ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway   作:ウルトラゼロNEO

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学園再興

 パラドックスとの交戦やRECCCOとのやり取りがあった翌日の放課後。

 アラタはサイド0のメンバーに事情を明かし、ユイ達もアラタやRECOCOの意志を汲んでくれて今日は部室にはアラタ一人しかいなかった。いつもは賑やかに感じる部室にアラタ一人ということもあって、僅かな物音でさえ静かに響き渡って耳に残る。

 

 指定された通りに部室の扉に背を向けた形で座っていると不意に第08部室に近づいてくる足音が聞こえてくる。もしかしてと僅かに緊張感を感じながらその音に意識を集中させると足音は部室の扉の前でピタリと止まり、ガチャリと扉が開いた。

 

【──ちゃんと後ろを向いててくれて、ありがとう、やっぱり顔を見られるの、恥ずかしいから……】

 

 程なくしてGBにRECOCOからのメールが届く。

 どのようなやり取りになるのかと思っていたが、背後からは微かにタップ音が聞こえており、やはり直接話すよりも媒体を通してやり取りをするようだ。

 

【私はここにいるけど、ぜーったい振り返っちゃダメだからね? それじゃ、チャットルームに入るね】

 

 そこまでしてまで正体を明かせない理由があるのだろうか。

 先日は酷い風邪と言ってはいたが、少なくとも咳き込んだりとそれらしい様子もないので正体を隠すという理由で間違いはないだろう。

 

「──うーん、やっぱりこの方が落ち着くなー。私達、ずっとこれで喋ってたしねー」

 

 そんな風に考えていると、どうやらRECOCOはチャットルームに入ったようだ。

 本人は自身のすぐ後ろにいるにも関わらず、開きっぱなしにしているガンプラバトルシミュレーターのスピーカーから聞こえてくる馴染み深いRECOCOの声に思わずクスリと笑ってしまう。

 

「でも……お礼ってことは気付いちゃったんでしょ? 私がここと第10ガンプラ部のバトルシステムをこっそりオンラインに接続したこと……」

 

 すると本題とばかりにRECOCOが先日のアラタが口にした礼について切り出してきた。

 

「ついでに白状しちゃうと、サイド0の勝利を学園のみんなに情報として伝えたり、シャクノさんにバトルが始まるタイミングを教えたのも私。注目を集めることで生徒会側の不正や圧力を防ぎたかった。他にも色々……。サイド0が有利になるよう、裏でこっそり動いてたわ」

 

 これにはアラタも驚いた。

 バトルシステムはRECOCOだと思っていたが、毎回、妙に良いタイミングで姿を現す放送部は全てRECOCOの差し金だったのか。それに他にも彼女は言葉通り、手を尽くしてくれていたようだ。

 

「私……どうしても学園をあのままにしたくなかった。でも、私自身が直接、表に出て何かするわけにはいかなくて……。結果的に、アラタ君達を利用するような形になってしまった」

「そんなこと──」

 

 そんなことない、RECOCOの言葉をそう否定しようとした瞬間、不意に柔らかな感触と甘い香りが鼻をくすぐった。

 

「……だから、お礼とお詫びを言わなくちゃいけないのは私の方なの。本当に、本当にありがとう」

 

 スピーカー越しに聞こえるRECOCOであってRECOCOではないような声や仕草。

 それはいつもの明るく茶目っ気のあるような話方ではなく、まるで本心から話すかのようだった。

 

「ごめんね、色々と黙っていて。それも全部解決してから、こんな風に話すなんて……ズルいよね」

 

 否、紛れもなく本心から話しているのだ。

 RECOCOは……アイダ・シエは。

 

「そう……。私、ずるい大人なんだ……。こうして直接、君に顔を合わせることも出来ない……」

 

 部室にはアラタとアイダの二人だけ。

 アラタの背後から抱きしめる形で話すアイダは自嘲するような笑みを漏らす。それは懸命に戦って、勝利を収めたアラタにいまだアバターを通じてでしかやり取りできない自分を嗤うかのように。

 

「……別に気にしないし、RECOCOがいたからこその結果でもあるんだ。顔を見せたって俺は──」

「ううん、そこは私が我慢しなくちゃいけないの。大人だからね♪」

 

 彼女はただサイド0を利用してしまったと考えている。

 だからこそそんな自分が顔を合わせる資格はないと思っているのだろう。だがそんなことはない。何よりそんなことをアラタは気にしていない。だからこそ振り返ろうとするがその前に抱きしめられる腕に力が込められて制されてしまう。

