ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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ビルダーの決断

 ──いつか、こんな日は必ず訪れると思っていた。

 

 お互いに考えていることは同じだろう。

 アラタとユウキ、本来であれば相容れぬ立場にあるであろう二人だが、殊更、ユウキに関しては、敵意の類は一切、感じず、どちらかと言えば、こうして直に目の前にするアラタに高揚感を隠しきれていないように見える。

 

「立ち話もなんだ。付いて来てくれ」

 

 言いたいことはいくらでもあった筈なのに、いざ対面してみると、なにから話せば良いのか分からなくなる。

 するとユウキは突然、アラタの腕を取ると、そのまま来た道を引き返したのだ。

 驚くのも束の間、生徒会室前のホールにまで到着すると、生徒会役員だけが持つカードキーを使用して、その奥の生徒会室にまで案内される。

 

 ・・・

 

 生徒会室に初めて足を踏み入れたアラタは顔を顰める。

 子供が散らかすだけ散らかしたかのように、至るところにガンプラやそのパーツが散らばったこの部屋はお世辞にも綺麗とはいえず、それが何よりガンプラを扱うガンブレ学園生徒会室のものであるとは到底、思えなかった。

 

「最後に会ったのは……小学生の時だったね」

 

 室内に気を取られていたら、いつの間に生徒会会長のデスクに腰掛けていたユウキが姿勢を崩しながら声をかけてくる。彼の中でアラタとの時間は鮮明にその記憶に刻まれているのだろう。

 

 彼が取り出したのはボロボロに擦り切れた一枚の写真だった。

 そこに写っているのは、幼き日のユウキとアラタ。

 そう、今、ユウキが口にしている小学生時代に撮影されたものだ。

 

「……何でこんな学園にしたんだ?」

「……僕はきっかけだ。後は副会長が主導になって、こうなったに過ぎない」

 

 写真の内容はアラタが立つ場所からでも見えたのだろう。

 懐かしそうに微笑むユウキの姿に複雑そうな面持ちでこの“力こそ全て”と弱肉強食の世界となった今の学園のあり様について問いかけると、彼は一瞬、不満そうに眉を寄せ、首を横に振るとアラタの眼前に立つ。

 

「折角、会えたんだ。そんなつまらない話をしないで、僕だけを見てくれ」

 

 ズイッと鼻頭が触れるかどうかまでの距離まで詰め寄られる。

 それはまさに自分だけを見ろと、他に目移りなんてするなとばかりに。

 

 徐にユウキの手が頬に触れられ、ピクリと震えてしまう。

 彼の手はひんやりと冷たく、すぐにでも払いのけたくなるほどだ。

 

 しかし、そうは出来なかった。

 彼の瞳はあまりに哀しげだったからだ。

 哀しくて寂しくて切なくて、だからこそ縋りつくかのように。

 

「僕だけを見ればアラタ君も辛いことなんてない。重荷なんて背負う必要もないんだ」

 

 その瞳に半ば吸い込まれるかのように見つめていたアラタだが、その言葉を耳にして我に返ったかのように目を見開くと、半ば衝動的に頬に添えられたユウキの手を振り払って突き放す。

 

「重荷……だって……っ!?」

「君も分かっているだろう。サイド0のことだ。君は学園改革派チームのリーダーという立場にいるからこそ、重圧と重荷を感じている。君は本来、その立場にいなくて良い存在なんだ。ただ拒むことなく受け入れて……そうやって背負い続けた結果、本当の自分さえ晒け出せなくなっているんじゃないのかい?」

 

 戯言を言うなとばかりにユウキを鋭く睨みつけるが、当のユウキは対して気にした様子もなく、真正面から淡々と指摘する。

 

「そうでなければ、かつての君に感じていた輝きに何故、陰りが見えるのか説明がつかない」

「輝き……?」

「そうだ、僕達がぶつかり合ったあの決勝戦。君のガンプラが温もりに満ち溢れて輝いていた。それは何よりそれを操る君が楽しんでいたから、君自身が輝いていたからだ。でも今の君にあの頃のような輝きが見られない」

 

 スッとまるで全てを見透かすかのように細められた目にアラタはたじろいでしまう。

 輝きといわれても、当時の自分はまさに無我夢中に目の前の出来事にぶつかっていたに過ぎない。

 しかしだ、その輝きに陰りが見えると指摘されたところで目の前の生徒会長の座に君臨するユウキが言えたことではないはずだ。

 

「例えそうだとしても、それはこの学園が、生徒会が発端だろうッ!」

「そうだね」

 

 仮に自分が重荷を背負って、それがかつての輝きに陰りを齎したとすれば、それは息苦しい学園にした生徒会のせいだろう。声を張り上げるアラタだが、対してユウキはその言葉をまっすぐ受け止め、コクリと頷く。

 

「だからこそ責任をもってサイド0を叩き潰そう。僕がアラタ君をサイド0という呪縛から解放してあげるよ」

 

 サイド0という存在がアラタの害となっている。

 アラタがもう生徒会に手が届く存在になっているのであれば、これ以上、のさばらせておく理由などない。

 

「近いうちに正式にサイド0とのバトルに応じるように伝えておくよ。安心してくれ。サイド0亡き後は生徒会の権限でも使って、アラタ君は僕の近い立場にいられるよう働きかけるよ。そうすればかつてのように──」

 

