ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
リュウマとマスミによる戦いの舞台となったのは今にも終焉を齎さんばかりに轟々と響く火山地帯だった。
既に戦いの火蓋は切り落とされており、大地を揺るがすガンプラ同士のぶつかり合いが起きている。それはまさにどちらも退く気などない前だけを突き進むという意志の表れなのかもしれない。
マスミのEz-Aはまさに火力に特化したガンプラだ。その一つ一つの砲口が火を吹けば、タダでは済まないだろう。しかし相対するレイジングボルケーノは一切、怖れずに立ち向かっていき、着実に距離を詰める。
荒ぶる紅蓮の龍に迷いなどない。今はただ目の前のことだけに己の全てを持ってぶつかっていくのだとその拳を振るうのだ。
「ヘッ、良い感じに仕上がってんじゃねえか」
穿つように放たれた拳を咄嗟に2連装ビームライフルを装備する腕を立て構えて防ごうとするも受け止めきれず、Ez-Aはそのまま後方に押し返されてしまう。リュウマだけではなく、ガンプラその物の完成度も飛躍しており、マスミは状況に似合わず楽しそうに笑みを見せる。
「けど、そんなもんじゃねえだろォッ!」
まるで獰猛な獣のように荒々しく叫べば、Ez-Aは薙ぐように2連装ビームライフルを振るい、そこから刃のような高出力ビームが放たれたのだ。
「ったりめーだッ……!」
避けるには間に合わず直線上の物体を全て破壊しながら迫るビームの刃に対してリュウマは臆することなく目を鋭く細める。するとレイジングボルケーノのツインアイが輝き、各部の装甲を展開して輝きを放つと、その手に液体金属を覆うと地を踏みしめ、荒々しく唸りをあげながら放たれたマニピュレーターは真正面から対抗して周囲に暴風のような衝撃波を放つ。
常人に立ち入れることは叶わないだろう。しかしそんな状況下の中でもレイジングボルケーノは依然とツインアイを輝かせたままただ真っ直ぐ前を見据えているのだ。
「……アンタはやっぱ強ぇ」
拮抗する力の中に身を置きながら不意にリュウマはポツリと呟く。それはマスミの実力を認めた発言だった。
いやマスミの実力は最初から分かっていた。彼は強い。バトルの腕だけではなく、ビルダーとしての心持ちも。彼は常にバトルを全力で楽しんでいるのだ。
「けどな、俺はその上でアンタに勝つッ!」
彼にはまだ及ばない。だがそれで負けまで認めるつもりなど毛頭なかった。マスミがバトルを全力で楽しんでいるのならば自分はバトルを全力で楽しんだ上で勝利を掴み取る。
「闘志が漲るッ」
それはまさに
「心が燃える……ッ」
再び燃え盛る情熱はマグマのように
「俺の炎が……迸るゥッ!」
さあ、今こそ高らかに叫べ
「もう誰にも止められねえッ!」
拮抗したエネルギーの中で無我夢中に叫ぶ。それは獰猛な中にも輝く気高い光を解き放つように。
『──だからこそ最後にはお前が最高のガンプラを作って、バトルして欲しい』
不意に脳裏を過ぎったこの道を突き進むと決めた運命の日の言葉。
『本当のバカは自分をバカだなんて言わないんだよ。だから預けられる。お前を……信じられる』
彼の言葉があったから自分はもう一度立ち上がることが出来た。
この暗雲は決して晴れることなんてないんだと絶望していた時に現れた太陽のような存在。彼がいたからこそ倒れかける度に強くなりたいと思ったのだ。
もう二度と苦しみや絶望から目を逸らしはしない。
もしも幾度となく倒れそうになったのならその度に幾らでも強くなってやる。
この胸の中に再び宿った輝くように燃え上がる情熱が消えぬ限り、自分に限界などないのだから。
「今の俺はァッ……負ける気がしねぇえッッ!!」
愚直なまでに我武者羅に突き進もうとするリュウマに呼応するようにレイジングボルケーノの光はより一層強くなったかと思えば、瞬く間にその全身を駆け巡り、輝きを“纏った”のだ。
──次の瞬間、大爆発が起きた。
「あの野郎……ビームを握り潰しやがった」
一体、どうなったのかさえ分からぬほど周囲に硝煙が上がるなか、真っ先に抜け出たのはEz-Aだった。そのシミュレーター内でマスミはどこか唖然とした様子で呟く。相対する彼にはレイジングボルケーノが取った行動が見えていたのだろう。
「……ッ」
硝煙も吹き行く風に流れていくなか、やがてゆっくりとレイジングボルケーノはその姿を現せば、マスミは更に驚愕する。
何とレイジングボルケーノは健在だったではないか。
否、それだけではない。レイジングボルケーノはこのフィールドの全てを照らさんばかりの紅き輝きを纏っているではないか。
「あの光は……」
