ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
ν-ブレイカーとレイジングボルケーノが一つに合わさったともいえるR-ブレイカーの誕生にユウキは目に見えて動揺している。しかしそれを何よりも彼自身が自覚したのだろう。忌々しそうに舌打ちするとフィンファンネルをR-ブレイカーへ差し向ける。
対してR-ブレイカーは動揺する素振りもなく、悠然と立ち尽くしたままこちらに迫るフィンファンネルを全て確認する。次の瞬間、四方八方からのオールレンジ攻撃が放たれ、R-ブレイカーの姿が視認出来なくなるほどの硝煙が発生する。
R-ブレイカーは無事なのか?
誰もが固唾を呑むなか、硝煙が晴れたその先には確かにR-ブレイカーの姿があったではないか。
四方に半透明のバインダーを展開し、機体を青紫色に変化させていることからリフレタクターモードを発動させているのだろう。フィンファンネルのビームを全て己のエネルギーに変換したR-ブレイカーはツインアイをキラリと強く光らせ、両腕の装甲を展開させると全身を発光させながら堂々たる様子でアルプトラオムを見据える。
「ッ!」
その姿を眩しそうに顔を顰めたユウキはアルプトラオムは覚醒によって飛躍した機動性をもって一気にR-ブレイカーとの距離を詰めると大きく腕を振りかぶって鋭く振り下ろすのだが赤子の手を捻るかのように片腕で簡単に受け止められてしまった。
「……俺達が
このようなことは初めてなのだろう。
目に見えてユウキが狼狽えるなか、モニター越しにアルプトラオムを見たアラタは今にも飛びたたんばかりに稼動音を鳴らすR-ブレイカーに応えるようにジョイスティックを握り直す。
「負ける気がしないッ!」
瞬時にアルプトラオムの腹部に拳を叩きつけ、上空へそのまま殴り飛ばす。
その一撃はまさに空へ飛立つ龍の如き力強き一撃であり、アルプトラオムはされるがまま空へ舞い上がる。
「こんなことが……ッ!」
このように殴られて空を舞い上がるなどといった醜態は初めてなのだろう。
憤怒の感情を露にしながらアルプトラオムの体勢を立て直そうとするのだが不意にモニターに陰が差し、顔を上げる。
「っ……!?」
そこには奇跡を引き起こす天龍の姿が。
ユウキをもってしても反応が追いつかず驚愕するなか、それでも何とか反撃を繰り出そうとビームサーベルを引き抜こうとするのだがR-ブレイカーの膝から爪先間にビームが走り、光の刃がアルプトラオムの片腕を蹴り斬り、流れる動作で掌底打ちをする。
「なめ……るなぁぁあっ!!」
絶対的強者であると自負するユウキにとってこの一方的なバトルは屈辱に他ならないのだろう。
感情の爆発を形にしたようにフィンファンネルが追撃しようとするR-ブレイカーに差し向けられる。
しかし自身に迫るフィンファンネルに一瞬の反応を見せるR-ブレイカーだが、反応はそれだけで躊躇することなくアルプトラオム目掛けて突き進んだではないか。
その行動にユウキは驚くもののだからといって攻撃の手を緩める理由にはならない。
ゲームとしての調整がされている分、リフレクターモードを発動させるにはまだラグがある筈だ。そう考えるのと同時にR-ブレイカーに無数のビームが放たれた。
「俺は強くない……。でも何も恐くないッ」
するとR-ブレイカーはここで両手を広げるとその手に液体金属を纏い、凪ぐように振るう。
凪ぐように放たれたボルケニックフィンガーは障壁のようにR-ブレイカーの周囲を走り、今まさに迫る無数のビームの一部を防ぎ、残ったビームも機体を傾けることで避ける。
「……人は弱いからいつだって何かを創り出して未来へ繋げて来た」
アラタは己の手を見やる。
今までの自分は強さを取り繕るだけで、強いと思っているからこそ誰かの手を掴もうとしなかった。
「今の俺なら誰かが差し伸べてくれる手を掴むことができる」
でも今は違う。
