ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「馬鹿な……。貴様らなど足元にも及ばなかった筈……! この短期間のうちに何を!?」
バトルを終えたサイド0と生徒会精鋭チーム。誰も欠けることなく勝利を収めたサイド0にガンブレ学園中が騒然とするなか、シミュレーターから出てきたセナはこの現実を受け入れられず、普段の鉄仮面が崩れるほどの驚愕ぶりを見せていた。
「確かに私達一人一人は小さな力かもしれない。この学園で何度も聞いてきた絶対的な強さはないかもしれない。でもね、私達には仲間がいる。信じて……背中を預けられる戦友が」
そんなセナの疑問に答えるように話しかけたのはユイだった。
サイド0は勿論、第10ガンプラ部など寄り添ってくれた人々をその脳裏に過ぎらせながらユイは柔らかな面持ちで答える。
「アナタ達はどう? 一緒に戦った仲間を、隣にいる誰かを本当に信頼できてる?」
「──仲間と信頼し合うこと……。それがお前達の強さか」
ユイの問いかけに対して生徒会で頷ける者は誰一人いなかった。視線を俯かせるセナやアカリの横でただ一人、サイド0を眩しそうに見つめながら口を開いたのはリョウコだった。
「信じているからこそ任せるべきを任せられる。ありのままの自分を受け止めてくれる──。それが実力以上の力に繋がる」
「そう、それがサイド0のチームワークよ。ね、アラタ君」
バトル前にアラタがリュウマ達に任せて参加しなかった姿を思い出しながらサイド0のその強さの源が何であるのかを理解したリョウコに頷きながらユイはアラタを見やる。
「楽しむことがサイド0の原動力……。確かリョウコちゃんはそう言ってたよな。でもそれは一人だと感じられない。信じられる人がいるからこそ心から楽しいって思えるんだ」
「仲間を信じたからこそ、か……。私には出来なかったことだ」
いつもの態度で三本指をクルリと回してウインクするアラタに対して、その言葉が胸に刺さったのだろう。
かつてユイと袂を分かった日のことを思い出しながら、リョウコの表情は暗いものになっていく。
「せめて少しでも良い方向にと思い、生徒会に残ったが……私では、なにも変えられなかった……」
「オオトリ、さん……」
初めて明かされるリョウコが生徒会に身を置く理由……。彼女が圧政を好むような人間ではないことは分かっていたが、その理由にアカリは複雑そうな面持ちを見せる。彼女もまた自分と同じように生徒会を変えようと考えていたが、結局、その成果も出せぬまま呑まれて今に至ってしまったようだ。
「ユイ。私はあの時、当時の生徒会長やお前を信じられなかった……。最後までお前を……仲間を信じてついて行くべきだったんだ。……すまなかったな」
「ううん、私こそ……もっとリョウコに向き合うべきだった……っ!」
話せば話すほど振り絞るようにリョウコの声は震えていき、謝罪の言葉を口にする今でも崩れ去りそうなほどになっていく。そんなリョウコに首を振りながらも感極まった様子のユイは遂に我慢できずにリョウコに飛び込むように抱きつく。
「私のほうこそごめん……っ。あなたの学園を想う気持ちに気付いてあげられなくて……。リョウコも頑張ってたんだよね……っ! 私ね、リョウコ……。また一緒にガンプラバトルしたいよ!」
背中に手を回し、リョウコに身を預けながら己の想いを吐露するユイ。
やはり親友であったこともあってか、頬を伝う涙は止め処なく溢れていた。
「そうだな、私もだ……っ!」
そしてまた呼応するようにリョウコも自身の想いを明かす。これまで何度も楽しいと思えるときはあった。しかし生徒会の一員としてその気持ちに常に蓋をしてきたのだ。
「信頼……。仲間を想う気持ちだと……!? そんなもので強くなれるのなら俺はっ……! ユウキは……ッ!」
「……副会長、彼らに託してみるのはどうだろうか?」
そんなユイとリョウコの姿を唯一、受け入れなれずにいるのはセナだった。彼もまたユウキと共にあろうとする人間だ。しかしいつだってユウキから信頼されているなどど感じたことはなかった。だからこそせめて強者であろうとしたのだ。そんなセナに対して、その呪縛から解放するように声をかけたのは他ならぬリョウコであった。
「彼らならば生徒会長の渇望を救えるかもしれない。少なくとも私はその可能性があると思う」
「……私もそう思います。きっとこの学園は強者の意味を履き違えているのです。会長様が求める強者などではなく、会長様に必要な強者とはきっと……サイド0のことなのでしょう」
リョウコの言葉に続いたのはアカリであった。サイド0と真正面からぶつかったからこそ強さとは何か、そしてユウキに必要なのが誰なのかを理解したのだろう。
「って言うかさ、前々から思ってたけど強者だ弱者だ正義だ悪だってそもそもおかしくない? ガンプラバトルは……ガンプラは元々、趣味として楽しむものでしょ? 何でそんな面倒臭い考え方をするんだよ」
「楽しむ……?」
リョウコとアカリの説得を受けたセナも葛藤があるのだろう。
暫らく視線を彷徨わせているとやがて面倒になったのか、頭をポリポリ掻きながらそもそものガンプラについて語るアラタにセナは目を見開く。
