ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
生徒会室への架け橋となるカードキーをスキャンすると電子音声と共に静かに扉が開く。
扉の先にある室内はあまりに薄暗く日光の恩恵さえ受けられないほど陰鬱とした様相を醸し出していた。
まるで子供部屋のように周囲に無造作に散らばるパーツ類。まともな足の踏み場すら探すのが困難なほど小汚いこの部屋は到底、大規模都市計画の一翼を担う学園の生徒会室とは思えないほどだ。
「──やあ、待っていたよアラタ君。そしてサイド0のみんな」
そしてこの部屋の長である生徒会長……シイナ・ユウキが会長席の上で腰掛けながらガンプラを無造作に組み立てていたのだ。
「うん? なんだかおまけまでついて来てるみたいだね」
だがユウキにとってアラタとまだサイド0の面々は兎も角としても、その傍らにいる生徒会メンバーについて意外であったのだろう。しかしその口ぶりから然程、関心のなさが伺える。
「ユウキ、俺は──ッ!」
「弱い者には、この生徒会室に入る資格はない……。そう言っていたのは君じゃないか、ダイスケ」
サイド0に敗れたセナではあるが、だからこそその敗北で再び宿った想いを口にしようとするのだが、その言葉を遮るようにユウキの冷ややかな目で見られた彼は言葉を飲み込んでしまう。
「まあ良いや。そんなことはどうだって良いのさ。今日はとても良い日だ。なにせ、漸くアラタ君を救ってあげることが出来るんだからね」
とはいえ、やはりそもそもセナ達に対して関心はないのだろう。
ユウキの視線はサイド0へ、いや……アラタへ注がれる。それはいつも気怠そうにしているユウキからは考えられないほどギラギラとしていたのだ。
「酷い……。それが、アナタのために戦った仲間に対する態度なの!?」
「それに……アラタを救うって……」
粗雑なセナへの態度に眉を顰めたユイは堪らず声をあげ、イオリもまた先程のユウキのアラタへの言葉について首を傾げてしまう。
「なにをそんなに怒っているんだい? 僕に仲間なんていない。ずっと一人で戦ってきた。だって“その方が強い”からね」
「え……? でも学園の公式戦はG-cubeなのに?」
だがセナへの態度が理解できず怒りを示すユイにこそ理解が出来ないユウキは飄々とした口ぶりで話すが、その内容にマリカは意味が分からず、答えを求めるように周囲を見る。
3on3のG-cubeは生徒会が導入したものだ。しかしその生徒会の長であるユウキが一人で戦ったほうが強いというのは些かおかしな話だと思ったのだろう。
「それが生徒会長が最強である所以だ。彼は一人で戦える……。意思疎通もなにも必要なく、完璧な連携を行えるんだ」
「酷いなぁオオトリさん。先にネタばらししちゃうなんて」
そんなマリカの疑問に答えたのは他ならぬ生徒会に所属するリョウコであった。
しかし疑問に答えられたからといって、その意味が理解できるかは別問題だ。より意味が分からなくなったマリカ達が困惑するなか、くつくつと笑ったユウキはアラタを見やる。
「あぁ待っていた……。本当にこの時を待っていたよ、アラタ君。約束通り、君を救って見せるよ」
「俺もこの時を待ってた。俺達がお前を救う」
この瞬間を待ち焦がれていたのだろう。歪な笑みをアラタにだけ向けるユウキの姿を物悲しそうに見つめていたアラタは一度、目を瞑ると意を決したように真っ直ぐユウキを見据える。
「僕を救う……だって? 面白いことを言うね、アラタ君は。僕が救われるような弱い人間だと?」
「分かったんだよ。強いとか弱いとか……。そんなこと意識してる奴は弱いんだ」
自分を救うと言われたのは予想外だったのだろう。
ここで初めてユウキを眉を顰めるとアラタは諭すような優しい物言いで話す。
「でも弱くたって良い……。だから人は寄り添うことが……手を伸ばすことが出来るんだ」
アラタは自身の手をじっと見つめる。
その手には多くの仲間達から与えられた温もりが確かに刻まれているのだ。
「俺達がお前を救ってみせる。全てが終わった後、みんなで笑えるように」
だからこそアラタはユウキに手を指し伸ばす。何よりこの温もりが今のユウキに必要なものなのだから。
「……やめてくれないか」
しかしそんなアラタを拒絶したのは他ならぬユウキであった。
今までアラタに対してだけは異様な執着を見せていたユウキだが、初めてアラタに対して不快感を見せたのだ。
