ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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傷跡

 

 心地の良い朝風が頬を撫でる晴天の空は見上げるだけで大抵のことはどうでも良くなるのではないかというほど気持ちが良い。

 

「……」

 

 だが一人、こんな素晴らしい空の下で眉を顰めている男がいた。

 

 彼の名はトモン・リュウマ。

 ガンブレ学園に在籍し、学園の改革を訴えるチーム・サイド0に所属する青年だ。

 普段は直情型の粗暴な性格でこそあるが思いやりのある情に脆い人物なのだが、なにがあったのか、今朝に限ってはオーバーオールに麦わら帽子という何ともいえない出で立ちだ。

 

「なんでだあああぁぁぁぁぁぁーーーーっっっっ!!?」

 

 そんな彼だが、やがて我慢できなくなったかのようにフルフルと震え始めると、空を仰いでこの状況に叫ぶ。すると近くにいた同じような格好のマスミが煩そうに見やる。

 

「うるせえぞ、リュウマ」

「そりゃ悪かった! けどなぁ、この状況はなんだってんだよォッ!!」

 

 実は今、彼等がいるのは【俺達のアマタファーム】という看板が飾られた農場であった。

 ここはマスミが所有する農場であり、只今、秋ジャガイモの収穫の日を迎えていた。

 

「他はいくら採ってもいいんだろ?」

「ですね」

「うっせーよ、お前ら!」

 

 そして近くには同じくオーバーオールスタイルの三馬鹿の姿もあった。

 マスミに対して口では好き勝手言っているものの、リュウマとは違い、特に文句も言わないで収穫をしているところからして内心では彼に懐き、慕っているのがよく分かる。

 

「なんで俺までジャガイモの収穫を手伝わなきゃいけねーんだよ!」

「良いじゃねえか。俺のポトフを美味しくいただいてたのは誰だよ」

「ええ、お腹一杯頂きましたがッ!」

 

 いまだに不満を露にするリュウマ。実は目覚めた時にはマスミと三馬鹿によってこの場所に連れられていた。

 そんなリュウマだが、口よりも手を動かせといわんばかりのマスミに昨晩のポトフの味を思い出しながらも、それとこれとは話が別だとばかりに吠える。とはいうものの、いつまでもこうしていては仕方ないと思ったのか、仕方なしに収穫を手伝い始める。

 

 とはいえ、口ではぶうぶう文句を口にしていたリュウマだが、こういった作業は嫌いではないのか、時間が進むにつれて土の中からゴロゴロと顔を見せるジャガイモに笑みを見せる。

 

「なにか専念すんのも良いけど、息抜きも必要だろ」

 

 それから暫らくして収穫も終え、風に当てて乾燥させるために並べたジャガイモを見下ろしながら、汗を拭うようにとタオルを手渡してきたマスミに話しかけられた。

 

「今の生徒会ってのは余裕そうで実はそうじゃねえように感じんだよ。頂点にこそいるが常になにかに囚われてる……。そんな気がしてな」

 

 生徒達とは違う立場にいることで俯瞰して見ることが出来るのか、今までガンブレ学園に身を置いて、生徒会に感じていたことを口にする。

 

「まっ、余裕ってのは意外に持つのが難しいもんだ。特になにかに意識を集中させてる時とかな。だから少しでも息抜きさせようと思ったんだよ」

「……っんだよ、そういうことなら最初からそう言えっての「ついでにクソ生意気なその口も修正してやろうと思ってなぁっ!」──いっでぇえっ!!?」

 

 ジャガイモを一つ手にとって、微笑を見せるマスミに彼なりの気遣いを感じて照れ臭そうに頭をかいていると、途端に先程の穏やかな笑みが嘘の様に頭を脇に抱えて締め上げられ、たちまち悲鳴をあげる。

 

(……余裕、か)

 

 暫らくして解放されると、マスミは満足そうにリュウマから離れて、三馬鹿の元へ向かっていく。

 そんなマスミの後姿を恨めしく見つめながらも、先程のマスミの言葉を思い出す。

 

(……アイツに、それはあんのかな)

 

 そして脳裏に過ぎったのはアラタだった。

 今でも彼の空虚な笑顔がこびりつくように脳裏に焼きついているのだ。

 

 ・・・

 

 それから数時間後、ここはとある一軒家の一室。

 室内には部屋の主の趣味なのか、精巧に作製されたガンプラの他に中々、可愛らしい小物がちらほら見受けられる。

 

「呼び立ててしまって、すまんな」

 

 そんな部屋の主であるリョウコは部屋の雰囲気に似合わず、厳かに口を開く。

 

「いえ、お気になさらず」

 

 リョウコの視線の先にいるのは、同じく生徒会に所属しているアカリであった。

 姿勢を崩さず、背を伸ばした正座のまま柔和に微笑む。

 

「実は一人、気になる生徒がいる」

「ソウマ・アラタさんでしょうか」

「違わないが違う!」

 

 神妙に切り出したリョウコだが、アカリのたった一言でその牙城が崩れる。

 天然が入っているのか、邪気もなく思い当たるまま無垢に名前を挙げた彼女に何で即答でアラタなんだとばかりにツッコミを入れる。

 

「しかし何度かバトルルームなどで逢瀬を重ねていたと聞きます。本来ならば相容れぬ敵同士……。それはそれとしてこの禁断の恋にときめく胸のうちを抑え切れません」

「アカリ、私は時に苛烈でありながらたおやかさを持つお前を高く評価している。本来ならば今の生徒会にいるような人間でもない……。しかしだ、たまに第10ガンプラ部と同じ匂いがするぞ」

