ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
G-ブレイカー・起動!
今日も心地の良い青空が広がる早朝の下、人々は仕事など目的の場所へ向かうなか、ガンブレ学園も生徒達が一人、もしくは友人との会話を楽しみながらなど様々な形で登校してきていた。
「ねっむ……」
その中には自称天才の姿もあった。徹夜でガンプラを仕上げ、歓喜していたのは良いが、そのせいで今、ドッと眠気が襲い掛かっており、鈍い動きで重い瞼を腕で擦る。
後少しで校門だ。
しかし校門に近づくにつれ、他の生徒達の顔に緊張の色が宿り、僅かに強張っていく。
その原因は校門の前で何かを待つように腕を組んでいる人物によるもののようだ。
「……」
リョウコだ。
まさにクールビューティーの名が似合いそうな彼女はその場にいるだけでキリッと空気が引き締まる。
そんな彼女の目は気怠そうに歩いているアラタに注がれている。どうやら目的はアラタのようだ。最もそのアラタは寝不足で頭の中がぼんやりとしているために、リョウコの存在に気付いていないようだ。そんなこことは露知らず、リョウコはアラタに声をかける。
「……ようやく来たか」
(まだ余裕もあるし、教室で寝てよ……)
「……?」
(隣の席は委員長だったし、授業が始まれば起こしてくれるでしょ)
「……おい、聞いているのか?」
(最初の授業ってなんだっけ……。あぁダメだ、思い出せない)
「おーい……?」
(まあ俺は天才だし、どうにでもなるだろ……)
「む、無視するなぁっ!」
「うあぁっとぅっおはよぉぅっ!?」
突然、大きな声が聞こえたと思えば腕をいきなり掴まれたため、驚きのあまり震え上がりながら、とりあえず挨拶する。
何にかと思い、振り返ってみれば、こんなこと初めてだったのだろう、若干、涙目のリョウコが自分の腕を掴んでいた。
「あ、あぁ……先輩か。え、なに? 俺のこと待ってたの?」
「コホン……察しが良いな。流石、ユイがリーダーに選んだだけのことは……いや、気づかなかったのは減点だ。そういうのは良くないぞ」
「とりあえず手を離してくださいな」
「え……? す、すまない! ほ、本当は、こんな不意打ちのような真似は本意ではないのだが……」
リョウコの顔を認識して、安堵しつつも首を傾げる。彼女が自分に何の用があるというのだ。……いやまあ、生徒会に盾突くのだから用しかないだろうけども。
男性に触れることには慣れていないのか、一度咳払いをして平静になろうとするもアラタの指摘に自分の腕を見ると慌てて手を離す。
「実はその、なんだ……。お前に興味があってな。少し、付き合ってもらえるか?」
「えーっ」
「なに、ちょっとしたことだ。ホームルームまでに終わる」
正直、眠気があるのでご遠慮願いたいのだが、半ば強引に連れて行かれてしまうのであった。
・・・
二人が移動したのは三年生が使用するバトルルームであった。元々、生徒会がバトルシステムの使用を管轄しているとはいえ、この時間では誰もこの部屋にはいなかった。
そんなバトルルームで、リョウコはバトルシステムのセッティングを行っていた。
「よし、設定はこれで良いな……。悪いが、少しミッションに付き合って──」
バトルのセッティングも終わり、後ろで待たせているアラタに声をかけようと振り返る。
「バトルか? バトルなんだな!? 早くやろう、すぐやろう、今すぐやろう! こんなにすぐにバトルが出来るなんて最っっっ高だぁあっっ!! フゥゥッフゥゥゥゥゥゥゥゥーーッ!!!!」
先程まで眠気に襲われて、気怠げであったにも関わらず、バトルが出来ると知れば、どこからそんな元気が出てくるんだと思ってしまうほど、ハイテンションで頭を掻き毟って歓喜のあまり狂乱している
「あ、ああ……。早朝だから渋られるかと思ったが杞憂だったな」
「俺は早朝から焼肉でも全然、OKなタイプですよっと」
あまりの姿に頬も引き攣ってしまう。
そんなリョウコを知ってか知らずか、一刻も早くバトルがしたいアラタは、満面の笑みのまま跳ねるような足取りでバトルシミュレーターへ向かうと、そのまま乗り込んでいく。
自分から声をかけた筈なのに、置いてけぼりとなってしまったリョウコは我に返って、慌てて自身もバトルシミュレーターへ向かっていくのであった。
・・・
シミュレーターの座席に乗り込んだアラタはすぐさまGBをセットし、バトルシステムにログインすると、表示された待機画面を他所にケースからクリアパーツが光るG-ブレイカーを取り出す。