「……そうだな。ユウキと二人でバトルをしていた時は……確かに楽しかった。だがもう……あの頃には戻れない。俺では……アイツの高みには届かない」
「なら生徒会長に思い出させて見せます」
セナも元々、一人のガンプラビルダーとして楽しんでいたのだろう。
だがいつからかその想いは薄れ、ただただユウキを満足させる為に動いていた。そんなセナにイオリが申し出る。
「誰でも、変わることが出来るはずです。私の……私達のようにきっと!」
サイド0もまたそれぞれが変わることが出来た。
かつてのままでいる者など一人もいないのだ。それを分かっているからこそイオリは高らかに話す。
「……ならその夢物語に賭けて見よう。悔しいが貴様らの強さは本物だ。ならばその言葉が生徒会長に……ユウキに届くかもしれん」
そんなイオリの言葉を受け、セナはやがて吐き出すようにため息をつくとサイド0に向き合いながら答える。その表情は心なしか憑き物が落ちたかのように冷淡さや険しさがなくなった一人の青年の姿がそこにあった。
「これが生徒会室へのカードキーだ。行け、サイド0」
「一緒に、ね」
懐から生徒会室へのカードキーを取り出してアラタに差し出すセナに確かにそのカードキーを受け取りながらもアラタはセナと、そしてリョウコやアカリを見やる。
「最後まで見届けろ、とそう言うのか? ……確かに私達は生徒会長に従った者としての責任がある、か……」
「なんでそんな重っ苦しく考えんだよ。どうせだし、どうなるか気になるんじゃないの?」
後ろめたさでもあるのだろうか、アラタの誘いに視線を伏せるリョウコだが対してその発言をした当の本人は面倒臭そうにうなじの辺りを摩りながら答える。
「そう、だな。貴様らがユウキとどう戦うか……。俺も見てみたい」
「なら決まりだな」
セナもその想いはあるのだろう。誘いに頷くとアラタは満足そうにウインクする。
「オオトリ、ミツルギ……。すまなかったな」
するとここでセナからリョウコとアカリに対して謝罪野言葉が出てきたのだ。流石にこれは予想もしておらず、二人は驚いていると……。
「お前達が生徒会と不満分子共の緩衝材になって生徒、そして生徒会の暴走を防ごうとしていたことは知っていた。だがお前達の強さ故にそれを見逃していた……」
リョウコもアカリも生徒会の方針を良しとしているわけではなかった。
それを知っていてなお、身近に置いていたのはひとえに彼女たちの実力故であろう。
「もう板ばさみになる必要はあるまい。自由にすると良い」
「副会長……」
「……特にオオトリ。ソウマの初めてを奪っただの、姉呼びを強要しようとしていただの……。以前の貴様では考えられなかった行動をしでかしたのは生徒会が狂わせてしまった故なのだろうな……」
「ブフゥッ!?」
セナの言葉にリョウコはどこか驚嘆する。そして続く言葉に普段のクールさではありえないほど吹き出した。
「ち、ちちち、違うのだ副会長ォッ!」
「なにも言うな。貴様がどのような性癖を持っていようと俺にとやかく口を出す権利はない」
後ろでアラタが違う意味で吹き出して腹を抱えているなか、何とか誤解を解こうと詰め寄ろうとするリョウコだがセナはその都度、距離を置きながら哀れな者を見るように首を横に振る。
「何か賑やかになってきたなぁ……」
「そうですね。ですが良いことだと思います」
見かねて止めようとするユイとイオリにリョウコが駄々をこねるように騒ぐなか、傍から眺めていたリュウマは何気なく呟くとその傍らに寄り添いながらアカリは微笑む。
「なんだよ急に」
「アナタが仰っていたのですよ、どうしたいのか、と……。だから望むままにしようと思います」
距離の近いアカリにたじろぐリュウマだが、先程のバトルの最中に問われたリュウマの言葉を思い出しながらアカリはリュウマの腕に絡まりながら幸せそうに目を細める。
「……なんか妙なことになったなぁ」
「……ダメでしたか?」
「そうは言ってねえよ。まあ、こんなんで良いなら好きにしな」
間近で感じるアカリの温もりに照れ臭そうに頬を掻おていると彼女はどこか物悲しそうに不安げにリュウマを見上げている。自由にしろと言われたところでアカリに多くの望みはない。今はただ彼女の中にある唯一の望みを実行している。それを拒否されてしまったと思えばその心中は想像に難くない。
どうにも女性のそういった顔に弱いのだろうか。参ったといわんばかりに頬をかいたリュウマは彼女の好きなようにさせる。
「……ござる」
不意に零したアカリの呟きにリュウマは驚いて彼女を見やる。
リュウマの目にはアカリとミツルが同時に重なって見えたのだ。そして何よりどちらも心から幸せそうにしているということも……。
「……お前って結構、面倒臭ぇよな」
「筋肉阿呆に言われたくはありません」
そこで漸くいくらリュウマであろうとアカリとミツルの関係を悟ったのだろう。頭が痛そうにため息をつくリュウマを他所に彼の腕に絡みつくアカリは嬉しそうに何度も何度もこの温もりと感覚を味わうように頬ずりしている。
「さあて。未来を組み立てる前に……全てのパーツを揃えに行きますか」
バトル前の剣呑さが嘘のように温かく賑やかな雰囲気がこの場を満たす。
それを肌で感じながらアラタは一人一人の顔を確かに見て、三本指をクルリと回すと全員で生徒会室へと乗り込んで行くのであった。、