ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「アタシはカミサカ・チナツ! ちなちーって呼んでね!」
「……」
アラタに抱きついてきた少女は自分の名前を名乗りつつ、自身の愛称を口にする。
丈の短いスカートなど着崩した制服や身に着けているアクセサリーの数々など俗に言うところのギャルを思わせるが、その活発な笑顔は親しみやすさが感じられる。
そんな印象も程ほどにチナツは突然、アラタに顔を近づけてきた。
「……くんくん。あれ? キミって塗料の匂い、しないね。何でガンプラ塗ってるの? 水性塗料系? もしかして、ガンダムマーカー重ね塗り系!? 生徒会に立ち向かってるって話だし、ますますキミに興味が湧いちゃったかも! ねえねえ、キミのガンプラ見せて見せてーっ!!」
「……」
自身の胸部が目の前の青年の顔を埋めているというのに、抱きついたまま鼻を鳴らして、アラタの匂いを嗅ぎながら、さながらマシンガンの如きトークを繰り広げる。
しかし何を言われようとアラタは一切の反応をしないまま沈黙していたのだ。
「……ってぇ、どったの? 黙りこくって」
「……アップルパイにはアップルが入ってた」
流石に不思議に思ったのだろう。アラタから離れながら尋ねると悟りを開いたような表情で合掌された。
「ところで、おっぱ……ん”ん”っ! ……えっーと、ちなちーは俺に何の用?」
「いや、ガンプラを見せてもらいたんだけど……。まあでも、廊下じゃアレだから、秘密の場所に行こ?」
とはいえ、一連の流れは十分、周囲の注目を集めてしまった。
落ち着いて話せる場所に向かおうと、チナツの案内で一先ず、アラタはその後についていくのであった。
・・・
「ここ、たまに忍び込んで、デコるのに使ってるんだー。みんなには内緒だよ?」
訪れたのは、古いガンプラバトルシミュレーターが置かれている見慣れた第08ガンプラ部の部室だ。
とはいえ、チナツはアラタがこの部室を利用しているのは知らないため、自身とこの部室の関係を口にしながら、人差し指を鼻頭にあてながら、ウインクしている。
「俺も昨日から使い始めてね。今後、ここで会うかもしれないな」
「マジ!? キミもここを使ってたんだーっ!」
最も別にアラタの場合は忍び込む必要はないわけだが。
そのことを知らないチナツは同類を見つけた、と嬉しそうに跳ねていたが、それよりそれより、とやがてそのままアラタに詰め寄ると……。
「早速見せてよ、キミのガンプラ! どんな塗りなのか気になっちゃって!」
まるで幼い子供のようだ。
興味深々に瞳を輝かせるチナツにアラタは苦笑しつつも、自慢のガンプラであるG-ブレイカーを取り出す。
・・・
当初は興味本位で適当に見られて、終わりだろうと考えていたが、眉間に皺を寄せてG-ブレイカーを見つめるその姿は真剣そのものだ。
彼女の口ぶりから塗装に拘りがあるのだろう。これには予想外であったが、逆にそれほどまでに自分の手がけたガンプラを見てくれるのは、純粋に嬉しいものだとプレバイで購入したドーナツを頬張る。
やがてG-ブレイカーを隅々まで見終えたチナツはうーん、と批評を始める。
「あたしから言わせると、まだまだデコリが甘いけどセンスは超イケてるかも……」
「でしょ!? 因みにクリアパーツはエナメル塗料で塗ったんだけど、その下にホログラムシールを使ってるんだ!」
「キラッキラだね。これだけクリアパーツを使ってると、鮮やかでより映えるよ!」
G-ブレイカーは各部にクリアパーツがふんだんに使われ、その一つ一つに惜しみのない手間がかけられている。その結果、バトルだけではなく、一つの作品として見ても、十分な完成度を誇っていた。
心からG-ブレイカーを愛しているのだろう。他にも塗装や見栄えに関して、拘った点を子供のように夢中になって全て話す。その全てにチナツは、うんうん、としっかりと話に耳を傾けてくれた。
「……じゃあ、そろそろやろっか」
「エッッッッ」
やがて全てを話し終えて満足していると、不意に耳元でチナツが甘い声で囁いてきた。
「どうしたの? ここに来たら、やることはひとつでしょ? アタシのガンプラとミッションしよ!」
(……邪念を捨てろ俺。ガンプラを……G-ブレイカーを前にしておきながら、おっぱいに惑わされるんじゃない)
特に彼女自身に深い意味はなかったのだろう。
動揺したままピタッと固まっているアラタを可笑しそうにしながら、近くのシミュレーターを指差す。
一瞬でも何を想像したのだと思春期の自分を恨みながら、深呼吸したアラタはチナツと共に出撃していくのであった。
・・・
チナツと共に出撃したバトルフィールドは月面基地であった。月面の地を踏みしめるG-ブレイカーの各部のクリアパーツは通常のフォトンバッテリーよりも高圧縮のものとなって、周囲を照らすほどの輝きを放つ。
「バトルフィールド……特に宇宙空間にいると君の機体、映えるね!」
「クリアパーツは勿論のこと、元になったG-セルフも宇宙のイメージが強いからな」
「現実で鑑賞するのもありだけど、バトルフィールドに投影されたガンプラを見るのも乙だよね、アタシも参考にしなくっちゃ!!」
チナツのガンプラはスターバーニングガンダムをベースとしたマックスキュート・ガンダムという名のガンプラだ。ピンクとゴールドを基調にボーダー塗装がなされ、バックパックにはリボンストライカーを採用しており、バトルというよりも見栄えや可愛さに重きを置いたガンプラのようだ。
