ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
フウゲツが言っていたように今、実家のかつて使用していた自室にアラタの姿があった。
カーテンは完全に締め切られており、閉塞感を感じさせるのは閉じ篭る今の彼を表すかのようだ。
全てが色褪せたかのような虚無感を感じさせながらアラタはかつて自分が手がけたガンプラの一つ一つを見つめる。どれもこれも当時はただただ純粋に組み立てていたものだ。
『アラタ、お友達が来てるわよー』
ガンプラに手を伸ばそうとした瞬間、扉越しに母親の声が聞こえてくる。
一体、誰がと思ったが母親は既に案内をしているらしく、程なくしてコンコンとノックがなされる。
「し、失礼します……」
何と相手はマリカだった。
流石に思いもしなかったのか、マリカはおどおどした「お、おはようございます」の挨拶に驚きのままオウム返しのように挨拶を返してしまう。
とはいえマリカ自身、当人が自覚している通り、引っ込み思案な性格の為、いざアラタの元へやって来たところで緊張で中々、話を切り出すことが出来ずもじもじと身体を揺らしている。
「こ、これって先輩が作ったガンプラですか?」
そんなマリカを察してか、なにか飲み物でも用意しようとした瞬間、彼女はかつてアラタが手がけたガンプラ達の存在に気付き、関心を示す。
「昔、作った奴。まあ、今見ると拙い部分が目立つけどね」
「そんなこと……。でも、凄く温かい感じがします」
やはり幼少期に作成しただけあって一つ一つを見ても、処理の仕方など今よりも技術不足を感じさせる面が目立つ。苦笑するアラタを他所にマリカはビルダーとしての感性からか、かつてアラタが手がけたガンプラに温もりを感じ取る。
温かい。その言葉はかつてユイからも言われた言葉だ。
彼女が言うにはガンプラの想いが、好きという気持ちが温もりというような旨の発言をしていた。
確かにこの時の自分はただ純粋に、それでいてストレートにガンダムが、ガンプラが好きだという気持ちのままガンプラを手がけていたことには間違いはない。
だが逆に言うと今はどうだろうか。
無論、今だってガンダムもガンプラも好きだ。その気持ちに偽りはないし、その心のままに作り上げたG-ブレイカーはこれまでの人生において最高傑作だと自負している。 しかし何故だろうか、そのG-ブレイカーを作成して以降、長くガンブレ学園での時間を過ごした今、かつて作成したような所謂、温かさを感じさせるガンプラを作れるだろうか。
「あ、あの……ッ」
深い思考の闇の中に溺れていると不意にマリカが口を開いた。
「今、ふたりっきりだから言えるんですけど……私、アラタ先輩に感謝してるんです」
「俺に……?」
突然の感謝の言葉に首を傾げてしまう。
確かにサカキの件などもあったが、もしかしてその事なのだろうか……?
「先輩は私にいっぱい構ってくれて、色んなことを教えてくれて……。その度に前向きになれて……頑張れて……。だから全部全部、先輩のお陰、なんです」
どうやら違ったようだ。
しかしまさか自分が何気なく行っていた行動を感謝されるとは思ってもおらず、それはそれで驚いてしまう。
「少し前までの私は先輩にどうしたいのか聞かれてから行動してばかりでした……。でも……でも、今は自分から行動しようと思えるんです」
その想いがあったからこそマリカは今、この場にいるのだろう。
彼女は決して視線を逸らすことなく真っ直ぐにアラタを見つめていた。
「私は……サイド0の……先輩の力になりたい……! 私がいた居場所に温もりを取り戻してくれた皆さんの為にも」
第08部の部室は今まで半ば一人でいることの方が多かった。
寂しいとは感じていたが、それも仕方がない。当時のサカキの傀儡となろうとも部室を、自分の居場所があればいいと考えていた。しかしアラタが転校してきたその日から今まで失ってきた温もりを再び手に入れることが出来たのだ。
最初はただの変人だと思っていた。
しかしアラタがいたからこそ救われた、変わることが出来たのだ。
「サイド0は先輩の居場所でもあるんです。先輩からしたら力不足かもしれない……。でも……私達はそこにいます。いつだって先輩の傍にいるんです。だから……少しは寄りかかってくれたって良いんです」
