ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
──全てが充実していた。
──この目に映る景色全てが鮮やかだった。
──まるで心地の良い夢の中にいるようで……。
──だからかな?
──唐突にそんな夢の日々が終わったのは。
・・・
「──部長ぉ?」
その声と共にハッと我に返ったのは第10ガンプラ部部長であるレイナであった。
そんな彼女の視界に飛び込んできたのはこちらを覗きこんでいるアヤと「起きてらっしゃいますかー?」と手を振っているアカリであった。
ガンブレ学園が来る文化祭の準備に追われているなか、ガンブレ学園の魔窟と称される第10ガンプラ部も例外ではなく部室内はいつになく忙しく慌しかった。
「な、何かしら?」
「ああ、いえ。珍しくボーッとしてらっしゃので」
我に返ったレイナは普段通りの澄ました態度を作りながら用件を尋ねると、アヤは不思議そうに答える。どうやら直前までレイナが呆けていたことが理由であったようだ。
「恥ずかしいところを見せちゃったかしら」
「いえいえ。ですがそういった部長様の一面を見るのは初めてでしたので可愛らしくもありましたよ」
「もぅアカリちゃんは意地悪ね。それに様付けは柄じゃないから止めてって言ってるのに」
とはいえアヤが言うように彼女がそのような姿を見せるのは珍しいようでどこか気恥ずかしそうにレイナは自身の頬を掻いていると普段のミステリアスでクールな印象が強いこともあってか、今のレイナとのギャップにアカリはクスクスと笑みを漏らし、レイナは逆に困ったような笑みを浮かべる。
「失礼しますっ!」
そんな和やかな時間を過ごしていると、不意に第10ガンプラ部の扉が開く。訪問者が誰なのかを確かめるようにレイナ達がその方向を見やれば、そこには溌剌と部室に足を踏み入れるリンコの姿があるではないか。
「いやー、どこも盛り上がっておりますが第10ガンプラ部も例に漏れませんねーっ」
「ふふんっ、この第10ガンプラ部の歴史を作品と共に知ることが出来るミュージアム! 当初こそ色んな人達に止められましたが、一部を条件に漸く漕ぎ着けましたっ!」
(まあ、全てを公開なんてしたら本当に学園がヤバイですからね)
活気溢れる第10ガンプラ部の室内を見て、うんうんと感心するリンコにどうだ、とばかりにアヤは胸を張る。そんな満足げなアヤを他所にリンコは部室内の奥で“KEEP OUT”のマスキングテープがぐるぐる巻きにされた異彩を放つ戸棚を見ながら遠い目をする。
「今日はどうしたのかしら、リンコちゃん」
「あぁ、そうでした! 紹介したい人がいるんですよっ」
雑談も程々にレイナはここに訪れた目的を尋ねると、すっかり忘れてたとばかりにポンと手を叩き、自身が入ってきた開きっぱなしの扉を見て、「入ってきて良いですよー」と声をかければ、一人の人物がおずおずと第10ガンプラ部に足を踏み入れた。
まず目に入ったのは鮮やかな桃色の髪であった。
左右に分けて結び垂らしたおさげの髪を揺らしながら入ってきた少女のその顔立ちは柔らかくとても愛くるしい。人見知りなのか、縮こまりながら伏し目がちに第10ガンプラ部を見渡すその姿はその小柄さを相まってまるで小動物のようだ。
「一年のナグモ・アサヒさん、ですね」
「は、はいっ!」
面識のないレイナは視線を動かして周囲に伺うと、アカリが率先して少女の名を口にすれば、ナグモ・アサヒと呼ばれた少女はピクッと身体を震わせながら答える。
「あー、知ってます。確か放送部に在籍してるんですよね」
「はい。ウチの期待の新人ですから、早速レイナさん達にも紹介しにきたというわけです」
一年であればアヤとアカリと同学年だ。
アヤも一応の面識はあるのか、アサヒの隣にいる放送部部長であるリンコに視線を向けると、自慢げに頷きながら揚々とアサヒの背後に回ってその肩に手を添える。
「はじめまして、アイゼン・レイナよ。よろしくね」
「ナ、ナグモ・アサヒです。こちらこそ……お願いします」
紹介された以上、こちらも挨拶をせねばならないと椅子から立ち上がったレイナは柔和な笑みを浮かべながら手を差し伸べると、アサヒはコクコクと緊張を滲ませながら頷きつつその手を取る。だがやがて間近に見えるレイナの柔らかな笑みに少しずつ緊張も解けてきているように見える。
「アサヒちゃんの衣装、随分と可愛らしいわね。文化祭用なのかしら」
「ほ、放送部も文化祭を更に盛り上げる為に多方面でのアプローチをしようとしてて……。これはその一環です……」
