ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
どこまでも続くような透き通った青空が広がる荒野地帯のバトルフィールドにサファイアは降り立つ。
フィールドの特性上、身を隠せるような障害物は切り立った岩壁ぐらいなもので、すぐさま岩陰に身を潜める。
言い知れぬ緊張感で息が詰まりそうだ。
少しでも緊張を解そうと深呼吸をしながら、僅かに汗ばんだ手でジョイスティックを握りなおす。
相手はアマミヤ・イチカ。
ガンプラビルダーとして名を馳せるだけではなく、かつて自分に強さとはなにかを教えてくれた人物だ。
再会することが出来ただけで喜ばしいというのに、その上、バトルまで出来るのであれば、これ以上の感動はないだろう、必然的に鼓動は高鳴り、緊張もしてしまう。
(ゲネシスガンダムアンリミデッド……。フリーダムガンダムの特性を持つ高機動接近型の機体……。まず接近戦じゃ私に分はない。なら一定の距離を保って──)
イチカを相手にどう立ち回るかを考えている時、不意にモニターに影が差した。
見上げるようにモニターを見てみれば、そこには既にゲネシスアンリミデッドの姿があったのだ。
「──ッ!」
驚きのあまり息を呑みながら、何とか逃れようと機体を動かせば、先程までサファイアがいた地点にバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲が火を吹き、焦土と化す。
先程まで周囲に反応はなかったはずだ。しかし一瞬の思考の間に間近に姿を現したのだ。
近接戦はさせまいとゲネシスアンリミデッドとの距離を離そうとしながら、ビームライフルの銃口を向けるのだが……。
「はやっ──!?」
何と銃口を向けた瞬間、ゲネシスアンリミデッドは蒼い残像を残して、瞬きをする間もなく回り込んだのだ。
驚くのも束の間、後頭部を掴まれたサファイアは地面に叩きつけられる。
「っ……。距離を……っ!」
激しくモニターが揺れるなか、サファイアを起こそうとする。
このままでは危険だ。なにせこの距離はイチカが最も得意とするのだから。
早く……早く逃げなくては。その一心で機体を動かそうとする。
──だがそれで良いのだろうか。
不意にイオリの脳裏にそんな言葉が過ぎった。
確かにイチカが得意とする距離から逃れようとするのは間違いではない、寧ろ正しいといえるだろう。
しかしだ、本当にそれで良いのだろうか?
慎重な道を模索して、自分はこのバトルになにを求めて、なにを得ようとしているのだろうか。
──彼ならどうするだろうか
頭の中にあの自称天才の姿が浮かんだ。
ここ最近では意識しなくても、頭の中に自然と彼の姿が過ぎってしまう。
もしもあの自称天才ならば、自分よりも格上の相手に対して、どうしただろう?
『勝利へのパーツが全く揃わない……ッ! けど……』
きっと彼なら……。
『最っっ高だァッ!』
そこまで思い出して、クスリと微笑んだ。
きっと彼ならば、慎重な道を選ぶよりも積極的に挑んでいこうとするだろう。
なぜなら、彼は常に前へ進み続けるから。
例えどれだけの強敵だろうが、いや、強敵だからこそ挑戦せずにいられない。
どこまでいってもガンプラとバトルが大好きな自意識過剰のガンプラビルダー。
それこそソウマ・アラタなのだから!
「……ほぅ」
ゲネシスアンリミデッドとの間に一閃。
その寸前に展開したGNソードの刃を見つめながら、イチカは感心したように声を漏らす。
そこには振り向きざまにビームサーベルを振り下ろして、鍔迫り合いとなったサファイアの姿が。
「──ゴチャゴチャ考えるのは、もうお終いよォッ!」
微笑みを浮かべていたイオリの口角は獰猛な獣のように釣りあがる。
たちまち激情を表すかのように叫ぶかのような声を張り上げたサファイアはそのまま近接戦を繰り広げた。
「私は私らしく、駆け抜けるわッ!」
イチカという強敵を意識するあまり、無意識に慎重な戦法を選んでしまったようだ。
勝ち負けじゃない、バトルの前に話した通り、ただありのままの自分で全力でぶつかるかるのだ。
きっとそれこそが己の想いをストレートに伝えられると思うから。
「まったく、忙しい奴だな」
今のイオリを表すかのような激しい剣捌きの一太刀一太刀を受け止めながら、イチカは軽口を叩くが、その口元には笑みが零れていた。
しかし、ただ受け止めるだけでは終わらない。
その一つ一つに生まれた隙にカウンターのように反撃の一打を放ち、仰け反ったところにレールガンを叩き込む。
「これが私よッ!」
サファイアのシミュレーターに危険を知らせるアラートがけたましく鳴り響くなか、確かに地に足を踏みしめたサファイアはそのまま踏ん張ってビームサーベルを振るおうとするも、GNソードのガード部分でマニピュレーターを殴られてサーベルを落としてしまう。
もう一本のビームサーベルを抜くべきか、一瞬の思考の末、サファイアは何とゲネシスアンリミデッドに殴りかかったのだ。それはビームサーベルを抜こうとするその僅かな時間すら惜しいとばかりに、荒々しく腕を振りかぶる。
しかし、そんな行動でゲネシスアンリミデッドを傷つけることは叶わず、僅かな動きで避けられると同時に足を引っ掛けられて、豪快に転倒してしまう。
