ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
雨宮希空と彼女が操るガンダムNEX クロスナイトの参戦によってバトルロワイヤルはより一層の苛烈さを見せていた。
ν-ブレイカー、ガンダムブレイカークロスゼロ、そしてガンダムNEX クロスナイトが中心となって、まるで扇動するかのようにバトルをしているのだ。それはどこまでも自由に、何の柵もなく、ただどこまでも自分が自分らしくしたいままに動いているかのように。彼らによって動かされるガンプラはまるで生き物のような溌溂とした活発さを持ってフィールドを駆け抜けていく。
「おいおい、あの赤目のねーちゃんまでアラタのところに行っちまったぞ」
バトルをしながらリュウマはNEXを見やる。
ガンダムNEXを操る少女こと希空は先程、失意の中にいたレイナ達に最後まで諦めるな、と諭した張本人であり、今、リュウマ達がバトルロワイヤルに参加するように促した人物である。
「でも、なんだろうね。アラタ君……必死にあの二人の背中を追いかけてるみたい」
そんな中、ν-ブレイカー達の様子を見ながらユイは静かに零す。
一見すればあの三機を中心にチームのような行動をしているように見える。
しかしアラタと長年の付き合いがあるユイの目にはν-ブレイカーが、アラタが必死になって奏と希空の背中を追いかけているように見えたのだ。
「ったく……」
「って、リュウマ君!?」
リュウマの目にも同じように映ったのだろう。
仕方ねえな、とばかりに頭をポリポリ掻くと一目散にレイジングボルケーノは飛び去っていき、驚いたユイがリュウマの名を呼ぶ頃にはもうレイジングボルケーノの姿は黒点にしか見えないほど遠のいていた。
・・・
一方、ガンブレ学園にて多くの視線を集めている者がいた。
──セレナ・アルトニクス。
実業家の父を持つ彼女は所謂、お嬢様でありながら世界にその名を轟かすほどのビルダーだ。
腰まで伸びたナチュラルブロンドの髪をリボンで留め、その翡翠の瞳は飄々と彼女の真意を読み取ろうとするのは難しい。
しかしそのルックスや顔付きなど、どれを取っても美しい彼女だが、その中性的な物腰は男性のみならず女性を惹かせてしまうほどの魔性の少女なのだ。
イチカと同等か、それ以上の著名人である彼女はこのように羨望の的になることは慣れ切っているのか、自分に対してサインを求めたりなどの行動に対してアールシュの時同様にそつなくこなしていく。
「やれやれ、こういうところでは人目を引いてしまうね。特に文化祭という日だと余計に」
とはいえ今はいつまでもファンサービスをしているわけにもいかないのか、キリのいいところで切り上げた彼女は人気のない場所へ移動する。何とそこにはシエナがいたのだ。
「飲み物一つ買いに行くだけで、これだ。まあ、光栄と言えば光栄だけどね」
はい、と両手に持ったうちの一つのドリンクカップを手渡しながら、わざとらしく肩を竦めておどけて見せるセレナ。しかし対してシエナはセレナから差し出されたドリンクカップと彼女の顔を交互に見て、目を白黒させてしまっている。
「やれやれ……ぶつかってからずっとこの調子だ」
そんなシエナにどこかげんなりした様子で肩を竦めながら買ってきたタピオカドリンクを飲む。
タピオカドリンクはハロをイメージしているのか、トッピングで乗せられた二つのドライストロベリー付きの抹茶味のアイスは味覚だけではなく視覚的にも楽しい仕上がりとなっている。
が、逆に視覚的に楽しくないのは目の前のシエナだ。
彼女が持っているのはラクス・クラインが所有していることが印象的なピンクのハロをイメージしたストロベリーアイスがトッピングされたタピオカドリンクだが、彼女にとっての関心はセレナに向けられており、緊張でどうしたらいいか分からないようだ。
「あ、あああ、あの……ほ、本物のセレナ・アルトニクスさんですよね?」