そんなアサヒではあるが、その格好はレイナ達が今現在、着用しているガンブレ学園の制服とは異なっていた。
それはどちらかといえばシオンの服装を彷彿とさせよう。機動戦士Zガンダムに登場する特殊部隊であるティターンズを思わせる黒と赤を基調としながらアイドルのような華やかな衣装を身に纏っており、指摘を受けたアサヒは気恥ずかしそうにはにかむ。
「なにかするのかしら?」
「ガンプラバトルの公式大会……それこそジャパンカップなどではMCの方が就きますよね? 文化祭では色々とガンプラのイベントが執り行われますから、部長の推薦で私がその任に就くこととなりまして……」
わざわざこのような衣装を用意して何をするつもりなのだろうと興味本位で尋ねてみれば、どうやらアサヒは文化祭におけるイベントのMCを務めるようだ。とはいえ、アサヒ本人には自信がないのだろう。伏せる視線には臆病さを感じさせる。
「大丈夫よ。リンコちゃんが推薦したというのならば、それだけのポテンシャルがあるということよ」
「アサヒちゃんの才能は未知数ですからね。保証できる訳ありません」
「……あるということよ」
大役ということもあって、まだ開催前だというのにも関わらずアサヒは色濃く緊張の色を見せている。そんなアサヒの緊張を少しでも和らげようと励まそうとするレイナだが、なにを思ったのか不安を感じさせる発言をするリンコに頬を引き攣らせる。
「……っていうか、さっきから思ってましたけど露出高くありません?」
ガックリと肩を落としているアサヒにふとアヤがどこか引いたように話しかける。
というのもその臆病そうな性格とは正反対に所謂、下乳が見えるか否かという程にアサヒの衣装は露出度が高かったのだ。
「そ、そうですよね。で、でも理由はあるんです」
そんなアヤの指摘に羞恥心はあるのか、頬を紅潮させてもじもじと身体を揺らすアサヒだが、理由があるらしくアヤやレイナ達はアサヒへ耳を傾ける。
「……私って臆病で自分に自信もないんです」
「まあ……」
「……今度の文化祭のMCも自信がなくて」
「……」
「でもMCに選ばれたからには何もない私でも最高のものにしたいんですっ」
「アサヒさん……」
「だからもう脱ぐしかないかなって」
「アサヒさん?」
途中までアサヒへ同情を感じていたアヤだが、思わぬ発言に固まってしまう。
「ほら、ガンプラのイベントをやっているMCさん達って軒並み、露出が高い衣装が多いじゃないですか!」
「いや……だからといって別にアサヒさんがそこに合わせる必要は……」
「シオン先輩がいる以上、私みたいなのが目立つ為には脱ぐしかないんですっ!」
「気持ちは分からんでもありませんが、学生ですし自分を大事に……」
「それにこの衣装を着ている時の男子生徒達から刺さる視線がこぅ……悪くないな、って」
「ポリキャップでも外れてるんですか?」
にアヤもこれまでジャパンカップなどのMCを行ってきた人物達の衣装を思い出しながらも、MCだからといってアサヒまでそれに合わせる必要性を感じず釈然としない様子で首を捻るがどうにもアサヒは違うベクトルでアレらしく、恍惚とした様子で話す姿にこれにはアヤも何も言えなくなってしまう。
「やはり、アサヒちゃんは他の誰かにはないモノを持っていますね! これなら絶対大丈夫ですっ!」
「はいっ、ナグモ・アサヒ。部長の期待に応えるためにも精一杯努めさせていただきますっ!」
当初こそ気弱な物静かな娘という印象であったアサヒだが、リンコがMCに推薦するだけあって中々クセのある人物のようだ。
「……大丈夫ですかね」
「旧生徒会の抑圧から解放された反動でしょうか……」
ガンブレ学園の魔窟とも称される第10ガンプラ部の面々も面食らいつつも文化祭に一抹の不安を感じてしまう。
「部長はアサヒさんをどう思います?」
「……」
「……部長?」
苦笑気味にレイナに話を振るアヤだが、レイナは一点を見つめるのみで何の反応も示さない。
こんなレイナなど珍しい。いつもレイナは常に何かしらの反応はしてくれる。今のレイナはまさに心ここにあらずといった様子だ。
『レイナ』
レイナはただアサヒとリンコを見つめている。だがその目にはアサヒとリンコは映していない。
アサヒとリンコに重なるのはかつての記憶。大切な友達であり、偉大なる先輩であり、愛する姉のように慕っていた女性……。彼女の目にはかつてこのガンブレ学園で生徒会長を務め、そしてユウキとセナに敗れた一人の少女との温かくも優しく、そしてそれが無残にも砕かれた思い出が過ぎっていた。