「第10ガンプラ部といえば、以前、お昼を忘れたイチカワ・アヤさんにお弁当をお裾分けした時があったのですが、その際青い狸のようなベアッガイⅢをいただきました。しかし不思議なことに耳がなく、聞いてみれば何でもネズミにかじられ──」

「よし、アカリ。そのベアッガイⅢの話は金輪際しなくて良いぞ」

 

 頭の中で逃避行しているアラタとリョウコのビジョンでも浮かんでいるのか、あらあらと頬に手を添えてどこか恍惚としているアカリに頭痛を感じてしまうが、直後に放たれた内容に早急にこの話を切り上げる。

 

「……今の学園は良くも悪くも実力主義だ。弱いビルダーを養分として強いビルダーはより強くなっていく。これの問題の一つは学園内で既にヒエラルキーが存在していることだ。なまじランキング上位者が学園側から厚遇される分、まず何もない新入生の類はチャンスを得ることは難しい。故に多くはゴールデンコスモスのように上位ランカーの下につこうとする。そこで気に入られれば多少の融通は利くだろうからな」

 

 既に学園内のヒエラルキーが存在する限り、中々、外部から新たに加わった生徒達の多くはまず苦汁の日々を送ることは間違いないだろう。だからこそリョウコが例に挙げたように元々、財力を持つサカキなど少しでもより良い感興を得られるように動くことから始まる。

 

「だが、ほんの一握り、己の実力だけで頭角を現す者達がいる。ソウマ・アラタもその一人であり、アカリ……お前はまさにその際たる例だ。お前は早い段階から実力だけで、ランキングを駆け上がり、生徒会にまで名を連ねた異例中の異例だ。お前のポテンシャルは生徒会内でも随一かも知れん」

 

 だが、財力や学園のサポートを関係なしに自身の実力だけ名を馳せる者もいる。一年生という0からのスタートでトップランカーどころか生徒会に実力で伸し上がった存在が目の前にいるアカリなのだ。アカリも自分を大きく豪語するようなことは言わないが、それだけの評価を得られるだけの能力は自覚しているのだろう、口元に笑みを携えながら静かに会釈する。

 

「そろそろ一年生の中でもランキング上位に名を連ねる者も出てくる。その中で一人、まさに今の学園を表すような存在がいる」

 

 もう10月も半ば。アカリ以外にも一年生の中で台頭する生徒も現れているのだろう。

 それはある意味で喜ばしいことかもしれないが、リョウコの表情は渋い。

 

「クゼ・ヒロト……でしょうか」

「……知っていたか。いや、同じ一年だからな。ガンプラビルダーとしての能力が高い一方でランキング上位ということから傍若無人な振る舞いをしている。それだけならば他にもそういった手合いはいるのだが、奴は一線を画す」

 

 危険な人物なのだろうか、アカリが挙げた名前に一瞬、驚いたような様子を見せるも、すぐに彼女の学年を思いだして納得して話を続ける。

 

「奴は他人のガンプラを破壊しようとする。モリタのようにパーツ狩りが目的ではなく、あくまで他人のガンプラを破壊するのだ。目的は分からないが標的にされる相手のガンプラの殆どは壊されている」

「それが表面化されたのはここ最近でしたか」

「ああ、副会長は結果を出している以上、干渉はしない方針のようだが、私にはあの学園のルールを関係なしに野放しにしていては、大変なことになる気がしてならないんだ」

 

 パーツ狩りが目的ではなく、あくまでガンプラを破壊することが目的だというその生徒に関して、リョウコは口では言わないものの不快感を露にしている。それはアカリも同じなのか、僅かに眉を寄せており、今後の学園生活を危惧している。

 

「奴は休みに近くのゲームセンターなどに出没しているという。流石に外部で同じようなことはしないと思うが、私と少し調査をしてもらいたい」

 

 リョウコは元より、アカリも然程の面識はないのだろう。

 今後の学園を考えての行動に異論はないのか、アカリも「畏まりました」と快く引き受けてくれた。

 

「何事もなければ良いのだが……」

「お優しい方ですね、オオトリ様は」

「様付けはこそばゆいからやめてくれ。生徒会にいる以上、優しいなんて言葉は無縁だ」

 

 どこか物憂げなリョウコに苦笑しながら、本来、生徒会にいるべきではないのは彼女なのではないかと考えてしまうが、厳かに首を横に振った彼女は複雑そうに窓辺を見やる。

 

(自らを律するからこそ、常に息苦しさを感じてしまうのでしょうね……)

 

 リョウコはいつもこんな顔ばかりだ。

 少なくともアカリが生徒会の一員になってからはリョウコの明るい表情は見たことがない。それはやはり生徒会という立場に身を置き続けているからだろう。旧生徒会に身を置いていた彼女がどんな想いで現生徒会に身を置くのかは彼女にしか分からない。

 

(……人のことを兎や角、言える立場でもありませんが)

 

 そこまで考えて、アカリも目を伏せる。

 リョウコは言った、アカリは本来ならば今の生徒会にいるような人間でもないと。しかし現にこうして生徒会に所属し続けているのには理由があるのだ。どこからともなく感じる息苦しさにただ人知れず、自嘲するのであった……。

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