ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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想いのままに

「いやー、かたじけのうござる」

 

 自分で登った木から降りれなくなったミツルを何とか助け出すと、話があるということなので部屋に招きいれる。当のミツルは不安に駆られていたようで心なしか安堵しているように見えた。

 

「なんでこんな夜中に木から降りる奴をキャッチしなきゃいけねえんだよ」

「拙者のお尻に触れたことは大目に見るでござるよ、助平」

「摘み出すぞ」

 

 助ける方法で用いたのはシンプルに木から降りるアカリを受け止める方法なのだろう。

 腕を摩ってぼやいているリュウマだが人差し指を立てながらウインクしてくるミツルにたちまち青筋を浮かべてしまう。

 

「っんで、話ってなんだよ」

 

 とはいえこの忍者をまともに取り合っていたら、話が進まないのはこの短い間で理解している。

 早速、近くの椅子に腰掛けながらミツルに本題を切り出すように促すと「せっかちでござるなぁ」と大きく肩を竦めている。……我慢だ我慢。

 

「モリタ・ショウゴの話、アレは全て事実でござる」

「そりゃあ確かに忍者はいたけどよ」

「そっちじゃないでござるよ筋肉阿呆」

 

 今までどことなく緩んでいた空気を締め、ミツルはつい先程までもこの部屋にいたショウゴが話していた出来事について目を細めて話し始める。とはいえリュウマの意識は目の前の忍者に注がれている為何ともいえない微妙な表情を浮かべると心底呆れて馬鹿にしたような物言いで言われてしまう。

 

「あわやガンプラを奪われかけたこと、でござるよ」

 

 一々、人を煽るような物言いに眉を引くつかせるなか、真剣な面持ちで話された言葉にピクリと反応する。ミツルに関することばかり話していたのでそちらに意識を向けてしまっていたが、そもそも事の発端はショウゴはガンプラを奪われたことから始まったのだ。

 

「奴がなにを思って、そのような行動に出ているかは不明でござる。しかしこれは看過できない問題であるのも事実。モリタ・ショウゴのみならずあのゲームセンターにいた者達が狙われる危険性は多いにあるでござる。故にこちらに身を寄せることが最善だと判断したのでござる」

 

 クゼ・ヒロトの目的は依然として不明でこそあるがビルダーであればあるほど無視できない問題だ。今回は未遂で済んだから良いものの、ミツルが現れなければ笑い話にもならない結果が待っていたのかもしれない。

 

「暫しの間、協力させていただきたい。事件を解明するためにも」

 

 思わぬ発言に驚いてしまう。だがその烈火のような緋色の瞳に他意はないように思える。

 

「好きにしろ」

「……自分で言うのもなんでござるが即答されるのは意外でござる」

 

 するとリュウマは作業ブースとなる机に腰掛けると作製途中のガンプラを手がけながら彼女を受け入れたのだ。流石に怪しさ満点なのは自覚しているのか躊躇われるだろうと思っていたため、このあまりの即答ぶりには彼女も意外そうだ。

 

「俺は馬鹿だから一々あーだこーだ考えるよりも直感で決めてんだよ。悪い奴にも思えねえしな」

「……それで裏切られたらどうするのでござるか」

「そん時はそん時だろ。なってみねえと分かんねえよ」

 

 しかし当のリュウマはあっけらかんとしている。確かにミツルは怪しさの塊なのだが、それでも悪人ではないと何の根拠こそないものの自分が直感で感じたまま彼女を信じることにしたのだ。

 

「……そうだよな。あーだこーだってよりもそっちの方が俺らしいよな」

 

 作製途中のガンプラを手に取りながら、ふと笑みを零す。ここ最近、柄にもなくずっと考え込むことが多かった。それは偏にアラタを想ってのことだった。だからこそ負けるわけにはいかないと、負けられないとずっと呪詛のように自分に言い聞かせていた。

 

 しかしどうだろう。このことをアラタが知れば何て言うだろうか。少なくとも自分が知るソウマ・アラタならば決して喜びやしないだろう。

 

(……だからこそなんだけどな)

 

 きっとアラタならば止めろと言うだろう。下手をすればレイジングを取り上げるかもしれない。だが光のような存在である彼だからこそ陰りを齎したくないのだ。

 

「……ガンプラでござるか。見たところ完成も間近でござるな」

「……ああ。アイツを救うことばかり考えて作ってた」

「アイツ……? ソウマ・アラタとか?」

 

 ひょっこりとミツルがリュウマの後ろから覗き込むと彼の持つガンプラは大部分は完成していた。リュウマもマリカやシロイなど腕の立つビルダーに教授してもらっていたお陰か、その出来栄えはミツルから見ても中々のものだ。

 そんなガンプラを見つめながらリュウマが零した寂しげな笑みにその人物とは誰か何気なくサイド0のメンバーの名前を挙げながら問いかけてみれば彼は頷いたのだ。

 

