ける。

 

 《その理由が、いじめられたとかじゃなくて……ガンプラバトルで誰も彼に敵わなくなってしまったから、らしいの》

「えっ、なにその理由」

 

 以前の学校で不登校だったというユウキ。

 弱肉強食の世界を目指すに至るほど、心に影を落とす出来事があったのかと眉を顰めていたアラタだが、思わぬ言葉に呆気に取られる。

 

 《生徒は勿論、先生でもシイナ君には勝てない。彼はそんな学校に通う意味を見失ってしまったのね……。ううん、学校だけじゃない。生きていく意味、そのものを見失いかけていた》

「なんか壮大っぽいんだけどさ。その学校ってガンブレ学園みたいにガンプラを扱った学校なの? あー……なんだ、色々と気になることが多いなぁ」

 

 RECOCOが寂しげに話す一方で、アラタはユウキが以前の学校でどうだったのか、など色々、気になることが沸々と湧いて来たようで、頭を抱えていた。

 

 《だから幼馴染のセナ君がシイナ君の環境を変えようとした。それで、一緒にガンブレ学園に転入してきたの。ガンプラで有名なこの学園なら、きっとシイナ君がバトルを楽しめる相手がいる……。そう思っていたはずなのに、シイナ君もセナ君も強すぎた》

 

 幼馴染の誼……というべきなのか、それにしてもあの冷血にさえ感じるセナがそこまでするのは些か意外ではあった。しかし、転入してきたこの学園でさえ、問題を解決するに至らなかったようだ。

 

 《唯一、アールシュ君に可能性があったんだけどね。技量を測ろうとしたセナ君とバトルをして勝ったみたいなんだけど、その後、【気に入らない】の一点張りでバトルを受け付けなくなってね。それ以来、二人を中心にした生徒会の発足以降は互いの立場もあって相互不可侵になってるんだけど……結局、それ以外に誰も勝てなくて……その結果が、今の“強さは正義”をモットーにした生徒会の成立というわけ》

 

 確かにアールシュと初めて出会った時も自身のガンプラと戦わせるに値しないと言っていたのは覚えている。

 生徒会長にも匹敵するとまでいわれるアールシュはセナを破ったとまでいうのであれば、それは寧ろセナにとっても僥倖なのだろうが、肝心の彼はバトルをするつもりはないという。

 結局、ユイやリョウコを含めた当時の生徒会は打ち倒され、現生徒会が発足し、弱肉強食の世紀末のような学園となって、今に至るわけだ。

 

「……しかしまあ、妙に詳しいよね。耳年増的な?」

 《年増……っ!?》

 

 大方のことは知ることは出来たが、RECOCOの持つ情報はガンブレ学園の生徒達について詳しいものばかりだ。

 何気なく話されるが、それは自分が知らない情報もあるため、ユイ達の誘いを蹴って、こちらを優先したわけだが、ユウキの境遇など、そこまで詳しいと気になってしまう。……最も、RECOCOは画面の先でなにやらショックを受けていたが。

 

 《え、えっと……それは、友達が多くて、みんなから情報を集めてるおかげ、かな?》

「そんな……っ……遂に存在しない友達まで見えるように……っ! そこまで追い詰められてたなんて……っ!」

 《……!? ひどい! アラタ君、言って良いことと悪いことがあるよ!》

「俺だけは……っ! 俺だけは友達だからぁっ!」

 《やーめーてーよー!》

 

 途端に焦って、誤魔化そうとするのだが、彼女は友達が少ないと以前、自分で言っていたはずだ。

 そのことにアラタは悲しそうに顔を抑えて嘆くと、RECOCOは抗議しようとするが、彼の涙交じりの訴えに画面越しに両手をブンブンと振るう。

 

 《……まあ、それはさておき。私ももっと君を手伝えると良いんだけど、ちょっと難しい立場なんだよねー。とりあえず、応援だけはできるから、全力で応援しちゃうよ! 頑張ってね、あとちょっとだよ!》

 

 とはいえ、RECOCOもアラタというキャラは散々、振り回されて理解しているのだろう。

 素早く切り替えると、下校時間も迫っているということもあり、今日はここまでと激励の言葉を送りながら、チャットを終えるのであった。

 

 ・・・

 

(……あとちょっと、か)

 

 人気のない学園の廊下を一人、歩きながらアラタは物思いに耽る。

 転入してから短い期間ではあったが、まさに激動であったことは違いない。

 

 その間にも色々と思うことはあった。

 しかし、後少しでその肩の荷も下りると思えば、少しは楽になるのかもしれない。

 

「──おや」

 

 そんなことを考えながら、階段を降りようとした時であった。

 コツコツ、と人気のない階段の踊り場に足音が響き渡る。丁度、上階から降りてくる者達がいたのだ。

 

「……っ」

 

 顔をあげて誰なのか、その瞳に捉えた瞬間、アラタは目に見えて、動揺にも似た驚きに支配されていた。

 

「まさかこんなところで出会うなんてね」

 

 そこにいたのは現生徒会長であるシイナ・ユウキその人だったのだ。

 階段の踊り場の窓から差し込む茜色の光によって影を覆うその姿は何ともいえない不気味さを感じる。

 

「……ユウキ、さっさと行こう。奴と話す必要など……」

 

 そんなユウキの傍らにいたセナはアラタを忌々しそうに一瞥すると、一分一秒たりとも同じ空間にいたくはないとばかりにユウキを促そうとするのだが……。

 

「そうだね。ダイスケ、君は早く行ってくれ」

「なっ……!? どういうつもりだ、ユウキ!?」

 

 しかしユウキはそれを一蹴したのだ。

 その瞳はアラタを離すことなく見つめ、漸く出会えたとばかりにその口元に恍惚にも似た笑みを浮かべるなか、なにをいってるんだとばかりにセナは食って掛かるのだが……。

 

「……うるさいなぁ。アラタ君との時間を邪魔する気かい?」

 

 その言葉とともに向けられた瞳に固まってしまう。

 刃のようなその言葉はあまりにも冷たく、その瞳はまるで大蛇の怒りに触れたかのような恐ろしさがあったからだ。

 普段は何事にも無関心で、気怠げな彼がここまで感情を露にすることなど滅多になかった。

 

 ユウキにとって、アラタはそれだけの存在なのだろう。

 幼馴染みである自分でさえ、ここまで感情を露わにしないというのに……。

 

 そのことに思うところはあるが、これ以上、ユウキを刺激するのはまずいと、それだけの固執をされるアラタへの悔しさと苛立ちに歯を食い縛りながら、八つ当たりのように彼を睨みつけると、足早にこの場を立ち去っていく。

 

「再会はもっと劇的なものが良かったんだけどね」

 

 セナもいなくなり、アラタとユウキの二人きりとなったこの場で、ユウキはゆっくりと階段を降りると、無邪気な子供のように話しかけながら、「だけど……」とアラタの目の前に立つ。

 

「ずっと会いたかったよ、アラタ君」

 

 再会を喜ぶには、あまりにも不気味で、異様で……自分が知るシイナ・ユウキとはあまりにかけ離れている。

 ただ確かに感じるのは、今、こうしてユウキを目の前にしているだけで自分の身体は得体の知れないなにかに絡みつかれて離して貰えないかのようなねっとりとした気味の悪さだった……。

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