ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
パーツが乾くまで時間もあるし、他の子達のところにでも行ってあげて、とチナツに促されたアラタは一人、STARKを後にしていた。
これでマリカ、シオン、アヤ、チナツに会い、それぞれが持つ根底の想いに触れてアラタの心境にも響くものがあった。それは何より今のアラタ自身の心が崩れかけていたからだろう。
チナツの言葉に従うのであれば一緒に旅行に来て今日、まだ会っていないのはユイ、アールシュ、レイナの三人だ。しかし今、彼女達がどこにいるのかはアラタが知る由もないし、フウゲツから自身が抱えていた問題を聞いているのであればこちらから連絡をしようにも中々、気が進まなかった。
「……ん?」
自己嫌悪で人知れずため息をついていると不意に自身のスマートフォンに着信が入った。
何だろうと思って、取り出してみればトークアプリにレイナからのメッセージが届けられていたのだ。
・・・
(ここに来たのも昨日ぶりか……。連日来るなんて昔を思い出すな)
それから数十分後、アラタが訪れたのは昨日も訪れたことのあるゲームセンターだった。
このゲームセンターは幼いアラタやユイにとってガンプラバトルをする溜まり場のような場所であり、こうやって連日、足を運ぶとかつての日々を思い出して知らず知らずのうちに笑みを浮かべて懐かしんでしまう。
「あら来たのね」
「おかげさまで」
ガンプラバトルシミュレーターのコーナーを目指すとそこには先程、連絡してきたレイナがおり、その傍らにはアヤの姿もあった。アラタに気付いたレイナは微笑を見せながら迎えると連絡の段階では場所は指定されてもその用件までは伝えられてはいないようでアラタは肩を竦めながら応える。
「それで用件って?」
「──俺が呼んでもらったんだよ」
呼び出した張本人であるレイナに何用なのか、確認してみれば背後から唐突に声をかけられる。
振り返ってみればフウゲツが非常に人の悪い笑みを浮かべて立っており、アラタがこの場に訪れた段階で彼を驚かそうと物陰から様子を伺っていたのだろう。
「おいおい、そんなに嫌そうな顔してくれるなよ。流石の俺も傷ついちゃうだろ?」
「最っ悪だ。今すぐ叩き割りたい眼鏡№1に会うなんて」
不意に声をかけられたことに驚くのも束の間、相手がフウゲツだと知るや否や、露骨に顔を顰めるアラタにフウゲツは言葉とは裏腹にニヤニヤと笑みを浮かべており、神経を逆撫でしてくる。どうやらフウゲツ自身がアラタに連絡したとしても取り合わないだろうとレイナに頼んでこの場に呼び出したようだ。
「……それで用件は何だよ」
「同じニュアンスでもトゲがあるねえ。まっ、すぐに分かるさ」
昨晩のこともあってか、中々和やかに話そうという気にはなれないアラタに肩を竦めながらおどけつつもその視線をガンプラバトルシミュレーターの筐体へと向ける。
「……来たか」
そこにはアールシュがいたのだ。丁度、彼もアラタに気付いたようでその太陽を彷彿とさせる力強い金色の瞳と視線が重なる。
「その顔を見るに今日の短時間で濃密な時間を過ごしたようだな」
「どっかの誰かさんのせいでな」
アールシュがこれまでになかったどこか儚さの中に光る強さをアラタの顔つきから感じていると、これまでマリカ達一人一人と過ごした時間は濃密でアラタ自身、得るものがあったが元はと言えば先日の一件を話したであろうフウゲツに対しては思うところがあるのか、ジロリと見るも彼は口笛を吹いてどこ吹く風だ。
「破壊と創造……。ある意味、ガンプラビルダーにとっては身近なものであろうな」
話を戻すように厳格なままの口調で話すアールシュに視線を戻せば、彼はふと自身が持っていたケースに手を伸ばし、そこに納められていたガンダムシヴァを取り出す。
否、確かにそれはシヴァではあるもののアラタやレイナが知るシヴァとは外観に差異があったのだ。それはアールシュの言葉通り、手を加えられて創造されたシヴァなのだろう。
「それは人間においても同じことだと考えている。たった一つの出来事で今までの自分を簡単に破壊されてしまう」
先月、フウゲツとのやり取りもそうだろう。今まで数ヶ月の間に画していたアラタの本性はフウゲツとの短いやり取りの間にいとも簡単に崩れてしまい、ユイ達の知るところになってしまった。
「そうなってしまってはもう後戻りは出来ない。だが、また新たな自分を創造することが出来る」
後に残ったのはボロボロになったむき出しの心。しかしそこで終わることはなかった。何故ならマリカをはじめとした面々のそれぞれの考えや想いに触れることによって傷だらけの心は温かな想いに包まれようとしているのだから。
「ソウマ・アラタ。貴様もまたその時が来たのだ。弱い自分だと蓋をして隠すのではない、それさえも自分だと愛し抱きしめ……受け入れるのだ」
アールシュの周囲にはかつて共に過ごした見知った顔ぶれがいた。そんななか、アールシュはアラタに背を向けるとその人混みの中からまっすぐガンプラバトルシミュレーターへと向かっていく。
「……自分を救えない人間が救えるほど学園は……世界は甘くはない」
周囲の人々がガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいくなか、自分がこれから利用する筐体の前で立ち止まったアールシュは肩越しにこちらを見つめるアラタを見据える。
「……だが目の前で苦しんでいる人間がいると知れば手を伸ばしたい。そんな物好きで甘い連中が貴様の傍にいるのもまた事実だ」
