ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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龍の煌き

 ただただ目障りだった。

 僕がこれまで苦しんででも駆け上がってきたのに、アイツはただただ楽しそうに笑っていたんだ。

 栄光を掴めるかどうか、その一手となる境目。どちらかが蹴落とされる状況でもアイツはガンプラが楽しいと、バトルが楽しいと無邪気に笑っていたんだ。

 

 見たくなかった目障りだった眩しかった。

 ……気付いた時には僕の前には壊されたアイツのガンプラがあったんだ。

 

 ・・・

 

「……? なんかおかしくねえか」

 

 レイジングボルケーノのマニピュレーターを受け止めるサイコ・ゲルググ。互いに宙に制止したまま動きを見せようとせず、観戦モニターでその様子を眺めていたマスミは首を傾げる。

 

「──……始まっていたか」

 

 そんななか、不意に背後から観戦モニターに向けられた声が聞こえてくる。一同が振り返ってみれば、そこにはリョウコの姿があった。

 

「よぅ、アレがお前が言っていた……」

「……ええ、クゼ・ヒロト。昨日モリタ達を圧倒的なまでに打ち倒し、私がマークしていた生徒です。他者のガンプラを壊そうとするその行いは糾弾すべき事柄でしょう。ですが昨日の内に私なりにクゼについて調べていました」

 

 昨日のこともあってか、マスミは然程驚きもせずに流暢に声をかけると、彼の言葉に頷きながらリョウコはモニターに映るサイコ・ゲルググを見つめる。

 

「奴はガンブレ学園に入学する前は極々普通のビルダーだったそうです。コンテストで優勝をするわけでもなく、目立たない平凡なビルダー……。しかしガンプラへの情熱は確かなものであり、決してガンプラを破壊するような男ではなかったと聞いています」

「……それがガンブレ学園に入学して変わったってか」

 

 リョウコから語られるかつてのクゼ。今、こうしてバトルを見ていても負の感情のままにバトルをするようなビルダーではなかったという。では何故、こうなってしまったのか。マスミがその理由を口にすれば、リョウコは重々しく頷く。

 

「私は……奴の間違いを正すつもりでした。せめて今のような行いをしないようにと……。しかし今の学園が……生徒会が原因であぁなってしまったと言うのなら……私にはなにか言う資格はない……」

 

 いかなる理由であれ、他者のガンプラを壊して良い理由などない。しかしだ、それをいかに糾弾しようとクゼが歪んでしまった一端が生徒会にあるというのであれば彼をどの顔で責め立てるというのだろうか。

 

 顔を伏せて悲痛な面持ちを見せるリョウコにかける言葉を誰も見つけられないなか、一瞬だけ思案するように視線を伏せたミツルは顔を上げ、このバトルの顛末を見届けるかのように観戦モニターを見据えるのであった。

 

 ・・・

 

 クゼによって突き付けられたかつての真実。その言葉はやはりリュウマの中に強く響いていることだろう。対してクゼは次の瞬間、リュウマがどのような負の感情を見せるのか、今か今かと待ちわびるように口角を吊り上げる。

 

 想像し易いところで言えば怒りか。例えどんな反応を見せようとも、その心は黒く染まっていることだろう。クゼにとってそれが何より望ましかった。目障りなほどの眩しさに陰りが生じればわざわざ明かした意味もあると言うものだ。

 

 するとレイジングボルケーノが動きを見せた。受け止めたマニピュレーターを解放させるためにテイルブレードを放ったのだ。咄嗟にレイジングボルケーノのマニピュレーターを手放し、距離を置くサイコ・ゲルググはそのまま銃撃を開始すると同時にレイジングボルケーノも接近を試みようと動き出す。

 

(すぐに撃ち落としてやるさ)

 

 心に動揺が生まれたのであれば動きは単調になる事だろう。であればいかに覚醒を発現させた相手であろうと

 撃破できるはずだ。

 

「っ……!?」

 

 しかし迫りくるレイジングボルケーノの動きに段々と違和感を感じていく。何故ならばその動きに一切の動揺や焦りなどはないからだ。

 

「なっ!?」

 

 故にレイジングボルケーノは銃撃の一つ一つを確かに見極めて、あっという間にサイコ・ゲルググに接近したのだ。クゼが驚くのも束の間、レイジングボルケーノが振り上げた拳は確かにサイコ・ゲルググのメインカメラを殴りぬく。