 

「……寧ろ、そんな言い訳をする方がずるいよ。そっちの方が余程、俺は……」

「ありがとう、アラタ君……。でも、これ以上は本当にダメなんだ。だから、ね?」

 

 アラタの声にやるせなさが混じる。

 彼女も彼女なりに考えて、その選択を取ったのだろうが下手にただ利用されたと言われるよりもそうやって逃げられる方が思うところがある。

 それはアイダも分かっているのだろう。それでも自分にはサイド0やアラタを囲む温かな面々の中に入る資格はないと諭す。

 

「これからのガンブレ学園は、また誰でも自由にガンプラバトルが楽しめるようになる……。だから君も、もっと色々な人と出会って、戦って……もっともっと、強くなれるよっ」

 

 アラタはまだまだ年若い青年だ。

 生徒会を乗り越えたとはいえ、いや、だからこそまだまだ彼の未来は未知数であり、多くの出会いや経験を得ることで多くの道が開かれることであろう。

 

「だから、私とのミッションはここでおしまい……。今までありがとう」

 

 本心から言えば、まだまだアラタとの時間を大切に楽しみたい想いだってある。

 だが自分にはアラタの傍にいる資格はない。そんな都合の良いことをするわけにはいかないのだ。だからこそ自分はただの過去としてさっさと忘れてもらい、アラタには輝かしい未来を進んで欲しい。

 

「……冗談じゃない」

 

 それを何より拒否したのは他ならぬアラタであった。

 静かに、だがそれは確かに明確な意思をもって拒否したのだ。

 

「もうっ……ワガママ言わないの。君にはサイド0……ううん、多くの仲間達がいるじゃない」

「RECOCOはその一人じゃないのか? ワガママ言ってるのは寧ろRECOCOだろ。それともRECOCOにとってはそうやって切り捨てられる程度のことだったのか?」

 

 アラタには多くの仲間がいる。自分との時間がなくなったとしてもきっと大丈夫な筈だ。

 そう考えていたアイダではあるが、アラタは決して頷くことはなかった。何故ならアラタにとってRECOCOは……アイダは大切な仲間の一人なのだから。

 

「そんなことはないっ。だけど……このままの関係は続けることは出来ない……。だからっ……!」

「それは勝手にRECOCOが決めたことだ」

 

 アラタの言葉に反発するように間髪いれずに否定される。アラタを抱きしめる腕に籠もった力を考えてもそれは紛れもなく本心からの言葉なのだろう。そのこと自体はアラタとしてもこれ程嬉しいことはない。だが、だからこそここでRECOCOとの関係を終わらせるわけにはいかないのだ。

 

「……大人の振りなんて止めろよ。ガンプラに大人も子供もない……。したいことをして、楽しむをするのが一番なんじゃないか。そして俺達はそのガンプラが結んだ仲間だろ? だったらRECOCOが本当にしたいことを言ってくれよ」

 

 RECOCOの正体を知ることが出来ないというのなら、それでも良いだろう。だが訳も分からないまま、RECOCOとの関係を終わらせるつもりなどない。彼女はこのままの関係を続けることは出来ないと言っていたが、未来は何が待っているかは分からない。ならば下手に賢しい真似をするよりは好きにしたって良いはずだ。

 

「……じゃあ……ここからは、ひとりごと」

 

 アラタには今、背後にいる人物がどのような感情を抱いているのかは見えない。しかし身体に伝わってくる腕の震えは間違いなく当人の心境を表したものに違いない。するとアラタの言葉が届いたのか、RECOCOはポツリと漏らす。

 

「……君が卒業するまでは、これまで通りオンライン上のフレンドでいて欲しい」

 

 それはあくまででも独り言。そう、彼女の本心が漏らした独り言だ。

 

「もし……もし、君が卒業しても私のことを気にかけていてくれるのなら……その時は、またここで会いましょう」

 

 きっとその時こそ本当の意味でRECOCOを知り、向き合えるのだろう。

 少なくともこのやり取りでRECOCOがガンブレ学園に身を置いていても生徒ではなく、立場のある存在なのだということはアラタも察して頷く。

 

「じゃあ、またねっ」

 

 そう言い残し、今までアラタを抱きしめていた腕がそっと離れて、ガチャリとドアの開閉音が静かに響く。

 

