ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
愛は想いの果てに
『これからAIRBRUSH OF Zの部室でサイド0がバトルするから行ってみてっ♪』
──また来た。
今し方、放送部が使用するパソコンに届いたメールを読んでそう思ったのは部長であるシャクノ・リンコだった。
差出人はRECOCOと名乗る人物であり、サイド0が結成されてからというもの事あるごとにこの人物からサイド0が行うバトルに関する情報が突然、送られてくるのだ。
当初はサイド0に所属する者が行っているのだと考えていたのだがそれにしても回りくどいし、そもそもこのメールが送られてくるのは生徒会管理外のサーバーからだ。
「この恨み、晴らさでおくべきかぁ~~っ!!」
「……晴らさなくて良いんじゃないですかね」
結局、RECOCOなる人物が何者か分からぬまま指定された現場に足を運べば、今まさにバトルが行われようとする現場に出くわすのだ。それが役目というのもあり、自分達は流されるようにして実況を行ってしまう。
「さあ、勝利を組み立てようか」
……彼らサイド0に眩しさを感じながら。
・・・
「はぁっ……」
窓から茜色の光が差し込むこの夕暮れ時の放送部でため息をついたのはリンコだった。普段から溌剌としている彼女だが今に限って言えば元気がないように思える。
「元気ないわね、リンコちゃん」
そう言ってそっと両肩に手を添えられる。見上げるように後方を見ればそこにはこちらを見下ろして微笑むレイナの姿があった。第10ガンプラ部とこの放送部を掛け持ちしている彼女だが今日は放送部の手伝いをしているようで部室内にはリンコとレイナの二人しかいなかった。
「あぁいえ、別にこれといったことはないのですが……これまでのサイド0のバトルを振り返っていまして。レイナさんは親密な間柄だとお見受けしますが」
「そうね。仲良くさせてもらっているわ」
すぐさまリンコはいつものように活気ある笑顔を見せながら自身のパソコンを指すと確かにそこにはこれまで放送部が校内に配信していたサイド0の数々のバトルの映像が流されていたのだ。
「純粋に凄いと思うわ。今では彼らの影響力だって生徒会は無視できないものにまで膨れ上がっている」
「そうですね。これもあの自らを天才と称するソウマ・アラタの才覚でしょうか」
「良くも悪くもそうでしょうね」
ガンブレ学園において圧政を強いてきた生徒会だがサイド0の台頭によって今ではその喉元にまで迫られていると言っても過言ではないだろう。それもやはり転入生であり、サイド0のリーダーたるソウマ・アラタの才能によるものかと考えているのだがそれを聞いたレイナはどこか複雑そうな面持ちだ。
「……少しお話に付き合ってもらってもよろしいですか?」
「ガンブレ学園が誇る名実況者の話とあらば喜んで」
二人だけの空間ということもあってか、普段の活発な放送部部長としての姿は鳴りを潜め、どこか陰を見せたリンコは視線を俯かせながらポツリと零すと、レイナはフッと微笑んでどこか気取った物言いで彼女の隣に腰掛ける。
「……時折、私は卑怯だなと……感じる時があるのです」
卑怯……。リンコが自らをそう口にしたその言葉の意味に耳を傾けるようにレイナはチラリと彼女を見やる。
「ガンブレ学園はご存知の通り、弱肉強食の世界です。強者は栄光を掴み、敗者は土を噛み締める……。ですが放送部は……私は……そのどちらでもなく安全な場所から対岸の火事を眺めているだけなのです」
バトルを実況するという立ち位置から放送部、特にその実況に一定の評価を持つリンコはバトルに限らずとも学園内においては強者にはなれずとも弱者になることはない。言ってしまえば明日は我が身かもしれないガンブレ学園のヒエラルキーにおいて彼女は既に安全圏を築いているといっても過言ではないだろう。
「バトルの数だけドラマがあります。私はバトルが得意ではありませんがそこで生まれるドラマの感動を広く伝えたいと思いプロの実況者になろうとガンブレ学園の門を潜りました」
「それでリンコちゃんは結果を残しているじゃない。少なくともリンコちゃんが言う安全な場所を作れたのは貴女自身の力よ」
世界的に流行しているガンプラにおいてガンブレ学園はその道での就職先など多様に存在する。
リンコもまた己の夢を抱いてガンブレ学園に入学したようなのだが、それを話すリンコの表情は暗い。しかしいくら彼女が自嘲しようともここまで来れたのは彼女の実力だ。その点は誇ってもいいはずだ。
「……ありがとうございます。でもサイド0の姿を見ているとそう感じずにいられません。私はこれまで多くの涙を見てきました。ですがサイド0はその涙に対して手を差し伸べられる。彼らは逆境にいるからこそ手を差し伸べることが出来るのです。ですが我が身を危険に晒さず安全な場所でのうのうとしている私には……そんな資格はない」
