ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
──僕は昔から、人とはどこか“ズレ”を感じていた。
この僕……シイナ・ユウキのこの十数年の年月は、あまりに空虚なものであった。
感覚的なものというべきなのか、家族を含めて、誰一人として僕を理解できるものなんていやしない。
お陰さまで僕には、友達なんて呼べる人間はいない。
人付き合いなんて苦手だし、別に必要ともしない。精々、幼い頃の知り合いはダイスケくらいなものだ。熱中していたプラモデルだって一人で作ることが多かったし、バトルだって顔も知らない相手とネットワーク対戦をするのが殆どだ。
小学生の頃の僕はまさに負け知らずだった。
いかなるバトルでも敗北をしたことがない。
常勝無敗といえば、聞こえはいいのかも知れない。
だが、勝利を手にする度に、僕は熱を失っていった。
なにをしようと、いかなるハンデを負おうと勝ってしまう。
勝てば勝つほど、僕は言い知れぬ虚無感に襲われていたんだ。
それもそうだろう?
一々、一匹の蟻を相手に踏み潰したところでなにか高揚感が得られるのか?
羽虫も気まぐれで羽を毟ったところで最後は潰すだけ……。
あまりに満たされない。
あまりにも渇いてしまう。
僕は求めると同時に諦めていたのかもしれない。
僕を満たしてくれる人間なんていやしないと、僕を肩を並べられる人間なんている筈がないと。
なぜなら、僕にとって他人なんて振り返るだけの存在なんだ。
僕の前には光はない。
僕の隣に温もりはない。
そんな生まれてきた意味さえ分からなくなってしまう日々の中で僕は出会ったんだ。
──ソウマ・アラタ
当時、行われたガンプラバトル大会……。
ガンプラバトルへの情熱を失いかけ、これが最後と思って臨んだ僕はその決勝戦で出会ったアラタ君に僕は負けた。負け知らずだったから余計に忘れようがないくらい覚えているよ。
僕らのバトルの実力はほぼ同じだった。
バトルをしてすぐに分かったよ。
彼は強い、ってね。
彼のガンプラは温かかくて、何より眩しかった。
ぶつかり合うたびに愛と形容されるであろう想いを感じて、暗がりにいた僕を照らしてくれるかのようだった。
それは僕を刺激して、夢中にさせて、お互いを高めあうような……。あの時、僕は間違いなく人生最高のガンプラバトルをしていたんだ。
『このガンプラは元のキットだと、バランスが悪く感じたからプロポーション改修してみたんだ』
『確かにバランスは良い気がする。因みにアラタ君はどんな塗り方をしたの?』
『えっとね、ライフルのエッジ近くをメタリックグレイでドライブラシしてね……』
結果的に僕は負けてしまったが、悔いなどなかった。
こんな温かさに満たされて負けるのならばそれも良いだろうって。
年も近かったこともあって、バトル終了後もすぐに意気投合して写真まで撮ったのを覚えている。
『アラタ君なら僕のガンプラをどう改修する?』
『僕だったらもう少しビームの出力を上げたいな。こういう方法があるんだけど──』
アラタ君と話していると、他人との間に感じていた”ズレ”は一切、感じなかった。
それどころか、ピッタリと合致しているかのような彼の全てが僕の全てを満たしていたんだ。
……けれど、後からダイスケに聞かされたんだ。
アラタ君のガンプラは周りの大人達の力を借りて作られたものだと。
でも、僕が別にそれがどうとかは思っていなかった。
確かにアラタ君は大人達の力を借りたのかもしれない。
けどその大人が作ったのではなく、材料や工具を借りたりして作ったんだろう。なら、それは彼のガンプラだ。
組み立てたのは、形にしたのは、アラタ君自身であり、金に物を言わせて、他人に作らせたガンプラを使っていたサカキ・シモンとは違う。