 

「──これで借りは返したぜ」

 

 殴られた動揺もあるが、それ以上に通信越しに聞こえてくるリュウマの声から一切の怒りは感じなかった。あくまで平静に、バトル上とはいえ、かつて自分のガンプラを破壊した男を目の前にしているとは思えないほどに。

 

「そしてそのまま勝つ!」

 

 レイジングボルケーノの動きは速かった。すぐさま薙ぐような回し蹴りを放ってサイコ・ゲルググの態勢を崩したところに掌底打ちを浴びせて吹き飛ばす。

 

「ぼ、僕はお前のガンプラを壊したんだぞ!」

「……さっき聞いたよ」

「ならなんでそんなに冷静なんだ!?」

 

 何とか態勢を整えながら反撃しようと試みるがレイジングボルケーノにまともな被弾を浴びせることすら出来ない。先程とは打って変わって、寧ろクゼの方が動揺するなか、リュウマは静かに口を開く。

 

「確かになにも感じねえなんて言えば嘘になる。煮えたぎるような思いだってある」

 

 かつて破壊されたガンプラを前にして何度、涙を流したか分からない。それこそ犯人を見つけた時は感情のままに殴りつけてやろうさえ思っていた。

 

「けどな、それは()()()()()()()()()

 

 しかし今、この瞬間にバトルをしている時には関係ないと断言したのだ。

 

「なにかに突き動かされるようなバトルはもうしねえ! 一緒にバトルをしてくれているガンプラにそんなことを付き合わせるつもりはねえ! 俺はただガンプラビルダーとして目の前の相手を倒す!」

 

 かつて負けるわけにはいかないと焦燥感に駆られてバトルをしていた。そして今もそれこそクゼの思惑通り怒りに身を任したバトルをしていたかもしれない。

 

 しかし現実でそうならなかったのはこの数日間にリュウマを支えてくれた者達のお陰だろう。彼らと接していく中で自分の心が育んで生まれた余裕が怒りを抑えて、リュウマのバトルの才を遺憾なく発揮できるほどになったのだろう。

 

「止めろぉっ! 眩しい……。目障りなことを言うなぁっ! 僕は今まで必死に頑張ってきた! 自分の心をすり減らしてでもやってきたのに! なのに何でお前はずっとそうやってバトルを楽しもうとする! 見たくない! 見たくないんだよ! だからお前の……お前みたいに能天気にバトルを楽しんでいる奴らのガンプラも壊してきたっていうのに!」

 

 錯乱してまるで子供のように怒鳴り散らすクゼを表すようにサイコ・ゲルググは無茶苦茶に銃撃を放つ。それはまるで心の壁を作るかのようだ。

 

「……成る程な。ソイツが俺の……いや、ショウゴとかのガンプラを壊そうしてた理由か」

 

 しかしレイジングボルケーノは自身に迫る銃撃を刀によって全て切り裂くように弾く。今やサイコ・ゲルググの攻撃がレイジングボルケーノを傷つけることはなかった。

 

「けどな、結局そんなことやったところで目を背けてるだけだ」

 

 おかしい。

 それがクゼの脳裏に過ぎった言葉だった。

 

「自分が見たくないもんから逃げたところで()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分はリュウマの心を負の底に堕とそうとしていたのに、今では自分がリュウマの言葉の一つ一つに動揺させられている。

 

「何よりそんなことした時点でお前はもうガンプラを楽しむことが出来やしねえ! お前がしたかったのは目を逸らす為に楽しんでいる誰かのガンプラを壊すことじゃねえだろ! もう一度……お前自身がガンプラを楽しむことだった筈だッ!」

 

 レイジングボルケーノの装甲が展開すると同時にその身に鮮やかな覚醒の輝きを纏う。その圧倒的な輝きは世界を、そして陰に支配された心をも照らすかのようだ。

 

「だからもう……ここで終わらせてやるッ!!」

 

 紅蓮の龍の咆哮が轟く。

 その身を輝き猛る紅き龍の姿に変えたレイジングボルケーノの必殺の一撃は歪んだ心によって支配されたガンプラを跡形もなく消滅させるのであった。

 

