ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
アラタの危機
(ねむっ……)
三連休から既に一週間が経過した早朝。ガンブレ学園へ登校しようとする生徒達の中にはアラタの姿があった。今日はどうやら一人で登校しているようだが、そんな彼の姿は傍から見ても眠気に襲われているのだろうというのは簡単に見て取れた。
というのもアラタは今日、己の新たなガンプラであるν-ブレイカーを徹夜で仕上げており、そのままの流れで登校したせいで眠気は既にピークを達しており、下手をすれば今にも倒れそうなほどだ。
(……今日はどんなことがあるかな)
惚けた頭でガンブレ学園を捉えたアラタの口元に笑みが零れる。
元はと言えば、自分の弱さが生み出した仮面を被っていたわけだが仲間達はそんな仮面を割り、共にいることを許してくれた。あの出来事があったからこそ今は弱い自分を素直に受け入れられるし、そんな自分も受け止めてくれる仲間達のことを想うと、今までよりもより一層、この心は温もりが溢れていく。
「……待っていたぞ、アラタ」
今にして考えれば結局、自分が勝手にそうしていただけなのだ。
きっと最初の時点で自分の弱さを曝け出せたとしても受け入れてくれたのではないだろうか。そう考えると自分の愚かさを呪いたくなる。
「……雰囲気が変わったな。三連休にでもなにかあったか?」
だが今更、あの時あぁしていればと考えたところで仕方ないことだろう。
今、考えるべきかは誇らしい仲間達とこれから何を
「……えっと……。お、おーい……?」
その為には生徒会をどうするかだ。
激突はもう避けられないだろう。だがしかしリュウマをはじめとした多くの仲間達から温もりを受けた今、ただ単純に倒せば良いと考えるのは違うようにも思える。戦うにしてもただ戦うのではない。生徒会に、ユウキに対して自分は──。
「無視するなぁっ!」
「スカイハィィッ!!?」
……と思考に耽っていると目の前に涙目のリョウコの姿が飛び込んできた。
気付けばもうガンブレ学園の校門前であり、目の前にはリョウコ、そして同じようにこの校門を通るであろう他の生徒達からはまたやってるよとばかりの視線が突き刺さる。
「お、おはよう。どうしたのよ、リョウコちゃん。なんか可愛そうなことでもされた?」
「たった今な。全くお前は毎回毎回……」
リョウコの存在に気付き、何故彼女が涙目を浮かべているのか尋ねてみればジトッと恨めしそうに見られてしまった。
「コホン……。生徒会傘下のチームを全て倒した話は聞いている。どうやらお前達の強さは本物だったようだな」
「ああ、最っ高のチームでしょ。ところでリョウコちゃんを見るにまた俺を待ってたようだけど、もしかしなくてもバトルルーム?」
「ああ、少し時間をくれないか。ひとつだけ確認しておきたいことがある」
気を取り直すように咳払いをしたリョウコはこれまでのサイド0の活躍を振り返る。
ショウゴ、サカキ、シロイ、そしてランキングバトルなど気付けば転入してから今日までの短い時間でかなり濃密な時間を過ごしたように思える。そんな日々を振り返りつつ以前もこうしてリョウコに声をかけられたことを思い出して話しかけるとどうやら目的はバトルだったようで頷いたリョウコのもと、二人はバトルルームへと向かう。
・・・
「お前達は確かにここまで勝ち続けてきた。それは紛れもなく、その強さの証明となる」
かつての日と同じでバトルルームでリョウコが馴れた手つきでシミュレーターの設定を行うなか、これまでのサイド0の輝かしい戦績を振り返る。
「だが彼は……生徒会長は強い。あれに勝つにはその渇望に匹敵する何かがなくてはならない」
リョウコはかつてユイと共にユウキとバトルをして、敗れた。
彼の強さを身をもって知っているからこそこれから挑もうとするアラタにそれに見合うだけの何かがあることを知りたいと思ったのだろう。
「それがお前にあるかどうか……確かめさせてくれ」
設定を終えたリョウコは神妙な顔つきでアラタへ向き直る。
今更、彼の実力を疑うわけではない。だがそれだけではダメなのだ。そう考えたからこそアラタをわざわざこんな早朝から連れ出した。果たしてこれから彼はどれだけの姿を見せてくれるのか、期待感と共に彼を見れば……。
