ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
果てしなく真っ暗闇の世界にアラタはいた。
この身を凍らせるような孤独感と身体に感じる浮遊感に覚えがある。これはかつて自分が見た夢と全く同じだ。
すると上方にボンヤリと大きな光が現れる。以前と同じ温かさを感じる光だ。
見上げてみればそこにはG-ブレイカーによく似たガンダムが静かに自分を見下ろしながら光を放っていたのだ。
しかしゆっくりとアラタに背を向けるとバックパックから光輪を放ちながら飛び去っていったではないか。
「まっ、待ってくれ!」
温かな光はどんどん自分から離れていく。再び自分の身体に寒気が襲いかかってくるなか、何とかその後を必死になって追いかけようとする。
「……っ」
実物大かと思ってしまうほどの巨躯を誇りながら飛行するG-ブレイカーはやがて徐々にその身を実際のガンプラであるHGサイズにまで縮小させていくとゆっくりと降下していく。その先に何があるのか、目を凝らして見れば一人の少年がいるではないか。
「お前、は……」
そこにいたのは紛れもなく幼い頃の自分だったのだ。
夢とはいえ驚きを隠せないなか、G-ブレイカーに似たガンプラは光を放ったまま幼いアラタの手元にゆっくりと納まっていき、幼いアラタはまさに子供のような輝かしい笑顔を浮かべる。
「──君は誰?」
ガンプラを持ったまま幼きアラタは無垢な表情で首を傾げるとこちらを見据えてそう問いかけてきた。しかしその問いかけはアラタにズキリとした痛みを与えると、幼いアラタが持つガンプラの放つ光はより一層強まり、耐えきれなくなったアラタは目を瞑ってしまうのであった。
・・・
「──大丈夫、アラタ君」
呼び声と共に目を覚ます。ゆっくりと瞼を上げれば、こちらを覗きこんでいるユイとレイナの姿が目に入ってきた。
「随分と魘されていたみたいだけれど……悪い夢でも見てた?」
「ゆ、め……?」
寝起きでまだぼんやりと上手く頭も働かないなか、じんわりと汗で濡れた頬をレイナがハンカチでそっと拭ってくれる。徐々に頭の中もクリアになっていくなか、周囲を見渡してみれば、どうやらここは電車内のクロスシートのようだ。
三連休の初日。かつてアラタとユイが生活していた田舎へ向かうために電車を利用していたのだが、距離もある為にどうやら途中で眠ってしまっていたらしい。
「おっ、アラター、起きたんだ! さっき寝顔をパッシャッといただいちゃったよ!」
「大佐の寝顔って初めて見たよー!」
すると後ろの席からアラタが起きたことを聞きつけたチナツとシオンが身を乗り出して声をかけてくる。しかもどうやらチナツに寝顔を撮られてしまったらしく、更に言えばシオンなどに既に拡散されているらしい。チナツとシオンがそれぞれ向けてくるスマートフォンに映るアラタの寝顔が何よりの証拠だろう。
「流れで貰いましたけど、こんなのラクガキするぐらいでしか価値がないのですよ」
「あっ、でも結構、可愛いです……」
そのチナツ達の向かい側に座るのはアヤとマリカだった。眉間に皺を寄せながらチナツから送られたアラタの寝顔写真を手描きアプリで編集して遊んでいるアヤに隣から覗き込みながら可愛く手が加えられたアラタの寝顔の写真を見て感心している様子だ。
「というか、アヤさんは一緒に来て良かったんですか? その……レイナ先輩と遊びに行きたかったのでは……」
「別に予定は立ててませんでしたからね。部長もいますし、これを機にアラタさんの恥ずかちぃ話を根掘り葉掘りギアッチョで聞いちゃいますよ」
とはいえ、アヤは三連休を敬愛するレイナと過ごすのだと楽しみにしていたはずだ。
この場にいるということは納得はしているのだろうが、一応、念のため確認してみれば、別に然程気にしてはいないのか、それどころかこれから向かうであろうアラタとユイが過ごした田舎でかつてのアラタについて聞こうとさながら悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
