ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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天才の闇

 アラタ達の帰省初日の夜。本来ならば三連休の間は実家で寝泊まりをする予定だったのだが、アラタ、そして特にユイの帰省もあってか、STRAKを貸しきって近所の知り合い達を招いてのささやかながら賑やかなパーティーが執り行われていた。

 

 パーティーを終え、各々帰宅するなか、フウゲツの好意でレイナ達も泊めて貰えることになり、そのパーティー会場となった店内ではアラタは一人、カウンター席に腰掛けていた。

 

「えらいどんちゃん騒ぎだったなぁ」

 

 カウンター席で一人座る彼の表情はどこか思いつめた様子だ。空虚にも見えるなか、アラタに声をかけてきたのはフウゲツだった。彼はものの数時間前にこの場で行われていたパーティーの様子を思い出しながら話すとそのままアラタの隣に腰掛ける。

 

「どうだ、久しぶりに」

 

 そう言って彼がアラタの前に置いたのは幾つかのHGのガンプラだった。後から取り出した工具の類を見る限り、どうやら一緒にこの場で組み立てようというつもりらしい。

 突然のことではあるもののフウゲツは既に鼻歌交じりに自身が選んだガンプラの箱を取って開封を始めており、新たは観念したように遅れてこの中から組みたいと思ったガンプラを手に取る。

 

「いやぁ、懐かしいもんだ。昔はよくこうやって作ってたっけな」

「……あの時はただ純粋にガンプラもバトルも楽しめた」

 

 パチパチとパーツを嵌め合わせや鑢の音が響くなか、かつてもこうやって座り合って組み立てていた頃があったのか、ふと懐かしむフウゲツにアラタは綺麗に整えて嵌め込んだパーツを見つめながらどこか虚しそうに呟く。

 

「ガンブレ学園……。生徒会長はシイナ・ユウキだったか。皮肉なもんだな。お前さんが昔、バトルをした相手がまた立ち塞がるなんて」

「なんでアイツのことを……」

「お前の晴れ舞台だ。その決勝のバトルともなれば相手のことも何となく憶えてるもんさ。生徒会長云々はアールシュとちょいと世間話をしている時にな」

 

 ガンブレ学園の話はしてもユウキがアラタと因縁のある相手だということまでは説明していなかったはずだ。その疑問にフウゲツは当たり前のように答えるとアールシュが世間話をしている姿が想像できないものの話を続ける。

 

「……アイツは変わってた。何と言うか……歪んでいるような……。なにかにしがみつくような……。アイツはそんな風にアイツと出会った頃の俺を求めていたんだ」

 

 今でも頭に残っている再会した時のユウキの姿。アラタに対してある種の狂気を感じさせるような歪みを感じたのだ。

 

「……でも何となく哀しそうだったんだ。哀しくて寂しくて……」

「もしかしたらソイツもかつて抱いた想いを取り戻したいのかもな」

「取り戻す……?」

「自覚してるかは知らないしそもそも推測の話だけどな」

 

 それでもどこか引っかかりを感じてしまうのは彼に悲しげな陰があったからなのだろう。アラタが感じ取った想いにフウゲツは何気なく答えるとアラタは釣られるままに彼を見やる。

 

「だがかつてのお前を求めてるってことはソイツの周囲にいる奴等じゃあアイツのことを満たしてやれる奴が……一緒に楽しもうとするような奴がいないからなんじゃないか」

「一緒に……」

「まあ、お前にも言えることかも知れないけどな」

 

 あくまで推測だと前置きした上での話であるが、それでも何となく的を得ているのではないかと感じてしまう。そうでなければあの悲しみを帯びた陰が何であるのか説明がつかないからだ。しかしフウゲツの予想外の言葉にアラタはドキリとした感覚を味わう。

 

「“あの時はただ純粋にガンプラもバトルも楽しめた”んだろ? それってつまりお前の周りには一緒に楽しめるような相手はいないわけだ。一人で楽しむにも限度があるし、現にお前の中に空虚な感情が生まれている」

「そんなことは……」

「ないとは言い切れないのが何よりの証拠だろ」

 