「世界でたった一つしかない俺の……俺だけのガンプラ」
両手で持ったG-ブレイカーをジッと見つめると、沸き上がる嬉しさに目頭を熱くなるのを感じながら、コツンと額に合わせ、バトルシステムにセットしてスキャニングさせると、モニターはカタパルト画面に切り替わり、バトルシステム上にG-ブレイカーが表示される。
「ああ、そうだ。今すぐ飛び出したいんだよな」
まるで産声を上げるかのようにシステム上に投影されたG-ブレイカーは駆動音を響き渡らせる。連動して振動するシミュレーター内で我が子を慈しむような優しい笑みを浮かべながら、撫でるようにしてジョイスティックを握る。
「一緒に最強が何か証明しよう」
今の自分の前に誰が現れようが負ける気はしない。何故ならば、自分のガンプラこそが最強だという自信があるのだから。
「ソウマ・アラタ……G-ブレイカー、行きますッ!!」
パーフェクトパックから光輪を放ちながら、飛び出したG-ブレイカーはカタパルトを駆け抜け、オンラインへと繋がるワームホールを通り抜けていくのであった。
・・・
「それは……新しいガンプラか」
リョウコが設定したバトルステージは密林地帯であった。
鬱蒼と覆い茂る木々の近くにG-ブレイカーは降り立つと、遅れてパルフェノワールも現れると、初めて見るG-ブレイカーに興味を示していた。。
「……素晴らしいな。凄く美しくて、それでいて愛を感じる」
別にお世辞ではない。そもそもリョウコ自身、お世辞が苦手な人間だ。バトルシステム上に投影されたG-ブレイカーの出来は素晴らしいと心から言える。
傷一つない各部のクリアパーツは命が宿っているかのように確かな輝きを放ち、それに負けぬほどプロポーションも塗装も計算され尽くしている。これは他の生徒にも参考にさせたいくらいだ。
「自分のことを言葉で語るのは簡単だが……ガンプラバトルを通じてならば、より雄弁に、相手に想いを伝えられる……私はそう信じていてな。理想論ではあるのだが、それでも、私には千の言葉で尽くすよりも説得力のある方法だ」
「いやはや、情熱的だ」
「茶化すな。だが実際、私はお前のガンプラから愛を感じた。しかし私が感じただけが全てではない筈だ。私にもっとお前の想いを感じさせてくれ。生徒会に抗うと豪語するのであればな」
茶化したつもりはないのだが、どうにもこの飄々とした態度はそう取られてしまうらしい。
人知れず反省するなか、センサーに反応があり、周囲には次々とNPC機体が出現していく。
「無論、私も戦う。置いていかれないことだな」
「なに言っちゃってんですか。ならここで最強を証明しますよ」
すると素早く前腕部を切り離し、NPC機体達へのオールレンジ攻撃を仕掛けていく。
どうやらただ自分のバトルを見ているつもりではないらしい。
しかしだ、そこまで言われてなにもしないつもりはない。次の瞬間、光の尾のような噴射光と光輪を発しながら、G-ブレイカーは空に舞い上がる。
「いけるな、G-ブレイカーッ!!」
呼びかけに応えるようにG-ブレイカーのツインアイはキラリと輝くと、その機体色を赤色に染める。
これはパーフェクトパックの機能の一つ、アサルトモードを発動させた証だ。バックパックのスラスターを変形させてビームキャノンに切り替え、砲口を向けると、高出力の二連装ビームを解き放ち、群がるNPC機を文字通りの消し炭にする。
だが、まだ数は残っている。爆発の中、何を逃れたNPC機がG-ブレイカーに攻撃を仕掛けようと、上方に射撃兵装を向けた時だった。
──もう既にG-ブレイカーは目の前にいたのだ。
そのまま頭部を蹴られて、よろめいたところをビームライフルで撃ち抜かれてしまう。
周囲の機体がG-ブレイカーに攻撃を仕掛けようとする。しかしその全てが悉く直前に自機を破壊されてしまう。針のように鋭いビームサーベルを引き抜くと、一分も経たぬうちに出現したNPC機を殲滅したのだ。
「最っっ高だぁ、G-ブレイカーッ! お前は俺の動き全てに応えてくれるッ!!」
G-ブレイカーの性能は素晴らしかった。それは作成したアラタ自身の予想をはるかに上回るほどに。
自分はただジョイステックを操作してるに過ぎないというのに、まるでバトルフィールドに手足を得たかのような何の柵もない解放感と自由度を感じるのだ。あまりの嬉しさと高揚感に歓喜してしまう。
「だからこそ俺もお前の全てを引き出すッ!」