多くの仲間がいたからこそ、彼は漸く誰かの手を掴むという強さを手に入れたのだ。
「だからこそッ」
そう、だからこそ──。
その想いを胸にツインアイを輝かせ、全身の輝きを強めたR-ブレイカーはもう止まることなくアルプトラオムへ突き進む。
「分からない……。分からないよ、本当にッ!」
一方でR-ブレイカーが誕生してから、その姿を無意識に眩しそうに見つめていたユウキは何故、自分がそんな風にR-ブレイカーを見てしまうのか、そして何よりアラタの言葉が分からぬまま最早、自棄になったかのようにR-ブレイカーに真っ向から突き進む。
両者の咆哮が重なる。
ぐんぐんと距離を縮めていく二機に誰もが決着の瞬間を予感するなか、R-ブレイカーとアルプトラオムは同時に腕を振り被って穿つように放つ──。
一度、ガァンと甲高い音が響く。
そう、一度だ。
それはアルプトラオムの頭部から発せられたものであった。
「ぼく、は……っ」
アルプトラオムの耐久値が0を示すなか、クロスカウンターの要領で放たれたR-ブレイカーの一撃は深く抉っており、たちまちエネルギーを失ったアルプトラオムはユウキの呟きを残したまま力なく墜落していく。
「アラ、タく、ん……」
R-ブレイカーが依然と輝きを放つなか、その姿を眩しそうに見つめていたユウキはR-ブレイカーへ力なく手を伸ばす。恐らく無意識の行動であったのだろう。縋るように手を伸ばしたままゆっくりと瞼を下ろす──。
「えっ……?」
いつまで経ってもアルプトラオムが地面に叩きつけられることはなかった。
不思議に思ったユウキが目を開ければ、そこにはアルプトラオムの片腕を掴むR-ブレイカーの姿があったではないか。
「……だからこそ俺も心から手を伸ばすことが出来る」
接触回線からスピーカーを通してユウキの耳にアラタの声が聞こえてくる。それはどこまでも柔らかく温かな声色であった。
「なん、で……」
「……お前が大切だからだよ。例え幾ら変わろうと、あの日の思い出も感じた楽しかった想いも……嘘じゃない」
本来ならば相容れぬ敵のはずだ。
このように手を掴む謂れだってない筈だ。アラタの行動にユウキが戸惑うなか、かつて無邪気に笑い合った幼少期を脳裏にアラタは優しく微笑む。
「ユウキ……。お前も……もう戻って来い」
アルプトラオムを引き寄せたR-ブレイカーはゆっくりとステージの上に着地する。
それはアルプトラオムがこれ以上、傷つかないよう労わるようにしてだ。
「──あぁ……」
システムがバトルの終了を知らせるなか、不意にユウキの頬が熱い涙が顎先を伝って落ちる。
「あたたかい、なぁっ……」
だが幾ら涙を流そうと彼は笑っていたのだ。
それは自身こそが絶対的な強者であると語る歪んだものではない。
ただただ無邪気に、柵から解放された年頃の青年のようなまだあどけなさの残る笑顔であった。
・・・
「ユウキ!」
バトルを終えてアラタ達がシミュレーターから出てくるなか、同じように姿を現したユウキを案じてセナがいの一番に声をかける。
「……不思議だね、ダイスケ。敗北なんて価値どころかマイナスだと思っていたのに……こんなに悔しくて、でも充実しているんだ」
セナを一瞥すると、ユウキはふと笑みを零す。
それは何故、自分がこのような想いを抱いているか分からなくて困ったような笑みだった。
「それはきっと……嬉しかったのではないか?」
「嬉しい……?」
ユウキのそんな笑みは初めて見たのだろう。
僅かに驚いたような反応を見せたセナだがつられるように微笑を零すと、その言葉の意味が分からずユウキは首を傾げてしまう。
「……俺達は強さこそが絶対であり、敗北こそ終わりだと考えていた。だが違う……。敗北から得られるものもあるのだ。ユウキは負けてしまったが、それ以上にソウマと再び繋がったものがある筈だ」
バトルの最後に掴まれた手。
本来ならば無様に吹き飛んで終わる事だってあり得たかも知れない。しかしアラタはその根底でユウキを大切に思っているからこそその手を掴んで引き寄せたのだ。
