ガンダムビルドブレイカーズ Snatchaway 作:ウルトラゼロNEO
夕暮れ時、文化祭の日程を全て終えたアラタは生徒会室に一人いた。
シエナの登場で波乱の予感を感じていた文化祭であったが、シエナが再びガンブレ学園の輪に戻ってきてからは一緒にシロイの塗装教室に行ったり、力作揃いジオラマに熱弁したりと彼女が純粋にガンプラを、この学園での時間を楽しんでくれていることが見て取れた。
「思えばあっという間だったなぁ」
大変ではあったが、気づけばあっという間に文化祭の日程を終えていた。
生徒会室に差し込む茜色の日差しを眩しそうに目を細めながらこの準備期間から文化祭の二日間の時間を振り返り、楽しい時間を惜しむように静かに呟く。
「──ここにいたか」
そんなアラタに声をかけたのは奏であった。
この生徒会室に入るには専用のカードキーが必要だが旧生徒会と違い、生徒会役員が室内にいる時は役員ではないリョウコやチナツ達など誰でも入れるよう開放している。
「ユイ達が探しているぞ。そろそろ打ち上げの時間だから早く行こう」
文化祭の二日間もあってか、アラタだけではなくユイ達などとも交流して仲を深めたのだろう。
口ぶりからして彼女も文化祭の打ち上げに呼ばれているのだろう。アラタの近くに歩み寄りながら朗らかに微笑む。
「……なあ、俺はアンタにとっても“ガンダムブレイカー”の名に相応しい存在かな」
奏の笑顔は窓辺からも見えるあのオレンジ色の大きな太陽にも負けぬほどの温かさと輝きのようなものがあった。
そんな奏を見て、一瞬だけ眩しそうに目を細めると彼女から目を逸らして夕暮れの太陽を見つめながら、ふと尋ねる。
最近こそガンダムブレイカーなどと生徒達から呼ばれるようになったが、その名と奏が背負うガンダムブレイカーは決して同列で扱えるものではない気がするのだ。
彼女は自分と比べて人としてもビルダーとしても素晴らしい人物だ。彼女との時間はごく短いがそれでも迷える自分に道を示し、目指したいと思えた大きな背中だ。
そんな彼女が大切にし誇りを抱くガンダムブレイカーという存在に自分は少しでも近い存在であれるのか、アラタは気になってしまった。
「……最後まで諦めるな」
「えっ?」
「ガンダムブレイカーである諸先輩方がよく口にしていた言葉だ」
アラタの問いかけに一度、目を瞑った奏はゆっくりとアラタの隣に歩み寄り、窓辺に背を預けながら静かに口を開く。その言葉に一体、何のことだと目を向ければ奏もアラタを見ながら話を続ける。
「……ガンプラは所詮、趣味の範囲内だ。それを生業として行ける者などほんの一握りで、それ以外の者は自分の生活を彩るツールの一つとして楽しんでいる者が殆どだろう」
ガンブレ学園はガンプラに特化した学園だ。
そこからeゲーム等大会に出場するのプロやモデラーまたはここでの知識を活かした職に就いたりするのだろうが、それでも奏の言う通り、ガンプラに限定してそれで食べているプロやモデラーはこの学園でもひと握りだろう。
「……結局は趣味だ。ガンプラに触れたことのない者もいる。その中の一部は何が良いんだと、何の意味があるなどと嗤ってくる。だがな、そんなことを言い出したらこの世の全ての趣味の産物の殆どに意味がなくなってしまう」
地球規模に流行しているガンプラだが奏の言うようにガンプラに触れたことのない者達の視線はどこか冷ややかでそんなものに一生懸命になってどうするのかと言われたりもする。
「同意を得ようと思わん。だが私は私の好きを譲る気もない。そんな者達の前で好きを隠して溶け込もうとするよりも好きを好きと主張して思いっきり笑いたい。……どれだけ踏みにじられようとこの好きという想いを最後まで諦めたくない」
いつしかアラタは奏の一挙手一投足を見逃さないとするかのように無意識の彼女の言葉の全てを脳に刻み込んでいた。
「……お前はシエナに対しても正解は分からなくとも諦めなかった。それにお前はずっとバトルロワイヤル中も私の動きに追いつこうと追い続けていたな」
「この天才が誰かの背中を追い続ける? 確かに認めるべきものは認めるし、アンタのことだって──」
「うむうむ。その背伸びがちな未熟さ、実に可愛いぞ」
奏の言葉にいつもの調子で三本指を回そうとするが、それよりも前にクスクスと微笑ましそうに笑った奏によって頭を撫でられ、間近に迫る彼女の美しい顔立ちと甘い香りにアラタはどんどん赤面していく。
「アラタ、ガンプラは好きか?」
「……好きだ。ううん、大好きだ!」
そんな奏はアラタの目をまっすぐ見つめながら尋ねる。
なんてことのない問いかけだ。だがそれでもアラタは奏の視線にまっすぐ向き合えながら力強く答えたのだ。
「そうか。ならばお前もガンダムブレイカーだ」