「しかし大所帯になったもんだな。元々は俺とユイねえ……先輩だけのはずだったのに」
「アラタ君のせいだけどね」
周囲の賑やかさを耳にしながら意外そうに窓辺に座る隣のユイに話すと、意識していたのは自分だけだったとはいえ、どの口が言うのかと言わんばかりにシラーと乾いた笑みを浮かべながら答える。
「まあ、一番意外だったのはアンタも来た事だけど」
ユイの態度に首を傾げながらもそのユイの対面であり、レイナの隣に座る人物を見やる。
そこにいたのはアーラシュだったのだ。大方、レイナやアヤから話は聞いたのだろうが、彼が同行するという旨の話を聞いた時は驚いたものだ。
「興が乗った……。それだけの話よ」
同行はしているものの特に会話に参加するでもなく、必要最低限の会話のみで後はずっと足を組んで窓辺に寄りかかっているアールシュはアラタを一瞥すると車窓から見える風景に視線を戻しながら答える。
「帰ったら、みんな驚くかな」
「だろうね。この三連休、賑やかになりそうだ」
これだけの面子が揃った以上、穏やかな三連休というわけにはいかないだろう。ユイの言葉にクスリを微笑みながら、これから始まる賑やかな時間に胸を躍らせる。
『君は誰?』
その脳裏に先程、夢の中に出た幼い自分の問いかけを残しながら……。
・・・
電車に揺られること数時間、遂にかつてアラタとユイが過ごした田舎に到着した。やはり長時間の移動のあってか、チナツやアヤなどは凝った身体を解している。
「まずなにからしようか?」
「いや、迎えが来てくれるって話だけど……」
やはりかつて過ごしたということもあり、活動の中心になるのはアラタとユイの二人だろう。着いたばかりで時刻もお昼時ということもあり、昼食でもとろうか意見を伺うとアラタは周囲に見知った顔がないか見渡す。
「──よぉ、やぁーっと着いたか」
「げっ」
そんなアラタとユイに声をかける人物がいた。その陽気な声を聞いた瞬間、アラタが露骨に顔を顰めるとそこには二人の男性がこちらに向かってきていた。
一人は声をかけてきた人物なのだろう。気さくによっと小さく手を挙げながらこちらに向かってくる小さな丸眼鏡をかけたハット帽子がトレードマークの男性であり、もう一人は皮のジャケットを羽織った彫りの深い顔立ちの髭を生やした男性だ。
「おいおい、人の顔を見ていきなりげっなんて随分とつれない態度だねえ」
「ゲンさんは兎も角として、何でアンタまで来るんだよ」
アラタの反応を愉快そうにしながらもワザとらしく肩を竦めて首を振る帽子の男性にアラタは文句をぶうぶうと口にすると、その反応さえも楽しいのかケタケタと笑っている。
「帽子の人はフウゲツ・ソウイチロウさんで、お髭の人はナオヤマ・ゲンカイさん。二人とも私達が昔、お世話になった人達でフウゲツさんに至ってはアラタ君の師匠みたいな人なんだよ」
まるで子供のように帽子の男性に突っかかるアラタの姿に心なしか驚いている様子のレイナ達にユイは改めてこの二人の男性について紹介する。
「誰が師匠だっ──「はいはい、チャックチャックー」むごご」
「フウゲツ・ソウイチロウだ。こんなイケてるオジサンなんて師匠キャラ以外ありえねえだろ?」
とはいえ自分の師匠という紹介は不本意なのか、抗議しようとするアラタだが、その口はすぐさまフウゲツによって塞がれ、彼はレイナ達にウインクをしながら挨拶する。
「ナオヤマ・ゲンカイだ。よろしく頼む」
続いて髭の男性ことゲンカイも挨拶するのだが、同時に彼が革ジャンのジッパーを下ろし、その下のシャツを露にしたことでチナツ達の表情は固まる。
なんと革ジャンの下のシャツは“親しみやすい”とデカデカとプリントされていたのだ。しかも当のゲンカイに関しては非常にご満悦な様子で個性的なシャツを見せ付けている。