思えばマリカはアラタの陽の部分は見えていても、影を見ることはなかった。
それはアラタ自身がひた隠しにしていたからに他ならない。それが分かったからこそ寄りかかって欲しいと思えた。もしも口に出すのが憚られるのなら少しずつでも良い。そうすればいくらでも支えるのだから。
「……マリカちゃんにここまで気遣わせちゃうなんて情けない話だな」
「そんなことありません。気遣いも何もそれは全部、先輩を……お、想ってのことですから、と、当然のことです!」
ここまで真っ直ぐ饒舌に話すのもガンプラ以外では珍しい。
そんなマリカの言葉だからこそアラタは自嘲気味な笑みを浮かべると、マリカは首を横に振りながらもなにを思ったのか、最後のほうでも顔をほんのりと上気させて尻すぼみしていた。
「……マリカちゃん。今度、一緒にガンプラを作って貰っても良いかな? 二人だけで……ただ純粋に楽しんで」
「ふ、ふふふ、二人!? 不束者ですが……!!」
ガンプラにどこまでも真摯な彼女だからこそ純粋に一緒にガンプラを作りたいと思った。
彼女の一挙手一投足を、ガンプラにかける想いを間近に触れることで触発されたいと思ったのだ。それがアラタなりの“寄りかかり”だった。最もマリカはなにを想像したのか顔を真っ赤にしていたのだが。
「ごめん、少し考え事したいから一人で出てくるよ。マリカちゃんは好きにしていて」
そう言い残してアラタは近くにあったトレンチコートを羽織ると最後にマリカに力のない微笑んで部屋を後にする。後に残ったマリカはアラタの微笑みに力がないことを感じつつも、少しは活気を宿していたのを感じながら見送るのであった。
・・・
家を出たアラタは宛てもなくフラフラとかつて過ごしたこの町を歩いていた。
懐かしい光景を目にする度に当時の自分を思い出し、今の自分はなにをやっているんだろうとついつい考えてしまう。
マリカの反応を見るに彼女は大凡のことを察しているのではないだろうか?
恐らくはフウゲツに聞かされた可能性が高いわけだが、そうなるともし同行していた全員が聞いていたとしたら彼女達はならば──。
「……ッ」
するとアラタのスマートフォンが着信を知らせる。
ポケットから取り出してみれば、シオンからメッセージが届いていたのだ。
【突然のメール、ごめんね☆ 実は大佐に話しておきたいことがあるの! STARK近くの土手の畔で待ってます♪】
それが文面だった。
シオンがわざわざ呼び出してまで話したいこととなると無碍には出来ない。元々、行く宛てもなく三作していたこともあって、アラタは予定を変えてそのままシオンが指定した畔まで足を運ぶのであった。
・・・
「あ、来た来た! 待ってたんだよ~、大佐っ」
土手の近くの河原もこの時間帯だと土手の上のランニングなどその程度のもので辺りには人影は見当たらない。
そんな場所ならばシオンの姿を見つけることは造作もなかった。シオンへ向かって歩を進めるアラタにシオン自身も気付いたのだろう、目一杯の可憐な笑みを浮かべながら元気よくアラタに手を振っている。
「突然、呼び出してごめんね? 忙しくなかった?」
「特に予定もなかったから大丈夫」
「良かったー。一番の忠臣に迷惑をかけるなんて総統として失格だからねっ」
忠臣と言われても首を傾げてしまうが、シオンのことだ。一々訂正していてもキリがないだろう。
そんなことを考えながらいつもの調子で話すシオンを見ていると彼女はそのまま話を続ける。
「……アナタのお陰でシオン公国はとっても大きくなったの☆ いつでもどこでも楽しそうな臣民の声が聞けて……シオン、今とっても嬉しい!」
「……シオン公国に関しては俺のお陰って言われても首を傾げる部分が大きいけどそう言ってもらえるのは光栄ですよっと」
「まあ、どこにいても皆がついて来ちゃうからプライベートは在って無いようなものだけど。ちょーっと落ち着かないかな? でもでも、みんなが笑顔ならそれは良いことだよね!」
シオンが行くところに臣民あり。そう言っても間違いではないほどガンブレ学園におけるシオンの熱狂は凄まじい。それは日を追うごとに加速しているような気がするがそれがアラタのお陰かと言われるとアラタ自身、首を傾げてしまうのだが少なくともシオンはそう思っているようだ。
