ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「なんだ、あれ……?」
突如として乱入してきた謎のガンプラ、ガンダムパラドックス。
そのあまりに突然の登場に唖然とするが、パラドックスはお喋りをしに来たわけでも共にミッションを遂行する為に乱入したわけでもない。
「いくよ」
目的はあくまでν-ブレイカーのようだ。
パラドックスはその主武装であるGNソードⅡブラスターの銃口をν-ブレイカーに向けると一声かけたと同時にその引き金を引く。
「ッ!」
パラドックスの存在には驚いたもののだからといってそのまま攻撃を受けるほどアラタも愚かではない。
すぐさま飛び退いてパラドックスに対応しようとするも、センサーがけたましく反応を示す。
釣られるように顔を上げて見れば、そこには光の翼を広げて眼前にまで迫るパラドックスの姿があるではないか。
パラドックスのツインアイがギラリと輝く。
まるで肉食動物の標的にされたかのような息がつまる緊張感に襲われるなか、このままではマズイとアラタも高トルクモードを発動させて対応してみせようと穿つように拳を放つ。
「──じゃーんけーんっ」
抉るように風を切り、パラドックスに迫るν-ブレイカーのマニピュレーター。後数秒で叩き込まれるものかと思いきや無邪気な声が通信越しに聞こえてくる。するとパラドックスは掌から目を覆いたくなるほどの強烈な閃光を溢れた。
「ぽいっ」
高トルクモードの一撃とパルマフィオキーナが同時にぶつかり合う。
しかし表情を険しくさせるアラタとは対照的にルティナはまるで微風を受けているかのように涼しげであり、次の瞬間、パラドックスのパルマフィオキーナはそのままぶつかり合うν-ブレイカーのマニピュレーターを文字通り、握り潰したのだ。
「ルティ、ナ……ちゃん……?」
アラタに動揺が走るなか、瞬時にパラドックスのレールガンが至近距離で叩き込まれ吹き飛ばされてしまう。
そんな光景を目にしながら、RECOCOの瞳はずっとパラドックスを捉えていた。それはまるでどうして、と今すぐにでも問いかけんばかりに困惑に満ち溢れていた。
「やっぱりハッタリがないとこんなもんなのかなー? リアルタイムカスタ何ちゃらってのもあの時は驚いたけど」
「あの時……?」
荒野地帯はまさに凄惨な程に荒れ果てるなか、どこか落胆とした声がパラドックスから聞こえてくる。しかし彼女がいうのはリアルタイムカスタマイズバトルのことであろうが、あれは”この世界”のガンプラバトルシミュレーターの基本システムの一つだ。声からしても自分と同じ年頃であろう少女が今更、驚く機会などないだろう。
「っつーかさ、なに? ルティナのこと覚えてないの?」
「なに……?」
パラドックス、そしてそれを操る少女への疑問が次々に湧き上がってくるなか、不意に少女ことルティナはアラタと面識があるかのような言葉を投げかけてきたではないか。
「一年くらい前にルティナ達に絡んできたじゃん。散々、パラドックスのこと褒めてくれたのに」
「一年前……?」
ルティナの発言に今一、要領を得ないアラタはますます眉を顰めていく。
一年前と言われても、当時のアラタはまだガンブレ学園にも転入していない頃の話であり、だとしてもルティナと名乗る少女どころかパラドックスに見覚えはな──。
『今の君を呼んでいる。だからいってらっしゃい』
その矢先、脳裏を稲妻のように駆け巡った記憶があった。
しかしそれはまさに一瞬のことであり、思い出さそうとしても靄がかかったように鮮明とせず、それが何であるのかは分からなかった。
『あはっ! あははははっ!! もぉ最っ高!! 次はどんなことしてくれるの!?』
しかしその中では確かに目の前のガンプラと少女と思わしき記憶の断片があったのだ。
だがこの記憶が何であろうと自分に、ましてや一年前にそのような出来事はなかった。だからこそ思い出そうとしても鮮明としない身に覚えのないはずの記憶に悩まされてしまう。
「はーっ……なんか白けちゃった。今回はいきなりだったし、次はちゃんとバトろうね」
「おい、お前は──」
そんなアラタを察してこれ以上、まともなバトルは出来ないと気分も冷めてしまったのか、退屈そうに声をあげたルティナはアラタの呼び止める声も気に留めず、一方的にログアウトしてしまう。