だって決勝のあの場でアラタ君はガンプラに振り回されることはなかった。
そのガンプラの全てを把握して、どう動かせば良いのかを熟知していた。そんなことは自分がクセや好みを把握していなければ出来ないことだ。それは何よりバトルをしていた僕には良く分かったよ。あのバトルに嘘や偽りはない
それから中学生になり日に日に他人とのズレが大きくなっていくなかで僕はいつしかアラタ君の影を追っていた。
ガンプラを作っても、彼ならどんな風に仕上げたのだろうか、どんなバトルをしたのだろうかと無意識に考えてしまうような日々を送っていた。
そして高校生になった時、決定的な出来事が起きた。
今まで他人との間に感じていた“ズレ”が表面化したんだ。
それはまさに“革新”といっていいのかも知れない。
それ以降、僕のガンプラバトルはバトルなんて言葉すら不釣合いな一方的なものとなってしまった。それは寧ろ、かつての虚しさの比でない空虚な感情が僕を襲った。
なにをしても心が動かない。
勝てば勝つほど、僕の心がバラバラになって凍てついていくかのようであった。
僕はもうその時点で自分の人生に意味がないものだと思って、塞ぎこんでいた。
そんな時だ。
ダイスケがガンブレ学園への転入を勧めたのは。
ガンブレ学園といえば、世界でも有数のバトルに特化した学園。
それならば少しでも僕の心に火がつくのかもしれない。
そう思って、僕はダイスケと共にガンブレ学園に転入したんだ。
そこからはあっという間の出来事だったよ。
プロの大会でも活躍できるだけの実力があるという旧生徒会に勝利して新生徒会設立までは。
……でもね、そこから今の今まで僕はやはり満たされなかったんだ。
ダイスケを主導にガンブレ学園は実力主義の世界へと変化していった。
彼は満たされない僕に強いビルダーを宛がう為だけに、そんなことをしたんだ。
……結局、ダイスケも僕のことを理解しちゃいない。
ただ強いだけじゃダメなんだ。
そんな相手はいくらでも倒してきた。
じゃあ、僕はなにを求めている?
……いや、分かっている。
どんなバトルの最中だって、アラタ君のことが頭から離れなかった。
アラタ君なら……アラタ君だったら……そんな考えが頭から離れないほど、彼との出会いは僕の心に深く刻み込まれていた。ダイスケよりも、アラタ君が傍にいて欲しいと思ってしまうほどにね。
彼のガンプラは温かかくて眩しかった。
僕の知らなかった温もりを教えてくれた。
他人との間に感じていた”ズレ”を彼とは感じなかったんだ。
もう一度……もう一度、アラタ君に会いたい……。
『さあ、勝利を組み立てようか』
その望みは叶ったんだ。
アラタ君がこの学園に転入したことを知った時、僕はどれだけの衝撃が襲ってきたことだろうか。
稲妻に打たれたかのような衝撃は今でも忘れない。
全身が打ち震えて、興奮は最高潮にまで達していた。
今すぐに脳で、目で、手で、全てで彼を感じたかった。
だが、流石はアラタ君というべきか、彼はサイド0なる学園改革派チームを立ち上げた。
これは面白いことになった。
今すぐにでも彼とバトルをするのも良いが、どうせなら最高の舞台を整えるべきだろう。
またあの時の決勝のように彼の全てを僕に向けて欲しい。
その温もりの全てで僕を満たして欲しい。
きっとこの生徒会長というこの立場にいれば、彼は僕のところに来てくれる。
それも更に強くなった状態で。
果実は熟して、もう食べ頃になったはずだ。
甘美な果実に群がろうとする浅ましい虫どもに我慢する必要もない。
アラタ君、僕は君だけがいれば良い。
きっと君だったら僕の全てを満たしてくれるから。
だからもう一度、君の温もりでこの空虚な心を満たしてくれ。
……なのに
ねえ、アラタ君
なんでだろうね
君を目の前にしているというのに
君から感じていた輝きに陰りが見えるよ