 ・・・

 

 バトルを終えたクゼは覚束ない足取りでシミュレーターから出てくると、そこに待ち構えていた光景に息を呑む。なんとそこにはリュウマを始めとした面々が待ち構えていたのだ。

 

「もういい加減、引き返して来いよ」

 

 逃げ場もなく身を縮こまらせて怯えているクゼだが、思わぬ言葉に目を見開く。顔を上げれば、そこには哀しげに笑うリュウマが。

 

「で、でも僕は……」

「ああ。お前がやったことは消えねえ。これからもガンプラに向き合う度にお前の陰について周んだろ」

 

 しかし既にクゼはリュウマの他にもガンプラを壊してしまった。それは変えようもない事実だ。そのことは当然、これからも一生、クゼは背負い続けるはずだ。

 

「きっと楽しんでた頃のようにはならねえだろ。でもな、償おうとする事は出来るはずだ。だからな、もう引き返して来いよ」

 

 許されることはないかもしれない。これからも恨みを抱かれ続ける可能性だってある。だからといって何もしない理由にはならない。きっとなにもしなければその分、重圧に苦しみ、ガンプラどころの話ではないだろう。

 

「まあ、やらかした俺達も引き返せたんだ。お前のは洒落にならねえけど、俺みてえにまずは謝ることから始めようぜ」

「謝っても許されないかもしれない。だが、その行いを止めた所で所詮、その場で踏み留まっているだけに過ぎないだろう」

「だから振り返って戻ってくる為にも、まずは行動を起こそうよ」

 

 そんなクゼにショウゴ、サカキ、シロイもそれぞれ彼らなりの言葉を送る。彼らもまた過ちから戻ってこれたのだ。

 

「ご……ごめん……なさい……」

「……ああ」

 

 震える口で何とか放たれた謝罪の言葉。よく見れば全身も震えている。そんな彼にそれ以上の優しさも言葉も送ることはないもののリュウマはしかと頷く。

 

「……私にはきっとあぁは出来なかっただろう」

 

 そんな姿を傍から見ていたミツルにそっと隣に立ちながらリョウコは複雑な面持ちで呟く。

 

「……ラプラスの盾……か。今となっては何を守れたのだろうな」

 

 自嘲するように寂しげな呟きを残して、リョウコは一人、リュウマ達に気付かれることなくこの場を去っていく。その後姿を見送りながら、ミツルも人知れず去っていこうとすると……。

 

「おう、もう帰るのか」

 

 一人、気付いたリュウマが声をかけてきたのだ。

 

「……お主は拙者のガンプラがどのようなものか、と聞いていたな」

「ん? まあな」

「近いうちに嫌でも知るやも知れん」

 

 リュウマに背を向けたまま、ミツルはかつて彼に尋ねられた問いかけを振り返り、静かに答える。

 

「……かつて一人の女子がいてな。その者はとある歪な環境下でその大元となる組織に対して正義感に駆られて行動を起こそうとしたのでござる。しかし正面からでは無理だと判断し、内側から変革を試みようとしたのだが……」

「……どうなったんだよ」

「結果も出せぬまま、呑まれて今に至るでござるよ。結局、その女子は変革を促せるような器ではなかったのでござる」

 

 ふとミツルから話されるとある少女の話。リョウコのように自嘲した笑みを見せながら、ミツルはリュウマに振り返る。

 

「……本来なら拙者はお主の傍にいて良い存在ではないのでござるよ。拙者は……私は……アナタのように強くはない……」

 

 今まで見たこともない今にも消え去ってしまいそうなほどの儚い笑みを見せながら、ミツルはリュウマの言葉を待たず、踵を返して人混みの中に消えていく。

 

「……俺だって強くねえよ」

 

 届くこともないミツルへの言葉を静かに漏らしながら、リュウマはスマートフォンを取り出す。

 

「けど、足踏みしたって進めるわけじゃねえ」

 

 そこに表示されているのはアラタのアドレスだった。アラタの名前を見つめるとリュウマは意を決したように顔を上げるのであった……。




リュウマ編 完

フライングなハロウィン絵
イチカ

【挿絵表示】

「ハロウィンだか収穫祭だか知らんが菓子が貰えるんだろ? そら、イタズラされたくなけりゃ貢いでおくれ」
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