「ルティナちゃん……」
「……知り合いか?」
ν-ブレイカーとグリーンドールしかいなくなった荒野ステージで先程のパラドックスのビルダーであろう少女の名を口にするRECOCO。そんな彼女に先程の謎だらけの少女について尋ねてみれば……。
「うん、現実の方でお腹空かせて困ってたところを拾って……」
「野良猫か」
一体、現実でRECOCOとルティナの間になにがあったのか、それはそれで気になるところではあるが一先ず、アラタはその話を頭の隅に追いやる。
「ねえ、俺も現実で会えたりしない? RECOCOには感謝してるし、直接、お礼したいんだけど」
「えっ……? 直接って私に……?」
「それ以外、誰がいるんだよ」
数時間前のユイ達との会話でも触れられていたが生徒会を乗り越えることが出来たのはサイド0だけの力ではない。出来るならばチャットルームではなく現実世界でRECOCOに直接、感謝の想いを伝えたいのだ。
「ダ、ダメダメ! 私、ユイさんやイオリさんみたく可愛くもないし」
「容姿の良し悪しでお礼を躊躇うほど狭量じゃないけど」
「じ、実は……こんなアバター使ってるけど俺、男なんだ。しかもお前より年上でさ」
「嘘が下手だな。ってか、それエボルトゼミでやった」
「エボ……?」
余程、現実世界で会えない理由でもあるのか、なにかにつけて断ろうとしてくるRECOCOにアラタも引き下がるつもりもなく話し続けるとやがて観念したようにRECOCOは一息つく。
「……誤解しないでね。君に会いたくないわけじゃない、嫌いとかでもないの。だけど……」
「……そんなにダメなの?」
RECOCOにはどうしても渋ってしまう理由があるようだ。しかしここまで頑なな態度を取られると思っていなかったアラタはどこか物悲しそうに視線を伏せ、会話は途切れてしまう。居た堪れない空気が流れるなか、やがてRECOCOは意を決したように息を呑む。
「……分かった。それじゃあ、二つ約束して」
何とRECOCOは条件こそあるようだが現実世界で会うことを承諾してくれたのだ。
「明日の放課後……。扉から背を向ける形でそこに座っていて。やっぱり顔を見られるのは恥ずかしいから……。それと私のほうは今と同じチャットで話すから。ちょっと今、酷い風邪で声が出せないの」
「……分かった。悪いな、無理言って」
「ううん、私こそごめん。色々と条件つけちゃって。でも私も会えるのは楽しみにしてるからっ」
やはりどうしてもRECOCOの正体に繋がるようなことはしたくないようだ。
だがそれでも現実世界で同じ空間を共有できるというのであればこれ以上、無理を言うつもりはない。幸い、RECOCOも本心なのか、声を弾ませてくれている。
「それじゃあ、また明日っ」
果たして明日、一体、どのようなことが待っているかは分からない。
だがそれでも不思議と明日を待ち望みにしている自分もいる。だからこそアラタも気持ちよく今日もRECOCOとの時間を終えるのであった。
・・・
「ふーん。それで明日、会うことにしたんだ」
それから数時間後、吸い込まれそうなほど青黒い空の下、ガンブレ学園から程近い公園に二人の人影があった。
一人はルティナであり、先程のアラタとRECOCOの事の顛末をRECOCOのアバターの所有者から聞かされていたようだ。
「えっ? 何で乱入なんかしたんだって? そりゃあ、あの子がガンダムブレイカーだからだよ」
とはいえ、その事について然程、興味がないのか、所在無くブランコに揺られていると先程、バトルに乱入してきたことについて問われたルティナは何気なく答えると笑みを浮かべる。
「あの子が……あのガンダムブレイカーが何を創るのか、すっごく気になるんだ」
ガンダムブレイカー……。RECOCOのアバターの所有者からすれば聞き馴染みはないがルティナにとってはそうではないようで、何か特別な意味でもあるのか、嬉々とした様子で楽しそうに話す。
「あはっ、心が弾むなぁ」
アラタがガンダムブレイカーである以上、この少女は再び彼の前に現れるだろう。
そしてだからこそ、これから彼女を発端にして起こる出来事や出会いがアラタを待ち構えて彼を試すのであろう。今はただ穏やかな静寂のなか、ルティナは言葉通り、声を弾ませて夜空を見上げるのであった。