「一方的に蹂躙することを楽しいと思ってた! 負けた相手の悔しそうな顔を見て、悦に入ってた!」
だが、それでもサファイアはすぐに立ち上がったのだ。
倒れ伏す時間も惜しい、ただただぶつかっていくんだとばかりに。
「でもそれは、今、この瞬間の楽しさに比べたら惨めなものだった!」
ただただその場の自分の力を過信し、他者を見下して満足していた。
今にして思えば、なんて愚かしいのだろうか。
ガンプラバトルの本当の楽しさを忘れてしまっていただけなのだから。
「もっと高く! 立ち止まってられない! 挑戦する楽しさを思い出したからッ!!」
一つの技術を覚えて、磨き上げ、成長して得たものが手がけたガンプラに現れる。
ガンプラとは挑戦し続ける飽くなき楽しさがあるのだ。
現状に満足すれば、進歩はない。
あの時の自分はソロモンの魔女と驕り高ぶるあまり、挑戦することを忘れてしまったのだ。
だけど今は挑戦しようと、イチカに届かせようとすることにこれ以上にない喜びを見出している自分がいる。なぜなら、今この瞬間、自分が最も充実していることが分かるから。
「……もっと高く、か」
そんな無我夢中に叫ぶイオリの言葉にイチカは反応した。
『ただ前に進むんじゃない……。もっと高く……。あの笑顔と一緒に……』
脳裏を過ぎるかつて激闘の日々の中で芽生えた想い。
今まさにその日々が鮮明に蘇っているのだ。
そして何より、この大切な想いを抱かせてくれたのは……。
『行こう!』
「ッ!」
サファイアが振るったマニピュレーターは真正面から受け止められた。
イオリが目を見開いて目の前を見れば、そこには微動だにしないゲネシスアンリミデッドの姿が。
「……ああ、そうだな。きっと辿りつけるさ」
ゲネシスアンリミデッドのツインアイが強い輝きを放つ。
すると呼応するようにゲネシスアンリミデッドの全身は紅い閃光に包まれたのだ。
イオリは知っている。
それはアールシュが纏った輝きと同じであり、何よりかつて暗い闇の中にいた自分に決別する切欠を与えてくれた光なのだから。
「君にしか抱けない
気付けば、サファイアの機体は宙に投げられていた。
態勢を立て直そうとした瞬間、穏やかな声と共に振り下ろされた巨大な光の刃によってバトルの幕は閉じるのであった。
・・・
「……三日間だったか。まあ、バトルをしたいなら、相手をしてやる」
バトルを終えて顔を合わせれば、イチカからぶっきらぼうな言葉が投げかけられる。
とはいえ、その声色は柔らかなもので、口では素直には言わないものの、イオリの特訓に付き合ってくれるのだろう。
「……なんだったら、ウチに泊り込みでも良いぞ」
「い、良いんですか?」
「……妹がいるんだが、イギリスに留学しててな。両親と私だけで部屋が余りまくってるんだ。まあ、君次第だが……」
しかも、イオリのことが気に入ったのか、家に招待までしようというのだ。
光栄ではあるが、そこまでしてもらって良いのかと遠慮がちに尋ねれば、イチカは照れ臭そうにそっぽを向きながら話す。
「よろしくお願いしますっ!」
折角のイチカの間近にいる機会ということもあり、その好意に甘えることにしようとイオリは頷くと、頭を下げる。こうして短い間ではあるが、イチカとの特訓の日々が始まったのだ。
・・・
その数時間後、イチカは一人、とある模型店の作業ブースにいた。
イオリは生活用品を取りに行くため、一度帰宅しており、時間を潰すためにこの場に訪れたのだ。
「──それで師匠役を買って出たんだ」
そんなイチカに店番をしていた少女はこれまでの話を聞いて、笑みを見せる。
ツインテールに纏めた髪を揺らし、くりくりっとした瞳が活発な印象を与えるような人物だ。
「……別にそんなもんになったつもりはない」
「またまたー。でも、嬉しいなぁ。イチカもそれだけの社交性を持てるようになったんだねぇ」
茶化されてるとでも思ったのか、拗ねたように話すイチカだが、寧ろ少女は追い打ちをかけるようにニヤニヤと笑みを浮かべながら、からかう。
「でも、本当に驚いたよ。イチカって家族以外じゃ、私達チームの人間くらいしかまともに話さないくらいなのに」
とはいえ、少女からしてみれば、イチカがそのような行動を取ったのは本当に意外だったようだ。
そもそも少女とイチカは同じチームのようだが、イオリに関してはイチカがシングル部門での大会で出会ったため、どんな人物だったのか知る由もない。
すると、今まで拗ねたように頬杖をついていたイチカは不思議そうに小首を傾げる少女の顔をジッと見つめる。
「……思い出しちゃったんだよ。お前の手をずっと掴めるように、もっと高く飛びたいって思った時を」
どうしたのか、と見つめ返すとおもむろに顔を逸らして、ボソッと話される。
最もイチカはお世辞にも素直な人間とは言い辛い。そんな彼女が素直に心の内を話したということもあってか、顔は逸らしているものの、耳まで真っ赤にしていた。
「だったら、これからも一緒に行こうね、イチカ!」
そんなイチカにクスリと笑うと、まっすぐ手を差し伸べる。
イチカもその手に気付くと、微笑みを浮かべながら、「ああ」としっかりとその手を取るのであった。
これでイオリ編は終了です。
実際のところ、イオリ編はこれくらいなもんで本番はこの後のリュウマ編とアラタ編になりますね。