ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
「……懐かしいね、ここ」
文化祭の喧騒から離れ、静かな第10ガンプラ部の部室に足を踏み入れたのはシエナであった。
久方ぶりに訪れたかつて部長を務めた部室にかつての輝かしい宝石のような思い出が脳裏を過っているのか、懐かしむように目を細めると、スッと一呼吸置いて机を撫でる。
「あはっ、色々と増えたねー」
第10ガンプラ部の部室自体、広い室内とは言えない。
しかしそんな室内に反比例するかのように部室内は所狭しと第10ガンプラ部に所属するレイナをはじめとした生徒達による個性豊かなガンプラ達が飾られており、出来栄えこそ様々だがそのどれもが自分は確かにここいるのだと言わんばかりの存在感を遺憾なく発揮していた。
「……レイナ、ちゃんと部長を務めあげてるんだね」
自分が在籍していた頃よりもガンプラの数は増えており、まさに部室がガンプラで溢れている。
しかしそれは決してかつての生徒会室のような乱雑としたものではなく、整理整頓清潔清掃とキチッとしたものであり、この第10ガンプラ部に所属する部員達への部長としての教育が行き届いているというのはこの一瞬の間ですぐに感じ取ることが出来た。
「何だか眩しいなぁ」
だからこそなのだろう。
立派に自身の後を継いで部長としての務めを果たしているレイナと今まさに過去という名の呪縛を足枷に前へ進むことが出来ないでいるシエナ。
自分を慕ってくれたかつての後輩が立派になったのは純粋に喜ばしい限りなのだが、だからこその今の自分との差を考えると何もかもが眩しく見えたのだ。
思わず目を逸らしたくなる。
半ば無意識に目を閉じようとしたその時であった。
「っ……」
不意に背中に軽い衝撃が走った。
それと同時に肩越しに香る上品な甘い香りとシエナを包み込むように回された絶対に離したくないとばかりに力が込められたか細い腕、そして体全体に感じる温かな体温。
わざわざ確認せずともシエナは知っている。
これは紛れもなくアイゼン・レイナのものだ。
「……シエナがいたからよ」
すると耳元で小さく声が聞こえてくる。
その声は今にも泣きだしそうなほど震えており、逆に今までレイナのそのような姿など見たことなく、動揺からかシエナは身動きが取れなくなってしまう。
「アナタが与えてくれた大切な宝物の数々が私の器に溜まって今を作ってくれた。シエナを無しに私の存在はありえないの」
レイナが立派に部長の務めを果たしているのならば、それはレイナにとって目指すべき存在であったシエナがいて、彼女もまた今のレイナ同様にその責務を十二分に全うしていたからだろう。
「……やめてよ」
ただ純粋なまでのレイナの熱のある言葉は自分を包み込むような体温と共にシエナの心を強く揺さぶる。
だが自身の揺れる心さえ目を逸らすかのようにシエナは視線を伏せた。
「……そんなこと言ったってレイナはシイナ君達といたんでしょ? 私のことなんて……」
シエナはユウキ達に敗れた後の最後の学園生活は彼女の心の内にあった全てが虚無になってしまうほどの凄惨なものであった。
だからこそそんなユウキ達と大切な後輩であったレイナが一緒にいることはレイナの心を大きくかき乱した。
「……それに今の私は空っぽだよ。もう、あの頃のようには……」
いくら言葉を紡ごうともうあの頃には戻れない。
なぜならばシエナの中にあったガンプラへの情熱、いや、それ以上に大切な心を突き動かすような想いは既になくなってしまったのだから。
「あのぉ……」
レイナもシエナも互いにかけられる言葉が見つからず、ただただ悲痛なまでの重苦しい空気が第10ガンプラ部の部室を満たすなか、どこか遠慮がちに声が上げられる。
「貴女は……?」
「あっ、私は一年のイチカワ・アヤなのです。よろしくーです」
レイナがシエナを追いかけた時から付き添っていたことを考えてこの金髪の少女はレイナの知り合いなのだろうが、生憎シエナに憶えはない。
最もアヤにとってもシエナと出会ったのは今回が初めてである為、折角だとばかりにペコリと自己紹介と共に頭を下げる。
「それで、ですね。空っぽだったらもう手遅れなんですかね?」
本題にとばかりに手をポンと叩いたアヤはシエナへ疑問の瞳を向ける。
それはアラタのような感情的に訴えかけるわけでもなく、セレナのように含みのあるような物言いでもない。ただただ生徒が自分の中に沸き上がった疑問を先生に尋ねるかのような純粋無垢なまでのもので、それが逆にシエナをたじろがさせる。
「変人……じゃなくて生徒会長のアラタさんはこの学園を変えました。けどアラタさんもアラタさんでこの学園の内情を直に見て、ユイさん達が語る……そう、シエナさんが会長を務めていた頃の学園に戻すのは不可能だっていう結論に達したそうです」
「えっ……でも、学園は……」