「バトルゥッバットル~♪ やっぱリョウコちゃんは最っっ高だなぁっ! ずっっっとバトルがしてみたいって思ってたんだよ! 俺のガンプラ、早く動かしてえぇぇえっ! フウウウゥゥッッッフウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーゥウウッッッ!!!!!!!!」
そこには頭を掻き毟って狂喜乱舞している変人の姿があった。
彼は確かに仮面を被っていたが、どうやらこういうところは元々の地だったようではち切れんばかりの笑顔でバトルの時を待っていた。
「あ、あぁ……。よ、喜んでもらえて何よりだ……。じゃあ、早速……」
「バトルスタートだなっ!」
分かっていたとはいえ、いつ見ても馴れないものだ。
呼び出したのはリョウコの筈なのだがアラタの勢いにすっかりと圧されたまま二人はシミュレーターへ乗り込んでいく。
・・・
「最っ高だ」
ガンプラバトルシミュレーターに乗り込んだアラタはν-ブレイカーをセットすると表示されたカタパルト画面を見て、出撃の時を今か今かと待ち構えていた。
「今の俺は逃げも隠れもしない。きっと今なら空より高く飛べるって思えるから」
心臓の鼓動が早まり、自分が尋常でなく興奮しているのが感じ取れる。
だがそれは仕方のないことだ。今まさにここにいるのはありのままのソウマ・アラタであり、これから共に駆け抜けようとしてくれるガンプラはそんな自分と飛ぶために新たな翼を手に入れた。それもこれも全ては最高の仲間達のお陰だ。
「最高がなにか証明しよう」
最強かどうかに拘るつもりはもうない。今この瞬間、自分は最高を求めている。
きっと今ならそれが何であるのかも分かる気がするから──。
「ソウマ・アラタ。ν-ブレイカー、行きますッッ!!」
創造の翼は飛び立つ。
ただ純粋に今、この瞬間を最高のものにするために。
・・・
「……さて、アラタは」
リョウコとアラタ、二人が共に出撃したバトルの舞台となったのはいくつかのピラミットが点在する砂漠のステージであった。砂漠のステージで真っ先に考慮しなくてはいけないのはその不安定な足場であろう。
早速、砂の大地に足を踏みしめたパルフェノワールを操るリョウコは足場に注意を払いつつ、僚機であるアラタの姿を探せば……──
一陣の風が吹いた。
見上げた先に映るのは光り輝く太陽の下を飛ぶ創造の翼。煌々とした輝きはビルダーが宿した温もりと希望を表すかのように各部のフォトン装甲を煌かせたν-ブレイカーの姿があった。
そこからはあっという間と言っても良いだろう。元々の高性能を誇るG-ブレイカーを改良したガンプラであるν-ブレイカーの性能は目を見張るものがあり、バトルが開始されたと同時に出現したNPC機は瞬く間に殲滅されてしまった。
「自由、だな」
何故そう感じてしまったのか。しかしν-ブレイカーのバトルを見れば見るほどそう感じずにはいられなかった。
それはまさに枷を全て取り払ったかのように弾むようなリズムでフィールドを翔けるν-ブレイカーは何と無邪気に映ることか。
だからこそなのかもしれない。
そんなν-ブレイカーが、アラタがどこか羨ましかった。
「なにやってんだよ、リョウコちゃん」
「えっ!?」
「ボサッとしてるとやられちゃいますよ」
飛び跳ねるようなν-ブレイカーの姿を目を細めて眩しそうに見つめていると通信越しにアラタの声が聞こえてきた。突然のことに身体を震わせていると既にフィールドにはボスキャラクターである翼竜を思わせる巨大MA・ハシュマルの姿を確認することが出来た。
「それともリョウコちゃんじゃあ、俺に付いて来る事は出来ないのかなぁ」
「ふっ、分かり易い挑発を」
どこかわざとらしくからかってくるアラタにやがて自信に満ちた笑みを浮かべるとリョウコは視線を鋭くハシュマルを見据え、ジョイスティックを握り直す。
「この私を舐めてもらっては困るッ!」
パルフェノワールのツインアイが力強く輝き、二つの腕部5連装メガ粒子砲を展開すると目まぐるしい動きでハシュマルへ向かい攻撃が開始される。それはまさに荒れ狂う嵐のようであり、一度でもこちらの動きを乱されれば全てを消し去られるかのような勢いだ。当然、巨躯を誇るハシュマルといえどその堅牢な装甲は瞬く間に損傷を与えられていく。
「さっすが、リョウコちゃんっ!」