「……アラタ君。君が持っていた輝きを取り戻してはいるようだね。でも……不純物が混じってしまったようだ。君は……サイド0なんて群れにいるあまり毒されたんだね」
アラタに執着をしていたからこそ以前、彼が口にしていたアラタの陰りがなくなっていることには気付いていたのだろう。しかしそれでもアラタはユウキにとって望ましい存在になったというわけではなかったようだ。
「君という存在が僕の世界に彩りを与えてくれた。僕は君さえいれば良いんだ……っ。他に誰も必要ない……。何でそれを分かってくれないんだい!?」
「俺は作り物のヒーローでもなければお前を満たす道具でもない。きっと俺がこのままお前の傍にいたってお前は満たされやしないよ」
あくまでアラタを欲するユウキに対してアラタは首を横に振る。
必死にアラタを求めるユウキの姿に哀れみを感じてしまうが、だからこそここで彼を救わなければならない。
「だから何度だって言う。俺達がお前を救う。いつだって世界を救うのはLove&Peace……だろ?」
「ふざけているのか……?」
「知らないのか? 愛は負けないんだよ。この先に
三本指をクルリと回してウインクするアラタに対していよいよ明確に怒りの感情を露にするユウキ。しかし今更、ここで退くわけには行かない。刺さるようなユウキの怒りに真っ直ぐ向き合いながら答える。
「……やはりアラタ君は僕が救う必要があるようだ。目を覚まさせる為にもそんな下らない考えはここで破壊しよう」
「……なら俺達は創造する。いくら壊されようとも満ち溢れる可能性が待つ未来を」
ゆらりとその手付かずの長い前髪を垂らして、その隙間から妖しい眼光がアラタを見る。だがここで怖気付くつもりはない。自分達には可能性に溢れた未来が待っている。その未来を切り開くためにもここで負けるわけにはいかない。
破壊と創造。そしてユウキとアラタ……。相反してはいるもののある意味で互いの存在を想って行動しているのは共通している。だが例え相手を思っての行動であれ、お互いに退く気がないのもまた同じことだ。
「──遂にやってきました大一番っ! 反抗の旗印であるサイド0VS生徒会長率いるラプラスネスト! この学園の未来を決めるバトルが遂に始まります!」
バトルの刻限を知らせるかのようにリンコ率いる放送部がぞろぞろと生徒会室に入室し、いつものようにバトルを見ている者の熱気を高めるようにパフォーマンスを始める。
「正直、生徒会室に吶喊するのは死ぬほど勇気が必要でしたが、ご安心ください! 放送部は全てのG-cubeバトルを十全に学園中へお届けいたします! 泣いても笑ってもこれが最後の決戦となるでしょう!」
とはいえここは生徒会室。ガンブレ学園における最上位だ。
流石のリンコも生徒会室に突入するのは普段の態度のようにはいかなかったようで薄らと緊張を感じさせてはいるものの、それでもいつものパフォーマンスを衰えさせることな声を張り上げる。
「それでは白熱のガンプラバトルにィー……レディィィィィッッゴオオォォォオオオオーーーッッッ!!!!」
気付けばサイド0の始まりからずっとリンコの実況があった気がする。
だが彼女の言うように泣いても笑ってもこれがガンブレ学園を巡る争いはこれで最後だろう。ならば笑って終わりにしたいものだ。
「おい、アラタ」
ユウキが一足先にシミュレーターへ乗り込んで行くなか、自身も向かおうとアラタの足を止めるように声をかけたのはリュウマであった。
「お前だけで戦うんじゃねえ。お前には俺達が……俺が傍にいるってのを忘れんなよ」
「俺達はサイド0……。Be the oneだ」
「びぃーざわん……?」
「あぁ、バトルの前だし頭使うな。知恵熱でも出たら大変だしな」
「……今、お前が馬鹿にしたってのは分かった」
「してねえよ。ほら行くぞ、俺から離れんなよ。迷子になったら大変だ」
「やっぱ馬鹿にした!」
最初こそ神妙な面持ちで話していた二人だが気付けばいつものようなやり取りになってしまった。しかしそれが二人にとって何より心地良いのだろう。先に待っていてくれたユイと共にシミュレーターへ乗り込んでいく。
「ソウマ・アラタ。ν-ブレイカー、行きますッ!」
「トモン・リュウマ、レイジングガンダムボルケーノ、出るぜ!」
出撃準備を整えたアラタとリュウマは見計らったかのようにほぼ同時に声を重ねて出撃する。
自分は一人ではない。それをわざわざ考えなくても心が理解しているからこそアラタとリュウマはこんな時でその口元に笑みを浮かべていられるのだ。