「この調子ならきっといけるところまでいけちゃうね。生徒会を倒して、シオン公国を正式に樹立して……」
内容は兎も角としてもシオンは生徒会を打ち倒した後のビジョンを明確にしているようだ。
今後のことを語る彼女の口ぶりに迷いはなく、彼女は今だけではなくこれからの自分の道を既に築いているように思えるのだが、ふと雰囲気からいつもの快活さが鳴りを潜める。
「ただ……こうして大佐と話す時間は減っちゃったなと思ってるの。だから今日は学園のアイドルじゃなくて、ただのシオンとしてお話がしたくて……。ね、アラタ君?」
大佐、ではなくアラタとして……。
彼女は今、シオン公国の総統であるダイクウジ・シオンではなく、一人の少女、ダイクウジ・シオンとして今、アラタと接しているのだ。
「アラタ君の存在は私に勇気を与えてくれたの。大き過ぎる生徒会という存在に真っ向から立ち向かおうとするその姿に支えられた……。きっとシオンはサイド0の……アラタ君の存在があったからここまで来れた」
「シオンには元々、カリスマがあったんだ。俺がどうこうなんて……」
「例え元々あったものだとしても、芽吹く切っ掛けがなければ芽は出ないよ」
ただ真っ直ぐとアラタに対して、自分がここまで来れたのは彼のお陰だと心からの感謝の意を伝えるシオンだが、一方でアラタは彼女自身に資質があったからで自分はなにしていないと首を振る。しかしそれでもここまでの道のりでシオンの中でのアラタの存在は大きかったらしく、謙遜しないで欲しいとばかりに微笑む。
「だからシオンはこれからもアラタ君と一緒にいたい。でもね……それだと今のままじゃダメだと思っているの。だって本当のアラタ君を知らないから」
不意に温かくも柔らかな感触を己の手に味わう。目の前にいるシオンのそのか細く白魚のような手が握っているのだ。するとシオンはそのままアラタとの距離を詰め、彼女の甘い匂いが鼻をくすぐる。
「学園の笑顔が増えてきたのは良いことだよ? でもそれでアラタ君の笑顔に陰りが生まれるのなら本末転倒だと思うんだ。だからシオンは心からのアラタ君の笑顔が見たい。これは学園のアイドルじゃなく、ただのシオンとしての願い……」
一見、ふざけているように見えて実際は相手をよく見てその心理になにがあるのかを見抜くことに長けている。それがシオンがシオン公国総統として、学園のアイドルとして、その確固たる地位を築いた理由なのだろう。だが今は一人の年頃の少女として、今の自分の心からの願いを口にする。
「シオンにとってアラタ君がそうだったようにシオンもアラタ君の支えになりたい。だからアラタ君が自分の道を歩む為にもシオンに少しはその重荷を分けてくれないかな……?」
それともシオンじゃ頼りないかな……? とアラタの胸の中に倒れこみながらか細い声を漏らすシオン。
シオンのこんな姿を見たのは初めてだ。普段の奇天烈からは想像もできない小さな少女の心からの想いにアラタはゆっくりと目を瞑ると目の前のブロンドの髪を撫でる。
「……ありがとう。本当に救われる言葉だ」
シオンがただ純粋にアラタを想っての発言であることは何よりアラタ自身、すぐに分かった。
その柔らかくも温かな思いに触れながら、アラタはシオンと距離を置く。
「俺のことはもう皆、知ってるんだろ?」
「うん……。昨日のフウゲツさんとのやり取りを少し聞いちゃって」
「……だったらしばらく考えさせて欲しいんだ。整理がついてないっていうか……。こうなった以上、俺なりに答えを出すから」
マリカといい、シオンといい、明らかにアラタのために行動を起こしている。
その気持ち自体は嬉しいものの、やはりなにが切っ掛けかを考えればフウゲツとのやり取り以外思い当たる節はなく、事実、その通りだったようだ。だからこそアラタはアラタなりの行動をしようとシオンに背を向けて一人、去っていく。
(……俺は……誰かの後ろに隠れて……誰かに頼りっぱなしだった昔の俺から変わったんだ……。変わった、はずなのに)
ここで安易にシオン達に頼るようでは結局、ユイの後ろに隠れていた弱い自分と変わらないのではないだろうか。
そんな弱い自分ろ決別したくて変わろうとしたのに、それが今では悪循環になってしまっている。このままではいけないというのは誰よりも分かっているのに、どうすれば良いのか分からぬままアラタは彷徨うのだった。