「生憎、ボクにミーアみたいな存在はいないよ」
口をパクパクと落ち着かない様子で信じられないとばかりにセレナを見つめているシエナの緊張を少しでも和らげようとジョーク混じりで話す。
チラリと横目で人混みの方を見やればセレナの侍女である二人のメイドが既に自分達で文化祭を楽しんでいる。
だが自由奔放に楽しんでいるようでセレナと付かず離れずの距離にいることで何かあれば即座に対応できる位置にいるのはメイドとしての役割をきちんと果たしているからだろう。
「あの、私……セレナさんが出てくる雑誌の類などは必ず目を通すようにしていて……ッ! セレナさんの作例などにはいつもインスパイアされたりとか……」
「そいつは光栄だ。ガンプラを嗜む人からそう言われるのは悪い気はしないからね」
セレナ自身がガンプラ界において著名人ということもあり、緊張から一杯一杯になりながらも何とか言葉を吐き出し、彼女への憧れを伝えようとする。
とはいえ、この手のやり取りは既に馴れっこなのか、嬉しそうに笑みを浮かべながらタピオカドリンクを近くに置いたセレナは軽くハンカチで水滴で濡れた手を拭った後、シエナの両手を包むように握手する。
「ところで君はこの学園に詳しかったりするのかい? そうだったら案内を頼みたいんだけど」
あわあわと間近に見るセレナの顔にシエナのきめ細かな白い肌がどんどん紅潮していくなか、そんなシエナを知ってか知らずか、セレナは場合によってはガンブレ学園の案内を頼もうとする。
セレナに憧れるシエナからすれば思ってもみない提案であり、本来であれば二つ返事でOKすることであろう。しかし今回、その内容がいけなかった。
「詳しいには……詳しいですけど」
冷や水を浴びせられたかのように、それまで熱を帯びていた興奮は一気に冷めていくのを感じた。
「でも、ごめんなさい。私はもう……この場所にはいたくないんです」
両手を包むセレナの手からゆっくりと離れようとする。
セレナとの思ってもいなかった邂逅に心浮かれていたが、依然としてシエナにとってこのガンブレ学園が忌々しい場所であることに変わりはないのだ。
「なにかあったのかい?」
だがそこに待ったをかけたのは他ならぬセレナであった。
先程まで自分相手に興奮していた少女の態度が180度と言っていいほど変わったのだ。
好奇心がないというわけはないが、折角出会ったのだ。何かあったのであれば力になりたいと思ったのだ。
「その……」
話すべきか視線を彷徨わせるシエナ。
しかしいっそのこと吐き出したほうが気も楽になると思ったのか、やがて意を決したようにセレナに向き合うとゆっくりと自分がこの学園でかつて生徒会長の立場であったこと、それがユウキ達に負けて学園を変えてしまったこと、そして今のこの学園が醜く見えてしまうこと、それらすべてセレナに話す。
「──なるほどね」
シエナによって話されたガンブレ学園についてのこれまでの歴史にセレナは近くの壁に寄りかかりながら何か考えるように天を仰ぐ。
「……こんなに醜い場所、そうはないです。セレナさんはゲストとして招かれたんでしょうけど、あまり長居しないほうがいいですよ」
「まあ確かに話に聞く限りでは良い場所ではないよね」
嘲笑うようにガンブレ学園を吐き捨てるとセレナからも同調されたこともあってシエナはどこか機嫌を良くしたかのように鼻を鳴らす。
「けど解せないなぁ」
「何がですか?」
天を仰いだままセレナは不意にポツリと零した。
セレナに自身の境遇やガンブレ学園の醜さを話し、同調されたとこともあってかどこか上機嫌に彼女の疑問を聞き出そうとする。
「君がここにいる理由だよ」
その言葉を認識した瞬間、シエナの脳に強い衝撃が走ったかのようであった。
動揺が手に取るように分かるほど目を見開いて動揺しているシエナを尻目にセレナは言葉を紡ぐ。
「この場所の醜さを君は誰よりも知ってたんでしょ? なのに君はまたこの場所に来た。それはどうしてだい?」