そんなアラタの返答に満足そうに微笑んだ奏はアラタの頭を撫でていた手をそのまま彼の手を両手で包み込むように握手する。
「バトンタッチだ。お前はお前の好きを貫け」
目の前の奏の存在を急速に意識してドギマギしているアラタだが奏のその言葉に不思議と彼女の手から通ずる自分手に重みが伝わった気がした。物理的なものではない、しかし重みを感じたのだ。
「──よもやお前のバトンが世界を越えるとはな。これも運命か」
そんな時であった。
アラタとも奏とも、ましてやユイ達とも違う第三者の声が聞こえてくる。
声につられて視線を向けた先には一人の青年の姿があるではないか。
外見で見受けられる年齢の印象は二十代前半だろうか。
腰まで届くであろう艶やかなグレーがかった黒髪を一本に束ねたその印象は顔立ちも相まって中性的な印象を強くする。
しかし何よりはその人物が纏う雰囲気だろうか。
本能的に自分とは……自分達と同じ人種とは違う。全く異なる高位な存在であるかのような神秘的な雰囲気があるのだ。
「あ、あなたは……?」
「──父さんっ!」
知らず知らずのうちに彼が発する雰囲気に飲まれてしまっているアラタはそれでも目の前の人物が何者か尋ねようとするのだが、その前に今まで隣にいた奏が青年に向かって飛び出して勢いのままに抱き着いたではないか。
しかし聞き逃せないのは奏が発した言葉だ。
父さん……。あの人物は奏の父親なのか? いや、無邪気に青年の胸に顔を埋める奏の姿から決して冗談か何かではないことは分かるが、それにしても奏の年の親にしてはその外見はあまりにも異常だ。
前述した通り、青年の外見で言えば二十代前半……。
決して若々しく見えるなどではなく、あまりに若いのだ。
それはまるで青年の時が止まったかのように、それはまさに時間さえ支配するセンスを待っているかのように。
「心配っ……。心配したんだぞっ。一か月も行方不明になって……ッ」
「……すまないな。世界によって流れる時間が異なることは身を持って知っていたはずだったのだが」
アラタが考えに耽っている間に奏は涙交じりにポカポカと青年の胸を叩く。
そんな子供のような奏の姿に心配をかけてしまったことと今の奏の姿に苦笑交じりに心配をかけてしまったことを詫びて優しく抱きしめるとやがて彼女の肩を抱いてアラタへ静かに歩み寄る。
「一年前からずっと君のことが気になっていた」
「あなたは……」
一年前といえばルティナも似たようなことが言っていた。
しかしルティナの時もそうだが、一年前に彼らと知り合うような出来事は知らない。
「……如月翔。君と同じガンダムブレイカーだ」
一つ、分かったことがある。
奏が言っていた会えると言っていた原初の存在。それこそが目の前の青年……如月翔なのだろう。
そんな彼はゆっくりと手を差し伸べる。
握手か? 人と知り合ったとしてもあまり握手をする機会などないアラタは差し伸べられた手と翔を交互に見るが、微笑む翔にやがておずおずとその手を握る。
「ッ!」
その時であった。
翔を通じた何かが流れこんでくるかのようなそんな感覚を受けた瞬間、視界は暗転したのだ。
「──ここは?」
アラタがゆっくりと目を覚ますとそこは生徒会室でもガンブレ学園でもない夕暮れの大きな橋の上にいた
「なに心配するな。すぐ終わる」
あまりの事態に目に見えて動揺して、周囲を見渡しているアラタだが、ふと声をかけられればそこには握手をしていた翔が傍らに立っており、周囲を確認した翔はゆっくりと欄干に身を預ける。
「──ねえねえ、タツ兄、これ見てーっ」
この異常な事態を少なくとも翔は全てを把握している。
少しでも情報を得ようと彼に問い詰めようとした瞬間、傍から賑やかな声が聞こえてきた。
視線を向ければ、そこには三人組の少年少女がいた。
学校帰りだろうか。制服を着用した彼らの中で茶髪の髪を腰のあたりで一本に束ねた青年がスマートフォンを片手にじゃれつく様子で目の前のポニーテールの青年に後ろから抱き着き、画面を見せてきた。
「おい、アヤト。歩きながらスマートフォンを弄るんじゃないって言ってるだろ」
「ごめんって。早くガンプラのアセンのデータを見てほしくて。それより早くオノさんのガンプラ屋に行こうよっ。バトルバトルーっ」
「あーっ、タツ兄とアヤ兄だけズルいっ。私にも見せてーっ!」
話の内容的に彼らは兄妹なのだろうか。
仲睦まじい様子だが、どうにもガンプラバトルに関わる話のようだが少なくともガンプラのアセンのデータはアラタからしてみれば、GBを介して観覧できるものであり、“スマートフォンでガンプラ”のデータは見れないはずだ。
なにかズレがあるようなそんな事を考えているうちに三兄妹賑やかな様子でアラタや翔とすれ違い、歩いていく。
