ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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混沌から来るもの

「……悪ぃな。いきなり押しかけちまって」

 

 夜天の下、トモンの表札があるこの一軒家の一室にリュウマとショウゴの姿があった。

 夕方過ぎに解散となったのだが、それから数時間後に言葉通りショウゴが家に押しかけてきたのだ。

 

「いや、別に良いんだけどよ……」

 

 別に家に押しかけたことに関しては然程、気にしてはいない。それよりも問題は深刻そうな面持ちを浮かべていることともう一つあるのだが、とりあえずなにがあったのかを聞き出そうとする。

 

 ・・・

 

 一方、ここはリョウコの私室。ベッドに腰掛けているリョウコはぬいぐるみを抱いており、ぎゅっとその力が強まる。

 

「まさか、あんなことになるなんて……」

 

 彼女とそしてリュウマの家にいるショウゴが思い出すのは今から数時間前の出来事だ。

 何とも言い難く眉を顰めると、記憶を巡るかのように目をゆっくりと瞑る。

 

 ・・・

 

 時刻は茜色の空に少しずつ影が差し始める夕暮れ時にまで遡る。

 なにが目的か、ショウゴをつけるクゼ・ヒロトをリョウコとアカリの二人が尾行していた時のことだ。

 クゼ・ヒロトと個人的な関わりこそないもののその噂をされている凶暴性はリョウコとアカリが話した通りで彼女達も耳に入っている。

 ゲームセンターでの様子を観察している限り、楽しそうにバトルをするリョウマ達を憎々しげに見つめていたのを覚えている。

 なにもしなければ良いのだが……。そんな想いを抱いてしまうほどの独特な緊張感がリョウコの胸の内を支配していた。

 

「……ッ」

 

 身を潜めているリョウコに気付かず、辺り一面に人がいないことを確認したクゼは行動を起こした。

 途端に歩調は早まり、ただショウゴを一点に見つめて走り出したではないか。その行動に直感で嫌な予感を感じ取ったリョウコも行動を起こそうとするのだが、思いの他、クゼの動きは早くもう間もなくショウゴに迫ろうとしていた。

 

「うおぁあっ!?」

 

 ここでショウゴも気配に気付いたのだろう。振り返った途端に迫るクゼのその鬼気迫るような表情に身を震わせて大きく驚くなか、彼の手に持つが入ったバッグを奪われる。

 

 バッグには自身の貴重品の他、ガンプラも入っている。このままではマズイと追いかけようとするショウゴだが、彼の足でも追いつけず、このままでは逃げ切られてしまうだろう。

 なんとしてでもそれだけは避けたかった。あそこにあるガンプラは自分が漸く取り戻すことが出来た大切な想いが込められているのだ。

 

 それはリョウコとて同じ事だ。目の前で起きたクゼの凶行は恐らくは噂の通りなのだろう。どの道、あのまま放置しておけば碌なことにはならず、最悪な結末が待っていることだろう。

 それを警戒して自分はアカリを巻き込んででも見張っていたのだ。こうなった以上、おめおめと見逃すつもりなどなかった。

 

 しかし複雑な道を選んで逃げ回るクゼに苦戦してしまう。それでも何とか追いつきたいと躍起になるなか、更なる事件が起きた。

 

「ッ!?」

 

 何とクゼの逃走を阻むかのように突如、地面に幾つもの鋭利な何かが突き刺さったのだ。

 目を凝らしてみれば、それはデザインナイフなどで用いられる替え刃だった。咄嗟に投げられた方向を見上げ、後から追いかけてきたショウゴやリョウコもつられて顔を上げる。

 

 

 

 

「──ひとーつ……ビルダーの生血を啜り」

 

 

 

 

 人も知らず、世も知らず、彼の者は現れた。

 

 

 

 

「ふたーつ……醜怪な悪行三昧」

 

 

 

 

 それはまさに現実離れしたダイヤモンドアドベンチャー

 

 

 

 

「みっつ……醜い浮世の悪を」

 

 

 

 

 風を切り、影を躍らせるその者の名は

 

 

 

 

「退治してくれよう頑風羅流」

 

 

 

 忍者。

 

 

 そう、N I N J Aである。

 

 

「なんじゃありゃあぁあ!?」

 

 なんじゃなんじゃと聞かれればにんじゃにんじゃ。

 あぁなんというべきか、御機嫌よう。動じることはない、こんばんは。

 額当てに口当て、風に靡かせる深紅の首巻。塀の上でこちらを見下ろすのはまさに忍者なのである。

 

「ア、アアア、アカリ!?」

 

 ぱくぱくと開いた口が塞がらぬまま、隣を見てみるリョウコだがアカリの姿はない。そう言えば必死にクゼを追いかけていたのは自分だけだった気がする。途中からクゼを尾行する地の文は自分だけだった気がする。

 

「拙者は頑風羅流のミツル」

「拙者!?」

「ビルダーの悲鳴を聞いて、ここに推参にござる」

「ござる!?」

 

 出てくる世界を間違えているのか忍びのエンターテイナー。だが見上げる先にいるツインテールは紛れもなく忍者なのである。

 

「ア、アカリ!? アカリなのか!?」

「はっはっは、これはおかしなことを。ガンブレ学園生徒会副会長がかような格好をする者を身近に置くと?」

 

 言い返せないのが悔しい。

 だがリョウコの苦悩を他所にサイレントニンジャは塀から飛び降りて、ゴキッと足を鳴らして震える。

 

「っ!?」

 