「……ああ、またな」

 

 身体にはまだ仄かに温もりが残っている。

 自分以外に人がいなくなった部室でアラタは一人、友達と再び会うために別れの挨拶を静かに零すのであった。

 

 ・・・

 

 シイナ・ユウキ率いる生徒会とサイド0の熾烈な戦いから早数ヶ月。平和を取り戻した私立ガンブレ学園は自由を手に入れた生徒達によって日々活気に溢れていた。ユウキの生徒会解散発言を受け、生徒会の再編制に伴い、投票が行われ、新生・生徒会が発足したのだ。

 

「……はあ、片付けても片付けても終わる気がしない」

 

 ……とはいえ、まだ活動もままならぬのだが。

 生徒会室に響いたのはユイのため息だ。今、アラタとユイの二人はユウキ達旧生徒会が使っていたこの部屋の片付けに追われていた。

 

「いくらなんでも散らかしすぎよね……。シイナ君もセナ君もちゃんと片付てから引退しなさいっての、もぅ」

「立つ鳥何とやら……。っていうか、何で俺達が片付けないといけないのさ」

「後でリョウコ達が手伝いに来てくれるとは言ってたけど、今週は片付けだけで終わっちゃいそうだね」

 

 まだまだ物が散乱してはいるが、これでもまだマシになったほうだ。最初は文字通り、足の踏み場もなかった。

 とはいえ、これが中々の身体的負担になる為、文句が絶えないなか、ユイはふと壁に貼られたカレンダーを見やる。

 

「でも、何だか不思議。こうしてまた、生徒会役員として生徒会室に戻ってこれたなんて」

 

 そう、新生生徒会にはユイもまた名を連ねているのだ。

 

「私は三年だから任期が短くて申し訳ないんだけど……よろしくね、アラタ会長」

 

 そして何よりアラタはガンブレ学園の新しい生徒会長に就任したのだ。

 これは多くの生徒達の後押しや投票があったことから実現したことであり、まだ発足したばかりだがこれから体制も変わることもあり激務が待っていることは想像に難くない。

 

「こちらこそ、ユイ副会長。まだまだ混乱することばかりだけど、少しでも多くの生徒を納得させられるように努めるよ」

 

 そしてユイは副会長だ。

 生徒会の圧政に苦しむ者もいれば、そこで受けられる恩恵を享受する者もいる。アラタも多くの生徒達を見て来た。彼ら全てを満足させることは出来ないが、それでも自分なりのことはするつもりだ。その為には他の生徒会役員達の協力が不可欠であり、アラタの言葉にユイは「勿論っ」と声を弾ませる。

 

「ところで……この部屋って先生達も来ないし、生徒も生徒会役員以外は入れないし……。そ、それで今……私達は二人きりというか……」

 

 再び掃除に戻ろうとした矢先、ふとユイがしおらしく話し始める。

 チラリと見てみれば。何やらもじもじと気恥ずかしそうにしているではないか。

 

「その……アラタ君って私のことをどう思ってるのかな、みたいな……。せっかくだから、ちゃんと聞いておきたいな、って……」

 

 二人きりの空間、目の前にはしおらしく身体を揺すっている美しい少女。そんな姿を見れば、やはりアラタといえど何も思わないわけではなく、彼もまた気恥ずかしそうに頬をかく。

 

「どうも何も……ユイ姉ちゃんはユイ姉ちゃんだろ。昔馴染みでいい加減なところもあって、でも芯があって……。昔から姉ちゃんとして頼りになったからこそ今、恩返ししたいって言うか、支えたいって言うか……」

 

 いつも通り話すようでも、やはり恥ずかしいのか、ユイから目を逸らしながら何とか言葉を紡ぐ。ここに他のサイド0のメンバーなどがいれば違ってくるのだろうが、やはり幼馴染みである分、ある程度、踏み込んで話せるところもあるようだ。

 

「──あら、タイミングを間違えたかしら」

 

 えっと、だからその……と言葉を悩ませるアラタに恥ずかしそうにしながらもユイはその一字一句を聞き逃すまいと高鳴る鼓動を感じながらアラタをジッと見つめる。段々と互いに鼓動の音が煩く感じるなか、冷や水を浴びせるかのように入り口からアラタでもユイでもない第三者の声が聞こえてきた。

 

「レ、レイナちゃん!?」

「お掃除の手伝いに来たのだけれど……。悪いことをしたかしら」

 