嵐を巻き起こすパルフェノワールの活躍に笑みを浮かべたアラタもまた攻勢に加わっていく。すぐさまν-ブレイカーをアサルトモードに変化させると二つのビームライフルを連結させて、三つの高出力ビームを解き放ち、ハシュマルに直撃を与えたと共にパルフェノワールの隣に降り立つ。
怒涛の砲撃を受けたハシュマルはν-ブレイカー達からは姿が見えないほどの硝煙が上がっている。しかしその黒煙から獲物を貪るかのように無人随伴機であるプルーマが飛び出してくる。
「はっ──」
「ふっ──」
しかしここにいるのはガンブレ学園でもトップクラスのビルダー達。ガンダムシリーズの知識のみならず、その実力は虚を衝くように飛び出してきたプルーマに対して瞬時にビームサーベルによる一太刀で切り捨てて見せたのだ。
「さあ、勝利を組み立てようか」
頭の中に組み立て説明図のようなイメージが広がると人差し指で目尻の辺りをトンと軽く叩いたアラタは不敵な笑みを浮かべながらハシュマルに宣言する。
そのまま更なる攻撃に打って出ようと接近する二機のガンダムに対してハシュマルは天高く飛び立つ。
何とハシュマルは背部に備わる超硬ワイヤーブレードをさながら苛烈に降り注ぐ雨のように放ってきたではないか。
だがν-ブレイカーもパルフェノワールも臆することなく突き進む。目の前に降り注ぐ攻撃がなんだ、そんなもので自分達を止められると思っているのかと言わんばかりに。
「これでどうだッ!」
その声に高揚感を宿しながらパルフェノワールはハシュマルの懐に飛び込むと自身に備わる全ての武装を解き放って至近距離で大きな損傷を与え、ハシュマルの巨体を揺らがせることに成功する。
「……無茶してくれちゃって」
だがそんなことをすれば当然、パルフェノワールも無事ではない。硝煙の中から傷ついたパルフェノワールの姿を確認しながらν-ブレイカーは大きく飛び立つ。
「けどそう簡単に俺達は止められないぜ」
アラタ自身が感じている高揚感を表すようにν-ブレイカーが太陽にも負けぬ紅き輝きを纏う。
それはまさに彼が新しい自分にへと覚醒したかのようにこの世界中のどこまでも広げるように輝く。
「止めれるもんなら止めてみなっ!!」
高トルクモードと覚醒を併せた一撃がハシュマルの頭部に放たれる。
無鉄砲なまでに今を全力で駆け抜けようとする若者の情熱と力強さを止める手段を待ち合わせぬ機械人形はナノラミネートアーマーごと制御中枢ユニットを粉砕されて砂漠の地に伏せるのであった。
・・・
「フウゥゥッフウウゥッ! 最っ高だぁ!」
バトルを終えたアラタは興奮冷めやらぬ様子で楽しそうにシミュレーターから姿を現す。その姿はまさに幼子のようで後から出てきたリョウコもその姿に微笑む。
「お前は本当に楽しそうにバトルをするのだな! 成る程……。これがユイの……サイド0メンバーの原動力か。こんなに楽しそうにバトルするのなら……ああ、強いだろうな!」
「これも全部、仲間達のお陰だ。ありのままであれ。それで良いんだって分かったからさ」
先程のアラタのバトルについて面白いものが見れたとばかりにどこか興奮気味に評価するリョウコに対して、アラタは無邪気にくしゃっとした笑みを浮かべながら三本指をくるりと回す。
「それにリョウコちゃんも楽しそうに見えたけど?」
バトルをしてただ楽しかったのではない。
共に出撃したリョウコと歓楽を味わうことが出来たからこそ、この高揚感は生まれている。それはきっとリョウコもだろう。何故、そう思えるのかは先程のバトルに熱中していたリョウコを見れば一目瞭然だ。
「……私が? 本当に?」
しかしリョウコ自身、その自覚はなかったのだろう。訝しむように眉を顰めると自分でも先程のバトルを思い出したのだろう。やがてわなわなと顔を真っ赤にして慌てだす。
「ま、待てっ! 落ち着け……! それはちょっとした見間違いというかなんというか……っ!」
「落ち着くのはリョウコちゃんでしょ。とりあえず深呼吸でもしなさいな」
別に楽しければそれでいいではないかと思ってしまうが、リョウコはそれについて認めようとはしない。
そのことについて不可解に思えてしまうのだが、とりあえず彼女を宥めようと促せばリョウコは言われたままゆっくりと深呼吸する。
「……一応、言っておく。恐らく次のバトルの相手は私と副会長、そして会計であるアカリとなるだろう」
深呼吸の甲斐あってか、落ち着きを取り戻したリョウコはいつもの神妙な面持ちで来るべき生徒会との対決について話し出す。