その太陽を髣髴とさせる黄金の瞳はジッとアラタだけを見据え、やがてアールシュはガンプラバトルシミュレーターに乗り込んでいく。
筐体に乗り込んだアールシュがセットしたのは新たなシヴァ。脚部にガンダムキマリスヴィダールやバックパックのスラスターウイングにスーパードラグーンのパーツなどを組み込んで再誕したその名は──。
「ガンダムシヴァキラナ、出る」
それはまさに太陽から放たれた一筋の光。これまでも、そしてこれからも共に歩もうとする半身の如き存在に応えるようにシヴァキラナのツインアイが輝くとバトルフィールドへと出撃していく。
「あの人はまさに唯我独尊を地で行く人だけれど、それはあの人自身が誰よりも自分と言う存在の全てを明確に知っているからでしょうね」
バトルフィールドとなる大空を自由に飛行しながらマッチングしたプレイヤー機との戦闘が開始される。その苛烈且つ勇壮なシヴァキラナの姿をモニター越しに見つめながらアラタの隣に寄り添って静かに語り始める。
「弱くても良いの。無様だって構わない。どれだけ笑われ、どれだけ蔑まれてもこれが自分だって言える人の方が私は好きだわ。だって……応援したいし支えたくなるもの」
「……俺、は」
「仮面の下で涙を流しながらヒーローを演じる必要はないの。アナタは作り物のヒーローじゃなくてソウマ・アラタなのだから」
そっと包むようにレイナのか細い手がアラタの肩をふんわりと抱く。いかにか細くても抱かれたその肩は何よりも温かく温もりを感じられた。フルフルと震えたアラタは頭を垂れるとそのまま優しくその頭を撫でられる。
「まっ、本当の自分から目を背けるような奴がいくら学園の為に動こうと生徒会を倒せるだけが精々だろ。でも、そいつは根本的な解決にならない」
すると今度はフウゲツが頭を撫でられているアラタの隣に立って、その背中を軽く叩いて話しかけてきた。
「いつだって世界を救うのはLove&Peaceだろ?」
「Love&Peace……」
「知らないのか? 愛は負けないんだよ。それにガンプラバトルはビルダーの愛が形となったものが戦ってんだからな」
ウインクをしてくるフウゲツの言葉を反復してその続きを聞きながらモニターを見やればシヴァキラナは屈するという言葉が考えられないほどの目覚ましい活躍を見せては勝ち残っているのだ。
「ただ相手を傷つけることだけなら誰にだって出来る。けどな、誰かを救って……その心に触れることは誰もが出来るわけじゃない。だが昔のお前はそれが誰よりも出来ていた。お前がガンブレ学園で救ってきた奴等のことは聞いた。なら今度はお前自身を救って抱きしめてやれ」
生徒会を、ユウキをただ力で倒すだけでは解決にはならない。だがその前に誰よりも救わなくてはいけないのがアラタ自身の心なのだ。自分自身を救わない限り、誰かを助けるなんて出来はしないのだから。
モニターには勝利者となったシヴァキラナの姿が映るなか、アラタの心に今日一日の間に仲間達から送られた言葉が過ぎるなか、二日目を終えるのであった。
・・・
「帰省というのもあっという間なのだな」
「しょうがないだろー? 最終日の朝にここを発たなくちゃいけねえってんだから」
三連休最終日の朝。駅前ではゲンカイとフウゲツの姿があった。彼らの前にはこれから学園都市へ戻ろうとするアラタ達がいた。フウゲツが久方ぶりに会ったアラタとユイを名残惜しむゲンカクを宥めているとふとアラタと目が合った。
「俺さ、おかえりって言葉も好きなんだが、この言葉も好きなんだよ。なんか家族みたいで温かいからな」
アラタと目が合ったフウゲツはフッと柔らかく微笑むと、今まさにこの場から再び旅立とうとするアラタに向かって歩み寄ると、その頭を撫でながら彼の目と視線を合わせる。
「いってらっしゃい」
その言葉を聞いた瞬間、どこか優しい風が吹いた。
風が吹いた後、一瞬だけ震えたアラタがどんな顔をしたのかはそれは向かい合ったフウゲツだけが知るなか、二人に見送られてアラタ達はこの場所を発つのであった。
・・・
それから電車に揺られてかれこれ数時間。
お昼時も過ぎて夕暮れに時間が進んで行くなか漸くガンブレ学園のある学園都市へと戻ってきたアラタ達は疲れから身体を解していた。
「ねえ、アラタ君」
これからどうしようかー、などとチナツ達が話していると不意にユイがそっとアラタに声をかけてきた。
それはいつにもなく真剣で、それでいてどこか緊張した面持ちだ。その姿にアラタも息を呑むなか、彼女の言葉を待つ。
「少しだけ二人きりで話が──」
しかしその言葉が最後まで放たれることはなかった。
何故ならばアラタのスマートフォンに着信が入ったからだ。
「……リュウマ?」
なんと相手はリュウマだったのだ。
アラタから放たれたリュウマの名に何々?とチナツ達も食いついてくるなか、ごめんとユイに前置きをして電話に応答する。
《よぉ》
「……どうした?」
電話越しに聞こえるリュウマの声はいつもの溌剌とした様子はなく落ち着いたものだった。その普段との差に戸惑う部分はあるものの何用なのかを尋ねる。
《約束を果たそうと思ってな。きっと今じゃねきゃいけねえんだ。だから……来てくれるか》
リュウマとの約束……。後で、ではなく今でなければいけないというリュウマのいつにも増して真剣な頼みに戸惑う部分はあるものの了承して彼から詳しい場所を告げられたアラタはその場所へと向かうのであった。
これでアラタ編が終了です。そしてここから……