シエナは漠然とガンブレ学園の生徒会長が変わったことを耳にしたまでだ。
実際のところ、それまでの詳しい経緯を知っているわけではない。しかしユウキが生徒会長の座から降り、ユイが再び生徒会に所属していることを考えて、学園は元に戻ったのだと推測していた。
「“時間は戻せない。進むしかない。学園が変わってしまったのなら、また新たに学園を変えるしかない”……。そんなことを言ってたそうです。だからあの人はかつての純粋な学園と混沌に満ちた学園の両方の歩みを無駄にしない新しい学園を築こうとしてるんですよ」
「……でも、それが何だって言うの?」
確かに現生徒会長であるアラタはシエナがいた頃に在籍していなかった為、彼女の代まで築かれていた学園を知る由もなければ戻すことも出来ないだろう。言われてみればそうであるが、しかしだから何だというのだろう。
「確かにシエナは空っぽになって前のようになれないかも知れません。でも新しいシエナさんはここから始められるんじゃないですかね?」
アヤの言葉はシエナの心を揺さぶる。
いや、それはきっとこれが初めてではない。アラタ、セレナ、レイナ……自分だけに向けられた言葉の多くが自分の心に訴えかけてきているのだろう。
「確かにあの時、部長はシイナさんとセナさんと一緒にいましたけど、でも本来ならそれはありえない光景なのですよ。だって部長は兎も角、前までのあの二人は一緒にいることすら許さなかったでしょうし」
確かに一方的にレイナはシイナ達と一緒にいたと責めていたが、一瞬でこそあるがあの時の様子から見てもレイナがかつてのリョウコのように軍門に下ったようには見えず、対等な関係を築けているように見えたのだ。
だがそんなことは自分が知るユウキ達では絶対に築けるような関係ではないだろう。あの関係を形容するのであればそれはまるで……。
「でも、それを可能にできたのはこの学園が変わったから……。誰とでも手を掴もうとする学園を今、アラタさん達は作り始めているのですよ」
昨日までの怨恨を越え誰とでも手を掴める場所……。
そんな夢物語のような場所などあるわけないと鼻で笑われるのかも知れない。いや、きっと今、ガンブレ学園に再び訪れる前のシエナであれば嘲笑していることだろう。
しかし彼女は見たのだ。レイナが、ユイとリョウコが、そしてユウキとセナ達が肩を並べ合えるような仲間のように共にある姿を。
「シエナ」
すると今度はレイナが前に出た。
もうその瞳に迷いはなく、ただまっすぐにシエナを見つめている。
「……私は今度こそシエナの手を掴みたい。あの頃の私は傷ついたアナタに寄り添えなかった。でもだからこそ……今度こそアナタの手を掴みたい。その手を絶対に離したくないのっ! もう一度……ガンプラへの愛を語るアナタに会いたいからっ!」
あの卒業式の日、全てを失い、雨に打たれるシエナにどうすることも出来なかった。
あの日の後悔はいまだに自分の心の底に根付いている。きっとそれは今後も消えないだろう。だからこそ今度こそあの日掴めなかった手を掴みたいのだ。
「……レイナ、知らない間に強くなったんだね」
「……アラタ君達のお陰よ」
自分の知っているレイナは可愛い後輩であり、だからこそ卒業式のあの日、自分のようにはなるなとも言った。
あれからレイナとは疎遠になってしまったが、久しぶりに相対したレイナは自分の知っているレイナの印象を大きく上書きしたがその原因はアラタだというのだ。
「……最初は生徒会に対抗しようとするアラタ君達にシエナの時のような後悔や過ちは繰り返さないって出来る限りのサポートを……その心に寄り添おうと思ってた」
シエナのような存在を生み出さない為にもサイド0を立ち上げたアラタに接触し、少しでも支えになろうと今まで動いてきた。
『さあ、勝利を組み立てようか』
そうしてレイナは目を伏せて、これまでの日々を思い出す。
その中で根強く印象に残っているのはユウキとのバトルだ。
あの時、アラタとリュウマが手を取り合ったことで誕生したR-ブレイカーは創造の翼を広げたかのように大きく飛び立って誰もが勝てないと思っていたユウキを打ち破り、それどころか彼の手さえ掴んだのだ。
「……でも私の方が支えられたのかもしれない。彼らがいたから私も勇気を貰えたし、アラタ君とリュウマ君がお互いの手を掴んで生まれて誕生した奇跡がより一層、シエナの手を掴みたいと思えるようになった」
真っ直ぐ、レイナはシエナへ手を伸ばす。
今度こそ遠のいてしまわないように。
「……私にもう一度、踏み出せるのかな」
しかし肝心のシエナは足が竦んでしまっていた。
かつてすべてを失った経験はあまりにも彼女に重くのし掛かっていた。だからこそ躊躇ってしまっているのだろう。
「シエナさん、私達はビルダーなのです。壊れてしまう痛みは辛いですけど……」
「ええ、何度だって築き上げられることだって知ってる。だからもう一度、作り直しましょう、私達が重なりゆく道を」
