ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「おい、聞いたか? ラプラスの盾のメンバーが負けたんだってよ!」
「ホントに!? でも一体、どこのチームが……」
「ああ、なんでもサイド0っていう新造チームで、リーダーはウチに転入してきたばかりの──」
ラプラスの盾はこの学園で最大規模を誇るチームだ。
例え公式のバトルでなくとも、勝利すれば、その噂は瞬く間に学園中を駆け巡っていた。
・・・
「……っていう噂を今朝聞いたのよ。まあ、あなたは先生に引き摺られて来たから知らないだろうけど」
「……世の中の不条理なら今朝知ったよ」
「なにがあったのよ……。まあ兎に角、結成早々、結構な噂になってるみたい。ラプラスの盾のメンバーに勝ったのは大きいわね」
「……今はラブプラスなんてどうだって良い」
「ラープーラース!」
日は頂点に達し、お昼時となった教室内ではイオリから今朝、早速、持ちきりとなっているサイド0の噂について話されるが、アラタは机にうつ伏せとなったまま、ズーンという音が聞こえてきそうなほど落ち込んでおり、まともな会話すら出来ていない。
「これはそのうち、血の気の多いチームが対戦を申し込んでくるかもしれないわね」
「……」
「……? まあ、そう悲観することもないわ。逆にこれはチャンスと言えるかも」
「……」
「……このまま勢いに乗って、快進撃なんてした日には、きっと生徒会も私達を無視できなくなるはず……」
「……」
「……」
「……「無視するんじゃないわよ!」……ごふっ!?」
余程、朝の一件が尾を引いているのか、机に突っ伏したまま何の反応も示さないアラタだったが、ついに業を煮やしたイオリの肘打ちを脇腹に受け、悶絶する。
「でも、安心して。アナタはリーダーだけど、それ以上に私達はチーム。アナタが苦しいときは私がきちんと支えてあげる」
「あの……今、現在進行形で苦しいんですが……。必殺シャイニングエルボーを食らったばかりなのですが……」
「だからなにも心配いらないわ。アナタはどーんとリーダーとして振舞ってくれればいいの。そういうの得意でしょ、天才さん」
「くっ、聞いちゃいない……。さっきの仕返しか……」
微笑を投げかけながら、激励の言葉を送ってくれるイオリだが、アラタがなにを言っても一切、反応しない。そんな意趣返しを受け、アラタは昼食をとろうと持参の弁当を取り出そうと鞄に手をかける。
「……あっ」
「どうしたの? お弁当でも忘れた?」
「……ビンゴ」
間の抜けた声を漏らすアラタに漸く反応したイオリは鞄に手を突っ込んだまま固まっている姿に、何となく浮かんだ予想を口にすると正解だったようだ。
「ここら辺でココ○チカレーってあったっけ?」
「赤い彗星コラボなら、とっくに終わってるわよ」
「……マジか。俺、あぁいう応募系って当たったことないんだよね」
当選なんて幻だと思ってる。
「……仕方ないわね。私のおかずでよければ少し分けてあげるわ」
「いや、でも……」
「言ったでしょう? 苦しい時は私が支えてあげるって。冗談で言ったわけじゃないわ」
「都会のお人ぁつめてぇ人ばっかだぁ聞いとったがが、ちげぇんだなぁ……」
「誰よ。とは言っても流石に男の人には物足りないとは思うけど……」
顔を両手で覆って、泣き真似をする姿に苦笑しつつも自身の小さな包みの弁当を取り出す。
確かにアラタは食べ盛りだ。おかずだけで昼を乗り切るのは辛いものがある。まあ、一番辛いのは、それで静かな授業中にお腹の音が鳴って、周囲に聞かれることだよね、恥ずかしいよね、最っっ悪だよね。
「とりあえず、ちょっと購買行ってくるよ」
「この時間じゃもう碌なものがないと思うけど……。まぁ、いってらっしゃい。ここで待ってるから早く戻ってきてね」
イオリの見送りに三本指を回しながら、購買部へ向かうのであった。
・・・
ガンブレ学園に置かれている購買部。その名はプレミアム購買部……通称、プレバイ。
「……受注生産じゃないだろうな」
先日、イオリに案内はされたが、利用する為に購買部に訪れたのはこれは初めてだ。購買部が賑うのは昼休みの始めであり、今の時間だとそこまで混みあってなかった。
「おっ……お前、噂の転入生か」
「どうも噂の天才です」
暇を持て余して、ホビー誌を読み漁っていた購買部の店員がアラタに気付いて、声をかける。アラタは転入初日から注目を集める行動を何度もしている。どうやらある程度、自分の存在は認知されているようだ。
「俺ぁアマタ・マスミだ。なんかあったらよろしくな」
年齢を見る限り、自分より一回り、年上といったところだろうか。
(委員長にも何か買って行きましょうかね)
ガンブレ学園にある購買部だけあって、学用品などだけではなく、ガンプラも置かれている。暇な時、ここで物色して時間が潰せそうなほど、魅力的な場所だ。
「って、あれ……」
「どした」
「いや、ガンプラ……少なくないですか?」
「そのうち増えてく予定だ。でも安心しな、最終的には購買部史上、最大数になってる筈だ。現にゲルググJやカプルとか、ここにないガンプラはちゃんと送られてきてるしな」
「えぇっ……それっていつの話になるの……。っていうか、ガンダムとG-3ガンダムはそれぞれあるのに、何でMk-Ⅱはティターンズカラーしかないんです? 売り切れってわけでもないし、エゥーゴカラーの方が好きだって人もいるんですよ! これがティターンズカラー派のやり方ですか!?」