「副会長は現生徒会長に固執している。お前達が生徒会を倒そうとすれば必ず立ち塞がることになる。そして今の副会長とチームを組めるのは私とアカリを含めた限られた者だけだ。だから私は必ず戦うこととなる」
確かにユウキと一緒にいるセナを見たことはあるが、自分を遠ざけるように彼に対して固執しているのは見て取れた。そしてそんなセナと組める者は数少ないという。だからこそどの道、サイド0はリョウコとは刃を交えねばならない。そう語るリョウコはどこかもの悲しげに視線を伏せる。
「だが手加減の必要はない。寧ろ全力で私とぶつかって欲しい。生徒会は……あまりに多くのモノから目を逸らしすぎた。私達が変わるにはもう全力で戦い、敗れる以外にない」
「……それで変われるの?」
「……分からない。だが……お前達なら変えてくれる。これまでお前達が打ち倒してきたチームのように」
しかしバトルとなれば話は別だ。全力でぶつかって来いと話すリョウコに先程の面影はない。だからこそ本気なのだろう。その言葉にアラタは見定めるように彼女を見るが、リョウコは悲しげに首を振りながら、これまでサイドが打ち倒してきたチームを持ち出しながら答える。
「……なぜだろうな。そう、信じられるんだ。だから……頼む」
リョウコはどこか苦しみから縋るような目でアラタを見つめる。
その瞳はまさに重荷を背負い続けたせいで疲れきっているかのようだ。
「……お前には頼みごとばかりだな。では次は戦場で会おう、サイド0のリーダーよ」
「ああ、何であれ俺やユイ姉ちゃん達はまっすぐぶつかるよ」
どこか自嘲気味に話しながらも表情を引き締め、ラプラスの盾のリーダーとして別れを告げるリョウコにアラタも重々しく頷き、踵を返し、バトルルームを後に……
「ちょっと待て。今なんて言った?」
出来なかった。
「まっすぐぶつかる?」
「その前だ」
「俺やユイ姉ちゃん達?」
「ね、姉ちゃ……!? いつの間にそんな……っ!」
「いや、昔はそう呼んでたし……。まあ先輩呼びしてたけどさ。でも今は変に意地を張るのを止めたんだよ」
後ろからアラタの肩をガッチリ掴んでくるリョウコだがどうやらユイへの呼称が衝撃的だったようでその度にミシミシと力が強まってくる。
「……しも……」
「え」
なにやら嫌な予感がして肩越しに振り返れば、表情が隠れるほどだらりと前髪を垂らしたリョウコの姿が見える。しかし前髪の間から覗かせる瞳は妖しく輝き……──。
・・・
(アラタ君が昔みたいにユイ姉ちゃんって呼んでくれた~♪)
一方、こちらはガンブレ学園の校舎内。三年生階へと続く廊下を鼻唄交じりに歩いているのはユイだ。
どうやら仮面が外れ、昔のようにユイ姉ちゃんと呼んでくれるようになったアラタが凄く嬉しいようで傍から見ても幸せそうだ。
(お姉ちゃんって呼ばれる立場はイオリちゃん達にはない私だけのアドバンテージだからね。悪いけどここは最大限に利用させてもらって──)
「イイイイィィィィヤアアァァァァァァァァァァーーーーーーーアアッッッ!!!!!!?」
姉のような存在は最近ではレイナなどライバルは増えてきたが、アラタからそう呼ばれるのは自分だけだ。これは大きな差でもあるはずだとギュッと握りこぶしを作り、意気揚々と歩くユイだが廊下の先から聞き馴染みのある悲鳴が聞こえる。
「あれ、アラタ君だ。もしかしてまたイオリちゃんに……」
「ま、まままま。待て、アラタぁっ!!」
「リョウコォッッ!?」
廊下の先からはなにやら誰かから逃げているアラタが見える。またイオリチャンを呼び出してしまったのかと呆れていたら、その後を追っているのは何とリョウコではないか。
「私もお前のことはなんだかんだで弟のように気にかけているし、そう呼ばれてもおかしくはないと思うんだ! ひ、一言でもいいからリョウコ姉ちゃんと……っ!」
「なんでだよっ!? 誰だ、リョウコちゃんをこんな風におかしくしたのはぁっ!?」
「さ、先っちょだけでも良いぞ!」
「リョ!」
「あぁやっぱりちゃんと呼んでくれぇっ!! あ、待て。リョウコ姉と言うのも……」
デジャヴというべきなのだろうか。
いつぞやとは立場が逆になっている二人はそのまま学園の廊下を走り去っていく。
「えぇっ……」
何事かと周囲の生徒達は噂するなか、アラタとリョウコの後姿を見ながらユイは頬を引き攣らせる。先程まで感じていたアドバンテージが崩れ行くのを感じながら……。