「個性的な方達なのね。アラタ君のキャラを考えると不思議じゃないけれども」
フウゲツとゲンカイ、というより親しみやすい主張に唖然とするなか、圧される形でレイナ達が挨拶を済ませると、いまだフウゲツとやり取りをしているアラタを見やる。
「会いにくればすぐにでも抱きついてくると思ってたんだけどなぁ」
「誰がだ誰が!」
「なんだ、まだあのこと根に持ってるのか?」
おだけた様子で話すフウゲツに突っかかるアラタだが、やがてフウゲツは何かに気付いたかのように彼を見やる。
「あのことって何かあったんですか?」
「ああ。実はな……──」
とはいえ、ここまで人に突っかかるアラタは珍しい。ユイがなにかあったのかと尋ねてみると面白そうにくつくつと笑ったフウゲツはなにやら話し始める。
・・・
「よお、アラタ。このネトゲ、面白いぞ」
「へー……じゃあ帰ったらやってみようかな」
それはある日のこと。フウゲツが自身のパソコンを見せながらアラタに自身が嵌っているというゲームを勧めてきたのだ。ゲーム内容を見て、興味を惹かれたアラタは早速、自宅でアカウントを作成してゲームを始める。
「名前はビルドで良いか……って、フレンド申請? えーっと……EVOLT……?」
チュートリアルを終えて、ゲームを勧めている最中だった。とあるアカウントがフレンド申請をしてきたのだ。
【良かったら、私と一緒にクエストに行きませんか?】
相手は女性と思われるアカウントのアバターだった。見ればレベルも高く、相手がこう言って来てくれるのであれば断る理由はないと暫らく、そのアカウントの人物とクエストを進めていたのだ。上位プレイヤーが同行していることもあり、すんなりとゲームが進むなか、アラタ自身もゲームの腕前をメキメキと上げていった。
【ちょっと素材が足りないなぁ……】
『それなら俺持ってるから、あげるよ』
【ありがとう! ビルド君ってヒーローみたいだねっ】
それから暫らくの間、ゲームを共にプレイしたこともあり距離が縮まっていると感じながら、そのアバターが困ったことがあればすぐに手助けをしていたのだ。言ってしまえば友達と思っていたし、もっと言えば幼く無垢なアラタ少年はその女性のアバターに淡い恋心を芽生えていたのかもしれない。
・・・
「よぉ、アラタ。この間、教えたゲーム、プレイしたか?」
「うん。っていうか、すぐにID教えたでしょ」
事件が起きたのはパソコンを弄っているフウゲツに何気なく聞かれたある日のことだった。
「そういやそうだったな。そうだ、俺のアカウント見てみるか?」
同じゲームをやっているだけあって、フウゲツがどれだけのレベルなのか気になったアラタは何気なく彼のパソコンを覗き込む。
「……EVOLT……?」
「いやー、女のアバターにしてると色々と都合が良いんだわ。最近じゃあビルドって奴が凄く良いカモでなぁ」
そこに表示されていたのはずっと自分と共にゲームをプレイしていたあのアバターだったのだ。
言葉を失って、唖然としているアラタの傍でフウゲツは非常に人の悪い笑みを浮かべながら、アラタの肩を叩く。
「気付いたか? お前は俺に作られた都合の良いヒーローだったんだよ」
「エボルトオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
・・・
「一緒にクリアしてたまに感動してウルッとしたし、騙して悪いなあとも思ってたよ」
「俺の中でフウゲツ・ソウイチロウはもう死んだ」
「言ってくれるねえ」
言葉とは裏腹に今、思い出しても愉快そうに笑っているとこちらをジロリと睨んでくるアラタの肩に手を回す。
「まあ兎に角、ここまでご苦労さん。俺は喫茶店を経営しててな。まずはそこに行こうじゃないの」
元々、大人数で来ることは連絡済だったのだろう。フウゲツとゲンカイはそれぞれ車のキーを取り出すと早速、アラタ達を連れて移動を開始する。これで漸くアラタ達の三連休が始まろうとしていた。