なぜだか分からない。だがアラタは彼らの背中から目を逸らすことが出来なかった。まるで自分と同じ何かを感じたかのように視線を逸らせないでいると不意に後ろから肩を掴まれ、視界が再び暗転する。
「……今の、は……?」
ふと気が付けば、アラタは再びガンブレ学園の生徒会室にいた。
時刻は先程、変わってはおらず、目の前には翔と奏の姿があり、状況が呑み込めず困惑したまま翔を見つめる。
「彼らもまた君と同じ。君が手を掴み合い、
彼らもまた翔の目的だったのか。
とはいえ、翔はそれ以上、彼らに関する言及を控えながらアラタに向き直る。
「だからまず君のことをもっと深く知りたい。教えてくれないか、君の
不思議と話してみたくなった。
それはなぜだか分からない。いや先程の三兄妹といい、分からないことだらけだ。
だがそれでも目の前の翔に言ってみたくなったのだ。自分のガンダムブレイカーと呼ばれるまでの物語を。
「俺もアンタ達のことをもっと知りたい。それじゃあ話しましょうか、この天才の物語を」
・・・
「──さーて、そろそろ行きますか」
あれから一年が経った。
ユイやレイナ達が卒業し、アラタやイオリもまた卒業の日を近くに迎えようとするなか、私服姿のアラタは一人、一台のバイクの前で背伸びをしていた。
「ったく、卒業旅行にしちゃ早ぇんじゃねえか」
その傍らにはリュウマの姿もあった。
彼もまた私服姿で彼ら二人以外、特に見知った人物がいない以上、どうやらこの二人だけのようだ。
「寧ろ遅過ぎるんだよ。この世界には色んなビルダーがいる。俺はそんな人達と触れ合い、成長したいんだ」
「あの如月奏っていう姉ちゃんと知り合ってから、また変わったよな。けどあの姉ちゃん達、今、どこでなにやってんだろうな」
そう語るアラタの顔はどこまでも晴々としていた。
アラタが出会いが齎す影響を誰よりも知っている。それはユイ然り、リュウマ然り、奏然り。出会いがあるからこそ彼はこれまでの自分を破壊して、新しい自分を創造することで可能性を広げてきた。
「さあな。でも、きっとまた会える……。そんな気がする。だからその為にもこうした時間に旅に出る。アールシュにも奏にも、また会った時、俺は越えて見せる」
「らしくなってきたじゃねえか。よっしゃ、どこまでも付き合ってやるよ」
三本指をクルリと回して、自信満々に笑うアラタ。堂々たる彼の姿に安心したように笑みを浮かべたリュウマは溌溂とした様子で拳を打ち合わせる。
「ところでお前、バイクの免許取って漸く一年だよな」
「ああ、今日でな。光栄に思いなさいよ。俺の初めての2ケツはお前だ」
「……なあ、スゲェ不安になってきたんだけど」
「さっきの自分の言葉を忘れたのかよ、筋肉馬鹿」
それとこれとは話が別だとアラタに投げ渡されたヘルメットを持って怒りながらもバイクに跨るアラタの後ろに乗る辺り、何とやら。リュウマがしっかりと跨り、ポジションをキープしたのを確認しながらバイクのエンジンをかけ、ギアを入れ、クラッチを握って走り出す。
アラタはきっと真っ直ぐ走っていく。多くの出会いを経験して、手を掴み合い、強くなる。
これからも心挫くことも待っているだろう。それでも夜明けは巡ってくる。
彼は進み続ける。彼は一人じゃないから、彼の心の中には多くの存在がいるから。
それこそがBe The One──。
満天の夜空に輝く星々に想いを馳せる。
それはまるで世界を照らさんとばかりに煌き、今なお輝き続けている。
──争いの連鎖を断ち切る英雄。
──輝ける未来をその手に掴む覇王。
──想いを継ぎ、輝きを放つ新星。
──希望の守り手。
──守護の花を抱きし気高き獅子。
──目醒めし最強の遺伝子。
──新たな可能性を
ガンダムブレイカー。
その名を持つ者達は破壊と創造によって新たな可能性を示してきた。彼らは同じ名を持っていても夜空に輝く星々のようにその胸に抱く輝きはそれぞれ異なり、だからこそ多くの者に影響を与えてきたのだ。
彼らの想いは魂の絆のように受け継がれていく。
そしてそれは世界を越え、また新しいガンダムブレイカーへと……。
だから彼は堂々と告げる。
「さあ、未来を組み立てようか」
一応、これにて本編は完結です。
色々と言いたいこと、伝えたいことはあるのですが一先ずアラタの話はここで完結となります。
完結記念
Newガンダムブレイカー
【挿絵表示】
シュウジ「……アラタと翔さんの組み合わせは分かる。一矢と優陽の組み合わせも分かる。奏も今回の話で出てたからアップで出るのも分かる。そうなってくると俺とお前は完全にあまり者同士でってことだよな」
ラグナ「……そういうことを言わないでいただけませんか。私だって奏と同じ時間軸のガンダムブレイカーとして出る資格はあった筈なのですが」