「地形に合わせて見た目を変えるとか面白いよね。ジャングル塗装はド定番だけど、最近のガンプラだと都市迷彩も流行ってるし! 迷彩はエアブラシ使わなきゃなんだけど、アタシ持ってないんだよねー。だから学園の借りてデコるんだけどさー」
「アニメ塗りとかもあるよな。バトルフィールドで鉢合わせしたら、アニメの中に迷い込んだような不思議な気分になりそう」
「そうそう! ま、アタシの場合は基本、“可愛く、派手に!” なんだけどねー!」
中々、塗装談義は尽きず、バトルフィールドだというのに話の場となってしまっている。
そんな二人にいい加減にしろとばかりに銃撃が襲い、回避しながら確認すれば、そこにはNPC機達の姿が。
「って、ノンビリしてる場合じゃなかった! いっくよー!!」
「ああ! G-ブレイカーが塗装だけじゃないってとこ、お見せしちゃうよ!」
元気よく腕を突き上げながら、NPC機へ向かっていくマックスキュートに続くようにG-ブレイカーもスラスターを稼動させ、宇宙空間に舞い上がる。
「G-ブレイカーを褒めてくれた礼だ。取って置きを見せてやる」
ビームライフルの引き金を引くことでNPC機の注意を引く中、G-ブレイカーの機体色は青紫色に変化すると、バックパックのバインダーを水平になるように移動させ、四方に半透明のバインダーが出現する。
これがG-ブレイカー・リフレクターモードだ。
NPC機から放たれたビームはリフレクターモードによって跳ね返されるか、もしくは吸収され、G-ブレイカーのエネルギーに変換されると、エネルギーを気にしない大胆な戦い方を繰り広げる。
「ちょうちょみたい……」
四方に展開されたリフレクターモードは、さながら蝶の美しい羽根のようだ。
塗料によって手が加えられた全身のクリアパーツは鮮やかに輝き、自身に襲い掛かるエネルギーを蜜に変えた美しい一匹の蝶は宇宙を舞台にひらりと舞い踊るのであった。
・・・
「キミ、やるじゃんっ! 塗装だけじゃないんだねー!」
「やるでしょ? 天っっ才でしょ?」
「なにそれ、おもしろーい!」
それから数分後、バトルを終えたチナツは先程、見た光景に興奮が冷めやらぬまま詰め寄ると、アラタも得意げとなって三本指をクルリと回す。
苦笑されることが多かったその自称天才のキャラもチナツには大受けしたようで、ゲラゲラと大笑いしていた。
「そう言えば結局、生徒会に立ち向かってるって話、マジなの?」
「マジ……って言いたいけどまだ、降りかかる火の粉を払ってるくらいだけどね」
「でもそのつもりなんでしょ? それってチョーすごいかも。ヤバイレベルですごいっ! 生徒会に立ち向かうなんてユイぽん以外にいるんだーっ! ユイぽんだけじゃヤバくね? 無理じゃね? って思ってたけど、キミがいれば出来るかもー!」
チナツの驚きながら感心する姿を見ても、やはりここの生徒にとって生徒会は絶対的な存在のようだ。
とはいえ、アラタはもう生徒会に抗うと決めた身だ。今更、何であろうと構うものか。
「なんかキミはやりそうな匂いがする! アタシは、鼻は良いほうなんだ。塗料の匂いもすぐに嗅ぎ分けられるし!」
「かもでも、やれそうでもない。俺はやっちゃいますよ。なんせ──」
「天才だからっ! でしょ? キミといると楽しいことがチョーたくさんありそう!」
チナツの確信めいた言葉に三本指を回そうとするが、その指をギュッと掴まれて、その後の言葉を言われてしまう。どうやらチナツに気に入られたようだ。
「アタシのガンプラデコテクニックでバイプス、ガンガン高めていこーっ! キミのガンプラはトクベツに超絶かわいいチナツスペシャル水玉塗装バージョンにしてあげるっ!」
「やめろ! 信じて送り出したG-ブレイカーが……なんてのはご免だ! 気持ちだけで十分だけ受け取っとくから!」
「じゃあ、これからよろしくね、アラター!」
「アラサーみたいに言うんじゃないよ!」
騒々しくも愉快な時間は瞬く間に過ぎていき、チナツは満足して、一足先にじゃあねーと08部の部室を去っていった。
・・・
「悪い奴じゃないけど、あのマシンガンっぷりは凄いな……。少し疲れた」
チナツと別れ、アラタも教室に戻っていく。
しかしチナツの勢いに流石のアラタも気疲れしているように見える。
「あれ、そう言えばなにかを忘れているよう、な…………」
ふと教室に近づくに連れ、何か引っかかりを感じ始める。
一体、なにかあっただろうかと思い出そうとしながら、教室に足を踏み入れたが、その先の光景に固まった。彼の視線の先には……。
「シッ…シッシッ…」
イオリ、無言のシャドーボクシング
壁時計を見れば、彼女のここで待っているという言葉に見送られてから、もうかれこそれ30分は経っており、昼休みももう間もなく終了するだろう。
「……」
アラタ、無言で教室に背を向け、クラウチングスタートの体勢をとる。
「……ズットマッテタノニ」
「ごめんなさあアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーいっっっ!!!!」
背後から感じる強烈なプレッシャーを合図に全力の謝罪と共に走り出す。
なお、この後、無事に必殺シャイニングエルボーは決まったそうだ。