逆境の中にいるサイド0と安全な場所から実況をする自分。彼らの活躍を目にすればするほどリンコ自身がそう感じてしまったのだろう。
「……私はね、今のガンブレ学園は大切な何かを失った人達が集まるのだと思うの」
唇を噛み締めてギュッと俯くリンコに対して、今まで静かに彼女の話に耳を傾けていたレイナは静かに口を開く。
「それは人によって様々で取り戻すことが難しいものだってある……。今の私にリンコちゃんの気分を晴らすだけの言葉は見つからない。でも……例え幾ら自分を卑下しようとも自分にしか出来ないことはあると思うの」
そう言ってレイナは静かに席を立つと、茜色の空が覗かせる窓辺にまで歩み寄る。
「リンコちゃんの実況は誰だって出来ることじゃない。確かにバトルの数だけドラマがある。でもそのドラマに彩りを与えられるのはリンコちゃんをはじめとした放送部だけよ」
バトルに対してそれを見る者の胸をより熱く感動させる。それこそが実況だ。
そしてその実況も誰だって出来ることではないのだ。
「リンコちゃんがいるからサイド0の活躍をより多くの生徒達の胸に響かせることが出来る……。貴女は胸を張っていいわ」
「……でも私がサイド0のバトルを知れているのは」
「例えなんであれ、足を運んで全力を尽くしているのはリンコちゃんよ。だから思い出して、アナタの夢を。そうすればきっと情熱だってもう一度燃え上がるわ」
サイド0のバトルを知れているのはRECOCOと名乗る人物のお陰であり、自分ではない。
しかしその情報を無碍にはせず、現場に向かって全力を尽くしているのはほかならぬリンコ率いる放送部であろう。その頑張りを知っているからこそレイナはリンコに対して激励を送る。
「……ありがとうございます。少しは楽になれた気がします」
「ガス抜きは必要よ。またいつでも付き合うわ」
アイゼン・レイナ……。彼女が持つ包容力のお陰だろうか、自身の悩みを聞いてもらったからかリンコの表情は心なしか明るくなったように見えた。そんなリンコに対して窓辺に寄り添うレイナは微笑む。
「よぉーし! 明日からも頑張りますよーッ!」
鬱憤を晴らすことが出来たのだろう。パチパチと頬を叩いたリンコはいつものように溌剌とした様子で天高く拳を突き上げる。そこにいるのは紛れもなくガンブレ学園を代表する実況者だ。
「あっ、一つ気になったことがあるのですがこの際、よろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
凝った身体を伸ばしながらこちらへ微笑んでくれるレイナに対して、ふと疑問に思ったことを問いかけようと顔を向けると彼女はコクリと頷いてくれた。
「レイナさんも……失った何かがあるのですか?」
彼女は今の学園は大切な何かを失った者達が集まる場所を形容していた。
もしもその言葉の通りなのであれば、彼女もまたなにかを失ったのだろうか。
夕暮れの太陽が沈み、窓から強く目が眩むほどの茜色の光が差し込むなか、その光を背に受けた彼女はその言葉に僅かに息を呑むと……。
「──友達、かしら」
そう語る彼女の表情を茜色の光が遮って、向かい合うリンコには見ることは叶わなかった。
・・・
「はぁっ……今日も遅くなっちゃったわね」
夜道をため息混じりにぼやきながら歩くのはガンブレ学園で教鞭をとるアイダだった。
今日の職務を終えたのだろう、顔には薄らと疲労の色が見て取れる。
(でも、アラタ君達も頑張ってるんだし、私もここでめげるわけにはいかないか)
サイド0の活躍はアイダもよく知っている。だからこそこれくらいの疲労で根を上げていられない。あの若さで頑張ろうとしている彼らを想えばこれくらいヘッチャラというものだ。
「ごっめーん、遅くなっちゃったかしら?」
漸く自身が暮らすマンションに到着したアイダは玄関の扉を開いて足を踏み入れていく。
彼女の口ぶりから、どうやら一人暮らしではなさそうだが果たして誰に向けたものなのだろうか。
「あれ、いないの?」
室内は真っ暗であり、証明をつけていくら周囲を見渡しても人の気配はない。
同居人の姿が見えないことにアイダは眉を寄せながら心配そうに同居人の名を口にする。
「ルティナちゃん、どこにいったのかしら?」
それはこの数日のうちに知り合った奇妙な同居人の名前。しかしこの場にはいないその人物の名はアイダしかいないこの部屋の中で静かに消えていくのであった。
・・・
「ふぅん、やっぱりこの世界で間違いないかなー」
夜のガンブレ学園。都市開発の要だけあって警備もあるこの学園だがその放送部には全くの関係者でない人物の姿があった。その人物がいるのはリンコのパソコンの前であり、どうやらプロテクトも突破しているようでサイド0のバトルの映像を眺めていた。
「あはっ、心が弾むなぁ」
金色の瞳を持つ少女は月光に照らされながら口角を吊り上げる。
彼女の名はルティナ。近くには幾つかの未使用のインナーフレームが置かれるなか、映像内のG-ブレイカーを見てさながら獲物を前にした獰猛な獣のように舌なめずりをするのであった。