ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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救いの決断

 温かな朝日が差し込むSTRAKの店内では開店準備に合わせてフウゲツが朝食をユイ達に振舞っていた。風味豊かなコーヒーと軽めの朝食はまさに朝の和やかな雰囲気にピッタリでこれには久方ぶりに口にしたユイのみならずレイナ達にも好評だ。

 

「そう言えば……アラタさんの姿は見えませんね」

 

 食事を終え、ふとアヤはこの場に唯一その姿が見えないアラタについて触れる。昨日はフウゲツの好意もあり、一泊させてもらったがアラタもパーティーが遅くまで続いたこともあり同じように世話になろうとしていた記憶がある。

 

「昨晩、アラタ君の怒鳴り声が聞こえたからどうしたのかと思って探したけど、こちらには戻ってきてはいないみたいね」

「アイツなら実家のほうに帰ったよ。親御さんには確認済みだ」

 

 お寝坊さんですかねーと呑気に話しているアヤとは対照的にレイナはどこかアラタを案じて目を伏せる。どうやらアラタの怒鳴り声は聞こえていたらしく心配していたようだ。そんなレイナを安心させるようにカウンター席の向かい側で開店準備をしていたフウゲツはため息混じりに答える。

 

「フウゲツさん、アラタ君となにかあったの?」

「なにかあったけど」

 

 アラタが怒鳴るほどの人物……。そうなるとこの場ではフウゲツしか思い当たらなかったのか、ユイが控えめに問いかければフウゲツはあっけらかんとした態度で飄々と答える。

 

「ちょいとしたガス抜きさ。いくら外面を変わろうと溜め込んじまうところは変わってなかったしな」

 

 アラタが怒鳴るほどのことともなるとなにをしたんだと非難めいた視線が注がれるなか、全く意に介した様子もなくグラスを磨きながら答えるも寧ろそれを聞いたユイ達は驚いたように息を呑むと、それぞれがなにかを考えるように目を伏せる。

 

「あっ、あのっ! アラタ先輩のお家ってどこに……」

「角を曲がったところだな。そう遠くない」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 すると一番に口を開いたのはマリカだった。引っ込み思案だと想っていたマリカのまさかの行動にユイ達が驚くなか、ソウマ家がある方向を指しながら答えれば善は急げとばかりにマリカはSTARKを飛び出していく。

 

「オジサン! 塗装できる環境とかある?」

「あるにはあるなぁ」

「ごめーん! 少しだけ貸して欲しいんだ!」

 

 マリカに触発されたかのように今度はチナツが声を上げる。マリカは兎も角として何故わざわざここまで来て、塗装しようと考えたのか、その真意が読み取れないなか、フウゲツの承諾を得てチナツは早速案内されるまま塗装ブースへと足を運んでいく。

 

「そっか……。それならシオンもシオンで動いちゃおうかなー」

 

 途端に慌しくなっていく店内で次に動いたのはシオンだった。マリカとチナツの行動になにやら思うところがあったのか、笑みを浮かべるとゆっくりと立ち上がって人知れずSTARKを後にする。

 

「みんな、いきなり動き始めたね……」

「それだけアラタ君が愛されているということね」

 

 出遅れてタイミングを失う形となってしまったユイはそわそわと身体を揺らすなか、隣に座っていたレイナは飲み終えたコーヒーカップをソーサーの上に起き、静かに立ち上がる。

 

「慣れ親しんだ環境ならって考えていたけどそれだけではダメね。自らも動き出さないと」

 

 彼女のトレードマークとも言えるペレー帽を被ると踵を返してレイナもまた行動を始めたのだ。それはやはりアラタをこのままにしてはいけないと、環境だけに頼るのではなく自分自身も動かないといけないのだと理解したから。

 

「……アラタ君」

 

 そんな中、残ったユイは視線を伏せてアラタへ想いを馳せる。

 フウゲツの発言から彼が内に抱え込んでいたのは間違いないだろう。いや、学園改革派のサイド0のリーダーを務める以上、何の負担もないわけではないというのは分かりきっていることだ。それでもアラタは自分達の前では常にそのような素振りを見せなかった。ずっと飄々としながら笑みを絶やさなかったのだ。

 

(……私の、せい……?)