「それは……生徒会長が変わったって聞いたから」
飄々としたセレナの物言いその物は変わらないものの、その問いかけを受けているシエナはどんどんと狼狽えてしまっている。
「まあ、きっかけはそうなんだろうね。でも、本当にそれだけかい?」
「……何が言いたいんですか」
どんどんと自分の中で余裕がなくなって肌が汗ばんでいくのを感じながら先程までのセレナへ憧れの視線から一転、棘のあるような視線をぶつける。
「他に目的があるんじゃないのかい? 例え醜くて長居したくない場所でも、それでもこの場所に来ようと思った理由がさ」
しかしそんなシエナの視線さえそよ風を受けるているかのように涼しげな表情を崩さないままスッと目を細めてシエナに問う。
その言葉に身震いを起こしながらわなわなとシエナは自身のスマートフォンを見れば、そこにはトークアプリ卒業からずっと自分を気遣ってこまめに連絡してきてくれていたレイナの文面の数々があり、その殆どにシエナは連絡する事はなかった。
「人間ってさ、自分でも知らない一面を持ってたりするんだよ。でも、それがふとしたきっかけで表に現れてしまう。でもそれが醜ければ醜いほど目を逸らして、自分にも誰にも悟られないように“仮面”を被ってしまうんだ」
「仮面……?」
「そう、ボクには君が仮面を被っているように見えるんだ。自分の本心を分かっているのに、目を逸らしてここから去ろうとしている。でもきっと……そんな仮面をつけたままこの場を去れば、君はきっと後悔する」
これまでの飄々とした雰囲気から一転、セレナはどこか感慨深げに話す。
かつて思い当たる何かがあったのだろうか、しかしセレナ自身、決してシエナを放ってはおけないのか、シエナの”仮面”を剥がすために真摯に言葉を繋ぐ。
「……セレナさんも仮面をつけてたんですか?」
「……まあね」
セレナの実体のあるような言葉に彼女のかつての日々を問いかけると、セレナはどこか寂し気な笑みを浮かべながら澄み渡るような青空を見上げる。
「アルトニクス家は世界でもトップレベルの資産家であり、ボクはその長女。ずっと……“セレナ・アルトニクス”という与えられた役目をこなすために仮面を被ってきた」
「……でも、そんな日々を重ねれば重ねるほど本当のボクは空っぽだって事実が突きつけられてきた」
「それでもね、ここにいるボクに変わりはないんだ。これまでの道筋が変わるわけじゃない。でもだからこそ、これまでの歩みが生んだ尊い出会いの数々は空っぽだったボクの心を満たして仮面を剥がしてくれたんだ」
セレナも今に至るまで多くの苦難や出会いがあったのだろう。
しかし彼女はそれを乗り越え、今、自分を守るために被っていた仮面を外して、真の意味でセレナ・アルトニクスとして今この瞬間を生きているのだ。
「でも……そんなこと、私には」
「出来るよ」
仮面を被っていたと語るセレナもそれを剥がせただけの良い出会いに恵まれてきたのだろう。
しかし今のシエナには到底、そうすることが出来る気がしないのだ。
だが、そんなシエナを少しでも安心させるかのようにセレナは彼女の両肩を抱きしめるように優しく手を添えると、ゆっくりと振り返らせたのだ。
「……っ!?」
そしてその先にあった光景にシエナは息を吞む。
何とそこにはレイナと彼女に付き添うようにアヤがいるではないか。
しかし二人ともずっとシエナを探していたのか、透き通るような白い肌はほんのりと汗ばんで呼吸を乱しているものの、その瞳はシエナだけを捉えていた。
「ほら、行っておいで。一歩でも踏み出すことが今の君に必要なことだ」
するとポンとセレナはシエナの両肩を優しく押して、彼女を踏み出させる
セレナによって一歩踏み出させられたシエナは迷うような素振りでセレナを見るが、勇気づけるように柔和な笑みを浮かべてコクリ頷いたセレナに見送られ、レイナとアヤのもとへゆっくりと歩んでいくのであった。