そんなシエナにアヤとレイナは心配することはないと言わんばかりに柔和な笑みで彼女を諭す。
もう彼女の前に立ち塞がるものも、その道筋を遮るものはいない。もしもそんなことがあったとしても自分達が支えるんだとばかりに……。
そんな二人の姿にシエナあがて瞳を潤わせ、体を震わせると、やがてゆっくりと二人の元へ歩き出すと恐る恐るに自身のか細い手を差し伸ばそうとする。
「っ……!」
ゆっくりと差し出していたシエナの手をレイナとアヤの手が包み込むように握る。
そこから伝わり、心まで広がっていくような温かな体温は黒く濁った想いを打ち払い、晴天のような澄み切った心を広げていくかのようでそれを感じたシエナはポツリポツリと大粒の涙をこぼしていた。
「もっとっ……早く……こうしたかった……っ!」
とめどなくあふれ出て、顎先から伝い落ちる涙は今まで仮面の奥に隠していたシエナの本心を表すかのように彼女はありのままに声を震わせながら何とかその言葉を紡ぐ。
「学園が戻ったって聞いて……っ……! だからレイナに会いたいって戻ってきたけど……シイナ君達と一緒にいるところを見たら、どんどん嫌な感情が溢れ出ちゃって……っ……レイナを……誰かを傷つけたいと思って戻ってきたわけじゃないのにっ……!」
「……それが人間なのよ。でも今なら嬉しいわ」
まるで子供のように泣きじゃくるシエナの体を労わるようにアヤと共に抱きしめながらレイナもまた声を震わせながらその本心を語りだし、その言葉の内容にシエナはどうしてとばかりに抱きしめるレイナを見上げる。
「シエナは私にとって理想だった。きっとこの人ならより良い学園を作れるって思っていたからこそあの頃のシエナを支えきることが出来なかった。でも今はどんな人でも等身大の一面があるからこそ支えたいって……今、この瞬間、一歩踏み出してくれたシエナを見て余計に思えるの」
それはきっとシエナだけではない。
それこそ仮面を被っていたアラタや今日で言えばトークショー前に緊張していたイチカ、セレナにサインを強請っていたアールシュなどどんな人間でも等身大の……誰にも変わりない一面を持っているのだ。
だからこそ共感が出来るし、支えたいと思えるのだ。
「さあ、行きましょう。みんな、シエナを待ってるわ」
「でも、私……好き勝手言っちゃって、どんな顔すればいいか」
今、アラタをはじめ多くの生徒達がバトルロワイヤルに参加している。
希空に促された結果とはいえ、あそこでシエナを待っているのだ。
しかしシエナからしてみれば自分という存在は腫れ物であり、レイナはこうは言っても喜ばれないのではないだろうかと考えてしまった。
「そんなことないとは思いますけど……。それならちょっとしたサプライズをしません? 誰が見てもシエナさんが学園に帰ってこれたんだと分かるような」
「なにをする気……?」
ユウキやセナを受け入れた学園であればシエナを突っぱねることはしないだろう。
何よりユイやリョウコなどかつてシエナが会長を務めた生徒会を知る者たちは今、一歩踏み出したシエナを見て喜ぶだろう。
そうは思っていても不安がるシエナに閃いたとばかりに提案するアヤにシエナはまた別の不安が襲い掛かる。
「ちょっとした遊び心、ですっ」
シエナとは対照的にアヤはどんどん口角を吊り上げて声を弾ませる。
自分に手を差し伸べて、それでいて第10ガンプラ部の後輩の提案を無碍には出来ないと思いつつも不安がるシエナ助けを求めるようにレイナを見るが、当のレイナは話だけは聞いてみましょうと困ったように笑うのであった。
新年記念
ヒロイン集合
【挿絵表示】
左から作者のガンブレ(無印)&ガンブレ2小説オリジナルヒロイン リーナ・ハイゼンベルグ
ガンブレ3小説オリジナルヒロイン 雨宮夕香
同じく本作であるNEWガンブレ小説オリジナルヒロイン アイゼン・レイナ
夕香「ちゃーす。こうして人前に出るのは一年ちょいぶりくらいかな?」
リーナ「……レイナは兎も角、私や夕香を知らない人の方が多いと思う」
レイナ「とはいえ、リーナが登場する機動戦士ガンダム Silent Triggerは今年で5周年。アナタにとって2020年は記念の年じゃないかしら」
リーナ「……何だかあっという間って感じだけどね。それでも翔や私達の後に続く人達が生まれているのは嬉しいよ」
夕香「アタシとイッチは来年だねー。それよりさぁ、この小説ってイッチの女版がいるんでしょ? 会わせてよー」
レイナ「……平行世界とはいえアナタも一応、この世界にいる筈だけど……。寧ろイチカさんが男性の世界があるのね」
リーナ「……では、改めて明けましておめでとうございます」
夕香「アタシ達を知っている人もそうでない人もお互いにより良い年にしようね」
レイナ「この小説ももう間もなく完結。最後までお付き合いお願いね」
改めまして今年もよろしくお願いします。