 溢れ出る涙を振り払い、風となる。クゼを通り過ぎた時にはショウゴのバッグはミツルの手に収まっていた。

 

「どうでござるか、この手際。これで拙者がその辺のファッションござるとは違うことが証明されたでござろう」

「……色物だったのが証明されたな」

 

 クゼが驚くのも束の間、ショウゴにバッグを手渡すミツルの得意顔に頭痛を感じてしまう。やはりたまに感じていた第10ガンプラ部臭は間違っていなかったようだ。

 

「あっ、逃げやがった!」

 

 バッグが手元に戻って一安心かと思いきや、クゼは既に逃走を図っている。撒こうとするようにすぐさま曲がり角を曲がっていくクゼにショウゴが追おうとするのだが……。

 

「無駄でござるよ。今からでは追いつけやしまいて」

 

 一歩で遅れた分、逃げ切られてしまうだろう。ならば無駄な労力を使う必要はないと止められる。

 

「リョ、リョウコ……」

「……無事で何よりだ」

 

 我に返ってリョウコがいることに気まずそうなショウゴ。彼は今ではサイド0側の人間といって良い。そんな彼がなまじラプラスの盾に所属していた分、生徒会側のリョウコと顔を合わせるのはバツが悪いものがあるのだろう。だがそれはリョウコも同じなのか、視線を逸らしながら答える。

 

「……いや、まあ、それよりもだ。このニンジャについてだな」

「あーっ! あんなところにソウマ・アラタとミカグラ・ユイがぁーっ!」

「なにぃっ!?」

 

 とりあえず今は世界観が迷子なニンジャをどうすべきかと問題にしようとしたところ、UFOの如くあらぬ方向を指差したミツルにつられてリョウコとショウゴが顔を向けるが、そこには誰もおらず、ミツルに視線を戻そうとした時には彼女の姿はなかった。

 

「──おーい!」

 

 程なくして声をかけられる。まるで三分の間に怪獣とでも戦っていたかのような爽やかな声につられれば、そこには晴れ晴れとした笑顔でこちらに手を振って走ってくるアカリの姿があった。

 

「皆さん、足が速くて追いつけなくて……。己の未熟さを痛感させられます」

「いや、お前……」

「あら、鞄を取り戻せたのですね。大事にならなくて良かったです」

「……大事はあったがな」

 

 ミツルは周囲にはおらず、白々しい態度を見せるアカリに最早、なにを言っても仕方ないとリョウコはため息と共にツッコミを放棄をする。

 

「……とりあえず私はこの辺りにさせてもらう」

 

 走るよりも余程、疲れたような気がする。トボトボと帰路につくリョウコに流石のショウゴも同情を禁じえなかった。

 

「それでは私も失礼いたします」

 

 しかしそんなリョウコの姿もどこ吹く風か、ショウゴにペコリと頭を下げたアカリはたおやかな笑みを見せながらこの場から離れていく。

 

 ・・・

 

「……夢でも見てたんじゃねえの?」

 

 ショウゴから事の顛末を聞き、リュウマは呆れた様子で顔を顰める。このガンプラ世界に忍者がいるなんてそんなバカな話があるのだろうかとばかりに。

 

「夢じゃねえって! 今考えるとあの忍者、結構俺のツボを突いてくるんだよな」

「知らねえよ、コスプレ好き。とっとと帰れ」

 

 一般的な忍者のデザインを落とし込み、ミニスカートの下に覗かせるスパッツ、そしてそこから伺える健康的な太股。そんなミツルの格好を思い出してどこか恍惚とした様子のショウゴにリュウマは今すぐにでも家から追い出そうと首根っこを掴まえて追い出す。

 

「ったく、忍者なんているわけがねえだろ。テレビの見過ぎ──」

 

 家族も寝静まった夜にくだらないことに付き合わされたと気分転換に窓を開けると……。

 

 

 

 

「本当のことさ、でござる」

 

 

 

 

 とってもすごいものを見たんだ。

 

「ア、アニメじゃない……!?」

「常識という眼鏡は捨てろでござる」

 

 近くの木の上に腰掛ける世界観迷子の忍者に唖然とするなか、チッチと指を振っている。

 

「少し話があるでござるよ」

 

 まさか本当に目の辺りにするとは思わず初めて見る忍者に言葉を失うリュウマではあるが、一方で家に帰宅しなかったショウゴの後でもつけていたのか、木の上のミツルはこの場にいる目的を話すものの、どこか落ち着きなく忙しない様子を見せている。

 

「……お、降りるのを手伝って欲しいでござる」

 

 やがて「……その前に」と口当てをしていても分かるほどの引き攣った様子でプルプルと涙目で懇願してきた。

 

「思った以上に高かったでござる怖いでござるハリーハリーでござる」

「……だったら端から昇んなよ」

「忍者は高いところで俯瞰するのが常識でござる」

「あぁ、馬鹿は高いところがって奴か」

「阿呆に言われると癪でござる」

 

 リュウマ、無言で窓を閉めてカーテンに手をかける。

 

「あぁんっ嘘でござるよ筋肉阿呆!」

「あぁ!? ……まあ筋肉つけてっから良いか」

「チョロチョロでござるよぉ」

 

 必死に弁明しようとするミツルだが、そもそも謝るつもりで煽っているので何ともいえない。しかしそれでも納得したリュウマには呆れた様子だった。




ミツル

【挿絵表示】

「拙者の正体を知ろうとは思わない方が良いでござる。そのようなことをしようものならフォロワーの鉄血の仮面美少女と仮面モデラーと共に押し寄せるでござるよ」
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