自分もG-ブレイカーの性能の全てを引き出してあげたい。
宝の持ち腐れにならないように、それこそ妙な言い方ではあるが、ガンプラが満足してくれるように、ガンプラが自分に使われて良かったと思ってくれるように。
「さあ、勝利を組み立てようかッ!」
翔べ、G-ブレイカー。
今この瞬間、君が
・・・
「……楽しそうだな」
それがアラタとG-ブレイカーの戦いを見ての感想だった。
まさに今、G-ブレイカーは子供が自由に駆け回るように、無邪気なまでフィールドを翔けているのだ。
もう自分が出る幕もないだろう。そもそも開始した時点からG-ブレイカーの独壇場だったのだから。
「……やはり、お前ならもしかしたら」
G-ブレイカーを眩しそうに見つめながら、リョウコは一人、確信を胸に宿すのであった。
・・・
「見た? 見てた? 見てたよね!? どうだった!? 凄いでしょ? 最っっ高でしょ!?」
「……ああ、しかと見ていた。あの場の主役はお前だ」
バトル終了後、まるで幼い子供が自慢してくるかのように満面の笑みで詰め寄ってくるアラタに幼い弟がいれば、このような感じなのかな、なんて思いつつ、微笑みながら称賛する。
「しかし、自分で誘っておいて何だが、まさか一人で来てくれるとはな……。いや、助かってはいるが」
とはいえ、こうやって和やかに話しているが自分達は対立している身の上。
敵対している者について来ただけではなく、満面の笑みで詰め寄ってくるこの状況に苦笑しながらも、ふとリョウコは目を鋭い眼光を突きつけ……。
「罠だ、とは考えなかったのか?」
「考えなかった」
即答されてしまった。
しかもその問いに対して興味はないようで、より興味のあるG-ブレイカーを色んな角度で見つめている。
「ガンプラバトルを通じてならば、より雄弁に、相手に想いを伝えられる……でしたよね。少なくとも俺がバトルしたアナタはそういうことする人ではない」
「……大物と言うべきなのか」
一通り、G-ブレイカーを鑑賞し終え、うっとりとした様子でケースにしまうと、リョウコに向き直りながら、断言したのだ。
思わず呆気にとられるリョウコだが、答える代わりにアラタは微笑を浮かべながら三本指をクルリと回す。
「……だが甘すぎるな。ユイが知れば叱られるぞ、きっと」
「えーっ? でも、先輩とだったら喜びそうだけど。それにユイねぇ……えーっと、ユイ先輩も結構、甘いし」
「それはまぁ……否定はせんが」
砕けたように軽く笑いながら、ユイについて話すが、寧ろ先日の下校でのユイを思い出す限り、リョウコを悪くは思っていないだろうし、大体からして、ユイも存外、甘い性格なので叱られるまではしなさそうだが。
「ともあれ、時間をとらせ──「えっ、なに締めようとしてるんですか?」……え」
元々、アラタはバトルをするつもりがなく、連れて来られた為、時間に関しては計算していない。
時計を見る限り、ホームルームには余裕で間に合うだろう。もう少し時間がかかるかと思ったが、アラタの実力は予想以上だった。だが、ここでお開きにしようとした時、待ったをかけられた。
・・・
(サイド0結成が嬉し過ぎて、ついつい夜更かししちゃったなぁ……)
一方、三年の教室に続く廊下を歩きながら、ユイは口元に手を添えて、欠伸をする。
しかしサイド0結成は彼女の中で大きかったのだろう。ついつい頬が緩んでしまう。
「──えぇい、いい加減にしろ!」
(リョウコ!?)
すると遠巻きにリョウコの声が聞こえ、嬉しさも束の間、驚いてしまう。
なにやら困ったような声だったのだ。
「やだやだぁーっ! 絶対やるんだーっ!!」
(ア、アラタ君まで!?)
何事かと思い、目を凝らしてみれば、リョウコを追うようにしてアラタが姿を現したのだ。
「あんなので満足できるわけないでしょ!? 生殺しにも程があるよ、人を誑かしてその気にさせておいてさぁ! あれは俺の
「ちょっと待て! その発言は誤解を与えかねん! 主語を言え、主語を!!」
「先っちょだけ! 先っちょだけだから!!」
「先っちょってなんだ!?」
G-ブレイカーのデビュー戦に完全に火がついたアラタはガツガツとリョウコにバトルを持ちかけていた。クールな印象を受けるリョウコがここまで取り乱しているのと、その会話の内容に生徒達は何事かとヒソヒソと話している。
「えぇっ……」
ユイもその一人だ。
リョウコを昔はもっと笑っていたと言った覚えがあるが、今の学園であんな姿を見るとは思わず、ただただ困惑するのであった。