 ユウキにとってサイド0は障害ですらないのだろう。

 既にサイド0を打ち破った後の話を綽々と話している。

 しかしそれが最後まで続くことはなく、詰め寄ったアラタに胸倉を掴まれる。

 

「……安心なんて出来ないね。俺を縛ろうとするものがあるのなら、かつての俺を求めようとするお前だ。お前に屈した時点でソレは何よりも俺とはいえない」

 

 その声に怒気を含ませながら、アラタは鋭い眼光を突きつける。

 所詮、ユウキは彼にとって都合の良いソウマ・アラタを求めているに過ぎないと思ったからだ。

 自分は誰かの玩具なんかじゃない、自分が自分であるために何よりも目の前の男には負けてはいけないと思ったからだ。

 

「それで良い。もうすぐ一つの終わりを迎える。その最果てに見える真実を見に行こうじゃないか」

 

 だが、寧ろユウキはアラタから真っ直ぐ向けられる怒りに心地良さそうに薄ら笑いを浮かべていた。

 どんな形であれ、この瞬間、アラタが自分だけを見ているのだ。彼にとってそれが望ましいことなのだから。

 

 これ以上、話すことなどない。

 アラタは突き放すようにユウキから手を離すと、生徒会室から出て行く。

 彼等が再び相対するのは、きっと全ての決着をつける時なのだということは何よりアラタとユウキが確信していた。

 

 そして遂に学園も三連休を迎えようとしていた。

 それぞれが思い思いに行動を起こそうとしていた。

 例えば……。

 

 ・・・

 

「悪ぃな。付き合ってもらっちって」

 

 三連休前日の夜、リュウマの私室は珍しく賑っていた。

 それは彼だけがいるのではないからだ。

 

「土下座までされた時はビックリしたけど、塗装を教えて欲しいって言うならお安い御用だよ」

 

 視線の先には近くに腰掛けているシロイの姿が。

 リュウマは今、ガンプラを作製している最中。より完成度を高める為に群を抜いた塗装技術を持つシロイに掛け合っていたのだろう。

 

「私も及ばずながら手を貸そう。あれから私も多くを学んだからね」

「勘違いすんじゃねえぞ! 俺特製ガンプラを試す相手を探してただけだかんな!」

 

 他にもサカキやショウゴの姿もあるではないか。

 彼等もまたこの三連休をリュウマに手を貸そうとしてくれているのだ。

 

 そう、リュウマは新しいガンプラにこの三連休を費やすのだ。

 アラタ達は田舎に帰ると誘いも受けたのだが、それを蹴ってまで全てを作製途中のこのガンプラに注ぎたかったのだ。それは何よりガンプラだけではなく、己自身も磨く為に。

 

「──おう、夜食できたぞー」

 

 更にはマスミや三馬鹿の姿まで現れたではないか。

 リュウマの家のキッチンを借りて、彼のファームで採れた新鮮野菜で作られたポトフが入った鍋をテーブルに置くと、全員に振舞う。

 

「なんで、アンタまでいんだよ」

「お前みたいなのは放っておくと、我武者羅に突っ走ったままだからな。ちゃんとした大人がついてなきゃダメだろ」

 

 いつの間に大所帯となったこの部屋でポトフを人数分、取り分けているマスミに声をかければ、リュウマの分のポトフを手渡しながら、彼がどのようなタイプか、口にしてその額に痛烈なデコピンを浴びせる。

 

「良いか、お前の心の火……。その心火(しんか)を俺がもっと燃え上がらせてやる」

 

 額を抑えて文句を言おうとするが、その前にマスミはリュウマの心臓に位置する場所に己の拳を突き出しながら、ニヤリと口角を吊り上げ、好戦的な笑みを見せる。間近に訪れるであろう彼とのバトルを感じながら、リュウマはゴクリと息を呑むのであった。

 

 ・・・

 

(アラタ達はもう出発したのかしら)

 

 一方、アラタ達と同行しなかった人物はもう一人、存在した。

 

 イオリだ。

 日付が変わった今、居を置いている場所から遠く離れたとある町に訪れていた。

 彼女もまたアラタやチナツから誘いを受けたのだが、それを断って、この町にいる。

 

 かつては寂れていたという話だが、今ではそれが信じられないほど人で賑っている。

 慣れない町の中、噂で聞いた場所に向かえば、そこは一件のゲームセンターだった。

 店内に踏み入れると、そのままガンプラバトルシミュレーターが設置されている場所へ向かう。

 

 そこには多くの人だかりが出来ていた。

 全員がバトルの様子が映し出されたモニターにに釘付けになるなか、程なくしてバトルが終わり、シミュレーターの扉が開くと、歓声が沸き上がる。

 

「あ、あのっ!」

 

 出てきたのは一人の少女であった。

 少女を見るやいなや、「可愛い!」「綺麗!」「ボッチ!」などと口々に聞こえてくるなか、人混みを掻き分けて、イオリはその少女に声をかけると、その特徴的な真紅の瞳と目があった。

 

 ──アマミヤ・イチカ

 

 そこにいたのは、かつての自分を変える切欠を与えてくれた人物だったのだ。

 

「アナタに……会いに来ました」

 

 イオリがアラタ達の誘いを断って、この場に訪れたのはイチカが目的だったのだ。

 こうして三連休は波乱を予感させながら、その日を迎えようとしていた。




第三章はこれにて終了です。

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