ガンブレ学園に身を置いて、これまで様々なビルダーと接してきたマスミにはその輝きが何であるのかすぐに分かった。
──覚醒
それはまさに選ばれた者のみが纏うことが出来る破壊と創造の輝きだ。
真正面から高出力のビームを握り潰しただけではなくその堂々たる姿は見る者に息を呑ませる。いまだリュウマの闘志は衰えていないのだろう。マニピュレーター同士を打ち合わせるとすぐさまEz-Aへと向かっていく。
「ダァルァアッ!!」
しかしリュウマ自身、まさか自分が覚醒の輝きを纏っているなどとは思ってもいないのだろう。自分に起きている変化にすら気付かず、ただ彼が無我夢中に挑んでいく。
「チィッ……!」
しかしその輝きを纏った拳の一つ一つは強烈なものなのだろう。Ez-Aは徐々に圧されていき、両腕の武装も文字通り粉砕されてしまう。
「……ハッ!」
だがそれでもマスミもまたその戦意が衰えることはないのだろう。いかに武装を失えど、好戦的な笑みを浮かべたままレイジングボルケーノに対抗して殴り返したのだ。
「良いぜ、リュウマ! テメエの本気を見せてみろォオッ!!」
「上等だァアッ!!」
同時に交差したマニピュレーターは互いの胸に響くように激しく突き当たる。しかしお互いに一歩も引くことはなく、己の胸で燃え上がる激情のままに叫ぶと、レイジングボルケーノはそのままEz-Aを押し切る。
「ボルケニックゥウッ……フィンガアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアアッッッッ!!!!!!!」
あまりの勢いにEz-Aも思わず跪いてしまうなか、レイジングボルケーノはマニピュレーター同士を付き合わせると体勢を低く構えて一気に飛び出す。
──紅蓮の龍の咆哮が轟く。
光の尾を走らせながら突き進むその姿はまさに紅き龍が顕現したかのようだ。その身を龍に変えたような強烈な一撃はEz-Aを貫き、撃破するのであった。
・・・
「ッしゃあっ! 大・勝・利ぃーっ!」
シミュレーターから出てきたリュウマは溢れんばかりの笑みを見せながら高らかに拳を突き出す。やはり今回のバトルは再び取り戻した情熱を表すようなレイジングボルケーノの初陣ということもあり、リュウマのはしゃぎようは子供のようだ。
「噂に聞く覚醒……。よもや筋肉阿呆が発現させるとは……」
「覚醒? なんのこった」
リュウマの勝利はミツルも喜ばしいのか、腕を組んでうんうんと頷いていたのだが、先程のレイジングボルケーノの覚醒を思い出し、いまだに驚きを隠せないようだ。しかしリュウマには覚醒の自覚はなく、首を傾げていると論より証拠だとばかりにミツルが指した観戦モニターを見やる。
「眩しッ!? ちょ、うわっ眩しいんですけどッ!!」
「然り。だがあの輝きを手に入れたのは事実でござるよ」
振り返れば観戦モニターに映るリプレイ映像は丁度、レイジングボルケーノが覚醒した場面であり、その輝きに思わず目を逸らしていると隣のミツルは額当てを下ろして閃光を遮断しつつも改めて覚醒の光を纏ったレイジングボルケーノを指差す。
「そうか……。俺、あの光を……」
かつてアールシュが見せた覚醒の光。当時は自覚はなかったため、何とも言い難いがそれでもあのバトルをしていた時は言葉通り、負ける気がしなかった。こうして覚醒の輝きを纏うレイジングボルケーノを見ていると己の中の情熱の炎が形となったかのようで嬉しかった。
「あーくそ、派手に負けたなぁ」
暫らく覚醒を纏うレイジングボルケーノを見つめていると不意に背後からマスミの声が聞こえてくる。
「ノリが良い方が勝つって言うしな。負けた負けた! まっ、次は負けねえぞ」
「ヘッ、良いぜ。いくらでもバトルしようじゃねえか。けど勝つのは俺だぜッ」
とはいえマスミはいつまでも尾を引くタイプでもないのか、負けたところで次は勝つと快活に笑う。その気持ちの良い対応にリュウマもつられて拳を突き出す……が、途端にヘッドロックを仕掛けられる。
「一回勝てたくらいで調子に乗んじゃねえぞ!」
「いってぇえっ!? なにすんだよマスミン!」
「あっ今、マスミンって言った」
「言っちゃった……」
マスミの指摘にしまったとばかりに口を抑えるリュウマ。まるで兄弟のようなやり取りに近くにいるミツル達もクスクスと笑ってしまうなか、温かな時間が流れていく。
(──……トモン・リュウマ)
しかし、ただ一人。
(どうしてアイツはいつまでも……ッ!)
リュウマに対して憎しみさえも籠もった視線を送る者がいた。強く握ったその手にあるサイコ・ゲルググは悲鳴のように軋む音を響かせるもゲームセンターの雑多音の中では誰にも聞こえることなく消えるのであった。