 何故、ここにレイナがいるのかと目を見開いて驚くユイの疑問に答えるように話すレイナだが、言っている割には当人は一切、悪びれた様子もなくどこかクスクスと笑ってさえいる。

 

「盗み聞きするつもりはなかったのだけれど……。私も良ければ聞かせて欲しいわ」

「な、なにを……」

「私のことどう思ってるの、とか?」

 

 掃除の手伝い、というのは嘘ではなく、本当にタイミングが悪かったのだろう。

 これでは聞けずじまいだろうと凹んでいるユイを他所にレイナはそのままアラタに歩を進め、彼の前で覗き込むように前屈みになると、アラタはその悪戯っ子のような笑みにドギマギしてしまう。

 

「そ、それは……年上だし……そのっ……捉え所がないっていうか、ミステリアスっていうか……。でも、傍にいると落ち着くし……。な、なんかユイ姉ちゃんとは違うベクトルの姉ちゃんって感じで……」

 

 先程のユイの件や今、目の前にいるレイナのせいでアラタ自身、雰囲気に呑まれているのだろう。

 しどろもどろになりながら、ありのままに感じていたことを口にするとその言葉に強く反応したのレイナではなく、ユイであった。

 

「あら、からかってみただけなのだけれど、そう言ってくれるのは嬉しいわ。意地悪してごめんなさいね」

 

 しかしそんなユイを他所にレイナはアラタを抱き寄せると、そのまま自身の豊満な胸にアラタの頭を抱え込む。

 顔中に広がる柔らかな感触と彼女の甘い香りに脳がくらくらとやられていくような感覚を味わっていると不意に腕を強く掴まれる。

 

「ちょっと待って! アラタ君のお姉ちゃんは私だけだよねっ!?」

「あら、印象の話よ? それにそういうことを言うと彼が困っちゃうわ」

 

 アラタの腕に抱きつくように絡まりながらアラタに問い詰めるユイにレイナは依然とアラタを離すことなく彼の頭を撫で続けている。しかし食い下がろうとしないユイに対し、レイナもアラタを離そうという素振りもなく、どんどんと空気が張り詰めるなか、次なる来訪者は突然現れた。

 

「ちょっと待てっ!」

「リョウコちゃんっ!」

 

 乗り込むように現れたのはリョウコであった。

 リョウコの登場にユイとレイナが驚くなか、レイナの胸から離れたアラタは彼女の名を口にする。これで一先ずこの場を収めることが

 

「私も姉だっ!」

「リョウコちゃんッッ!?」

 

 ……出来なかった。

 これが後にガンブレ学園に伝わる守護神イオリチャンに続く第一次姉戦争の勃発である。

 

「……何か凄いことになってるわね」

「アラタ先輩のことは大切ですけど、あの輪に入る自信はないです……」

 

 リョウコと一緒に来ていたのだろう。

 後からイオリとマリカが顔を出すなか、彼女達は現在、アラタを巡って三つ巴となっている目の前の状況を見て、嘆息していた。そうしていると最後にリュウマが遅れてやってくる。

 

「これからも大変だなぁ、会長さんよぉ」

 

 もう既に辟易しているアラタを見て、リュウマは愉快そうに笑う。

 アラタを生徒会長にユイとリュウマは副会長、そして書記のイオリと会計のマリカによって構成される新生生徒会。これからも波乱の日々が待っていることだろう。だがきっと乗り越えられると目の前の賑やかな光景を見ているとそう思わずにはいられないのだ。

 

 




いよいよ次章で最終章です。

おまけ
気の早いエイプリルフール絵
イチカがいるならどこかの世界にはアラタ(♀)とリュウマ(♀)もいる説

【挿絵表示】


リュウマ(♀)「アンタ、ビルダーなのか!? だったらアタシと勝負しようぜ! な? なっ!?」
アラタ(♀)「あら、また誰彼構わずちょっかいかけてるのかしら」
リュウマ(♀)「いや、ちょっとバトルするだけ──」
アラタ(♀)「ウチのお馬鹿さんがごめんなさいね。この娘の面倒はこの天っっ才美少女ビルダーが見るから、アナタはもう行って良いわ」
リュウマ(♀)「おい、まだ何もしてな──」
アラタ(♀)「バトルなら私が付き合ってやるわ。アンタは私くらいじゃないと面倒見きれないもの」

なお、この世界線だとユウキはより面倒臭くなる模様
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