「この間、コウラの奴が言ってたんだよ。アイツは助けを求める誰かを救って抱きしめてくれるような存在だってな」

 

 かつてソロモンの魔女としての過去に苛まれていたイオリが口にした言葉。あの時、部室の外で待機しながらその話に耳を傾けていたが、確かにアラタはそんなイオリを救ったのだ。

 

「実際そうなんだ。アイツはアレで誰かの心に触れることが上手いんだよ。だからこそアイツが送った言葉は届くし響いて刻まれる」

 

 イオリだけではない。マリカやアールシュ、他にも幾らでもいるだろう。彼が関わった人達は多かれ少なかれ彼に救われるか、もしくは何かしらの影響を与えられる。それは何より自分がそうだったのだ。

 

「でも……誰かの心の近くにいられる奴だからこそ、苦しんじまうんだろうな」

 

 脳裏を過ぎるのはかつて見せた空虚な笑み。アラタはいつも人前では飄々と笑みを見せてきた。だが実際、ここ最近のバトルで彼が楽しそうにしているところなど見たことがない。それはやはり人の心の近くにいられる存在だからこそ、その心の内、特に負の部分に中てられてしまうのだろう。

 

「確かにアイツは誰かを抱きしめてやれるような奴だ。そうやって温もりをくれる。けどよ、じゃあ誰がアイツを抱きしめてやれんだよ」

 

 ずっと考えていた。確かにアラタは色んな人間を救ってきたが、では逆に誰がアラタを救えるのだろうか。あんな虚しい笑みを見せる彼に一体、誰が本当の笑みを取り戻すことが出来るのだろうか。

 

「その為には強くならなきゃいけねえって思ってた。けど、そうだな……。もしアイツに手を伸ばそうってんなら大切なのは単に強さじゃダメなんだ」

 

 アールシュとバトルをしていた時のアラタは心底、楽しそうだった。だからこそ彼に再び真の笑顔を齎せるのには強くならなくてはいけないと考えていた。

 しかし違う。きっとそうではないのだ。ただ強いだけの相手ならばガンブレ学園に幾らでもいるだろうし、それこそ生徒会長とバトルをしたところで彼は笑顔を取り戻さないだろう。

 

「心火……。心の底から楽しんで燃えるような情熱があるビルダーじゃねえときっとアイツの心に温もりも何も届かねえと思うんだ」

 

 そう言ってリュウマが取り出したのはシャイニングガンダムだ。

 しかしそれは軸が折れたままのあまりに無残な姿だった。これには苦い思い出がある。しかし当時、このガンプラに籠めた想いは本物だ。自分がビルダーとして何より楽しいと思いながら完成させたのだ。

 マスミが幾度となく口にしていた心火という言葉。アラタの期待に応えたい、そして何より彼を助けたいと思うあまり自分自身が楽しむことを忘れて、心の中に灯る火を消してしまった。

 

「このガンプラは俺自身だ。俺の全てが注ぎ込まれてる。でも今なら完成させられる。強さも弱さも全部、抱え込んで火がついた今なら」

 

 思い悩みながらずっとこのガンプラを作り続けていた。しかしマスミをはじめとして多くの人々と関わりを持った今、漸く光明を取り戻せたのだ。今ならきっと作業か何かではなく心より楽しみながら思う通りの心の形を創造(ビルド)することが出来るだろう。

 

「……やはり強いでござるな」

 

 その輝かしい姿を眩しそうにミツルは目を細めながら、その脳裏に土砂降りの中、立ち上がろうとするレイジングの姿を過ぎらせる。

 

「……しかし、何故そのような話を拙者に?」

「分かんねえ。でも多分、誰かに聞いて欲しかったんだろうな。お陰で楽になった」

 

 とはいえリュウマとミツルの近しいわけではない。それこそマスミなどに聞いてもらったほうが良かったのではないかと思うが、それでも己の心の内を吐露した彼は満足そうにしていた。

 

「……きっとその想いはソウマ・アラタには届くでござるよ」

「そうか? なら良いな」

 

 ふと今までふざけた態度が多かったミツルの声色が柔らかく優しいものとして語られる。その声につられるようにリュウマはミツルの照れ臭そうに笑う。

 

(……この心にアナタの想いは届いたもの)

 

 はにかんだリュウマの笑みにミツルも微笑む。その心にじんわりと広がるような温もりを感じながら。

 

「少しばかり拙者にも手伝わせて欲しいでござるよ。きっと何かしらの助言は出来るで候」

「あん? なんだいきなり」

「協力させてと言ったでござろう。忍びとは仕えるもの。主無き身ではあるが今はお主にだけ尽くしたいでござる」

 

 リュウマの肩に手を置きながら、作りかけのガンプラを見つめる。確かに中々の完成度だが、もっと飛躍する余地はあるだろう。こうしてリュウマはガンプラ完成のため、ミツルの助言を受けながら情熱のままに夜を明かすのであった。

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