「アラタ、君……」
セナの言葉にバトルの最後を思い出しながらユウキはアラタを見やる。
するとアラタはユウキの視線に気付くと、ゆっくりと歩み寄る。
「おかえり」
そしてユウキを抱きしめたのだ。
「……また一緒にガンプラを作って、そしてバトルをしよう。今度はみんなで」
アラタの温もりの直に感じるなか、その耳元で話された言葉にユウキは目を見開くとゆっくりと頷く。
以前は相容れぬ関係であったのかもしれない。しかし後ろから自分達を見るリュウマやユイ達の表情はとても優しく、アラタの言葉に同意するように頷いてくれたのだ。
「……」
アラタが満足げに頷いてユウキから離れ、サイド0のもとへ向かうなか、ユウキに対してセナは声をかけようとするもその言葉を飲み込む。自分は結局、ユウキに何を出来たのだろうか。自分は結局……ユウキを一人にしただけではないのだろうか、と。
「ねえ、ダイスケ」
そんなセナに声をかけたのは他ならぬユウキであった。
「僕は確かに得られたものがあった。でもね、負けてしまって悔しいという想いもあるんだ」
確かにユウキはアラタとの、いや、それ以上に多くのものを得られたのかもしれない。
だが自分の実力に絶対的な自信があったからこそ敗北に悔しさを感じてしまうのもまた事実だ。
「……虫のいい話なのは分かってる。でも……手伝って、くれないかい? 彼らにリベンジマッチをしたいんだ」
「っ……! あぁ、ああ! 勿論だ!」
バトルを始める前は敗北を喫した彼に冷淡な態度をとってしまった。しかし同じく敗北し、そして芽生えたものがあったユウキは今更というのを十重に承知した上で彼に申し入れるとセナは寧ろ嬉しそうに何度も頷く。
「ありがとう……。彼らは本当に良いチームだ。でも僕達だって負けられない……。僕達だってそうなれる筈だからね」
セナの行動はユウキを一人にしてしまったとはいえ、その行動はいつだってユウキを想ってのものだった。
それを何よりユウキ自身も分かっているからこそ彼の存在に感謝しながらも今一度、サイド0を見やる。
「……お前のガンプラのパーツ、良かったよ」
「あぁ? っんだよ、随分とらしくねえこと言うな」
「事実は事実だ。そう思ったからそう言ったまでだ」
サイド0が改めて勝利を噛み締めるなか、ふとアラタはリュウマに声をかける。
勝利を収められたのもリュウマの存在があったからだ。きっとあのままν-ブレイカーとして戦ったままではどうなっていたかは分からない。しかし素直なアラタの言葉は初めてなのか、意外そうな顔を浮かべるリュウマにアラタは照れ臭そうにそっぽを向く。
「まっ、俺もお前だから託せたってのもあるしな。俺達って結構、マッチしてんのかもな」
「……一度しか言わないぞ、筋肉馬鹿」
とはいえ、リュウマも己の全てを込めたガンプラのパーツをおいそれと誰にでも託すわけでもないのか、はにかんだ様子で話すとその姿を横目で見たアラタはゆっくりと口を開き……。
「結構なんてもんじゃない。俺とお前はベストマッチだ」
クスリと笑みを見せながら、リュウマに三本指をくるりと振る。
彼らはお互いに救い、救われた。そこから繋がった絆はサイド0の中でも太いものであろう。
「おっ、おぉっ!? おい、もう一度、聞かせろよ!」
「一度って言っただろ。何度も言うほど俺は安くないんだよ」
「良いじゃねえか、俺達はベストマッチな奴らってこったろ! ベ・ス・ト・マァーッチ!」
「最っっ悪だ。ここまで調子に乗るとは思わなかった」
アラタの思わぬ一言が余程、嬉しかったのか、もう一度とせがむリュウマを一蹴するが、それでもアラタの口からもう一度、聞きたいのか、リュウマはアラタの肩に手を回し、喜びを露にしているとその隣でアラタは心底、頭が痛そうにため息をつく。そんな光景をユイ達がクスクスと笑いながら見守るなか、遂にサイド0は生徒会を打ち破ったのであった。