適当に残ったパンと好物のドーナツを手に取ったアラタは陳列されたガンプラの少なさに気付く。いくら購買部だからといっても、これならその辺の店の方が充実してるだろう。
しかしあっけらかんとしたマスミの物言いに、その最終的とは一体、いつ頃になるんだと困惑しながらも、他にも気になったことを尋ねる。
「知らねえな。気に食わねぇなら自分で塗り変えな」
「おのれ、ティターンズ……っ! カクリコンの前髪を……抜くっ!」
そんなやり取りをしていると、ふとプレバイに三人の生徒達がやってきた。
しかし、首から下げたドックタグや傍から見てもその着崩した制服など、三人ともその柄の悪さが手に取るように感じ取れるほどだった。
「しょうがねぇ。買われるより買ったほうがマシってね」
「うざい……」
「てりゃああぁぁぁぁ、万札ッッ!!!」
まさに悪の三兵器とばかりに、横暴な態度をとる不良達。これにはマスミも青筋を浮かべ……。
「おい、うるせぇぞ三馬鹿。って、てめえ黒斗! 毎回毎回万札持ってくんじゃねえって言ってんだr「うるせーのは、カシラだよ」……あぁん? てめぇら、また俺のファームで働かせるぞ!」
わざわざカシラと呼ばれるほどには慕われているのだろうが、いかんせん小馬鹿にしたような態度を取ってくる為、怒ったマスミと更に煽る三馬鹿のせいで騒々しくなっていく。
「いや、会計……」
「──あぁなると、中々戻ってこないわよ」
アラタをそっちのけでやいのやいのと騒いでいるマスミと三馬鹿。
時間も限られているため、手早く会計を済ませたいのだが、声をかけても白熱している為に耳には入っていないようで、途方にくれていると不意に声をかけられた。
「なんだったら私が立て替えておくわ」
そこにいたのは純白の髪の少女だった。
頭には白いペレー帽を被り、丈の長いブレザーを肩にかけているのが印象的だが、何よりはその紫色の瞳だろう。
「……あなたは?」
「あら、ごめんなさい……。私はアイゼン・レイナ。よろしくね、後輩君。それとも天才君って呼んだほうが良いかな?」
後輩、と呼ぶのであれば、恐らく彼女はユイやリョウコのような三年生だろうか。
彼女の持つミステリアスな雰囲気に知らぬうちに呑まれてしまう。
「ど、どちらでも……。じゃあ、その……お言葉に甘えても良いですか?」
「そんなに固くならなくていいわ。そんなんじゃこれから大変よ? はい、深呼吸して」
会ったばかりではあるが時間も惜しい。
立て替えてくれるのであればと、財布を取り出そうとするが、彼女の持つ独特な雰囲気のせいか、ぎこちない動きとなってしまう。
そんなアラタに苦笑しながら、さながら保母のように促すと、自分でも不思議に思うくらい、すんなりといわれたまま深呼吸してしまう。
「よく出来ました。ご褒美に飴ちゃんあげる」
「あ、ありがとうございます……。あ、あとお金……」
「はい、確かに受け取りました。ちゃんと払っておくから安心して」
肩にかけているブレザーから取り出したのはキャンディーだった。
おずおずと受け取りながら代金を渡すと、思わずドキリとするような微笑を浮かべられ、魅了されてしまう。
「それじゃあ午後の授業も頑張ってね。貴方達がやろうとしていることは凄いことだけど、それ以前に学生の本分を忘れちゃダメよ?」
「は、はい……。それじゃあ……」
好き放題やっていたアラタが借りてきた猫のようにここまで大人しくなってしまった。
彼女の美しさはその容姿だけではなく、佇まいに表れていた。
まさに全てを包み込んでくれるような感覚に陥るのだ。
最後まで知らず知らずにペースを握られてしまったアラタは微笑みながら軽く手を振ってくれるレイナに会釈をするとプレバイを後にするのであった。
・・・
「あいつじゃないか? 噂の転入生」
「あぁ、ラプラスの盾のメンバーを倒したっていう……」
「私はさっきオオトリさんに初めてを奪われた子って聞いたけど」
「「えっ」」
ただ廊下を歩くだけで視線が集まる。直接、声をかけて来る者はいないものの皆、コソコソとアラタの話題ばかりを話している。
(注目されるのは嫌いじゃないが、度が過ぎると、あまり落ち着かないな)
無遠慮な好奇心の視線に晒されているアラタは内心、ため息をつく。この分だと教室に戻っても同じことだろう。イオリの話を聞く限り、もうショウゴ達を撃破したという噂はこの学園全体に広まっていると考えても良い。
(……このままずっと続くだろうし、それなら少しくらい安穏が欲しいかな)
現生徒会を打ち倒すのなら、今後、こういった視線には慣れておかねばなるまい。とはいえ、あまり度が過ぎると、気も休まらないのだが。
「──あーっ、みぃーつけたっ!!」
後ろのほうから、そんな声が聞こえてきた。
「キミ、ソウマ・アラタだよね!」
瞬く間に忙しい足音がドタドタと聞こえてきた。
振り返ってみると、そこには桃色の髪をハーフアップに纏め、溌剌とした印象を受ける快活そうな少女がアラタを目指して、一直線に走ってきていた。
「なんかチョーおもしろいことやってるみたいじゃーんっ!!」
なんと、そのまま廊下を勢いよく蹴って、振り返ったアラタの首元に抱きついてきた。しかし幸か不幸か、振り返ったために彼女の豊満な胸部が飛び掛った勢いに乗って、アラタの顔面に押し付けられていく。
──鼻をくすぐる甘い香り!
──そして抱きつかれたことによって顔面に広がるボリュームのあるバストォッッッ!
──柔らかい! とても柔らかいぞッッッ!!
(これだ──!)
その時、自称天才は安穏を手に入れたという──。