 どこか戯けた態度のフウゲツの言葉をキッパリと否定したくてもその言葉は放たれることなく飲み込んでしまった。

 自分を取り巻く仲間達に問題があるわけがない。ユイを始めとした仲間達は誰もが素晴らしい仲間達だと思っている。だがフウゲツの言葉を否定できなかったのだ。

 

 仲間達に問題があるわけではない。ならば問題があるのは……。

 

「なあ。今、ソウマ・アラタを名乗るお前は誰だ?」

 

 その言葉は大きな動揺に繋がった。

 何故ならその言葉はずっとアラタの中に残っていた幼い自分に問いかけられた内容と同じものだったからだ。

 

「少なくともガンブレ学園に転入する前のお前は自分を天才だなんて嘯くような奴じゃなかった。どっちかって言えば内向的だが人の心に寄り添うのが上手い奴だった。だがいざガンブレ学園に転入してからのお前は自らを天才と口にしたそうじゃないか」

 

 ガンブレ学園でのアラタに関してはアールシュとの世間話とやらで聞いたのだろう。どちらにしてもアラタからすれば喜ばしいことではないのだが、フウゲツからの淡々とした指摘は続く。

 

「お前から変化を感じたのはユイが引っ越した時からかな。それまではユイの後ろに隠れてるような奴だったのに少しずつ前に出るようになった。俺の想像でしかないがお前の中でユイがいなくても何とか出来るようにしたかったんだろうなぁ」

 

 時々、ユイも口にしていた幼少期のアラタ。それは今の自称天才とは異なるようなまさに正反対の存在だった。しかしその変化の兆しともいえる出来事は確かに存在していた。それはやはり姉のような存在であったユイの引越しにあったようだ。

 

「お前が天才を名乗るのは一種の自己暗示みたいなもんだろ。そうやって臆病な自分に出来るんだって言い聞かせて、やっとこさ前に進めるようにした。だけど一番の問題はお前に天才を名乗れる程の資質があったからだ。そうやってガンブレ学園で問題を解決していったは良いが天才としてのカリスマがある分、お前が本来持つ弱さを見せられなくなった」

 

 フウゲツの言葉が放たれる度にアラタは顔を俯かせて、その表情が隠れていく。しかし段々と場の雰囲気が重々しくなってピリピリしているのはお互いに口には出さなくても肌に感じていた。

 

「所詮、お前は自意識過剰なピエロ(ヒーロー)を演じていたに過ぎないんだよ。本来の自分を仮面の下に隠して誰もが頼りにする完全無欠のヒーローを演じてれば、そりゃあ孤独になって虚しくもなるよなぁ?」

 

 どこか大っぴらに茶化すような小馬鹿にした物言いとその言葉にアラタはピクリと震えた。

 

「……ぃだろ」

「あぁ?」

 

 息が詰まるような重々しい空気がこの場を満たし、重圧のような静寂がただ静かに流れるなか、ここで漸くアラタがボソリとなにかを呟き、チラリと見た瞬間、弾けるように立ち上がる。

 

「仕方ないだろって言ったんだよッ!」

 

 ビシャリとアラタの声が荒いで響いた。立ち上がったアラタは完全に頭に血が昇っているようでフウゲツを睨むその目は敵意と怒り、そして哀しみで満ちていた。

 

「自分でも馬鹿みたいだって思うさ! でもそれで全部上手く行ってきた! 上手く行っちゃったんだよ! 今更、自分は天才とは程遠い弱い人間ですなんて言えるわけないじゃないか!」

 

 かつてマリカに自分のようにならない方が良いと言ったことがある。

 ただ天才とは自分に自信を持たせるために使っていた。しかし彼は実際にガンブレ学園において天才といって憚らない程の実績を、それも短期間の間に幾つも作り出し、今では元凶といえる生徒会にまで手が届きそうになっているのだ。

 

「だって俺は臆病(天才)だから! 道化じゃなくなったピエロに何の価値があるんだよ!」

 

 彼自身、気付いていないのだろう。だがいつの間にか彼は怒りに任せながらも今にも泣き出しそうなその姿はまさに彼を覆っていた天才というメッキが剥がれている証なのだろう。そうして衝動に任せて怒鳴るだけ怒鳴ったアラタはSTRAKを飛び出していくのだった。

 

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