 

 やがて頭の中に浮かんできたのはその言葉だった。

 溜め込んでしまうような原因があるののならばそれはサイド0くらいなものだろう。

 

 そして何よりそのサイド0のリーダーにアラタを指名したのは他ならぬユイなのだ。

 アラタはあの時、リーダーを快く引き受けてくれたがそれでも矢面に立つ以上はなにも感じなかったわけではないだろう。

 

 本来ならばアラタはガンブレ学園の事情も碌に知らない部外者だった筈だ。

 考えなしにアラタを指名したわけではないが、本来ならば一番の年上であり、かつては生徒会に所属していた自分こそがリーダーとしての立場であるべきだったのではないだろうか?

 

「……まこと愚かしいな」

 

 考え始めたらキリがない嫌悪に満ちた迷宮に足を踏み入れそうになった瞬間、既の所で声をかけられる。

 声に誘われるままに顔を向ければ、そこには一人、動き出したマリカ達とは違い、優雅にコーヒーを啜っているアールシュの姿が。

 

「大方、あ奴のことを考えて頭を悩ませているのだろうが意味のないことをするものよ」

「意味がないって……。アラタ君が溜め込んでいるのは私のせいなのかも知れないのに」

 

 アラタの名を呟いてから重々しく頭を垂れて沈んでいる様子を傍から見ていたアールシュの呆れたような態度にムッと眉を顰めたユイはどこか行き場のないこの胸の中の気持ちを露にするようにどこか突っかかるような物言いで答える。

 

「そこで一人、自己嫌悪したところであ奴には伝わるか? 足踏みしていたところで意味はあるまい。であればあ奴に寄り添うことこそが今すべきことであろうよ」

「でも……もしかしたらアラタ君は私のことを……」

 

 アールシュが言っていることは分かっている。出来ることならマリカのようにすぐにでも飛び出したいぐらいだ。

 だがアラタをサイド0のリーダーに任命した自分が一体、どのような顔をしてアラタに会いに行けば良いのか分からなかった。もしかしたら元凶となる自分を腹の底では憎んでいるのかもしれない。そう考えると動き出したくても足が竦んでしまうのだ。

 

「もしも貴様に思うところがあるのならば、奴は既に降りているだろうよ。逆に言えば、良くも悪くも奴は溜め込んでしまうほどにサイド0への、そこにいる貴様達への想いがあったのではないか」

 

 すると今度はアールシュが席を立ち、肩越しに振り返りながら抱え込んでもなお、サイド0のリーダーとしてここまで歩んできたアラタの想いを汲み取るように推測を話す。

 

「……寧ろ今が好機なのかも知れんな。奴の土壌が崩れているのだとしたら、ここで固めることが出来るかも知れん」

 

 今、アラタの心はボロボロなのかもしれない。だが逆にフウゲツが彼が被っていた仮面に皹を入れたのであれば後少しでその先にある素顔を露にすることが出来るだろう。

 

「ここが正念場だと考えろ。“ソウマ・アラタ”を取り戻せるか否か……。それは奴を想う者達の行動に掛かっているのだからな」

 

 それだけ言い残してアールシュもまた動き出す。それはやはり彼もまたアラタを想ったからこその行動を起こそうとしているのだろう。

 

(アラタ君を……取り戻す……)

 

 店内には他にフウゲツとアヤが残るなか、ユイは一人、先程のアールシュの発言を振り返り、これまでのアラタと過ごした懐かしくも温かな時間を思い出す。

 

(……私が知っているアラタ君は……)

 

 いつも自分の後ろに隠れていた幼少期のアラタ、だからこそ自分はお姉ちゃん風を吹かしていたのを憶えている。

 

 だが……それだけではなかった。

 ソウマ・アラタという存在は自分の中でただの弟分だけでは収まらない事柄が一つだけあった。それはたった一つのことでありながら自分の中のアラタという存在の想いを強くさせた何よりも大きなことだ。

 

 それが何であるのかを思い出したユイは静かに顔を上げる。

 ただ真っ直ぐアラタへの想いを表すようなその瞳に一切の迷いはなかった。

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